KENWOOD L-01T (7号機) が到着
2024年5月19日、香川県小豆郡の K さんから
KENWOOD L-01T
の修理依頼品が到着しました。
定価16万円
の高級 FM 専用チューナで
パルスカウント検波
です。
この写真は照明 LED 化後です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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前々から気になっていた L-01T をヤフオクにて入手しました。
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電源を入れてから受信音が出るまでに数分から数十分かかります。
修理お願いします。
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温まらないと受信しないのかもと思い、電解コンデンサにドライヤを当ててみたところすぐに受信しました。
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怪しいと思った 2200uF/25V の電解コンデンサ1本を新品に変えてみましたが、症状は変わりませんでした。
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残りも変えてみようとも思いましたが、原因が特定出来ている訳でもなく止めました。
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バリコン軸のサビ修理と照明の LED 化をお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [20120172] で、電源コードの製造マーキングより [1981年製造品] とわかりました。
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汚れ・スレ・ちょっとしたキズはあるのですが、大きな問題はなくビンテージ品としては納得できる外観です。
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この機種でよくあるツキ板の浮きがなく、ここはかなり良い状態です。
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リアパネルの端子類に少しサビが出ていますが、使用には問題なさそうです。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入り、[S メータ] [T メータ] が振れますが音が出ません。
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電源を入れて10分を経過してから音が出ました。
[STEREO] ランプも点灯しました。
音は綺麗です。
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この機種は正常なら5~10秒くらいで音が出るはずです。
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ランプが切れはないです。
周波数ズレも ±0.1MHz 以内で正常範囲です。
Servo Lock は正常に動作します。
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[TUNING] ノブを回すと周波数の低い辺りで回転に合わせてガソゴソとノイズが出ます。
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カバーを開けてチェック
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内部には細かいホコリが目立ちます。
少し硬めの絵画筆を使って清掃するとマシになると思います。
当方ではやりません。
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基板の部品を目視して劣化と思われるものはありませんでした。
リペア (その1):電源 ON してから10分程度経たないと音が出ない
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調査&原因
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音が出るまでに時間がかかるということで、まずは Power ON/OFF Muting を疑いました。
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Power ON/OFF Muting 回路を調べましたが正常で、これではありませんでした。
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Multipath-H 出力にはパルスカウント検波出力がそのまま出ています。
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音が出ない時は Multipath-H にも音が出ていませんでした。
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こうなると、パルスカウント検波出力がおかしいことになります。
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パルスカウント検波を調査
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パルスカウント検波では 10.7MHz の IF 周波数を 1.96MHz の 2nd IF に周波数変換します。
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2nd IF を作るためにローカル OSC を使うのですが、音が出ていない時はこの OSC が発振していないと判明しました。
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2nd IF 用ローカル OSC を調査
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左の回路はローカル OSC の部分です。
赤枠で囲んだ [L8] が OSC コイルです。
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[L8] はチタコンを内蔵しており、普通にはこのチタコンの故障だと思われます。
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右の写真で赤〇で囲んだコイルが [L8] です。
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修理依頼者がドライヤで温めて怪しいと判断して交換した電解コンデンサのごく近くです。
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ドライヤの熱風はピンポイントで当てるのは難しく、[L8] にも風が当たってしまって一時的に直ったのでしょう。

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[L8] を基板から取り出して調査
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左の写真は取り出した [L8] で、右の写真はその裏側です。
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右の写真でチクワの形をした部品が内蔵チタコンです。
マイグレーションが発生して真っ黒になっています。
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発振回路に使うコイルはある程度の Q が必要です。
マイグレーションは Q を下げてしまいます。
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原因は [L8] 内蔵チタコンの劣化です。
マイグレーションは不安定なので加熱等で一時的に直ることもあります。

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修理
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内蔵チタコンはもう使えないので除去して、[L8] を基板に戻しました。
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チタコンの代わりに積層セラミックコンデンサを右の写真のように基板裏で取り付けました。
青色のコンデンサです。
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使った積層セラミックコンデンサは C0G 30ppm/℃ 温度補償型 68pF です。
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修理後の動作確認
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電源 ON から7秒後に音が出るようになりました。
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この7秒という時間は Power ON/OFF Muting 回路によるもので、L-01T としては正常範囲です。
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直りました!!!
リペア (その2):照明用フィラメントランプの完全 LED 化
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従来の照明回路と [照明基板]
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従来の照明回路です。
ランプへの給電は AC/DC 混在しています。

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本機の [照明基板] の状態を確認
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写真の一番下にあるダイヤル照明用散光板が弓のように変形して基板をはみ出しています。
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この散光板の下にはダイヤル指針があり、散光板に指針が接触して動きが悪くなっていました。
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散光板が変形したのは、フィラメントランプの熱に長時間晒されたためです。
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この変形は修復不能なので、LED 化して散光板を取り除くしかないです。

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リプレースに使う LED
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左の写真のテープ LED は [ダイヤルスケール] [S メータ] [T メータ] [WORDS] 照明に使います。
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1m あたり高輝度 LED 240個の凄まじい製品です。
発色はウォームホワイト (電球色) です。
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5mm 砲弾型 LED はセレクタとステレオ表示に使います。
[白色、10000mcd、照射角60度] です。
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3mm 砲弾型 LED は指針に使います。
[青色、8400mcd、照射角30度] です。

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LED 化した表示回路と LED 化した照明基板
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LED 化した表示回路です。
全て DC 駆動に変更しました。

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LED 化した [照明基板] の表と裏です。


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テープ LED にすると [ダイヤルスケール] [メータ] [WORDS] 用散光板は不要になるので除去しました。
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[セレクタ] [STEREO] 用の散光板はそのまま使いました。
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[WORDS] 照明の周りにある四角い枠は自作の遮光板です。
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ボール紙で簡単工作し、黒ラッカー塗装してからボンドで貼り付けました。
サイズは 110(W)×13(H)×10(D) mm です。
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テープ LED を貼り付ける位置は重要です。
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LED の中心を基板下から、[ダイヤルスケール] 用 9mm、[S/T メータ] 用 32mm、[WORDS] 用 24mm にします。
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L-01T はテープ LED 照明化すると幸せになれます!
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LED 化後はムラのない非常にスッキリとした素晴らしい表示になりました。
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L-01T が発売された時代には [青色 LED] [高輝度 LED] [高輝度テープ LED] がなかったのです。
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技術進化が LED 化を可能にしました。
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フィラメントランプの時は 8V/0.15A のランプを23個使っていたので、照明だけで実に 28W 電力消費していました。
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LED 化後の電力消費は 5W くらいです。
発熱はほぼないです。
SDGs に貢献できます。
電気代も安くなります。
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長い目で見ると、今回の費用は安くなった電気代で回収できます。

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LED 化前に実装されていた部品
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膨大なランプ使用量です。
これだけあったら、どこかがいつランプ切れしてもおかしくないです。
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これらの部品は不要になったので廃棄しました。

リペア (その3):[TUNING] ノブを回すとガソゴソとノイズが出る
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原因
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バリコンの故障です。
故障と言ってもバリコン軸の接触不良なので回復可能です。
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バリコンを観察すると、右の写真のようにバリコン軸に緑青サビが出ています。
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緑青サビは絶縁物なのでバリコン軸が接触不良になるのです。
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対策
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バリコン軸接触不良回復作業を実施しました。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1]~[2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けにリチウムグリスを塗布して防錆処置します。
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7連バリコンなので、結構手間がかかりましたが、以上で
直りました!!!
リペア (その4):ハンダクラックの予防補修
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L-01T でハンダクラックの発生しやすい箇所は RCA 端子
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リアパネルにある [RCA 端子] リードのハンダ付け部にはリアパネルと基板の2方向から常にストレスを受けているので、ハンダクラックしやすいです。
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右の写真で黄〇で囲んだハンダ付けです。
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予防補修
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黄〇で囲んだハンダを一旦除去し、新しいハンダで付け直しました。
リペア (その5):その他
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RCA 端子のサビ落とし
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試験のため RCA プラグを何度も抜き差ししていたら、RCA 端子のサビで摩擦が大きくてプラグが壊れました。
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やむを得ず、RCA 端子を必要最小限のサビ落とししました。
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これ以上サビが深刻化しないよう、使わない端子にはダストキャップを付けることをお奨めします。
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フロントエンドカバーと電源トランスのクリーニング
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中性クリーナで汚れを除去してから
カーワックス
掛けしました。
ピカッと輝く美しさになりました。
再調整
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電源電圧チェッック (VP)
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実測値は以下のように正常でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
電源基板 端子13 |
+14V |
+14.1V |
〇 |
Front End, IF |
電源基板 端子15 |
+16V |
+16.4V |
〇 |
MPX |
電源基板 端子17 |
-16V |
-16.4V |
〇 |
MPX |
電源基板 端子19 |
+12V |
+12.7V |
〇 |
1'st OSC |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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本機は故障していたので、調整前後の比較はできませんが、再調整により素晴らしい音が蘇りました。
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ステレオセパレーションや高調波歪率が向上し、音の解像度が上がりました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
55 |
55 |
dB |
NARROW |
38 |
38 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.052 |
% |
stereo |
0.052 |
% |
NARROW |
mono |
0.15 |
% |
stereo |
0.15 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-85 |
-89 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
-0.02 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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やはり、L-01T は照明 LED 化が正解です。
オリジナルとそう色合いは変わらず、明るさムラがないです。
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再調整で L-01T 本来のゾクッとするリアルな音質に蘇ってよかったです。
弦楽器の弾ける音が素晴らしいです。
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デザイン
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デザインはとても良いですが、ともかく大きいです。
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電源を入れるとダイヤル面などが照明でパッと浮き上がります。
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今回、照明を完全 LED 化したのでスッキリとした色合いになりました。
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チューニングノブから手を離すと、同調サーボロックがかかります。
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アンテナ端子に F 端子があるのが、ありがたいです。
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リアパネルにある [CONTINUOUS DIAL LIGHT] スイッチ
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[ON] で、ダイヤルスケールとメータ照明が常時点灯します。
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[OFF] で、ダイヤルスケールとメータ照明がチューニングノブに手を触れた時だけ点灯します。
面白い仕掛けです。
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感度や音質
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感度は良好で、高級機らしい安定な受信ができます。
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音はパルスカウント検波らしいスッキリ感があります。
解像度感のある澄みきった音に聞き惚れます。
低音はよく出ています。
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NHK FM でクラシック音楽を聴いていると、静寂の中からキラキラ輝く素晴らしい音が飛び出すのを感じます。
S/N が良いです。
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人の声にもリアルさを感じます。
目の前で話していると錯覚しそうです。
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素晴らしいチューナです。
ただし、半世紀物ですから新たに入手した場合は多くのリペアが必要になると思います。