KENWOOD L-02T (5号機) が到着
2023年8月13日、埼玉県朝霞市の H さんより
KENWOOD L-02T
の修理依頼品が到着しました。
定価30万円の超高級チューナ
です。
この写真は照明を LED 化後です。
状態チェック
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修理依頼者のコメント
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問題なく受信するのですが、これが本来の姿なのか確認して頂きたいです。
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過去に KENWOOD に調整をお願いしたのが、2014年でした。
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玉切れは無いと思いますが、随分と熱を持つので、LED 化お願いします。
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電池交換出来る様にする改造もお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [20900238] で、電源コードの製造マーキングよりは製造年が判明しませんでした。
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底板にKENWOOD サービスの修理シールが貼られていました。
2014年12月9日にメンテナンスされています。
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致命的なキズはありませんが、全体的に汚れや天板のアルマイトの軽いサビがある [並の中古] 状態です。
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[同調] ノブのエッジに少しアルマイト禿げがあります。
リアパネルの RCA 端子には薄い灰色のサビが出ています。
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電源 ON してチェック
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ダイヤル指針ランプが切れており、受信周波数が把握できません。
メータ照明はかなり暗くなっています。
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各スイッチやボタンは正常そうです。
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バリコン軸が接触不良になっていると思われる以下の不良があります。
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周波数が低い辺りで同調ノブを回すと、回転に合わせブチブチという大きな雑音が出ます。
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放送の近くで同調ノブを回すと、T メータがフラフラとあり得ない動きをして合わせにくいです。
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問題なく受信できステレオにもなりますが、音が甘い感じがします。
ステレオセパレーションが悪くなっている?
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音の甘さの原因を検証するため、WIDE 時の性能を測定してみました。
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高調波歪率は問題ないですが、これ以外はボロボロです。
特に L チャンネルのセパレーションが 17dB しかありません。
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やはり、私の耳は正しかったようです。
この時は再調整で直るだろうと思っていました。
ところが ・・・
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
17 |
37 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.017 |
% |
stereo |
0.026 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-42 |
-39 |
dB |
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カバーを開けてチェック
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メータの製造マークと IC のロット番号より、本機は [1981年製造品] と判明しました。
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基板などに薄っすらとホコリが堆積しています。
IC やトランジスタの足の汚れは僅かでマイグレーションは発生していないと思います。
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フロントエンドの金属カバーに少しサビが出ています。
問題はないです。
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この機種でよくある不具合、バリコン機構のプーリー軸はしっかり固定されています。
対策不要です。
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[コントロール基板] に実装されている [CR2430] コイン電池が膨張しています。
もういつ
爆発!
してもおかしくないです。
リペア (その1):照明を LED 化 ・・・ 修理依頼者の要求
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LED 化のためにフロントパネルを分解してみると ・・・
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汚いと思えるほど埃がビッシリ堆積しており、かなりの汚れもあります。
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[掃除機] [無水アルコール] 他でクリーニングしてかなりマシになりました。
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L-02T (2号機)
と全く同じ方法で LED 化しました
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LED 化が必要なのは [S メータ] [T メータ] [D メータ] [ダイヤル指針] です。
これ以外は元々 LED 表示です。
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左の写真の [FUSE 型 LED] はメータの照明に使います。
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1個で [6000K 白色 LED]×9個分搭載しており、全部で3個使います。
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メータ内に組み込むので、両端の口金を外して LED モジュールだけ使います。
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右の写真の砲弾型 LED は指針用に使います。
3mm 赤色、20000mcd、照射角 30°です。

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下の写真のように野暮ったい黄昏の電球色から明るく現代的な白色に変わりました
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メータの数字は設計者は本来望んだであろう、綺麗な薄緑っぽい表示になりました。
やはり白色が正解です。
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ランプ切れして見えなかったダイヤル指針は、明るい部屋の中でもハッキリ見えるようになりました。

リペア (その2):[CR2430] コイン電池が膨張・爆発するかも!!!
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[コントロール基板] には [CR2430] コイン電池がハンダ付けされています
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この電池は一次電池なので、もう寿命です。
42年間も使われ続けていました。
(2023年時点)
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寿命になったまま使い続けたので、電池内部にガスが発生して膨張しています。
最悪、爆発します。
大至急交換が必要!
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どうせ交換するのなら、ユーザでも電池交換できるようソケット化します
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元実装されていた [CR2430] コイン電池はタブ付で、このタブをハンダ付けしているので、普通にはユーザで交換できません。
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そこで、左の写真の [CR2032 ソケット] を使って [CR2032] コイン電池に交換しました。
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[CR2430] の電極幅と [CR2032 ソケット] の電極幅は違うので、基板を改造する (穴あけ) 必要があると思っていました。
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ところがなんとしたことでしょう!
既にこの [CR2032 ソケット] にピッタリの穴とランドがありました!!!
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結果、右の写真のように、基板改造なしに [CR2032 ソケット] は綺麗に基板に実装できました。
ハンダ付けしただけ。
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L-02T の秘密発見!
今後は L-02T にはこの方法で [CR2032 ソケット] 化します。

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[CR2032] は [CR2430] より容量が少ない (63%) ですが ・・・
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[CR2430] で40年間使えたなら [CR2032] でも25年間は使えると思います。
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そして [CR2032] は何より入手しやすく安いのです。
100円ショップでも買えます。
ダイソーでは3個で110円です。
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これだけ安いのなら、安全・安心を考慮して10年に1回交換することをお奨めします!!!
リペア (その3):周波数が低い辺りで同調ノブを回すとブチブチという大きな雑音が出る
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原因はフロントエンドに実装のバリコン軸の接触不良です
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[放送の近くで同調ノブを回すと、T メータがフラフラとあり得ない動きをして合わせにくい] 現象もこれが原因です。
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右の写真で、軸が接触プレートに触れる部分が緑っぽくなっているのが、緑青サビです。
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サビは絶縁体ですから接触不良を発生させ、バリコンの容量が不安定になって、これが雑音として聴こえるのです。
古いバリコンではよくある故障です。
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まずはこれを直さないとマトモに使えず、再調整に入れません。
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以下のようにバリコン軸の接触回復作業しました
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射してから、何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを刷毛や爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
CRC 5-56
を塗布して防錆処置します。
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直りました!!!
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大量の緑青サビが除去できました。
結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
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もう同調ノブを回してもブチブチ雑音は出ず、スムーズに同調できるようになりました。
リペア (その4):ステレオセパレーション調整できない
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ここまでの修理が終わって再調整に入ったところ、セパレーション調整がおかしい
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WIDE 時の L チャンネル調整用 [VR8] を回しても全く変化ありません。
R チャンネル調整用 [VR10] は正常に変化します。
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NARROW 時の R チャンネル調整用 [VR11] を回しても全く変化ありません。
L チャンネル調整用 [VR9] は正常に変化します。
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これが [音が甘い] と感じた理由でしょう。
調整では直りません。
故障しています。
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原因調査
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最初、IC 故障を疑って回路図より推論しましたが、どう考えても [VR8] [VR11] が同時に動作不良になる論理が無さそうでした。
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半固定抵抗 (VR) の故障は滅多にないのですが、要因切り分けのため [VR8] [VR11] を仮交換してみたら直りました。
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原因判明しました。
[VR8] [VR11] 半固定抵抗の同時故障です。
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対策
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[VR8] [VR11] を交換したら直るのですが、ステレオ回路なので L/R に同じ部品を使わないと対称性が崩れます。
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そこで、[VR8] [VR9] [VR10] [VR11] を一斉交換しました。
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元は VR22kΩですが、全て VR20kΩと交換しました。
抵抗値が変わりましたが、この程度は調整マージンに収まります。
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見事!直りました!!!
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左の写真の黄〇で囲んだボリュームを、右の写真のボリュームに交換しました。
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L/R チャンネルとも、正しく調整できるようになりました。
[音が甘い] 問題も解消し、L-02T 本来の良い音になりました。

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取り外した [VR8] [VR11] をルーペで観察してみました
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どちらも 3pin で半固定抵抗体とのハンダ付けが外れていました。
ハンダ付け部に長い間ストレスがかかって外れたようです。
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交換に使った半固定抵抗は、この面では強くなっています。
リペア (その5):マイグレーション予防のワニスコーティング ・・・ 予防保守
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マイグレーション
は金属カビのようなもので、IC やトランジスタの足に発生します
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少しずつ成長し数十年経ってレアショートに至ります。
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マイグレーションによるレアショートが発生すると、訳の分からない障害(時々雑音発生とか)が発生します。
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最悪、IC やトランジスタが故障します。
壊れます。
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マイグレーションは空気中の水分 (湿度) と加圧電圧により、金属 (足) がイオン化することにより発生します
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逆に言えば、金属部が空気に触れなければマイグレーションは発生しないのです。
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以下の基板の IC とトランジスタの足にワニスを塗布して将来のマイグレーション発生を予防しました
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[IF 基板] [MPX 基板] [コントロール基板] [電源基板] です。
[フロントエンド] 以外の全ての基板です。
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要は金属部分 (足) が酸化しないければマイグレーションは発生しない訳で、ワニスコーティングで空気に直接触れないようにしたのです。
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マイグレーションによる障害 (レアショート) が発生していないうちに対策するのが吉です。
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今回使用したワニスの長期的な試験はできていないのですが、少なくともマシにはなったと思います。
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
電源基板 |
15pin |
+14V |
+14.3V |
〇 |
FRONT END |
18pin |
-15.5V |
-13.8V |
〇 |
IF |
20pin |
+14V |
+14.0V |
〇 |
CN1 |
1pin |
-8V |
-8.20V |
〇 |
CONTROL |
2pin |
+8V |
+8.18V |
〇 |
CN2 |
2pin |
+15V |
+14.8V |
〇 |
MPX COMPOSITE (非安定) |
3pin |
-15V |
-15.4V |
〇 |
CN3 |
3pin |
+15V |
+15.3V |
〇 |
MPX R (非安定) |
4pin |
-15V |
-14.9V |
〇 |
CN4 |
1pin |
+12V |
+11.8V |
〇 |
RELAY |
3pin |
+8.5V |
+8.80V |
〇 |
LED |
4pin |
+7.4V |
+7.63V |
〇 |
POWER MUTE |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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あちこち調整ズレしていましたが、全て正常値に調整できました。
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問題あったステレオセパレーションが以下のように良好になりました。
音質もビックリするほど良くなりました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
54 |
54 |
dB |
NARROW |
40 |
38 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.015 |
% |
stereo |
0.022 |
% |
NARROW |
mono |
0.071 |
% |
stereo |
0.088 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-68 |
-68 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.04 |
dB |
REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
421.9 |
Hz |
-6.0 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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修理依頼者よりは [問題なく受信できる] と聞いており楽勝かなと思っていましたが、実際には以下の故障がありました。
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[CR2430] コイン電池が膨張しており、爆発するかも!!!
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バリコン軸が接触不良していた。
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ステレオセパレーション調整用の半固定抵抗が故障していた。
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やはりこの機種は照明 LED 化が正解です。
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朽ち果てたような黄昏色の表示が、スッキリ美しい現代的な表示になりました。
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LED 化で 14W 消費電力が減ったので発熱が少なくなり信頼性が上がりました。
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電気代が減るので、長期的には修理代が回収できます。
時間がかかると思いますが SDGs 貢献できます。
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感度や音質
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流石に良い音
です。
安定度とか音質とかスペック表現できない部分が超優れています。
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感度が良く、高解像度でカチッとした超高音質です。
高域も低域もよく出ています。
S/N も良いです。
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高解像度の音なのにハーモニー再現力もあります。
放送スタジオに居るかのようなリアルな音にハッとします。