LUXMAN 5T10 (2号機) が到着
2024年7月29日、東京都江戸川区の N さんより
LUXMAN 5T10
の修理依頼品が到着しました。
ラボラトリーリファレンスシリーズの FM チューナ
定価108,000円
の FM 専用高級機です。
この写真は照明を LED 化した後です。
ウォームホワイト色を使ったので元の雰囲気を保っています。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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ヤフオクにて落札しましたが、以下の不具合があります。
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受信レベルが低い(受信ランプが点かない)
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アキュタッチが作動しない
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ステレオランプが点かない
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アンプにつないだところ、微かに受信してはいるものの放送局によっては受信できない放送局もありました。
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本体カバーを開けたところ、電源ケーブルの根本部分が補修した跡があったので交換してください。
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外観
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製造シリアル番号は [J8600614] で、電源コードは別物に交換されているのでここからは製造年は不明です。
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フロントパネルは綺麗でレバートップ、スイッチトップ、ノブの状態は良いです。
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フロントパネルの裏側に黒色のバックパネルがありますが、このバックパネルがグラグラしています。
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[TUNING] ノブを回すと異音がしてスムーズでないのもバックアパネルが外れかかってるのが原因と思います。
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リアパネルも綺麗で端子類には輝きが残っています。
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パンチングメタル天板には僅かに塗装変色 (サビ?) した部分はありますが綺麗です。
底板は綺麗です。
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総合して外観はかなり良いほうです。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入りましたが、ランプ切れしており周波数パネル部分が真っ暗です。
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まずはランプ切れを修理しないとダイヤル指針がどこを指しているかわかりません。
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[muting] スイッチを OFF にするとなんとか受信しますが・・・
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[S メータ] は振れず、[STEREO] ランプが点かず、アキュタッチも効きません。
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[mode] スイッチを [test tone] に切り換えるとテスト音は出ました。
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こういう状況なので、修理を少し進めないと他にも不具合があるかどうかもわかりません。
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カバーを開けてチェック
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内部にはビッシリとホコリが堆積しています。
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使用 IC のロット番号より、この 5T10 は [1978年製造品] と判明しました。
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別物に交換された電源コードは内部で元の電線と接続してビニルテープが巻かれていました。
手直ししないと危ないです。
リペア (その1):[S メータ] は振れず、[STEREO] ランプが点かず、アキュタッチも効かない
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調査と原因
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[L104] [L105] で構成するクォードラチュア検波コイルの同調点が大きくズレていました。
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経年変化でズレたのです。
おそらく、これが原因で不具合現象が出ているのでしょう。
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修理
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放送波で [L105] のコアを回して同調点を仮調整したら直りました。
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[S メータ] が振れ、アキュタッチで正しくロックし、[STEREO] ランプが点灯します。
ステレオ感のある音も出ます。
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直りました!!!
リペア (その2):フロントパネルのバックパネルが外れている
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原因
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バックパネルはボンドにてフロントパネルに接着されていますが、経年変化で接着が外れたのが原因です。
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接着が外れていたのは [内側バックパネル] [外側バックパネル] [フロントパネル最前面の透明板] でした。
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修理
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分解してフロントパネルを取り出しました。
オフセットドライバといういうやや特殊な工具が必要で、手間がかかります。
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まずは左の写真のように [内側バックパネル] [フロントパネル最前面の透明板] を G17 ボンドで再接着しました。
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上記の接着が乾いてから、右の写真のように [外側バックパネル] を G17 ボンドで再接着しました。
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ついでにパネル内も清掃してから組み立てました。
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修理後の確認
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フロントパネルから黒いバックパネルを押してもグラグラしません。
[TUNING] ノブを回しても異音は出ません。
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直りました!!!
リペア (その3):電源コードは内部で元の電線と接続してビニルテープが巻かれている
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状況
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前オーナにて電源コードが交換されていますが、その作業が雑なのです。
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内部でオリジナルの電源コードを切り、そこに新しい電源コードを接続し、ビニルテープが巻かれていました。
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安全性に問題があるので手直しします。
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修理
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前オーナが取り付けた電源コードの長さは 1m 程度で短いと思われたので、電源コードも交換し少し長くしました。
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左の写真は電源コード交換後の内部の様子で、右の写真はリアパネルから出た電源コードです。
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直りました!!!
リペア (その4):ダイヤル照明ランプが切れている
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状況
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5T10 ではダイヤル照明だけにフィラメント麦球を使っており、それ以外のランプは LED です。
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周波数パネルを左右に1個ずつのフィラメント麦球で照射しています。
合計2個ですが、両方とも切れていました。
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フィラメント麦球の定格は 12V/0.25A で、これが2個ですから 12V×0.25A×2個=6W の電量力消費です。
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修理 (LED 化)
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フィラメント麦球を交換するより、LED 化したほうがよいです。
日本ではフィラメント麦球はもう製造されていません。
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フィラメント麦球はいずれ寿命でまた切れますが、LED はまず切れることはありません。
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左の回路で LED 化しました。
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まずはフィラメント麦球だった時の配線を除去しました。
そして新たに高級な耐熱電線で LED 化の配線を引き回しました。
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使った LED は [3mm 砲弾型 ウォームホワイト色 14400mcd / 照射角30度 / 定格 20mA / 最大 30mA] です。
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LED は DC 駆動する必要があり、[電源基板] にある [C301] 1000uF/25V の両端から電源を取りました。
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LED の照射角は30度しかないので、周波数パネルに向けるため LED の足を加工しホットボンドで固定しました。
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LED には高輝度タイプを使っているので、定格電流を流すと眩しくて見ていられないです。
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そこで 10kΩ の電流制限抵抗を入れて電流を 1.55mA に抑えました。
定格の1/12以下ですから更に長寿命が期待できます。
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右の写真は、10kΩ の電流制限抵抗の取り付け状態で、[電源基板] の裏側です。
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この抵抗値を増減すると LED 照明の明るさを変更することができます。
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LED 化完成
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素晴らしく綺麗な表示!!!
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LED にウォームホワイト色 (電球色) を使ったので、従来の雰囲気はそのままでコントラストが上がりました。
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おそらく、黙っておれば LED 化したと気付かれないでしょう。
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初めて周波数パネルを見ることができました。
これで再調整に入れます。
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大きく変わったのは消費電力です。
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消費電力はたったの 20.6V×1.55mA=0.03W です。
フィラメント麦球の時は 6W でしたから激減です。
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安くなった電気代で LED 化費用はいずれ回収できます。
しかも LED はほぼ発熱しないので、機器の信頼性が上がります。
リペア (その5):マイグレーション予防対策
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概要
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本機には [HA11211] [HA11223W] という IC が使われていますが、足を見ると真っ黒でした。
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このまま放置するとマイグレーションでレアショート故障するかもしれません。
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マイグレーションは金属カビのようなもので、少しずつ成長し最悪 IC の足間をレアショートします。
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予防対策
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マイグレーションは電圧差のある足間で空気中の湿気を取り込んで成長します。
IC 足が空気に触れないようにすれば予防できます。
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IC の足を硬めのブラシで擦って黒ずみを除去してからワニスを塗布しました。
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ワニスがコーティングされて足が空気に触れるのを防ぐのです。
写真はワニスコーティングした [HA11211] [HA11223W] です。
リペア (その6):その他
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[mode] レバーが僅かに右に曲がっている
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フロントパネルを分解した時に気が付きました。
大型ペンチを使って力技で直しました。
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内部にはビッシリとホコリが堆積している
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エアブロアと刷毛を使って簡易清掃しました。
部品名や基板にプリントされた文字が見える程度には回復しました。
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基板には部品が実装されているのでゴシゴシとできないので、あくまで簡易清掃です。
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パンチングメタル天板には僅かに塗装変色 (サビ?) した部分がある
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自動車用タッチアアップペン (艶消し黒) で補修塗装して目立たなくなりました。
再調整
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電源電圧チェッック (VP)
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実測値は以下のように良好です。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
電源基板 +BOUT |
+15V |
+14.2V |
〇 |
電源基板 -BOUT |
-15V |
-13.9V |
〇 |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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修理により周波数ダイヤルが見えるようになって、-0.5MHz 程度のトラッキング調整ズレが確認できました。
80MHz の放送が 79.5MHz で受信。
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再調整によりダイヤル指針が示す周波数はほぼ合うようになりました。
バリコンというメカなので完全にピッタリは無理です。
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[リペア (その1)] が終わって放送を聴くと mono/stereo の音質差が大きいと感じましたが、再調整で完全に直りました。
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再調整でステレオセパレーションと高調波歪率は大きく向上しました。
かなり良好な性能値です。
項目 |
wide/narrow |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
wide |
stereo |
63 |
58 |
dB |
narrow |
30 |
29 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
wide |
mono |
0.06 |
% |
stereo |
0.06 |
% |
narrow |
mono |
0.16 |
% |
stereo |
0.21 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
wide |
stereo |
-81 |
-75 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
wide |
mono |
0 |
-0.11 |
dB |
test tone 信号 |
wide |
mono |
398.4 |
Hz |
-6.0 |
dB |
使ってみました
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デザイン
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LUXMAN デザインは優美です。
ダイヤルスケールと指針が美しいです
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薄型なのに、ズッシリとした高級品らしい重さがあります。
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フロントパネルは質の良いアルミヘアラインで 4.5mm 厚もあります。
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ダイヤルスケールの照明が淡くホンワカした感じが良いです。
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Accutouch
は、放送局が見つかると同調ノブに機械的ロックがかかる面白い機能です。
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FM アンテナ入力は F 端子なので、雑音電波が混入しないです。
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感度と音質
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感度は良く、デザインや質感と相まって満足度の高いです。
クォードラチュア検波なのにすごく音が良いです。
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刺激のない豊潤な音質です。
特に低音が豊かですが、高音もよく出ています。