Pioneer F-120 (5号機) をゲット!
2024年10月25日、横浜市の U さんより
Pioneer F-120
を研究用に寄贈していただきました。
パルスカウント検波
の PLL シンセサイザ FM/AM チューナです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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ヤフオクで落札しました。
FM 受信がステレオにならなかったのですが、同調点を調整して直りました。
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タクトスイッチは全て問題なく、プリセットボタンも問題ないです。
AM も受信します。
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稀に(1ヶ月に2回位)右チャンネルの音が途切れました。
この時は RCA 端子のプラグを抜き差ししたら直りました。
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外観
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製造シリアル番号は [DF1023680] で、電源コードの製造マーキングより [1983年製造品] とわかりました。
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[純正 AM ループアンテナ] の添付はありませんでした。
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全体的にかなり綺麗な逸品です。
天板に僅かのスレがある程度でリアパネルの端子類にも輝きが残っています。
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F-120 でよくある、プリセットボタンのクッションは良好です。
おそらくクッションは交換されていると思います。
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底板にパイオニアサービスのメンテンスシールが1枚貼られていました。
過去に1度修理されています。
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修理日付は [59年11月3日] と書いてあるので昭和59年 (1984年) と思います。
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電源 ON してチェック
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電源は入りましたが、驚いたのは [POWER] [TUNING] [STEREO] の LED が他の LED に比べてが明る過ぎです。
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眩しくて直視できないほどです。
間違いなく、これらの LED が交換されています。
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操作ボタンは正しく反応し、周波数および各種インディケータは正常に動作します。
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FM 受信
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周波数ズレはなさそうで、[STEREO] ランプが点灯し正常に受信できます。
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動作に異常はなさそうなので、現状のオーディオ性能を計測してみました。
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実用範囲には入っていますが、ステレオセパレーションが落ちているいるようです。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
36 |
36 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.084 |
% |
stereo |
0.080 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-52 |
-56 |
dB |
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AM 受信
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手持ちの [SONY ST-SA5ES 純正 AM ループアンテナ] を接続してチェックしました。
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感度が低くガサガサという雑音が常時入り、どこか故障しています。
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カバーを開けてチェック
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内部は綺麗で、目視で劣化とわかる部品は見当たりません。
リペア (ご参考):部品交換はシャーシを外すと楽
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F-120 には点検用の裏ブタがない
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Pioneer チューナでは F-780 までは点検用裏ブタがありますが、これより後の機種では裏ブタがありません。
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このため、部品交換は大変で大仕事になります。
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特に部品の値を変えながら調整して交換するという複雑な作業になると、普通はお手上げです。
今回、その必要に迫られました。
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多くの部品交換が必要と思われる時は・・・
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Pioneer でもある程度のメンテナンス性は考慮されているようで、下のように配線を外すことなく下のように基板一式を取り出せます。
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この状態にしても配線は外していないので、電源を入れると動作します。
部品交換もしやすくなります。
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基板を取り出すというより
シャーシを取り外す
というほうが正解かもしれないです。
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このような構造になっていれば、大掛かりな修理も頑張れば可能です。
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おそらく、製造工程でも先に配線を済ませて動作確認してからシャーシを取り付けているのだと思います。
リペア (その1):AM 受信で感度が低くガサガサという雑音が多い
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調査と原因
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要因切り分けのため、AM OSC トリマコンデンサ [TC202] を少し回してみたら、それまで出ていた雑音がピタリと止まりました。
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原因は [TC202] の故障に間違いありません。
[TC202] の容量が小刻みに変化して雑音となっていたのです。
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修理
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OSC 側 [TC202] の交換と、同じトリマコンデンサ使用の RF 側 [TC201] を一斉交換しました。
下は交換リストです。
基板 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
チューナ基板 |
TC201 |
20pF |
20pF |
トリマコンデンサ |
TC202 |
20pF |
20pF |
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左の写真はトリマコンデンサ交換後です。
黄〇で囲んだ部品で、左から [TC202] [TC201] です。
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右の写真はこれまで基板に実装されていた故障したトリマコンデンサです。
底面のハトメ部分が接触不良となっています。
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修理後の動作確認
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雑音と感度低下が一挙に直り、綺麗な音で AM 受信できるようになりました。
リペア (その2):[POWER] [TUNING] [STEREO] の LED が明る過ぎる
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原因
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推測通り前回の修理者がこれらの LED を交換していました。
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LED には砲弾型 5mm の高輝度 LED を使っていました。
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これを単純に置き換えると明るくなり過ぎます。
おそらく20倍くらい明るいです。
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40年前の LED より現在の LED のほうが技術の進歩で同じ電流を流しても遥かに明るいのです。
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原因は前回修理者が LED 交換後に明るさ調整していないためです。
修理が中途半端なのです。
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修理 (明るさ調整)
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LED に直列に挿入されている電流制限抵抗を下のように交換しました。
LED |
基板 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
交換後の LED 電流 |
備考 |
STEREO |
チューナ基板 |
R555 |
1kΩ |
22kΩ |
0.49mA |
電球色 |
POWER |
フロントパネル基板 |
R608 |
130Ω |
1kΩ |
2.5mA |
赤色 |
TUNED |
R609 |
82Ω |
510Ω |
3.5mA |
緑色 |
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LED 電流がバラバラなのは、前回修理者が使った LED が3個とも違うためです。
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電流制限抵抗の値を調整して見た感じの明るさを揃えました。
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右の写真はこれまで基板に実装されていた古い抵抗です。
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修理後の動作確認
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LED は適度な明るさになり、もう眩しいということはないです。
リペア (その3):プリセトメモリのバックアップ用電解コンデンサ交換 ・・・ 予防保守
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概要
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F-120 においては [C513] 2200uF/6.3V 電解コンデンサでプリセットメモリ内容のバックアップをしています。
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AC プラグをコンセントに挿入した状態では、[POWER] スイッチが OFF でもメモリには給電されていてメモリ内容は消えません。
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AC プラグをコンセントから抜くと [C513] でメモリをバックアップします。
取扱説明書によると3日間がバックアップの保証値です。
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なぜか?この [C513] の故障が多いです。
本機は製造から40年以上経っているので交換したほうがよいです。
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修理 (予防交換)
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以下のリストのように予防交換しました。
耐熱105℃品にして信頼性を上げました。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C513 |
2200uF/6.3V (85℃) |
2200uF/6.3V (105℃) |
電解コンデンサ |
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左の写真は [C513] 交換後で、右の写真はこれまで基板に実装されていた古い電解コンデンサです。
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修理後の動作確認
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プリセットができ、正常にプリセットメモリがバックアップされることを確認しました。
リペア (その4):右チャンネルの音が途切れ RCA プラグを抜き差しで直った ・・・ 寄贈者より
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ハンダクラックの有無をチェック
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左の写真は RCA 端子のリードが基板にハンダ付けされた部分です。
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リードのハンダ付けにピンと同心円のようなものが見えますが、これがハンダクラックです。
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L/R チャンネルとも見事にハンダクラックしています。
これが原因です。
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ついでに右の写真のパワートランジスタのリードのハンダ付け部分も観察するとクラック気味になっていました。
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修理
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リアパネルにある [RCA 端子] [アンテナ端子] のリードのハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
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パワートランジスタのリードのハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
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修理後の動作確認
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端子類とパワートランジスタを揺すってみても異常が発生しないことを確認しました。
リペア (その5):FM 同調点調整用 [T103] のコアが割れている
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全ての修理が終わったと思って調整に入りましたが・・・
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一番最初に [T103] で FM 同調点の調整をするのですが、
なんと!調整用のコアが割れている!!!
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この個体は寄贈者のほうで [T103] のコア調整しているのですが、おそらくこの時に割ったと思われます。
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コアはもろいので正しいコアドライバを使わないと簡単に割れます。
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しかも、コア交換したいのですがコアがほぼ一番奥に入り込んでしまっています。
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こうなると割れたコアを取り出すには [T103] を基板から外して、コアを下側から外す必要があります。
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FM 同調点電圧は 400mV 以上となっていたので、寄贈者のほうで調整したといっても動作するギリギリのズレ状態です。
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コアが最奥になっているということは [T103] に内蔵しているチタコンが容量抜けしている可能性が高いです。
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最奥までコアが入り込んでから更に調整しようと回したので、この時にパキッといったかと思います。
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修理
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左の写真で黄〇で囲んだのが [T103] です。
右は [T103] の回路です。
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[T103] を基板から取り外して観察してみると、やはり [C1] のチタコンが真っ黒になって劣化していました。
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劣化したチタコンを除去し、下側から生き残ったコアの溝にコアドライバを当て、無事割れたコアが取り出せました。
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コアを手持ちの正常品と交換し、チタコンを除去した [T103] を基板に戻しました。
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チタコンの代わりに 30ppm/℃ 温度補償 NP0 積層セラミックコンデンサ 100pF を左の写真のように基板の裏側に取り付けました。
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右の写真は取り出したコアです。
コアドライバを当てる溝は上下2箇所あるので、片方が割れてももう片方で回せます。
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修理後の動作確認
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再生した [T103] のコアを回して正しく S カーブが出ることを確認しました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
Q403-C (放熱板) |
+13.7V |
+13.3V |
〇 |
アナログ系 |
Q405-C (放熱板) |
+5.5V |
+5.45V |
〇 |
デジタル系 |
R405 (前) |
+26V |
+26.9V |
〇 |
VT 電源 |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信部
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フロントエンドでトラッキング調整ズレがあり、再調整で感度が 20% 程度上がりました。
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2nd IF (1.26MHz) の調整ズレがあり、再調整で規定内に入りました。
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再調整で到着時に測定したオーディオ性能より、全ての性能値が向上し音の解像度が上がりました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
70 |
55 |
dB |
NARROW |
28 |
28 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.016 |
% |
stereo |
0.016 |
% |
NARROW |
mono |
0.62 |
% |
stereo |
0.61 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-58 |
-59 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.01 |
dB |
CAL TONE |
WIDE |
mono |
328.1 |
Hz |
-6.0 |
dB |
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AM 受信部
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トリマコンデンサを2個とも交換したので、フロントエンドのトッラキング調整を全てやり直しました。
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ただし、手持ちの [SONY ST-SA5ES 純正 AM ループアンテナ] で調整したので、このアンテナ以外だと感度が落ちます。
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到着時の感度&雑音の不具合は直り、AM なりの綺麗な音で受信できるようになりました。
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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寄贈者よりは特に不具合はないと聞いていましたが、メンテナンスしてみるとアチコチ不具合が見つかりました。
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まあこんなものです。
使っている人はともかく、測定器はウソをつかないです。
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不具合修理の研究用に寄贈いただいたので文句はありません。
それどころか修理を楽しめて良かったです。
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修理後の再調整で F-120 本来のパルスカウント検波らしい素晴らしい音質が蘇り、ホッとしました。
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デザイン
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FM を良い音で聴くためのシンプルデザインです。
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操作系もいたってシンプルです。
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表示は周波数を含め全て LED でシンプルな表示です。
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FM アンテナ入力端子が F 端子なので、妨害電波が混入しないです。
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FM の感度と音質
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スウェーデン国立放送局のモニタ機
に選定された実力があります。
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感度はかなり良いです。
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ステレオセパレーションが高く、スッキリとしているが比較的柔らかいパイオニアトーンです。
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AM の感度と音質