KENWOOD KT-3030 (5号機) が到着
2024年1月10日、千葉県香取市の S さんより
KENWOOD KT-3030
の修理依頼品が到着しました。
定価12万円
の高級 FM 専用チューナです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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チャンネル登録の記憶が電源オフ2日位でリセットされてしまいます。
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外観
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製造シリアル番号は [54K10240] で、電源コードの製造マーキングより [1985年製造品] とわかりました。
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底面に KENWOOD サービスのメンテンスシールが貼ってあり、[1993年2月27日] [R 出力 異常なし] と書かれていました。
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全体的にはかなり綺麗です。
よくよく見ればごくごく小さいハゲや天板の汚れなどはあるのですが目立たないです。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入り、FL ディスプレイの所々にヤセがありますがはまだまだ使えます。
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操作はでき、周波数ズレはなく、[STEREO] 表示が出て問題なく受信できます。
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感度落ちしており、S メータに振れが少し少ないです。
プリセットは消えて初期状態になっていました。
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[REC CAL] ボタン ON で正常にテスト音が出ます。
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現状のオーディオ性能を測定してみました。
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[ステレオセパレーション] がかなり悪くなっています。
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[パイロット信号キャリアリーク] が少し悪いです。
[高調波歪率] は問題ないです。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
Super Wide |
stereo |
23 |
22 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
Super Wide |
mono |
0.026 |
% |
stereo |
0.026 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
Super Wide |
stereo |
-44 |
-52 |
dB |
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カバーを開けてチェック
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内部基板は綺麗で、目視では特に不具合部品はないように見えます。
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フロントエンドのトリマコンデンサ×5個を回してみたところ、いくつかで異常があります。
劣化しています。
リペア (その1):トリマコンデンサが劣化している
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修理
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以下の交換部品リストのようにトリマコンデンサを全数交換します。
基板 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
チューナ基板 |
TC1 |
10pF トリマ |
10pF トリマ |
TC2 |
10pF トリマ |
10pF トリマ |
TC3 |
10pF トリマ |
10pF トリマ |
TC4 |
10pF トリマ |
10pF トリマ |
TC5 |
10pF トリマ |
10pF トリマ |
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左の写真で黄〇で囲んだ部品が交換後のトリマコンデンサです。
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右の写真は、これまで実装されていた劣化したトリマコンデンサです。
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修理後の動作チェック
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トリマコンデンサを回してのトラッキング調整がスムーズにできるようになりました。
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落ち込んでいた感度も同時に復活しました。
直りました!!!
リペア (その2):チャンネル登録の記憶が電源オフ2日位でリセットされる ・・・ 修理依頼者より
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概要
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[電気二重層コンデンサ] は電源 OFF 時のプリセット情報をバックアップします。
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電源 OFF するとプリセットメモリが消えるのはこのコンデンサが故障 (寿命) しているのです。
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修理
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以下の交換部品リストのように電気二重層コンデンサを数交換します。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C163 |
0.022F/5.5V |
1F/5.5V |
電気二重層コンデンサ |
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左の写真で黄〇で囲んだ部品が交換後の電気二重層コンデンサです。
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右の写真は、これまで実装されていた劣化した電気二重層コンデンサです。
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電気二重層コンデンサはオリジナルの 0.022F → 1F と46倍の容量になりましたが・・・
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オリジナル状態 (0.022F) でのメモリバックアップ保証期間は1週間です。
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計算上は46倍の46週間メモリバックアアップできるはずですが、実際には自己放電もあるので数ヶ月でしょう。
リペア (その3):ハンダクラック対策
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右の写真はリアパネルにある RCA 端子の裏側です。
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長いリードが基板に直接ハンダ付けされています。
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このハンダ付け部分は [リアパネル] [基板] の2方向から常にストレスを受けるのでハンダクラックしやすいです。
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修理 (予防補修)
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[RCA 出力端子] のハンダ付け部を補修ハンダ付けしました。
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ついでに [OUTPUT LEVEL] ボリュームのハンダ付け部も補修ハンダ付けしました。
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補修ハンダ付けは、古いハンダを吸引して除去し、新しいハンダを付けるのが正しいやり方です。
再調整
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電源電圧チェッック (VP)
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[電源基板] 修理後の実測値は以下のように良好になりました。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
チューナ基板 CN1-1pin |
-12V |
-12.0V |
〇 |
OP アンプ |
チューナ基板 CN1-2pin |
+12V |
+12.0V |
〇 |
チューナ全般 |
チューナ基板 CN1-3pin |
+15V |
+15.8V |
〇 |
MPX |
チューナ基板 CN1-5pin |
+5.6V |
+5.61V |
〇 |
MCU |
チューナ基板 CN1-7pin |
+54V |
+55.2V |
〇 |
VT 回路 (+B) |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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フロントエンドのトリマコンデンサを交換したので、トラッキング調整をやり直しました。
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以下のように、素晴らしい性能に蘇りました。
到着時より大きく性能アップしました。
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ステレオセパレーションは300倍良くなって音の解像度が大きく上がりました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
Super Wide |
stereo |
70 |
70 |
dB |
Wide |
63 |
67 |
dB |
Narrow |
60 |
63 |
dB |
Super Narrow |
58 |
59 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
Super Wide |
mono |
0.0058 |
% |
stereo |
0.010 |
% |
Wide |
mono |
0.0073 |
% |
stereo |
0.015 |
% |
Narrow |
mono |
0.010 |
% |
stereo |
0.015 |
% |
Super Narrow |
mono |
0.011 |
% |
stereo |
0.016 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
Super Wide |
stereo |
-63 |
-70 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
Super Wide |
mono |
0 |
-0.02 |
dB |
REC CAL |
Super Wide |
mono |
398.4 |
Hz |
-6.2 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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到着時は性能がかなり落ちていましたが、再調整で本来の性能に蘇りました。
当たりの個体です。
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性能が大幅アップしたので、音質は聴き違えるほど良くなりました。
素晴らしく良い音です。
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感度と音質
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感度と妨害電波排除能力は素晴らしく良いです。
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良い音です。
修理後の試聴で NHK FM の音楽に聴き惚れてしまいました。
素晴らしい!
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やはり
定価12万円
だけのことはあります。
優れた機種です。