KENWOOD KT-V990 (7号機) が到着
2024年4月21日、横浜市の K さんより
KENWOOD KT-V990
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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学生時代に購入したもので、現在も使用中です。
不具合状況は以下です。
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プリセットメモリの記憶保持が弱くなっており、通電しない状態では短期間 (数日) でメモリが消えてしまいます。
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「チューニングつまみ」の動作が不安定です。
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つまみの回転方向と逆方向にチューニング動作することがあります。
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また、つまみの回転の滑らかさが、新品時代と比べて悪化している印象です。
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[BILINGUAL] インジケータが、FM 受信時も点灯します。
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実用上問題が無いため気にしないようにしていました。
修理可能でしたらお願いします。
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他に調整ずれ、はんだクラック、コンデンサの劣化等、問題がありましたら修理をお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [71001980] で、電源コードの製造マーキングより [1987年製造品] とわかりました。
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[純正 AM ループアンテナ] が添付されていました。
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全体的に特に指摘するような問題はなく、綺麗なほうです。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入り、ディスプレイは良好、ボタン操作は正常です。
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電源 ON 直後は [BILINGUAL] 表示が受信バンドに関係なく常時表示されていましたが、20分後くらいに消えてしまいました。
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修理依頼者より、[TUNING] ノブの動作が不安定と聞いていましたが・・・
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[TUNING] ノブとロータリーエンコーダ軸の留めネジが緩んでガタついていました。
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緩んだネジを締め付けてガタつきはなくなり、スムーズに回転するようになりました。
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この状態で周波数の UP/DOWN を間違うような現象は確認できず、良好なことを確認しました。
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これで直ったと思ってイイのだろうか???
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FM 受信
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周波数ズレはなく、[STEREO] 表示が出てステレオ受信できます。
動作は問題なさそうです。
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概ね問題なさそうなので、到着時のままオーディオ性能の一部を測定してみました。
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ステレオセパレーションが大きく落ち込んでいます。
これ以外の数値は問題ありません。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
21 |
22 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.056 |
% |
stereo |
0.056 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-63 |
-63 |
dB |
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AM 受信
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[純正 AM ループアンテナ] でチェックしました。
感度よく受信でき問題なさそうです。
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TV 受信
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もう地上アナログテレビは消滅したので、チェックしていません。
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カバーを開けてチェック
リペア (その1):プリセットメモリが短期間 (数日) で消える ・・・ 修理依頼者より
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原因
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左の回路はメモリバックアップ部分です。
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ピンクで網掛した [C6] 2200uF/6.3V でバックアップします。
直列に入っている [R15] 100Ω 1/6W は充電電流制限用です。
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原因は [C6] が経年変化で新品の時より容量抜けしたためです。
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この回路は左の写真の [フロントパネル基板] で黄〇で囲んだ辺りです。

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修理
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左の写真は交換前の [C6] [R15] で、右の写真はそれらの交換後です。
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[C6] は [2200uF 電解コンデンサ]→[1F 電気二重層コンデンサ] に交換しました。
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[R15] は [100Ω 1/6W]→[180Ω 1/2W] に交換しました。
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容量が大きくなると充電時間が10分ほどかかるので、[R15] が元の 1/6W では持たないので一緒に交換したのです。

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解説
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取り外した古い [C6] を容量計で測定したら 1970uF でした。
確かに容量抜けはしているのですが、そう悪い数値ではありませんでした。
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電解コンデンサは新品時には表示容量より 150~200% の容量があります。
あらかじめ経年劣化による容量抜けを見込んでいるのです。
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取扱説明書によるとバックアップ保証期間は3日となっているので、修理依頼者のいう数日が3日なら仕様通りとも言えます。
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結果として新品時に1週間くらいメモリ保持していたものが、仕様通りの3日になっただけで、いわゆる故障ではないです。
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[2200uF]→[1F] と455倍になり、メモリ保持時間は、計算上 3日間×455倍=1365日 (3.7年) になるはずですが・・・
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電気二重層コンデンサの自己放電もあるので、数ヶ月でしょう。
リペア (その2):[BILINGUAL] インジケータが常時点灯する
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原因
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左の回路はディスプレイの [BILINGUAL] 表示部分です。
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[Q17] トランジスタが ON になると [BILINGUAL] 表示が出ます。
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[Q17] を ON にする信号は [チューナ基板] から来るので、故障の原因は [チューナ基板] のどこかにあることになります。

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修理
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地上アナログテレビ放送は終了しており、[チューナ基板] を修理しても KT-V990 の [TV] 音声受信機能は使えないです。
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使えない機能を労力をかけて修理しても仕方ないので、[BILINGUAL] 表示が出ないよう対処修理 (改造) しました。
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上の右の写真のように、[フロントパネル基板] の [Q17] B-E 間 (R114 両端) を短絡しました。
赤線ジャンパです。
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これで [BILINGUAL] 表示が出ないようになりました。
再調整
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信
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FM 同調点調整が 400mV と周波数ズレをおこす寸前でした。
規定の 0V に再調整しました。
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フロントエンドのトラッキング調整が大きく、再調整で感度が倍になりました。
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PLL 検波調整が大きくズレていました。
再調整で規定内に入りました。
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MPX の SUB 調整が大きくズレていました。
再調整で規定内に入りました。
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ステレオセパレーションも大きく落ち込んでいました。
再調整で大幅向上し音の解像度が上がりました。
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NARROW ではかなり悪化するので、できるだけ WIDE で使ったほうが良いです。
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以下のように素晴らしい特性です。
音も素晴らしく良いです。
やはり KT-V990 は
隠れた名器
です。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
70 |
70 |
dB |
NARROW |
26 |
26 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.016 |
% |
stereo |
0.020 |
% |
NARROW |
mono |
0.16 |
% |
stereo |
0.16 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-75 |
-66 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.10 |
dB |
REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
375.0 |
Hz |
-7.9 |
dB |
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AM 受信
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[純正 AM ループアンテナ] で最高感度になるよう調整しました。
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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おそらく購入後一度も再調整していないと思われ、あちこちガタガタにズレていました。
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再調整で元の素晴らしい性能に蘇りました。
音も到着時より格段に良くなりました。
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デザイン
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フロントパネルは厚いヘヤラインアルミ材が使われ質感があります。
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ボタン類がうまく整理されており、スッキリ感があります。
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感度や音質
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FM の感度は良いです。
高音域がシャッキとした音質で、
ハッとするような素晴らしくクリアな音
です。
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AM の感度や音は普通です。