KENWOOD KT-3030 (4号機) をゲット!
2024年1月10日、大阪府泉南郡の M さんより
KENWOOD KT-3030
の故障品を研究用に寄贈いただきました。
定価12万円
の高級 FM 専用チューナです。
程度&動作チェック
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寄贈者のコメント
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5年ほど前にオークションで買いました。
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1年ほどは普通に受信できてましたが、その後まともに受信出来なくなりました。
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研究用に寄贈します。
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外観
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製造シリアル番号は [4XK10381] で、電源コードの製造マーキングより [1984年製造品] とわかりました。
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フロントパネルに汚れ、アルマイト部にサビ、天板への折り返し部分にアルマイトにハゲがあります。
クリーニングでどうなるかな?
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[リアパネル] [天板] [底板] はそう問題なく、綺麗なほうです。
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総合して外観は [並みの中古] 状態です。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入り、FL ディスプレイの輝度は十分明るいです。
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各ボタン操作で少しチャタリングを感じますが動作します。
[TUNING] ノブの反応は問題ないです。
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受信周波数により以下の症状ががあります。
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83MHz までの放送受信は問題なく、[STEREO] ランプが点灯して正常音が出ます。
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85.1MHz の放送を受信すると音が揺れます。
バックにボツボツというノイズが乗っています。
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89.7MHz の放送は全く受信できません。
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どうやら VT 電圧周りに不具合がありそうです。
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76~83MHz の範囲での受信は正常です。
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オートチューングで正しい周波数で止まります。
周波数ズレはなさそうです。
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[REC CAL] ボタン ON で正常にテスト音が出ます。
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カバーを開けてチェック
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内部基板は綺麗で、目視では特に不具合部品はないように見えます。
リペア (その1):83MHz 以上の周波数の放送で受信不具合
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原因
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VT 電圧のソース電源電圧を測定すると、以下のように異常でした。
| VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
| チューナ基板 CN1-7pin |
+54V |
+38.7V |
× |
VT 回路 (+B) |
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更に調べると [電源基板] に実装されている [C6] 330uF/50V が容量抜けしていました。
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左の写真は取り外した [C6] です。
電解液漏れで汚くなっています。
これが原因です。
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修理
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[C5] [C6] [C13] [C14] を右の写真のように交換しました。
この4個は放熱器の熱で劣化しやすく、一斉交換としました。

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交換部品リスト
| 基板 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
| 電源基板 |
C5 |
330uF/50V (85℃) |
560uF/50V (105℃) |
| C6 |
330uF/50V (85℃) |
560uF/50V (105℃) |
| C13 |
2200uF/20V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
| C14 |
1000uF/20V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
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動作チェック
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全ての周波数で正常に受信できることを確認しました。
リペア (その2):ディスプレイ基板をハンマリングすると表示欠けする
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現象
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正しく受信できるようになってから気が付きました。
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KT-3030 の基板は2階建構造になっており、[ディスプレイ基板] は2階部分です。
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[ディスプレイ基板] を軽く叩くと7セグメント表示数字の一部が欠けるのです。
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7セグメントですから欠けがあるとマトモに読み取れません。
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原因
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右の写真は FL 管のリードと [ディスプレイ基板] のハンダ付け部の一部です。
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この写真の4箇所全部がハンダクラックしています。
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これ以外のリードにもハンダクラックが見えます。
このハンダクラックが原因です。
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修理
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FL 管のリードを全て補修ハンダ付けして直りました。
もう基板を叩いても表示欠けしません。
リペア (その3):[SUPER WIDE] になりにくい
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現象
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再調整に入ってから気が付きました。
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[FM IF BAND] スライドボリュームにて [SUPER WIDE] [WIDE] [NARROW] [SUPER NARROW] に切換します。
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ところが、[SUPER WIDE] になりにくいのです。
その他の IF BAND には正常に切り換わります。
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原因
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[FM IF BAND] スライドボリュームの摺動子と抵抗体の接触不良が原因です。
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修理
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スライドボリュームに
接点復活スプレー
を少量添加して直りました。
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もうどの IF BAND にもスムーズに切り換わります。
リペア (その4):その他
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フロントパネルに汚れがある
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清掃しましたが、表面の汚れはあまり綺麗になりませんでした。
汚れではなく軽いサビのようです。
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フロントパネルを外して清掃し、FL 表示器の周りは煤が取れて綺麗になりました。
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フロントパネルの天板への折り返し部分にアルマイトハゲがある
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ハゲはポチッとして僅かなので、自動車用タッチペン (艶消し黒) を使って補修塗りしました。
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ハゲは目立たなくなりました。
パッと見でわかりません。
補修成功です。
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[POWER] スイッチのガイドプラスチックの接着が外れている
再調整
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電源電圧チェッック (VP)
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[電源基板] 修理後の実測値は以下のように良好になりました。
| VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
| チューナ基板 CN1-1pin |
-12V |
-12.1V |
〇 |
OP アンプ |
| チューナ基板 CN1-2pin |
+12V |
+11.9V |
〇 |
チューナ全般 |
| チューナ基板 CN1-3pin |
+15V |
+14.9V |
〇 |
MPX |
| チューナ基板 CN1-5pin |
+5.6V |
+5.67V |
〇 |
MCU |
| チューナ基板 CN1-7pin |
+54V |
+54.5V |
〇 |
VT 回路 (+B) |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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以下のように、素晴らしい性能に蘇りました。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
Super Wide |
stereo |
70 |
64 |
dB |
| Wide |
51 |
53 |
dB |
| Narrow |
49 |
50 |
dB |
| Super Narrow |
45 |
48 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
Super Wide |
mono |
0.0035 |
% |
| stereo |
0.017 |
% |
| Wide |
mono |
0.0058 |
% |
| stereo |
0.059 |
% |
| Narrow |
mono |
0.0070 |
% |
| stereo |
0.12 |
% |
| Super Narrow |
mono |
0.010 |
% |
| stereo |
0.15 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
Super Wide |
stereo |
-83 |
-73 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 |
Super Wide |
mono |
0 |
+0.03 |
dB |
| REC CAL |
Super Wide |
mono |
387.6 |
Hz |
| -6.2 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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故障が直り、本来の性能に戻りました。
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性能改善が果たせたので、音質は聴き違えるほど良くなりました。
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感度と音質
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感度と妨害電波排除能力は素晴らしく良いです。
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良い音です。
修理後の試聴で NHK FM の音楽に聴き惚れてしまいました。
素晴らしい!
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やはり
定価12万円
だけのことはあります。
優れた機種です。