KENWOOD D-3300T (7号機) が到着
2024年3月29日、静岡県浜松市の I さんより、
KENWOOD D-3300T
の修理依頼品が到着しました。
基本的には再調整だけの依頼でしたが修理が必要になりました。
定価14万円
の高級 FM 専用チューナです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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中古購入時にズレがありましたがテスターで調整できる範囲で正常に使えるようになりました。
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しかし古いので精密な調整をお願いします。
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故障箇所はないと思いますが調整範囲に入らない部分は修理お願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [69K10928] で、電源コードの製造マーキングより [1986年製造品] と判明しました。
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新品同様に超綺麗な逸品
です。
サイドウッドも綺麗な状態を保っています。
こういう中古もまだあるのですね。
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電源 ON してチェック
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RF SELECTOR:DIRECT モードの時、S メータを信じると以下の不具合が確認できました。
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電源 ON 直後、受信周波数が高くなるほど感度が悪くなります。
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電源 ON から15分くらい経つと、今度は 89.7MHz の放送で S メータが最小になり、ステレオ受信できなくなりました。
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感度の問題以外は動作しているようです。
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[STEREO] 表示が出ますがステレオ感が乏しいです。
オートチューングはでき、周波数ズレはないです。
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ディスプレイでやや薄くなっている箇所がありますが、まだまだ使えます。
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上記の不具合があるので意味がないかもしれませんが、軽く現状の性能値を測定してみました。
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全然ダメです。
ローコストチューナに負ける性能です。
とても高級機と思えない!
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
9 |
9 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.024 |
% |
stereo |
0.025 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-40 |
-48 |
dB |
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カバーを開けてチェック
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内部は綺麗で、目視では劣化とわかる部品は無いように見えます。
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[ANTENNA] スイッチを揺すると S メータの振れが変わります。
スイッチが故障しています。
おそらく接点の接触不良です。
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プリセットメモリバックアップ用の電気二重層コンデンサはかなり古いタイプで、交換したほうがよいです。
リペア (その1):[ANTENNA] スイッチが故障している
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スイッチを交換できればよいのですが、同じものは入手不可
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このスイッチは D-3300T のウィークポイントで、ここにメカニカルスイッチを使ったのは KENWOOD の設計ミスと思います。
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ここには従来の TRIO バリコン式チューナと同じくリードリレーを使うべきだったのです。
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コストダウン目的でメカニカルスイッチにしたことが、後に禍根を残す結果になったのです。
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メカニカル接点は常に空気に触れており必ずサビます。
そしていつか接触不良という重大問題化するのです。
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メカニカル接点を使うのであれば数 10mA の電流を流す使い方が正しいです。
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電流を ON/OFF する際のスパークで接点が洗浄されるのです。
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アンテナ切り換えでは全く言ってよいほど電流は流れません。
接点がサビるいっぽうです。
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修理依頼者のこの状況を伝え、[ANTENNA] スイッチでの A/B 切り換えは諦め、FM フロントエンドと F 端子を直結することにしました。
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改造
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どうせ改造するので、オリジナリティに拘る必要はないです。
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D-3300T の [簡易 F 端子] を [本格的な F 端子] に交換しました。
(右の写真)
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簡易 F プラグがシッカリ挿入できるよう、少し長めタイプを使いました。
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メンテンス性も考えてリアパネル側から締め付けるタイプにしています。
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[ANTENNA] スイッチの切り離しと、新たな F 端子とフロントエンドを直結
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以下のように、2箇所パターンカット (×のところ) しました。
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同軸線で新しい F 端子とフロントエンドを直結しました。

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改造後に動作チェック
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DIRECT モードでも S メータがフルになりました。
受信周波数によって感度が変わる不具合も直りました。
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感度が大幅に上がりました。
スイッチ接点にかなりの接触不良があったようです。
スイッチがアッテネータのごとく動作していた。
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感度が落ちている原因に FM フロントエンドのトリマコンデンサも疑っていましたが、これは問題なかったです。
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フロントパネル上に [ANTENNA] スイッチは残っていますが、単なる飾りです。
癒しスイッチです。
機能しません。
リペア (その2):電気二重層コンデンサはそろそろ寿命
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概要
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D-3300T においては AC プラグを抜いても電気二重層コンデンサで一定時間プリセットメモリの記憶をバックアップします。
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もう製造から40年近く経過しているので、そろそろ電気二重層コンデンサも寿命です。
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修理
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左の写真で橙色の部品が電気二重層コンデンサです。
古いタイプなので大きいですが容量は 18mF しかありません。
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右の写真は交換後です。
小さくなったのに、容量は 1F もあります。

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18mF→1F と50倍以上になったので、従来より長時間バックアップできます。
おそらく数ヶ月か?
リペア (その3):ハンダクラック予防補修
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ハンダクラックしやすい箇所
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左の写真で赤〇で囲んだ箇所は、リアパネルにある RCA 端子のリードと基板のハンダ付け部です。
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ここはリアパネルと基板の2方向から常にストレスがかかるのでハンダクラックしやすいです。
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右の写真は銅製放熱器に取り付けられた [パワートランジスタ] [電源 IC] です。
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ここは銅製放熱器と基板の2方向から常にストレスがかかるのでハンダクラックしやすいです。

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予防補修
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まだハンダクラックには至ってはいませんでしたが、ハンダクラック気味になっていました。
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劣化している古いハンダを吸い取り、新しく補修ハンダ付けしました。
リペア (その4):その他
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フロントパネル内部の清掃
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[ANTENNA] スイッチ切り離し改造時にフロントパネルを分解したので、同時にフロントパネル内部を清掃しました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
J35 (Q26-E) |
+15V |
+14.4V |
〇 |
J38 (IC11-OUT) |
+5.6V |
+5.62V |
〇 |
J40 (Q27-E) |
-15V |
-14.4V |
〇 |
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FM 受信部の調整
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再調整結果
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FM フロントエンドで大きくトラッキング調整ズレしていました。
再調整で規定内に入りました。
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ガタガタだったオーディオ性能値も以下のように超優秀になりました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
70 |
70 |
dB |
NARROW |
64 |
64 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.0043 |
% |
stereo |
0.0085 |
% |
NARROW |
mono |
0.0061 |
% |
stereo |
0.016 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-66 |
-65 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.07 |
dB |
REC CAL |
WIDE |
mono |
398.4 |
Hz |
-6.0 |
dB |
使ってみました
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デザイン
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フロントパネルが分厚いヘアラインアルミ材、チューニングツマミやボタンもアルミ材、天板は分厚い鉄板と、質感良好です。
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サイドウッドが高級感を醸し出します。
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[MODULATION] 表示はピークホールド付きで見易く、見ていて面白いです。
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プリセットメモリは16局分あります。
これだけあれば、まず十分です。
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[QUIETING CONTROL] ボリュームがあります。
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通常は [NORMAL] 端で使います。
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[DISTANCE] 端にするとモノラルになってしまうので注意です。
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ステレオ受信して雑音が多い場合に操作すると、ハイブレンドされて S/N が改善されます。
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感度と音質
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聴き惚れるほど素晴らしい音です。
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KENWOOD らしい、解像度の高いカチッとした硬派の音です。
音にキラキラ感があります。
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S/N が非常に良く暗黒の静寂の中から細かい音が良く出ています。
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高級機らしい非常に安定した
感度と妨害電波排除能力です。
定価14万円にふさわしい高性能・高音質マシンです。