KENWOOD L-02T (9号機) が到着
2024年1月12日、茨城県土浦市の W さんより
KENWOOD L-02T
の修理依頼品が到着しました。
定価30万円の超高級チューナ
です。
左の写真は照明 LED 化後です。
到着時はフィラメントランプが全部切れており、指針が見えなかったので、どの放送を受信しているのかわかりませんでした。
状態チェック
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修理依頼者のコメント
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アンテナを接続しても受信レベルメーターが上がらず、FM の音が出ません。
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ごくまれに、メーターレベルが上がり受信できることがありますが、すぐにレベルメーターが下がり音が出なくなってしまいます。
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また、LED がいくつか点灯しません。
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外観
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製造シリアル番号は [30300095] で、電源コードの製造マーキングより [1981年製造品] かな?
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かなり綺麗な逸品です。
よくよく見れば僅かなキズやスレはありますが、目立ちません。
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電源 ON してチェック
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各スイッチやボタンの操作は正常そうです。
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[ダイヤル指針] [S メータ] [T メータ] [D/M メータ] ランプが切れており、状態把握に問題ありです。
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修理依頼者は「LED がいくつか点灯しない」と言っていますが、LED ランプは全て点灯します。
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S メータの振れがかなり少ないです。
感度落ちしています。
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[RF SELECTOR] = NORMAL にしたら、S メータの振れは少ないですが、放送受信できて [STEREO] ランプも点灯し音も出ました。
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カバーを開けてチェック
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各メータの製造マーキングが [82-5] となっています。
この L-02T は [1982年製造品]
とわかりました。
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内部は綺麗で目視でわかる劣化部品は見当たりません。
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バリコンギア機構のプーリー軸の固定が外れ、プーリー軸が脱落しそうになっています。
対策が必要です。
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脱落するとギア機構がバラバラに外れ修理不能に陥ります。
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バリコンの軸に緑青サビがビッシリ出ています。
対策が必要です。
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コインバッテリが製造から42年間も交換されておらず、いくらなんでも、もう寿命でしょう。
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このバッテリで操作ボタン状態 (例えば、ANTENNA 1/2 の状態) の記憶メモリをバックアップしています。
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IC やトランジスタのリードにマイグレーション発生は無さそうです。
リペア (その1):S メータの振れがかなり少ない
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調査
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L-02T においてはフロントエンド内にゲインを稼ぐ IF 部が内蔵されています。
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[フロントエンド] からの IF 出力で [S メータ駆動回路] を直接ドライブしています。
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こうなると、[フロントエンド] [S メータ駆動回路] のどちらかが故障していることになります。
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[S メータ駆動回路] を調べましたが正常で、[フロントエンド] の故障とわかりました。
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原因
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[フロントエンド] の IF 回路がある辺りを軽く叩くと一時的に S メータがビューンと元気よく振れます。
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どうやらフロントエンド内 IF 回路のどこかでハンダクラックが発生していそうです。
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虫メガネとルーペを使って1日がかりで詳細に調べた結果、抵抗の1本でハンダクラックしていることが判明しました。
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左の写真の赤〇で囲んだ [R32] でハンダクラックしており、ここを叩くと S メータの振れが大きく変わります。
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右の写真は基板の裏側で、赤〇で囲んだ [R32] の足のハンダ付け部分でハンダクラックしていました。
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このハンダクラック部分は AGC 回路の入力で、外れると AGC が深くかかり、アッテネータを大きく絞り込み、感度を低下させます。
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不具合現象と辻褄が合います。
原因はこのハンダクラックで間違いありません。

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修理
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[R32] のリード (足) を補修ハンダ付けしました。
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念のため、フロントエンド内 IF 回路の全てのハンダ付け部分を補修ハンダ付けし直しました。
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修理後の動作チェック
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S メータが元気良くビューンと振れるようになりました。
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フロントエンド基板のあちこちを軽く叩くハンマリングテストでも S メータは正常のままでした。
見事!直りました!!!
リペア (その2):バリコンギア機構のプーリー軸の脱落防止対策
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右の写真で赤〇で囲んだプーリー軸に隙間が見えますが、この隙間が無いのが正しい
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隙間があるとバックラッシュが発生します。
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最悪、プーリー軸が脱落するとギアがバラバラに外れ修理不能になります。
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再固定できればよいのですが、どのように固定されてるのかがわからないのです。
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よって再固定はバリコンメーカでないとできないと思います。
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対策
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当方では、プーリー軸脱落防止 [押さえ込み板] を入れる対策をしています。
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[押さえ込み板] の材料として厚みの違うアクリル板を特注し常備しており、それらを組み合わせて使っています。
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[側板]~[プーリー] の間に [特注アクリル板] を挿入して、側板から押さえ込んで脱落防止します。
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隙間を 1mm 以下にするのが目標です。
本機は [特注アクリル板] (50×50×5mm) 1枚で目標を達成しました。
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左の写真のように [特注アクリル板] を右側板に G17 ボンドで接着してから、右の写真のように組み立てました。

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見事に対策できました!!!
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バックラッシュが無くなって、[TUNING] ノブでの同調がスムーズにできるようになりました。
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側板から [特注アクリル板] を介してプーリー軸を押しているので、もう脱落する心配は不要です。
リペア (その3):バリコンの軸に青緑サビがビッシリ出ている
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右の写真で、軸が接触プレートに触れる部分で緑っぽいのが緑青サビ
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サビは絶縁体ですから接触不良を発生させ、バリコンの容量が不安定になって、雑音や感度低下となります。
古いバリコンではよくある故障です。
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まずはこれを直さないとマトモに使えず、再調整に入れません。
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以下のようにバリコン軸の接触回復作業しました
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射してから、何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを刷毛や爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
CRC 5-56
を塗布して防錆処置します。
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結構手間がかかりましたが、大量の緑青サビが除去できました。
リペア (その4):コイン電池を [CR2032]+[ソケット] に換装
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[コントロール基板] には [CR2430] コイン電池が実装されています
(下の写真左)
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このコイン電池でフロントパネルにある操作ボタンの状態をバックアップ (記憶) しています。
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このコイン電池はタブ付きで、タブを基板にハンダ付けしているので、ユーザで交換できません。

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ユーザでも電池交換できるようソケット化しました
(上の写真右)
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[CR2032 ソケット] を使って普通の [CR2032] コイン電池に交換しました。
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[CR2032] は [CR2430] より容量が少ないですが、それでも25年間は使えると思います。
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そして、普通の [CR2032] は何より入手しやすく安いのです。
100円ショップでも買えます。
ダイソーでは3個で110円です。
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これだけ安いのなら、安全・安心を考慮して10年に1回交換することをお奨めします!!!
リペア (その5):照明を LED 化
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使用する LED
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LED 化が必要なのは [S メータ] [T メータ] [D/M メータ] [ダイヤル指針] です。
これ以外は元々 LED 表示です。
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左の写真の [FUSE 型 LED] はメータの照明に使います。
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1個で [6000K 白色 LED]×9個分搭載しており、全部で3個使います。
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メータ内に組み込むので、両端の口金を外して LED モジュールだけ使います。
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右の写真は指針用に使う 3mm 砲弾型 LED です。
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指針に [赤色、20000mcd、照射角 30°]、指針周辺ダイヤル照明に [白色、25000mcd、照射角 30°] の2本使います。

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LED 化回路
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LED に供給する電源は [C35] 電解コンデンサの両端から取っています。
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[Ambient Lighting] は真っ暗闇でも同調周波数を把握できるよう、指針周辺のダイヤルを軽く照明します。

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LED 化作業
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メータ照明は下のように LED 化しました。
[D/M メータ] の例ですが、[S メータ] [T メータ] も同じです。
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左の写真は FUSE 型9素子 LED 実装状態です。
口金を外して LED 基板だけ使っています。
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右の写真は経年変化しない260℃耐熱ポリイミドテープで封印した様子です。
黄色のテープです。
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メータの黒い遮光テープもポリイミドテープで補強しています。
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ここは普通のセロテープではダメなのです。
ポリイミドテープが正解です。

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下の写真は全面改修した [指針基板] の表裏です。
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垂直に立っているのが指針用の赤色 LED です。
横に寝ているのが指針周辺のダイヤルを照明する白色 LED です。
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そもそも L-02T にはダイヤル照明がないので、真っ暗闇では指針位置の把握ができず、この白色 LED で補助するのです。

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LED 化完了
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本機で初めて指針を見ました。
指針とメータが見えるチューナはイイねぇ~
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下の写真のようにクッキリ・ハッキリの美しい照明になりました
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メータの数字は設計者は本来望んだであろう、綺麗な薄緑っぽい表示になりました。
やはり白色が正解です。
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指針周辺ダイヤル照明で真っ暗闇でも指針が指している周波数がわかるようになりました。

リペア (その6):サーボロックが勝手に外れる
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現象
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照明 LED 化が完了し指針やメータが見えるようになってからロングランしていました。
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そうしたら、いつの間にか [SERVO LOCK] ランプが薄暗くなってサーボローックが外れていました。
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これまでは指針やメータが見えなかったので気が付かなかったのです。
何とかしなくては。
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調査
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まずは、タッチセンサ回路の誤動作とわかりました。
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普通は [TUNING] ノブに手が触れた時だけタッチ検出するのが正しいです。
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ところが、不具合時は手を触れていないのにタッチ検出しているのです。
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下は [タッチセンサ回路] です。
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[Q5] [L1] で OSC (発振回路) を構成しており、[TUNING] ノブに手が触れると発振が停止することでタッチ検出しています。
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IC5-7pin は、発振している (ノブから手が離れている) 時は +7V、発振停止 (ノブに手が触れている) 時は -7V になります。

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不具合発生時は、ノブに手を触れていないのに、[Q5] での発振が停止していました。
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普通には [Q5] の故障と考えられるので [2SC1815-GR] に交換しましたが不具合が出ます。
[Q5] の故障ではなかったです。
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残るは [L1] [D1] [D2] [IC5] しかありませんが、これらは故障していませんでした。
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もう交換するものが無い ・・・ 困った!!!
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修理
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まさかと思いつつ、[TUNING] ノブと [L1] を接続する
シールドケーブルを交換してみたら直りました!!!
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原因がケーブルだったとは驚きです。
不具合のケーブルは加水分解してベトベトになっていました。
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また、[TUNING] ノブも筐体と接触気味になっているので、ノブの穴の奥に 1.5mm 厚のゴム片を入れて少し浮かせました。
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[TUNING] ノブが筐体に触れるとタッチ検出してしまいます。
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修理してから半日ロングランしましたが不具合は発生しません。
直りました!!!
リペア (その7):その他
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フロントパネルの内部がゴミだらけ
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照明 LED 化作業でフロントパネルを分解したので、ついでに内部の綿埃などをできる範囲で清掃しました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
| VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
| 電源基板 |
15pin |
+14V |
+14.4V |
〇 |
FRONT END |
| 18pin |
-15.5V |
-14.4V |
〇 |
IF |
| 20pin |
+14V |
+14.4V |
〇 |
| CN1 |
1pin |
-8V |
-8.12V |
〇 |
CONTROL |
| 2pin |
+8V |
+8.10V |
〇 |
| CN2 |
2pin |
+15V |
+16.1V |
〇 |
MPX COMPOSITE (非安定) |
| 3pin |
-15V |
-16.3V |
〇 |
| CN3 |
3pin |
+15V |
+15.9V |
〇 |
MPX R (非安定) |
| 4pin |
-15V |
-15.6V |
〇 |
| CN4 |
1pin |
+12V |
+11.9V |
〇 |
RELAY |
| 3pin |
+8.5V |
+8.36V |
〇 |
LED |
| 4pin |
+7.4V |
+7.15V |
〇 |
POWER MUTE |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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以下のような素晴らしい性能に調整できました。
特に高調波歪率が非常に少なく優秀です。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
51 |
52 |
dB |
| NARROW |
53 |
55 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.0039 |
% |
| stereo |
0.0039 |
% |
| NARROW |
mono |
0.0078 |
% |
| stereo |
0.0078 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-78 |
-74 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.08 |
dB |
| REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
430.7 |
Hz |
| -6.0 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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筆者のところでは、バリコン式フロントエンドの故障は修理不可としています。
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フロントエンドはシールド構造で、部品交換できるようには作られていないからです。
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本機も修理不可かなと思ったのですが、点検用裏ブタがあることに気付き、外してみると部品にアクセスできるではないか!
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九死に一生を得て修理できました。
良かった!!!
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この機種は照明 LED 化が正解です。
スッキリ美しい現代的な表示になりました。
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指針付近のダイヤル面への補助照明は正解です。
さり気ない気遣いという感じが良いです。
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感度や音質
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流石に良い音
です。
安定度とか音質とかスペック表現できない部分が超優れています。
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感度が良く、高解像度でカチッとした超高音質です。
高域も低域もよく出ています。
S/N も良いです。
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高解像度の音なのにハーモニー再現力もあります。
放送スタジオに居るかのようなリアルな音にハッとします。