KENWOOD L-02T (7号機) が到着
2023年10月7日、大阪府泉南郡の S さんより
KENWOOD L-02T
の修理依頼品が到着しました。
定価30万円の超高級チューナ
です。
この写真は照明を LED 化後です。
状態チェック
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修理依頼者のコメント
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一度調整してもらった L-02T で音は問題ないのですが、メータの照明が3つのうち2つ消えてしまっています。
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この際なので、3つとも LED 化してほしいです。
また、コントロール基板のコイン電池を交換できるようソケット化お願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [54K10048] で、電源コードの製造マーキングより [1985年製造品] と判明しました。
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キズやスレが見当たらない超綺麗な逸品です。
新品同様と言ってもよさそうです。
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底面に KENWOOD サービスのメンテナンスシールが貼られており、1985年9月2日に修理されています。
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電源 ON してチェック
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ダイヤル指針ランプは既に LED に交換されていますがチラツキがあります。
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単にフィラメントランプを LED に置き換えただけと思います。
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DC 駆動すべき LED を AC 駆動しているので、AC 成分の逆耐圧で故障しやすいです。
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[S メータ] [D/M メータ] のランプは切れており、[T メータ] のランプは既に LED に交換されていますがチラツキがあります。
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単にフィラメントランプを LED に置き換えただけと思います。
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DC 駆動すべき LED を AC 駆動しているので、AC 成分の逆耐圧で故障しやすいです。
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おそらく、[S メータ] [D/M メータ] も LED に交換されており、この逆耐圧で故障したのではと思います。
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各スイッチやボタン、インディケータランプは正常そうです。
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ちゃんと受信できて [STEREO] ランプも点灯します。
感度や音は良好に思います。
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カバーを開けてチェック
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内部は僅かにホコリがありますが、非常に綺麗です。
IFT ケースなどもピカピカ輝いています。
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バリコンギア機構のプーリー軸の固定が外れ、
プーリー軸が脱落するおそれ
があります。
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脱落するとギアもバラバラに外れ修理不能に陥ります。
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筆者の前に誰かさんがやったメータ照明の LED 化を観察
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メータの封印に普通のセロテープを使っていました。
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右の写真は D/M メータの LED の置き換え部分です。
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フィラメントランプを白色 LED に置き換えています。
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LED は照射角が30度しかなく、1個では辛いです。
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LED をフィラメントランプと同じく AC 駆動しているのも問題です。
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LED は DC 駆動するのが正しいです。
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AC はプラスとマイナスが交互に入れ替わります。
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LED に対して順方向に電流が流れる時はよいのですが、逆方向になる時に逆電圧がかかります。
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LED は整流用ダイオードではないので逆耐圧にはそれほど強くなく、しばらくして故障します。
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その証拠に [S メータ] [D/M メータ] をせっかく LED 化したのに、故障に至っています。
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また、AC 駆動すると逆方向時には発光していない訳で、これがチラツキになります。
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結局、メータ用 LED 照明は全面的にやり直さないとイケマセン!
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筆者の前に誰かさんがやった指針の LED 化を観察
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下の指針基板の表裏です。
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AC を整流して DC 化するダイオードが入っていますが、平滑用の電解コンデンサが入っていないのがマズイです。
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結局、指針の LED 化も全面的にやり直します。

リペア (その1):照明を LED 化 ・・・ 修理依頼者の要求
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LED 化が必要なのは [S メータ] [T メータ] [D メータ] [ダイヤル指針] です。
これ以外は元々 LED 表示です。
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左の写真の [FUSE 型 LED] はメータの照明に使います。
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1個で [6000K 白色 LED]×9個分搭載しており、全部で3個使います。
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メータ内に組み込むので、両端の口金を外して LED モジュールだけ使います。
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右の写真は指針用に使う 3mm 砲弾型 LED です。
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指針に [赤色、20000mcd、照射角 30°]、指針周辺ダイヤル照明に [白色、25000mcd、照射角 30°] の2本使います。

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メータ照明は下のように LED 化しました。
[D/M メータ] の例ですが、[S メータ] [T メータ] も同じです。
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左の写真は FUSE 型9素子 LED 実装状態です。
口金を外して LED 基板だけ使っています。
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右の写真は経年変化しない260℃耐熱ポリイミドテープで封印した様子です。
黄色のテープです。
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メータの黒い遮光テープもポリイミドテープで補強しています。
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ここは普通のセロテープではダメなのです。
ポリイミドテープが正解です。

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L-02T (2号機)
とほぼ同じ方法で LED 化したのですが、若干変更しました
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下の回路図で [Ambient Lighting] 用の白色 LED を追加しています。
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目的は真っ暗闇でも指針がどの周波数に居るかわかるよう、指針周辺のダイヤルを軽く照明するためです。

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右の写真は全面改修した [指針基板] の表裏です。
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垂直に立っているのが指針用の赤色 LED です。
横に寝ているのが指針周辺のダイヤルを照明する白色 LED です。
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そもそも L-02T にはダイヤル照明がないので、真っ暗闇では指針位置の把握ができず、この白色 LED で補助するのです。

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下の写真のようにクッキリ・ハッキリの美しい照明になりました
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メータの数字は設計者は本来望んだであろう、綺麗な薄緑っぽい表示になりました。
やはり白色が正解です。
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指針周辺ダイヤル照明で真っ暗闇でも指針が指している周波数がわかるようになりました。

リペア (その2):コイン電池を [CR2032]+[ソケット] に換装 ・・・ 修理依頼者の要求
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[コントロール基板] の [CR2430] コイン電池は既に [CR2032] に換装されていました
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ユーザでも電池交換できるようソケット化します
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左の写真は既に換装されていたタブ付き [CR2032] コイン電池です。
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この電池はタブ付で、このタブをハンダ付けしているので、普通にはユーザで交換できません。
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そこで右の写真のように、[CR2032 ソケット] を使って普通の [CR2032] コイン電池に交換しました。
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[CR2032] でも25年間は使えると思います。
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そして、普通の [CR2032] は何より入手しやすく安いのです。
100円ショップでも買えます。
ダイソーでは3個で110円です。
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これだけ安いのなら、安全・安心を考慮して10年に1回交換することをお奨めします!!!

リペア (その3):バリコンギア機構のプーリー軸の脱落防止対策
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古いバリコン式チューナでは、バリコンギア機構のプーリー軸の固定が外れている不具合がよくあります
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再固定できればよいのですが、どのように固定されてるのかがわからないのです。
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よって再固定はバリコンメーカでないとできないと思います。
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筆者のところでは、再固定ではなく、プーリー軸を脱落しないよう [押さえ込み板] を入れる対策をしています。
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[押さえ込み板] の材料として厚みの違うアクリル板を特注し常備しており、それらを組み合わせて使っています。
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[側板]〜[プーリー] の間に [特注アクリル板] を挿入して、側板から押さえ込んで脱落防止します
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左の写真で赤〇で囲んだプーリー軸に隙間が見えますが、この隙間が無いのが正しいです。
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隙間があるとバックラッシュが発生します。
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最悪、プーリー軸が脱落するとノーバックラッシュギアがバラバラに外れ修理不能になります。
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過去の L-02T では、[特注アクリル板] (50×50×5mm) 1枚でクリアランス 0.5mm くらいにできていました。
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本機は [側板]〜[プーリー] の間隔がやや長いようで、[特注アクリル板 5mm 厚]+[特注アクリル板 1mm 厚] の2枚を貼り合わせて 6mm 厚にした時にクリアランス 0.2mm となりました。
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左の写真のように [特注アクリル板] 2枚を右側板にボンドで接着してから、右の写真のように組み立てます。

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見事に対策できました!!!
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バックラッシュが無くなって、[TUNING] ノブでの同調がスムーズにできるようになりました。
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側板から [特注アクリル板] を介してプーリー軸を押しているので、もう脱落する心配は不要です。
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
電源基板 |
15pin |
+14V |
+14.0V |
〇 |
FRONT END |
18pin |
-15.5V |
-13.7V |
〇 |
IF |
20pin |
+14V |
+14.0V |
〇 |
CN1 |
1pin |
-8V |
-8.19V |
〇 |
CONTROL |
2pin |
+8V |
+8.29V |
〇 |
CN2 |
2pin |
+15V |
+15.9V |
〇 |
MPX COMPOSITE (非安定) |
3pin |
-15V |
-16.6V |
〇 |
CN3 |
3pin |
+15V |
+16.2V |
〇 |
MPX R (非安定) |
4pin |
-15V |
-15.8V |
〇 |
CN4 |
1pin |
+12V |
+12.0V |
〇 |
RELAY |
3pin |
+8.5V |
+8.73V |
〇 |
LED |
4pin |
+7.4V |
+7.58V |
〇 |
POWER MUTE |
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FM 受信部の調整
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L-02T (1号機)
に記載の手順で再調整しました。
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再調整前に現状値を軽く計測してみました。
一度調整してもらったとのことで、良い状態を保っているようです。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
56 |
59 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.010 |
% |
stereo |
0.010 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-40 |
-47 |
dB |
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調整結果
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上記の調整前の性能より大きく向上しました。
元々良かった音質が更に良くなりました。
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特に [ステレオセパレーション] [キャリアリーク] の性能が向上しました。
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キャリアリークの調整は性能のピークを見つけるのが難しく、なかなかマニュアル化できないです。
職人技が必要です。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
70 |
70 |
dB |
NARROW |
49 |
49 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.010 |
% |
stereo |
0.010 |
% |
NARROW |
mono |
0.049 |
% |
stereo |
0.046 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-75 |
-73 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.06 |
dB |
REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
421.9 |
Hz |
-6.6 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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やはりこの機種は照明 LED 化が正解です。
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スッキリ美しい現代的な表示になりました。
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今回、指針付近のダイヤル面にも補助照射してみましたが、正解でした。
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感度や音質
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流石に良い音
です。
安定度とか音質とかスペック表現できない部分が超優れています。
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感度が良く、高解像度でカチッとした超高音質です。
高域も低域もよく出ています。
S/N も良いです。
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高解像度の音なのにハーモニー再現力もあります。
放送スタジオに居るかのようなリアルな音にハッとします。