KENWOOD KT-880F (3号機) が到着
2024年7月8日、富山県魚津市の Y さんより
KENWOOD KT-880F
の修理依頼品が到着しました。
ディスプレイが全く表示しない不具合でしたが直りました。
この写真は修理完了後です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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正面のディスプレイが表示しなくなっています。
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FM は受信できるのですが、どの周波数を受信しているのかわかりません。
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つい最近まで問題なく聞けていました。
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想像ですが、電解コンデンサの劣化が原因と思っていますが私の技術では修理できませんでした。
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社会人になって初めて買った機器の1つです。
40年くらい前の機器ですが、どうしても直して欲しいです。
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修理と再調整お願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [5YK11004] で、電源コードの製造マーキングより [1985年製造品] とわかりました。
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[純正 AM ループアンテナ] の添付はありませんでした。
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[フロントパネル] [リアパネル] [天板] [底板] はとても綺麗な逸品です。
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リアパネルの端子類にも輝きが残っています。
AM ループアンテナを留めるプラスチックホルダが割れて一部欠損しています。
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電源 ON してチェック
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ディスプレイが真っ黒で何も表示しません。
LED 表示は点灯しています。
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ディスプレイが点かないとこれ以上チェックしようがないです。
ディスプレイ修理後に、あらためてチェックすることにします。
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カバーを開けてチェック
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目視でわかる部品の劣化は見当たらず、状態は良いです。
リペア (その1):ディスプレイが真っ黒
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調査と原因
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何も表示しないとなると、このディスプレイは FLD なのでフィラメントに電圧が掛かっていない可能性大です。
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カバーを開けてディスプレイを軽く叩くと表示することがありました。
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更に調べるとディスプレイのリードでハンダクラックしていました。
原因はこれです。
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修理
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左の写真は FLD です。
下側にリードが数多く見えます。
このリードは基板の裏側でパターンとハンダ付けされています。
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右の写真は基板の裏側でのリードのハンダ付け部分です。
ルーペで拡大しなくても裸眼でハンダクラックが数多く見えます。
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リードのハンダ付けが外れて浮いています。
相当ひどいハンダクラックです。
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右からの2本が FLD のフィラメント電源ラインです。
完全に外れています。
これでは FLD は何も表示できないです。
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FLD の全てのリードのハンダ付け部分を補修ハンダ付けして
直りました!!!
ディスプレイが表示できるようになったので、あらためて動作チェック
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プリセットメモリが全てクリアされて初期値に戻っています
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プリセットメモリをバックアップする電解コンデンサを交換したほうがよいです。
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[PROGRAM] スイッチがラッチできず、機械的に故障しています
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このスイッチの新品は既にないので、この修理は諦めです。
プログラム機能が使えないだけなので、そう支障はないと思います。
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FM/AM は正常に受信できました
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FM では S メータが正常に振れ、[STEREO] 表示が出て、音にもステレオ感があります。
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まだ誤動作はしていませんが、FM で T メータの動きから同調点がややズレている感じがあります。
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AM では S メータが正常に振れ、ちゃんと音が出ました。
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一通り操作してみましたが、操作ボタンは正常に反応して正しい動作をします。
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再調整すれば新品時の性能に蘇りそうです。
リペア (その2):プリセットメモリがクリアされていた
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原因
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プリセットメモリは電解コンデンサでバックアップします。
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この電解コンデンサが劣化しているとバックアップ時間が短くなります。
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修理
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プリセットメモリバックアップ用の電解コンデンサ [C154] を以下のリストのように交換しました。
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電解コンデンサのグレードを上げて高耐熱品にしました。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C154 |
2200uF/6.3V (85℃) |
2200uF/6.3V (105℃) |
電解コンデンサ |
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左の写真が交換後で、茶色い背の高い部品です。
右の写真はこれまで実装されていた劣化した電解コンデンサです。
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一晩 AC プラグを抜いたままにしてから電源 ON してプリセットが消えないことを確認しました。
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KT-880F は AC プラグを壁コンセントに入れたまま使うのが前提の設計
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[POWER] スイッチを OFF にしてもプリセットメモリには電源供給しています。
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AC プラグを抜いて完全に電源遮断した場合、プリセットメモリバックアップ時間は3日間がスペックです。
リペア (その3):ハンダクラック予防対策
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KT-880F でハンダクラックしやすい場所
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左の写真は [OUTPUT] 端子の裏側です。
右の写真は [FM ANTENNA] [AM ANTENNA] 端子の内側です。
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これらの端子のリードのハンダ付け部は [リアパネル] [基板] の2方向から常にストレスを受けているのでハンダクラックしやすいです。
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修理 (予防対策)
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基板の裏側で上記の端子のハンダ付け部を補修ハンダ付けしました。
リペア (その4):その他
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FM で同調点がややズレている
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フロントパネルにあるディスプレイの内側にスス状の汚れがある
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ディスプレイが表示しない不具合修理作業中に気が付きました。
修理のついでにディスプレイの内側を清掃しました。
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清掃後はディスプレイがクッキリ・ハッキリ見えるようになりました。
再調整
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電源電圧チェッック (VP)
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実測値は以下のように正常でした
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
電源基板 CN1-2pin |
+5.6V |
+5.66V |
〇 |
コントローラ |
電源基板 CN1-3pin |
+28V |
+28.2V |
〇 |
VT 電源 |
電源基板 CN1-5pin |
+14V |
+14.2V |
〇 |
チューナ、OP アンプ |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信
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同調点 (T メータ) が限界までズレていました。
再調整で規定内に入りました。
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フロントエンドで [RF トラッキング] [IFT] ズレがあり、再調整で少し感度が上がりました。
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PLL 検波でやや大きいズレがありました。
再調整で規定内に入りました。
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ステレオセパレーションは到着時に 30dB しかありませんでしたが、再調整で大幅向上しました。
30dB→70dB なので100倍の向上!
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音の解像度が大きく向上しました。
今や高級機と変わらない素晴らしく良い音です。
項目 |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
stereo |
70 |
70 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
mono |
0.039 |
% |
stereo |
0.052 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
stereo |
-68 |
-70 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
mono |
0 |
+0.02 |
dB |
REC CAL |
mono |
398.4 |
Hz |
-5.9 |
dB |
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AM 受信
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[純正 AM ループアンテナ] の添付がなかったので、IF 調整だけしました。
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現在の AM 放送は2028年でほぼ消滅するし、本機のような音の良いチューナで AM を聴く人はいないだろうし。
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FM 周波数コンバータ
を使えば KT-880F でもワイド FM を受信できます。
FM で AM 放送を聴くほうが正解です。
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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バリコン式チューナと違って、シンセサイザ式チューナは表示器が見えないと何にもできないんですね。
あらためて体験できました。
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修理と再調整で素晴らしい性能と音質が蘇って良かったです。
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デザイン
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筐体の高さが低いのでスリム感があります。
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プリセットメモリは FM/AM ランダムに16局分あり十分です。
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FM アンテナが F 端子なので妨害電波の混入を防げます。
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性能&音質
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FM の感度と妨害電波排除能力は素晴らしく良いです。
FM フロントエンドの性能が余程良いのでしょう。
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FM の音質は非常に良いです。
歪感が少なく、輪郭がハッキリで、スッキリした音の出かたです。
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KT-880F は KT-1010F の下位機種ですが、兄貴に負けない性能があります。
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AM の感度は良く音もマアマアです。
このチューナで AM を聴く人はほとんどいないと思われ、オマケみたいなものです。