KENWOOD L-01T (8号機) が到着
2024年8月15日、茨城県日立市の I さんから
KENWOOD L-01T
の修理依頼品が到着しました。
定価16万円
の高級 FM 専用チューナで
パルスカウント検波
です。
この写真は照明 LED 化後です。
程度&動作チェック
-
修理依頼者のコメント
-
ダイヤルが途中で固くなり空まわりの状態になります。
-
外観
-
製造シリアル番号は [20120172] で、電源コードの製造マーキングより [1979年製造品] とわかりました。
-
汚れ・スレ・ちょっとしたキズはあるのですが、大きな問題はなくビンテージ品としては納得できる外観です。
-
この機種でよくあるツキ板の浮きがなく、ここはかなり良い状態です。
-
リアパネルの端子類
-
[VARIABLE OUTPUT] 端子は輝きがあって状態が良いです。
-
[FIXED OUTPUT] 端子には少しサビがあります。
-
[MULTIPATH-V] [MULTIPATH-H] 端子はサビだらけです。
-
電源 ON してチェック
-
電源は問題なく入りましたが、[WORDS の2個] [NARROW] [DIRECT] [NORMAL] ランプが切れています。
-
[TUNING] ノブを回して低い周波数から上げていくと、指針が 81MHz までしか動かず、これ以上は空回りのような状態になります。
-
0.2MHz 程度のバックラッシュがあり、周波数を合わせ辛いです。
-
おそらく、バリコンギア機構のプーリー軸を何らかの事情で外してしまい、ギア機構がバラバラになったのだろうと想像します。
-
このバラバラになった状態を、誰かが再度組み立てしていると思います。
-
バックラッシュレスギアは2枚重ね合わせ、1枚は固定でもう1枚は可動となっており、2枚をスプリングでピニオンギアを挟み込む構造になっています。
右の写真は L-01T ではなく別機種のバリコンギア機構ですが、構造的には変わらず参考です。
-
このスプリングが効かない状態で再組立てされたと思います。
-
この修理はバリコンメーカでないとできないと思われ、当方ではできません。
-
バックラッシュを我慢すれば同調し辛いですが使えないことはありません。
-
と言うことで、申し訳ないですがここは修理できません。
-
-1MHz 程度の周波数ズレがあり、80MHz の放送が 79MHz 辺りで受信します。
-
[S メータ] [T メータ] はそれなりに振れ、[STEREO] ランプが点灯して音は出ますが常時チリチリという雑音が入ります。
-
電源 ON して1時間くらい経った頃より雑音がバチッバチッとカミナリのような大きな雑音になりました。
-
雑音に混じって聴こえる放送音が小さくなり、[STEREO] ランプも消灯しました。
-
これ以降、しばらく電源 OFF してから ON しても大きな雑音のままです。
完全に壊れたようです。
-
[VARIABLE OUTPUT] [FIXED OUTPUT] 端子からは音が出ました。
-
[MULTIPATH-V] [MULTIPATH-H] 端子はサビだらけで使えませんでした。
-
カバーを開けてチェック
-
内部には細かいホコリが目立ちます。
-
IC6 [TR4010A] と IC11 [HA11223W] のリード足が真っ黒です。
マイグレーションが発生しています。
-
上記以外には目視では劣化とわかる部品は見当たりません。
リペア (その1):照明用フィラメントランプの完全 LED 化
-
従来の照明回路と [照明基板]
-
従来の照明回路です。
ランプへの給電は AC/DC 混在しています。
-
本機の [照明基板] の状態を確認
-
写真の一番下にあるダイヤル照明用散光板が変形して基板をはみ出しています。
-
この散光板の下にはダイヤル指針があり、散光板に指針が接触して動きが悪くなっていました。
-
散光板が変形したのは、フィラメントランプの熱に長時間晒されたためです。
-
リプレースに使う LED
-
左の写真のテープ LED は [ダイヤルスケール] [S メータ] [T メータ] [WORDS] 照明に使います。
-
1m あたり高輝度 LED 240個の凄まじい製品です。
発色はウォームホワイト (電球色) です。
-
5mm 砲弾型 LED はセレクタとステレオ表示に使います。
[白色、10000mcd、照射角60度] です。
-
3mm 砲弾型 LED は指針に使います。
[ウォームホワイト色、14400mcd、照射角30度] です。
-
LED 化した表示回路と LED 化した照明基板
-
LED 化した表示回路です。
全て DC 駆動に変更しました。
-
LED 化した [照明基板] の表と裏です。
-
テープ LED にすると [ダイヤルスケール] [メータ] [WORDS] 用散光板は不要になるので除去しました。
-
[セレクタ] [STEREO] 用の散光板はそのまま使いました。
-
[WORDS] 照明の周りにある四角い枠は自作の遮光板です。
-
ボール紙で簡単工作し、黒ラッカー塗装してからボンドで貼り付けました。
サイズは 110(W)×13(H)×10(D) mm です。
-
テープ LED を貼り付ける位置は重要です。
-
LED の中心を基板下から、[ダイヤルスケール] 用 9mm、[S/T メータ] 用 32mm、[WORDS] 用 24mm にします。
-
L-01T はテープ LED 照明化すると幸せになれます!
-
LED 化後はムラのない非常にスッキリとした素晴らしい表示になりました。
-
L-01T が発売された時代には [青色 LED] [高輝度 LED] [高輝度テープ LED] がなかったのです。
-
技術進化が LED 化を可能にしました。
-
フィラメントランプの時は 8V/0.15A のランプを23個使っていたので、照明だけで実に 28W 電力消費していました。
-
LED 化後の電力消費は 5W くらいです。
発熱はほぼないです。
SDGs に貢献できます。
電気代も安くなります。
-
長い目で見ると、今回の費用は安くなった電気代で回収できます。
リペア (その2):バチッバチッとカミナリのような大きな雑音が出る
-
概要
-
MULTIPATH-H 端子には検波出力が出ています。
この端子にバチッバチッ雑音が出ていました。
-
こうなると、パルスカウント検波部分に問題があると言うことです。
下の回路図はその部分です。
-
[IC5] で 1st IF 10.7MHz を 2nd IF 1.96MHz に変換し、2nd IF を元に [IC6] でパルカウント検波します。
-
普通、バリバリ雑音の要因は [FL1] [FL2] [FL3] のどれかです。
-
右の写真は [FL1] [FL2] [FL3] の実装場所です。
-
[FL1] [FL2] は 2nd IF (1.96MHz) 波形を整形するために使います。
-
[FL3] はパルスカウント検波後の波形を整形するために使います。
-
いずれもチタコンを内蔵しており、これがマイグレーションで黒ずんで劣化します。
-
マイグレーションは金属カビのようなもので、電位差があると発生しやすいです。
-
マイグレーションは導電性のため、チタコンの両端を短絡しますが、薄いので電流が流れると切れて一旦直ります。
-
切れたマイグレーションはしばらくすると再成長してまたチタコンの両端を短絡します。
-
マイグレーションによりチタコンの両端が ON/OFF されるのです。
これが雑音となって聴こえるのです。
-
[FL3] を取り外してチェック
-
右の写真で縦方向に3個見えるチクワの形をした部品がチタコンです。
非常に綺麗なのでで正常です。
-
何もせず基板に戻しました。
-
[FL2] を取り外してチェック
-
裏側に見えるチタコンは真っ黒です。
マイグレーションが発生して劣化しています。
-
左の回路は [FL2] の内部回路です。
裏側に見えていたのは [C2] です。
-
[C1] [C2] を除去してから [FL2] を基板に戻し、右の写真のように基板の裏側に [C1] [C2] に相当するコンデンサを付けました。
-
30ppm/℃ 温度補償型積層セラミックコンデンサ 330pF を2個使いました。
空色の部品です。
-
動作チェック
-
チリチリ雑音もバチッバチッ雑音も出ず、綺麗な音が出て [STEREO] ランプも点灯します。
直りました!!!
リペア (その3):[TUNING] ノブを回すとガソゴソとノイズが出る、[T メータ] のセンタに合わせ辛い
-
概要
-
バチッバチッ雑音が出ていた時は、この現象がわからなかったのです。
雑音が直ったことより顕在化しました。
-
原因
-
バリコンの故障です。
故障と言ってもバリコン軸の接触不良なので回復可能です。
-
バリコンを観察すると、右の写真のようにバリコン軸に緑青サビが出ています。
-
緑青サビは絶縁物なのでバリコン軸が接触不良になるのです。
-
対策
-
バリコン軸接触不良回復作業を実施しました。
-
エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
-
湧き出た緑青サビを爪楊枝/歯間楊枝/歯間ブラシで丹念に落とします。
-
[1]〜[2] を何度も何度も繰り返します。
-
接点復活スプレー
を少量吹きかけ馴染ませます。
-
仕上げに、軸受けにリチウムグリスを塗布して防錆処置します。
-
8連バリコンなので結構手間がかかりましたが、
直りました!!!
-
その他
-
作業中に気が付きました。
やはり、このバリコンギア機構は一旦バラバラに分解されており、再組立てされています。
-
指針を周波数の一番低い位置に移動しても、バリコンの羽が完全に沈み込みません。
ストッパ金具の位置も正しくないです。
-
いずれにしても、当方では直せないので現状のまま、何とか再調整することにします。
-
指針を周波数の一番低い位置に移動すると、指針がガイドの左端ギリギリになります。
軸へのプーリー固定位置が誤っています。
-
これはプーリー固定ネジの調整で何とか直せます。
再調整時に一緒に直します。
-
この個体は -1MHz も周波数ズレがあるのに感度落ちを感じないのが不思議でしたが、ズレの原因の大半はこれだと思います。
-
FM フロントエンドは車で言うとエンジンに相当します。
-
この個体はオークションで購入されたそうですが、エンジン不調の車と同様、ババ掴みだったと思います。
リペア (その4):IC6 [TR4010A] と IC11 [HA11223W] にマイグレーションが発生している
-
概要
-
IC のリード足が真っ黒になるのは
マイグレーション
です。
-
マイグレーションは金属カビのようなもので10年以上かけて少しずつ成長し、最終的に IC のピン間を短絡して機器が故障します。
-
マイグレーションは空気中の水分 (湿度) と加圧電圧により、金属 (足) がイオン化することにより発生します
-
逆に言えば、金属部が空気に触れなければマイグレーションは発生しないのです。
-
対策
-
まずは硬めのブラシを使って黒いマイグレーションをできるだけ除去します。
-
この時、重要なのは IC のリード足の間のマイグレーション除去です。
どちらも黒なのでわかり辛いですが。
-
最後に、IC リード足にワニス塗布して空気に触れないようにします。
写真はこの処置を実施した後です。
リペア (その5):ハンダクラックの予防補修
-
L-01T でハンダクラックの発生しやすい箇所は RCA 端子
-
リアパネルにある [RCA 端子] リードのハンダ付け部にはリアパネルと基板の2方向から常にストレスを受けているので、ハンダクラックしやすいです。
-
右の写真で黄〇で囲んだハンダ付けです。
-
予防補修
-
黄〇で囲んだハンダを一旦除去し、新しいハンダで付け直しました。
リペア (その6):その他
-
RCA 端子のサビ落とし
-
試験のため RCA プラグを何度も抜き差ししていたら、RCA 端子のサビで摩擦が大きくてプラグが壊れました。
-
やむを得ず、RCA 端子を必要最小限のサビ落とししました。
何とか全ての端子が使えるようになりましたが、保証外です。
-
これ以上サビが深刻化しないよう、使わない端子にはダストキャップを付けることをお奨めします。
-
内部のクリーニング
-
エアブロアと小型刷毛を使って軽くゴミを除去しました。
-
既に部品が搭載されているのでゴシゴシとはできず、あくまでマシになった程度です。
再調整
-
電源電圧チェッック (VP)
-
実測値は以下のように正常でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
電源基板 端子13 |
+14V |
+13.8V |
〇 |
Front End, IF |
電源基板 端子15 |
+16V |
+16.4V |
〇 |
MPX |
電源基板 端子17 |
-16V |
-16.0V |
〇 |
MPX |
電源基板 端子19 |
+12V |
+12.6V |
〇 |
1'st OSC |
-
FM 受信部の調整
-
調整結果
-
2nd IF 1.96MHz がややズレていました。
再調整で規定内に入りました。
-
パイロット信号キャンセル調整が大きくズレていました。
再調整で規定内に入りました。
-
L ch. の SUB 調整が大きくズレていました。
再調整で規定内に入りました。
-
ステレオセパレーションや高調波歪率が向上し、音の解像度が上がりました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
55 |
55 |
dB |
NARROW |
44 |
44 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.047 |
% |
stereo |
0.047 |
% |
NARROW |
mono |
0.47 |
% |
stereo |
0.47 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-70 |
-74 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
-0.09 |
dB |
使ってみました
-
修理&再調整が終わって
-
やはり、L-01T は照明 LED 化が正解です。
オリジナルとそう色合いは変わらず、明るさムラがないです。
-
指針はやや明るめになっていますが、これは [CONTINUOUS DIAL LIGHT] スイッチを OFF にした時でも指針の光で近辺を照らし受信周波数を把握できるようにするためです。
-
外観が綺麗な個体なのにバックラッシュが大きいのが残念です。
-
バックラッシュとは例えば右回りに回して、ここから左回しにした時の周波数変更不感帯のことです。
-
指針は動くが周波数がついてこないのです。
本機では 0.2MHz 程度のバックラッシュがあります。
-
バックラッシュがあるので完全なトラッキング調整ができず、大体となっています。
±0.3MHz 程度の周波数ズレはご容赦ください。
-
受信周波数を合わせ辛いですが感度とか音質には問題ないので、この面では安心ください。
-
再調整で L-01T 本来のゾクッとするリアルな音質に蘇ってよかったです。
弦楽器の弾ける音が素晴らしいです。
-
デザイン
-
デザインはとても良いですが、ともかく大きいです。
-
電源を入れるとダイヤル面などが照明でパッと浮き上がります。
-
今回、照明を完全 LED 化したのでスッキリとした色合いになりました。
-
チューニングノブから手を離すと、同調サーボロックがかかります。
-
アンテナ端子に F 端子があるのが、ありがたいです。
-
リアパネルにある [CONTINUOUS DIAL LIGHT] スイッチ
-
[ON] で、ダイヤルスケールとメータ照明が常時点灯します。
-
[OFF] で、ダイヤルスケールとメータ照明がチューニングノブに手を触れた時だけ点灯します。
面白い仕掛けです。
-
感度や音質
-
感度は良好で、高級機らしい安定な受信ができます。
-
音はパルスカウント検波らしいスッキリ感があります。
解像度感のある澄みきった音に聞き惚れます。
低音はよく出ています。
-
NHK FM でクラシック音楽を聴いていると、静寂の中からキラキラ輝く素晴らしい音が飛び出すのを感じます。
S/N が良いです。
-
人の声にもリアルさを感じます。
目の前で話していると錯覚しそうです。
-
素晴らしいチューナです。
ただし、半世紀物ですから新たに入手した場合は多くのリペアが必要になると思います。