KENWOOD KT-1010F (7号機) をゲット!
2024年5月10日、北海道勇払郡の Y さんより研究用に
KENWOOD KT-1010F
を寄贈いただきました。
程度&動作チェック
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寄贈者のコメント
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外装は1980年代からの時代を生き抜いてきたとは思えないほど綺麗に見えます。
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受信はでき、インジケータは明るいです。
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オーディオ出力端子の右チャンネルの接触が悪いです。
(内側の赤いポリパーツが劣化しているようです)
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F プラグをスッと挿すと受信状態が悪いのですが、回して良い場所を探るとインジケータはフル点灯します。
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NHK-FM を聴いているとプチプチとノイズが入る頻度が多いです。
時間帯よって全く気にならないこともあります。
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外観
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製造シリアル番号は [62K10221] で、電源コードの製造マーキングより [1985年製] とわかりました。
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[純正 AM ループアンテナ] の添付はありませんでした。
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全体的にメチャメチャ綺麗な逸品です。
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天板にほんの少しこの上に乗っていた機器の足形がありますが、ほとんど目立ちません。
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天板の右側面の一番奥の下側が少し内側に変形しています。
この程度は修正できそうと思います。
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リアパネルの端子類はピカピカで新品同様ですが、簡易 F 端子のセンタピンが数ミリ奥に陥没しています。
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電源 ON して動作チェック
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電源は問題なく入りました。
FL ディスプレイは新品同様に明るいです。
操作ボタンも正常に反応します。
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[POWER] スイッチの動きにやや引っかかる感じがあります。
正常範囲かもしれませんが。
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[OUTPUT] 端子の右チャンネルのプラグを揺すると音が途切れます。
おそらくハンダクラックしていると思います。
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FM 受信
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問題なく良好に受信できます。
オートチューニングで正しい周波数で止まります。
周波数ズレはないです。
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[REC CAL] のテスト音は正常に出ます。
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[RF SELECTOR] = DIRECT で S メータはフルに振れます。
感度は良好です。
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寄贈者の言う「NHK-FM を聴いているとプチプチとノイズが入る」は確認できませんでした。
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寄贈者に状況を確認したところ、以下でした。
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S メータは [RF DISTANCE] ではフルでしたが、[RF DIRECT] では2~3の振れでした。
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プリプチノイズは平日の日中に目立っていた印象で、夜や休日になると少ないように感じました。
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幹線道路沿いでして、アンテナの方向に工場もありますので、環境要因かもしれません。
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以上より、[寄贈者宅で電波がやや弱い] [自動車のイグニッションノイズが乗っている] が原因と思います。
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再調整で感度が上がってリミッタ回路が動作するようになれば軽減する (直る) と思います。
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AM 受信
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手持ちの純正でない AM ループアンテナを接続して確認しました。
特に問題なく良好に受信できました。
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カバーを開けてチェック
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左の写真のように天板の裏側に銅板が2枚貼られていました。
特に問題はないので、ここはこのままとします。
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右の写真は天板の変形部分です。
この程度は直ると思います。
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[チューナ基板] は非常に綺麗で、目視で劣化とわかる部品は無さそうです。
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ここに搭載のメモリバックアップ用 [C243] 2200uF/6.3V 電解コンデンサはそろそろ交換したほうがよいです。
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左の写真のように、[電源基板] の容量の大きい電解コンデンサ×3個は既に交換されていました。
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[ELNA STARGET] オーディオ用電解コンデンサを使っており、好都合なので、ここはこのままとします
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右の写真は簡易 F 端子の裏側です。
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この写真は、黄〇で囲んだセンタピンが手前に押し出されていたのを手で押し込んで仮修正後です。
リペア (その1):[OUTPUT] 端子の右チャンネルのプラグを揺すると音が途切れる
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原因
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基板の裏側で [OUTPUT] 端子と基板とのハンダ付け部分にハンダクラックがないか凝視してみました。
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どう見てもハンダクラックもパターンクラックもありませんでした。
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[OUTPUT] 端子を基板から取り外して観察しても見た感じは悪い箇所がないです。
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でも、右チャンネルを揺するとピン~リード間の導通がなくなるのです。
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こうなると [OUTPUT] 端子の内部金属が破断したとしか考えられません。
[OUTPUT] 端子ごと交換が必要です。
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修理
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手持ちの部品取り用に保管している基板に使えそうな RCA 端子がないか探してみました。
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するとメーカも機種も違うのですが、Pioneer F-120 の RCA 端子が全く同じとわかりました。
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メーカ名も [JALCO] で同じ、寸法も全く同じでした。
これを移植することにします。
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左の写真は F-120 から移植した RCA 端子です。
全く同じですから違和感がないのがわかるでしょ。
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右の写真はこれまで実装されていた故障した RCA 端子です。
このように目視では故障とわからないでしょ。
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交換後、左右プラグのどちらを揺すっても音が途切れることはなくなりました。
直りました!!!
リペア (その2):[C243] 2200uF/6.3V 電解コンデンサ交換
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概要
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[C243] は AC100V 電源消失時にプリセットメモリをバックアップする役目を持っています。
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KT-1010F の AC プラグが壁コンセントに差し込まれていると、常に [C243] とプリセットメモリに給電されています。
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この場合はプリセットメモリが消えることはありません。
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上記のように KT-1010F を使っていない時でも、[C243] には常に電圧が印加されているので劣化しやすいのです。
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修理 (寿命交換)
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左の写真は [C243] 交換後で、右の写真はこれまで実装されていた劣化していると思われる電解コンデンサです。
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以下は交換部品リストで、信頼性を上げるため高耐圧品に交換しています。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C243 |
2200uF/6.3V (85℃) |
2200uF/6.3V (105℃) |
電解コンデンサ |
リペア (その3):簡易 F 端子のセンタピンが数ミリ奥に陥没している
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原因
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おそらく、寸法精度の悪い F プラグを力いっぱい無理矢理突っ込んで、センタピンが陥没したのでしょう。
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修理
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以下のようにセンタピンを修理しました。
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簡易 F 端子の表側から、補修工具を使ってセンタピンの入口の形状を広げ補正しました。
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簡易 F 端子の裏側から、金属棒とカナヅチを使ってラッチがかかるまで押し込みました。
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ついでに [簡易 F 端子] [AM アンテナ端子] のリードと基板とのハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
ハンダクラック対策です。
リペア (その4):その他
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[POWER] スイッチの動きにやや引っかかる感じがある
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フロントパネルを外し、[POWER] スイッチ窓を清掃しました。
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スイッチ窓にリチウムグリスを僅かに塗布して、スムーズに動くようになりました。
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天板の右側面の一番奥の下側が少し内側に変形している
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天板の変形部分を大きいペンチで補正しました。
リアパネルも同じ箇所が変形していたので一緒に補正しました。
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これで変形部分は目立たなくなりました。
パッと見は補正したと気が付かないと思います。
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どうせフロント側からは見えない部分なので、これで十分と思います。
再調整
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電源電圧チェッック (VP)
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以下のように良好でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
電源基板 CN1-1pin |
-15V |
-14.0V |
〇 |
OP アンプ |
電源基板 CN1-3pin |
+5.6V |
+5.58V |
〇 |
コントローラ |
電源基板 CN1-4pin |
+28V |
+28.6V |
〇 |
VT 電源 |
電源基板 CN1-6pin |
+15V |
+14.4V |
〇 |
チューナ、OP アンプ |
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FM/AM 受信部の調整
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再調整結果
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FM 受信
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フロントエンドの調整で感度が上がりました。
PLL 検波で大きく調整ズレしていました。
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調整前のステレオセパレーションは 30dB くらいでしたが、再調整で以下のように大きく向上しました。
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高調波歪率が以下のように大きく改善し、ステレオセパレーションと相まって素晴らしい音質になりました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
68 |
70 |
dB |
NARROW |
57 |
57 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.0086 |
% |
stereo |
0.0086 |
% |
NARROW |
mono |
0.020 |
% |
stereo |
0.032 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-82 |
-79 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
-0.06 |
dB |
REC CAL |
WIDE |
mono |
398.4 |
Hz |
-6.1 |
dB |
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AM 受信
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[純正ループアンテナ] の添付がなかったので、IF 調整だけ実施しました。
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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到着時は大きな問題はなかったのですが、それでも不具合が多かっのですが、本来の性能に蘇りました。
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KT-1010F は調整しやすいので、これが幸いして性能が出やすいです。
今回の KT-1010F も当たり!の個体でした。
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FM 性能と音質は素晴らしく良いです。
高級チューナと比べても互角の性能です。
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デザイン
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高級感を目指しているのではなく、通信機に近いカチッとしたデザインです。
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[KT-1010] [KT-1010Ⅱ] の後継機で寸法は全く同じです。
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薄型デザインですが、チューナに必要な機能はフル装備です。
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電波が強力な FM 放送を高音質で聴くには [IF BAND : WIDE] [QUIETING CONTROL : NORMAL] に設定します。
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プリセットメモリのバックアップは 2200uF の電解コンデンサなので、電源コードを抜いた状態では1週間程度と思います。
電源コードのプラグを差し込んだ状態では、([POWER] スイッチが OFF でも) 常にこの電解コンデンサに給電されているので、プリセットメモリが消えることはありません。
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感度と音質
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高級チューナにも匹敵する高性能で、FM 放送を高音質に聴きたい期待に応えてくれます。
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感度はかなり高く申し分ありません。
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素性が良いので、
流石に良い音
です。
ハッキリ・クッキリの明瞭度の高い音です。
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上位機種の
KT-1100D
よりメンテナンス性が良く、構成や性能・音質がほぼ変わらず、お奨めチューナ
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亡き越谷在住のオーディオ評論家
長島鉄男
さんが絶賛したチューナというのがよくわかります。