KENWOOD KT-1100D (4号機) が到着
2023年7月26日、東京都世田谷区の F さんより
KENWOOD KT-1100D
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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昔 (おそらく1987年頃) 購入し2〜3年使ってその後放置していましたが、最近引っ張り出してきました。
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電源は通電し受信は何とかできるのですが、音声と一緒にガザガザとノイズが入ります。
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ガザガザ音は周波数によって多少違い、NHK-FM (82.5MHz) は特に多めです。
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外観
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製造シリアル番号は [69K00441] で、電源コードの製造マーキングより [1986年製造品] とわかりました。
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SONY 製の [AM ループアンテナ] が添付されていました。
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このアンテナで使えるよう AM を調整します。
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私からみても、このアンテナは大型で結構感度が良いのでお奨めです。
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フロントパネル上のエッジにかなり目立つ大きなキズがあります。
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汚れはありますが、[リアパネル] [天板] [底板] はまあまあ綺麗です。
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電源 ON して動作チェック
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電源は問題なく入り、操作ボタンなどの動作は問題なさそうです。
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FL 表示器に痩せがありますが、まだまだ使えるレベルです。
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FM 受信
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周波数ズレしています。
80.0MHz の放送が 79.9MHz で受信します。
[STEREO] 表示は出ます。
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修理依頼者の言う [音声と一緒にガザガザとノイズが入る] は確認できませんでした。
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AM 受信
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添付の SONY 製ループアンテナで受信できましたが、やや感度が低い感じです。
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全体的に特に大きな問題は無さそうです。
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カバーを開けてチェック
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基板は綺麗で、目視でわかる部品劣化はないようです。
リペア
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電源部の電解コンデンサ交換
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電源部の電解コンデンサは発熱物に近く、劣化しやすいです。
予防保守として交換しました。
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使用する電解コンデンサは105℃クラス品またはオーディオクラス品とします。
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部品交換リスト
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C109 |
2200uF/35V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C110 |
1000uF/35V (85℃) |
1000uF/35V (105℃) |
C114 |
33uF/35V (85℃) |
33uF/35V (FG) |
オーディオクラスに交換 |
C115 |
100uF/35V (85℃) |
(未交換) |
サイズ的に適合品なし |
C117 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
C118 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
C119 |
10uF/35V (85℃) |
10uF/50V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C120 |
10uF/35V (85℃) |
10uF/50V (105℃) |
C122 |
10uF/35V (85℃) |
10uF/50V (105℃) |
C124 |
10uF/35V (85℃) |
10uF/50V (105℃) |
C129 |
330uF/35V (85℃) |
470uF/50V (105℃) |
C131 |
330uF/50V (85℃) |
470uF/50V (105℃) |
C132 |
100uF/50V (85℃) |
(未交換) |
サイズ的に適合品なし |
C134 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/16V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C135 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
C136 |
10uF/35V (85℃) |
10uF/50V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C137 |
10uF/35V (85℃) |
10uF/50V (105℃) |
C138 |
47uF/10V (85℃) |
56uF/35V (105℃) |
C196 |
2.2uF/50V (85℃) |
2.2uF/50V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
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交換前後後の記録写真
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左の写真は交換前です。
黄色枠で囲んだ部分が電源部です。
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右の写真は交換後です。
金色や緑色、黄色の電解コンデンサでカラフルになりました。

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電気二重層コンデンサ交換
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電気二重層コンデンサでプリセットメモリの記憶をバックアップします。
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この電気二重層コンデンサも経年劣化するので交換します。
1F/5.5V の電気二重層コンデンサに換装します。
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左の写真は交換前です。
黄色枠で囲んだ部分が 84mF/5.5V 電気二重層コンデンサです。
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右の写真は交換後です。
元のものとリードピッチが合わないので、電線にて接続しました。
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新しい電気二重層コンデンサは強力両面テープで貼り付けています。

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電気二重層コンデンサは 84mF → 1F と12倍の容量になりました。
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取扱説明書によるとメモリバックアップは1週間と書かれています。
(元の 84mF の時です。)
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容量が12倍になったので、計算上は12週間 (3ヵ月) バックアップできるはずですが ・・・
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実際には、電気二重層コンデンサの自己放電もあるので、少なくとも1ヶ月間はバックアップできると思います。
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[再調整] で以下の不具合は直りました
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FM で同調ズレしている
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AM の感度が低下している
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フロントパネル上のエッジにかなり目立つ大きなキズがあり、地肌が見えている
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キズは直しようがないので、せめて目立たなくなるよう、自動車用黒艶消しタッチペイントをキズ部分に塗布しました。
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[大きなキズが醜い]→[少し汚れているのかな] に見える程度に回復しました。
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リアパネルの端子類のハンダクラック予防対策
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リアパネルにある [オーディオ RCA 端子] のリードは基板にハンダ付けされているため、常にストレスが掛かっています。
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このリードは経年変化でハンダクラックしやすいのです。
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リードに補修ハンダ付けしました。
これから先数十年は大丈夫になったと思います。
再調整
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電源電圧チェック (VP)
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以下のように良好でした。
VP |
表示電圧 |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
Q40-E |
+15V |
+14.9V |
+14.8V |
〇 |
Q42-E |
-14V |
-13.5V |
-13.3V |
〇 |
IC14-OUT |
+5V |
+5.6V |
+5.65 |
〇 |
Q46-E |
+28V |
+28V |
+28.1V |
〇 |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信
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同調ズレがありましたが、基準値内に復帰しました。
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フロントエンドでトラッキングズレがあり、調整で大きく感度が上がりました。
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PLL 検波で大きなズレがあり、再調整で高調波歪率が大きく改善しました。
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調整前のステレオセパレーションは 30dB 程度でしたが、以下の優秀値に調整できました。
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高調波歪率とステレオセパレーションの大改善で、素晴らしい音質になりました。
項目 |
FM IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
70 |
70 |
dB |
NARROW |
65 |
65 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.013 |
% |
stereo |
0.014 |
% |
NARROW |
mono |
0.021 |
% |
stereo |
0.048 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-69 |
-64 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
-0.01 |
dB |
FM REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
398.4 |
Hz |
-5.9 |
dB |
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AM 受信
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AM は添付された SONY 製 AM ループアンテナで最高感度になるよう調整しました。
使ってみました
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今回のメンテナンスの感想
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到着時は感度も音も泣きそうになるくらいボロボロでした。
これは直るのだろうか?
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修理と調整を実施したところ、見違えるほど優秀な性能に戻りました。
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今では、感度が良く、混変調妨害にも強い優秀機です。
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FM の音質はシャッキとした高音域が特長
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ハッとするような素晴らしくクリアな音
です。
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ソースの持つ質感や雰囲気をうまく表現します。
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AM の音質も良い
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でも、このような高級チューナで AM 聴く人いないような ・・・