KENWOOD D-3300T (12号機) をゲット!
2024年7月17日、茨城県日立市の O さんより、
KENWOOD D-3300T
を研究用に寄贈いただきました。
定価14万円
の高級 FM 専用チューナです。
程度&動作チェック
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寄贈者のコメント
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知人からもらってしばらく使ってましたが、アンテナが邪魔になったので、システムから外しました。
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音はイイです。
お譲りします。
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外観
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製造シリアル番号は [80700149] で、電源コードの製造マーキングより [1988年製造品] とわかりました。
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底板に KENWOOD サービスのメンテンスシールが貼ってありました。
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[DATE : 88.5.24] となっているので、購入後間もなくに修理されているようです。
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正面から見ると綺麗ですが以下の細かい問題はあります。
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サイドウッド付きで正面部分は綺麗ですが、左右とも少しツキ板が剥がれかかった箇所があります。
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天板には汚れがあり、やや長い線状のスレがあります。
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リアパネルは綺麗ですが、RCA 端子に補修できそうなごく僅かなサビが出ています。
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底板は特に問題ありませんが、右奥の脚の取り付けネジが緩んでいました。
これは締め付けて直りました。
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以上の問題は補修である程度回復すると思います。
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電源 ON してチェック
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電源は正常に入り、表示器の輝度は新品同様、操作ボタンの反応は正常、特に問題なく受信できます。
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RF SELECTOR = DISTANCE では S メータが振れますが、DIRECT では全く振れません。
感度落ちしています。
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[ANTENNA] スイッチが接触不良になっています。
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アンテナ A/B 端子で S メータの振れが違います。
[ANTENNA] スイッチを揺すると S メータの振れが変わります。
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今までにメンテナンスした D-3300T 全てで [ANTENNA] スイッチの接触不良が発生していました。
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ここにメカニカルスイッチを使用するのが間違いなのです。
[ANTENNA] スイッチをバイパス改造すると幸せになれます。
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AUTO TUNING で正しい放送周波数を検出して止まります。
周波数ズレはないです。
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[STEREO] ランプは点灯しますが、ステレオ感が弱いです。
到着時のまま現状のオーディオ性能を測定してみました。
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やはりステレオセパレーションが落ち込んでいます。
高調波歪率は特に問題ないです。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
25 |
24 |
dB |
NARROW |
25 |
25 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.038 |
% |
stereo |
0.038 |
% |
NARROW |
mono |
0.061 |
% |
stereo |
0.061 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-50 |
-78 |
dB |
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カバーを開けてチェック
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薄っすらとスス状のゴミは堆積していますが、特に問題なく綺麗です。
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[C63] の電気二重層コンデンサが交換されており、0.33F/5.5V が実装されています。
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フロントエンドのトリマコンデンサを回してみましたが、連続的な容量変化をしないです。
全て劣化しています。
リペア (その1):[ANTENNA] スイッチのバイパス改造
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スイッチを交換できればよいのですが、同じものは入手不可
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このスイッチは D-3300T のウィークポイントで、ここにメカニカルスイッチを使ったのは KENWOOD の設計ミスと思います。
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ここには従来の TRIO バリコン式チューナと同じくリードリレーを使うべきだったのです。
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コストダウン目的でメカニカルスイッチにしたことが、後に禍根を残す結果になったのです。
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メカニカル接点は常に空気に触れており必ずサビます。
そしていつか接触不良という重大問題化するのです。
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メカニカル接点を使うのであれば数 10mA の電流を流す使い方が正しいです。
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電流を ON/OFF する際のスパークで接点が洗浄されるのです。
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アンテナ切り換えでは全く言ってよいほど電流は流れません。
接点がサビるいっぽうです。
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[ANTENNA] スイッチでの A/B 切り換えは諦め、FM フロントエンドと F 端子を直結することにします。
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改造
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[ANTENNA] スイッチの切り離しと、新たな F 端子とフロントエンドを直結
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以下のように、2箇所パターンカット (×のところ) しました。
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同軸線で新しい F 端子とフロントエンドを直結しました。
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どうせ改造するので、オリジナリティに拘る必要はないです。
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[簡易 F 端子] を [本格的な F 端子] に交換しました。
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下の写真は F 端子取り付けの表裏です。
裏側でネジロック剤を塗布しています。
リペア (その2):FM フロントエンドのトリマコンデンサを全数交換
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交換
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[セラミック型トリマコンデンサ 10pF]×5個 と全数交換しました。
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左の写真は交換後で赤〇で囲んだ部品です。
右の写真は古い劣化したトリマコンデンサです。
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動作確認
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[リペア (その1)] で実施したアンテナ配線手直しと相まって、感度が大きく上がりました。
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筆者の電波レベル 84dBf 程度の環境では RF SELECTOR = DIRECT でも S メータがフルに振れるようになりました。
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これが D-3300T 本来の感度です。
直りました!!!
リペア (その3):電気二重層コンデンサを交換
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概要
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D-3300T においては AC プラグを抜いても電気二重層コンデンサで一定時間プリセットメモリの記憶をバックアップします。
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既にオリジナルの [18mF/5.5V]→[0.33F/5.5V] に交換されていましたが、どのくらい前に交換されたのか不明です。
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念のため交換することにしました。
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修理
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左の写真で青い部品が交換後の電気二重層コンデンサ 1F/5.5V です。
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右の写真は元実装されていた古い電気二重層コンデンサです。
かなり苦労して加工していますね。
縦型を使ったほうが簡単です。
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D-3300T オリジナル 18mF から 1F と50倍以上になったので、長時間バックアップできます。
おそらく数ヶ月か?
リペア (その4):ハンダクラック予防補修
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ハンダクラックしやすい箇所
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左の写真はリアパネルにある RCA 端子の裏側です。
端子のリードが基板に直接ハンダ付けされています。
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ここはリアパネルと基板の2方向から常にストレスがかかるのでハンダクラックしやすいです。
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右の写真は銅製放熱器に取り付けられた [パワートランジスタ] [電源 IC] です。
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ここは銅製放熱器と基板の2方向から常にストレスがかかるのでハンダクラックしやすいです。
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予防補修
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まだハンダクラックには至ってはいませんでしたが、ハンダクラック気味になっていました。
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劣化している古いハンダを吸い取り、新しく補修ハンダ付けしました。
リペア (その5):サイドウッド補修
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側面側のツキ板剥がれ部分の補修
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上が右サイドウッド、下が左サイドウッドです。
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剥がれそうになっているがツキ板自体は残っている箇所です。
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剥がれ部分に木工ボンドを流し込んで乾燥を待っています。
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右サイドウッドは軽傷で1箇所だけの補修で済みます。
これを補修中です。
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左サイドウッドは中傷で5箇所ありますが、ここではそのうちの4箇所を補修中です。
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乾燥に一晩かかりましたが、そう問題ない程度に回復できました。
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左サイドウッドの残り1箇所の補修
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この1箇所は厄介な場所で、フロント側の下です。
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剥がれ部分に木工ボンドを流し込んで乾燥を待っています。
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木工ボンドが乾くまでずっと持っていられないので治具を使いました。
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サイドウッドを留める穴を利用して、ここに長いネジを取り付けベースにしました。
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写真で白く見える部分が補修箇所です。
乾くと透明になります。
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多目に木工ボンドを盛っているのは、側面側のツキ板が無くなっているのです。
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木工ボンドがパテの代わりにならないかなとの目論見です。
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乾燥に一日かかりましたが、そう問題ない程度に回復できました。
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最終仕上げ
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乾いた木工ボンドの余分な部分を除去しました。
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左サイドウッドの補修での木工ボンドをパテ代わりにした箇所も目論見通り、そう問題ない程度に回復できました。
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自動車用の
タッチアップペン
黒色でハゲが目立つ部分を補修塗装しました。
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もちろん新品同様とはいきませんが、実用レベルにはなったと思います。
リペア (その6):コーティングとカーワックス掛け
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フロントエンドカバーの防錆コーティング
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フロントエンドカバーはカバーを開けると一番目立ちます。
銅板でできていて高級感を感じます。
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銅板なので素手で触ると、そこからサビてきて汚らしくなってしまいます。
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そこで中性洗剤で水洗いして脱脂してから、
PC ボードプロテクタ
で防錆コーティングしました。
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コーティング完了後は銅板の表面の光沢が増し更に高級感が出ました。
そして、もう素手で触ってもサビることはありません。
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天板のカーワックス掛け
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この個体の天板には汚れとスレがありました。
ラックに入れれば見えない部分ですが、補修してみました。
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中性洗剤で水洗いして汚れ落としと脱脂してから、
ジャパンワックス
掛けしました。
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再塗装などの根本的な補修ではなく目立たなくしただけです。
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浅いスレは見えなくなり、深いスレは少しマシになり、全体的にピカッとした光沢が出て、実用品程度には回復しました。
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自動車の塗装表面をワックス掛けするとスレが目立たなくなりますよね。
オーディオ機器の外装にも有効です。
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
J35 (Q26-E) |
+15V |
+14.9V |
〇 |
J38 (IC11-OUT) |
+5.6V |
+5.57V |
〇 |
J40 (Q27-E) |
-15V |
-14.9V |
〇 |
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FM 受信部の調整
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再調整結果
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フロントエンドのトリマコンデンサを交換したので、トラッキング調整をやり直し、大きく感度が上がりました。
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PLL 検波が大きく調整ズレしていましたが、再調整で規定内に入りました。
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SUB レベル調整が大きくズレていましたが、再調整で規定内に入りました。
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IF 歪補正の再調整で高調波歪率が以下のような素晴らしい数値になりました。
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ステレオセパレーションは再調整で以下のような超優秀値になって、音の解像度が上がりました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
70 |
70 |
dB |
NARROW |
66 |
66 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.010 |
% |
stereo |
0.010 |
% |
NARROW |
mono |
0.017 |
% |
stereo |
0.017 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-62 |
-71 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
0 |
dB |
REC CAL |
WIDE |
mono |
398.4 |
Hz |
-6.0 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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到着時は動作的にそう問題ありませんでしたが、感度低下と音が甘い状態でした。
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修理と再調整により感度が大幅に上がり、そして聴き違えるほど高音質に復活しました。
これが本来の D-3300T の実力です。
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今回も [ANTENNA] スイッチが劣化していました。
設計不良と思われ、自動車だったらリコールものだと思います。
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回路部分の修理より外観の補修のほうがはるかに時間がかかりました。
これは納期の心配がない所有品にしかできないです。
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周波数コンバータ
を使ってのワイド FM も良好に受信できました。
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デザイン
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フロントパネルが分厚いヘアラインアルミ材、チューニングツマミやボタンもアルミ材、天板は分厚い鉄板と、質感良好です。
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サイドウッドが高級感を醸し出します。
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[MODULATION] 表示はピークホールド付きで見易く、見ていて面白いです。
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プリセットメモリは16局分あります。
これだけあれば、まず十分です。
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[QUIETING CONTROL] ボリュームがあります。
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通常は [NORMAL] 端で使います。
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[DISTANCE] 端にするとモノラルになってしまうので注意です。
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ステレオ受信して雑音が多い場合に操作すると、ハイブレンドされて S/N が改善されます。
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[RF SELECTOR] は [DISTANCE] で使うのが正解です。
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[DISTANCE] のほうが S/N が上がります。
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[DIRECT] は放送局の真下とか電波が強過ぎる場合に選択します。
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[DIRECT] はフロントエンドの高周波増幅段をバイパスして感度を落として強過ぎる電波に対応するモードなのです。
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[DIRECT] にしたら音が良くなるということはありません。
この辺りを誤解している人が多いです。
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このケースの方はほぼいないと思うので、[DISTANCE] で使うのが正解なのです。
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感度と音質
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聴き惚れるほど素晴らしい音です。
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KENWOOD らしい、解像度の高いカチッとした硬派の音です。
音にキラキラ感があります。
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S/N が非常に良く暗黒の静寂の中から細かい音が良く出ています。
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高級機らしい非常に安定した
感度と妨害電波排除能力です。
定価14万円にふさわしい高性能・高音質マシンです。