Pioneer F-700 (3号機) が到着
2024年5月23日、山梨県南都留郡の T さんより
Pioneer F-700
の修理依頼品が到着しました。
パルスカウント検波
の FM 専用機で7連バリコンです。
この写真は照明を LED 化した後です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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ヤフオクで
Pioneer F-700 のジャンク品
を入手しましたが、残念ながら不動品でした。
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見た目はいい感じなのですが肝心の音が出ません。
本来の音が聴けるように修理お願います。
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通電はして照明が点灯し、IF BAND, AUTO BLEND の緑ランプがボタン動作に応じて点灯・消灯します。
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アンテナを接続してチューニングノブをどこに合わせてもメータは振れず、音が出ません。
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チューニングノブやボタン類のタッチには異常なさそうです。
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もし、性能が戻るようでしたら、照明の LED 化 (ウォームホワイト) をお願います。
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外観
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製造シリアル番号は [ZI1001907] です。
電源コードには製造マーキングがなく、ここからは製造年は不明でした。
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キズや汚れはありますが、全体的には綺麗です。
特にフロントパネルは綺麗です。
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天板を上から眺めた箇所は割と綺麗です。
天板の左右サイドの上下エッジにスレがあって黒ずんでいます。
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各スイッチトップにサビが出ています。
リアパネルは綺麗で、端子類にも輝きが残っています。
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電源 ON してチェック
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電源は入り、ランプ切れはないです。
放送が全く受信できず、S メータも全く振れません。
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これ以上チェックしようがないです。
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カバーを開けてチェック
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使用 IC のロット番号とメータの製造マーキングより、本機は [1979年製造品] とわかりました。
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フロントエンドが弄られているようです。
目視で以下の不具合が見られました。
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L2 のコアの一部が欠けて無くなっています。
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全ての調整コイルのコアがかなり上側に移動されており、ボビンから飛び出しています。
通常はあり得ないです。
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バリコンギア機構のプーリー軸の固定が外れ脱落しそうになっています。
脱落するとギアも外れ、修理不能に陥ります。
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目視結果よりフロントエンドが怪しいと思われたので切り分けしてみました。
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SSG にて 10.7MHz を作成し、初段 IF に注入してみると、S メータが大きく振れ、音も出ました。
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フロントエンド故障確定です。
フロントエンドの修理は厄介です。
自動車で言うとエンジンの修理のようなものです。
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フロントエンドが直りそうかチェック
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調べてみると、[SD306PA] という Dual Gate MOS-FET が5本とも故障していました。
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おそらく、カミナリの帯電流があったのだろうと想像します。
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[SD306PA] は入手不能で、代替 FET を探そうにも [SD306PA] のデータシートが見つからないのでお手上げです。
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フロントエンドはこの他にも先に述べた不具合があるので、修理は諦めました。
どうするか修理依頼者と協議
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修理依頼者に状況報告し、以下を提案
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修理不能として返却する。
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当方手持ちの動作不能ジャンク F-700 と組み合わせて [2コ1] して直す。
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修理依頼者からの回答
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どうしても F-700 を使いたいということで、[2] の [2コ1] に決定しました。
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手持ちのチューナはいつもある訳ではなく、たまたま機種が合致したということで、賢明な選択です。
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これ以降、本来の修理依頼された F-700 を [故障機]、当方手持ちのジャンク F-700 を [再生機] と呼びます。
[再生機] の概要と緊急修理
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[再生機] の概要
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ともかく外観ボロボロです。
製造シリアル番号は [ZI1001432] で、[1979年製造品] です。
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フロントパネルに修復不可能な汚れとキズ、リアパネルも状態が悪く端子類はサビだらけです。
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2024年3月に入手し、ともかく修理だけはしてみようと思っていましたが、ずっと放置していました。
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S メータは振れるが音が全く出ず [STEREO] ランプも点灯しないのでパルスカウント検波故障と思われます。
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[再生機] の緊急修理
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調べてみると、パルスカウント検波の [R152] 抵抗が断線していました。
この抵抗を交換したら直りました。
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[S メータ] [T メータ] 動作正常、[STEREO] ランプも点灯、綺麗な音が出ました。
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外観以外に悪いところはなく、性能的には全く問題ない状態に蘇りました。
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[故障機] [再生機] のどちらをベースマシンにするか
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ここまでで、[故障機] はとても綺麗だが修理不能、[再生機] は外観ボロボロだが動作良好となっています。
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[再生機] をベースマシンにして、ボロボロ部分を [故障機] から移植するのが簡単です。
この方針としました。
リペア (その1):S メータは振れるが音が全く出ず [STEREO] ランプも点灯しない
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原因
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先に述べたように [R152] 22Ω FUSE 抵抗の断線が原因でした。
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修理
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この FUSE 抵抗は他の回路にも使われており、全部チェックした結果は以下です。
なんと!全部 NG !!!
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右の写真は、これまで基板に実装されていた故障した FUSE 抵抗です。
かなり変色しています。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
定格 |
実測値 |
判定 |
R6 |
22Ω 1/4W |
2980Ω |
× |
22Ω 1/2W |
フロントエンド |
R7 |
22Ω 1/4W |
847Ω |
× |
22Ω 1/2W |
R15 |
22Ω 1/4W |
682Ω |
× |
22Ω 1/2W |
R17 |
22Ω 1/4W |
1210Ω |
× |
22Ω 1/2W |
R24 |
22Ω 1/4W |
340Ω |
× |
22Ω 1/2W |
R25 |
22Ω 1/4W |
831Ω |
× |
22Ω 1/2W |
R152 |
22Ω 1/4W |
断線 |
× |
22Ω 1/2W |
パルスカウント検波 |
R160 |
22Ω 1/4W |
572Ω |
× |
22Ω 1/2W |
R163 |
22Ω 1/4W |
577Ω |
× |
22Ω 1/2W |
リペア (その2):[故障機] → [再生機] への部品移植
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概要
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[故障機] はとても綺麗だが修理不能、[再生機] は外観ボロボロだが動作良好です。
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[故障機] から程度の良い部品を外して [再生機] に移植します。
基本的には外装部品です。
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この後のリペア作業を考えると、この時点での移植がベストタイミングです。
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移植
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[フロントパネル] [リアパネル] [天板] [底板] [左フレーム] [右フレーム] を移植しました。
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[D/M メータ] [S メータ] [リアパネルの端子類全て] を移植しました。
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この移植で端子のハンダクラック対策も同時にできました。
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[再生機] で残したのは [基板] [電源トランス] [フロントサブパネル] だけです。
これ以外は [故障機] の部品です。
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製造シリアル番号は [故障機] の番号になりました。
リペア (その3):電源部の電解コンデンサを全数交換
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概要
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電源部の電解コンデンサにサビや膨張が見られました。
交換したほうがよいです。
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[故障機] の電解コンデンサも同様で移植は無理なので全数新品にします。
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交換リスト
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耐熱性の高い 105℃ クラス品にして信頼性を上げました。
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一部、容量を上げ電源の安定化を図りました。
一部、耐電圧を上げ信頼性を上げました。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C165 |
2200uF/25V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
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C166 |
2200uF/25V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
|
C167 |
470uF/50V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
ここは耐圧 25V 以上あれば問題ない |
C168 |
470uF/50V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
C169 |
47uF/25V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
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C170 |
47uF/25V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
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C171 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
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C175 |
470uF/16V (85℃) |
470uF/16V (105℃) |
|
C177 |
470uF/16V (85℃) |
470uF/16V (105℃) |
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交換実施
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左の写真で赤〇で囲んだ部品が交換後の電解コンデンサです。
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技術の進化でサイズは半分以下になりました。
風通しが良くなるので信頼性が上がります。
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右の写真は、これまで基板に実装されていた古い電解コンデンサです。

リペア (その4):照明用フィラメントランプの完全 LED 化
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従来のフィラメントランプでの照明
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ダイヤル照明は [12V/0.3A ウェッジ球]×3個で行っています。
メータ照明は [12V/0.1A 麦球]×2個で行っています。
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よって、照明だけで 12V×0.3A×3個+12V×0.1A×2個=13.2W 電力消費しています。
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フィラメントランプは AC 駆動されているので、このまま LED へリプレースできず、フィラメントランプと配線を撤去しました。
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リプレースに使う LED
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左の写真のウェッジ LED 球はダイヤルスケールの照明に使います。
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1個あたり、[ウォームホワイト LED]×8個を搭載しています。
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右の写真のテープ LED はメータの照明に使います。
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1単位あたり、[ウォームホワイト LED]×3個を搭載しています。
これをメータあたり2単位使います。

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LED 化回路
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LED は DC 駆動する必要があるので [C166] 電解コンデンサの両端から電圧を取りました。
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F-700 は±電源で動作していますが、マイナス側のほうが電流に余裕があるので、こちらから電流を取りました。

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消費電力は 26V×(1mA+18mA)=0.5W となります。
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フィラメントランプより明るくなったのに、消費電力が激減して
13W もエコになりました!
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LED 取付の様子
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左の写真はダイヤル照明の LED 取り付けの様子です。
ウェッジ球ホルダはそのまま流用しました。
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長さの制限があるので、LED ウェッジ球の接栓の一番下を約 1mm 削って長さを合わせ込みました。
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右の写真はメータ照明の LED 取り付けの様子です。
水色のものがテープ LED です。
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元の麦球ホルダの溝がそのままテープ LED 取り付けに役に立ちました。
G17 ボンドで固定しました。

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LED 化完成
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左の写真は LED 化後のメータ付近です。
右の写真は、これまで実装されていたフィラメントランプで、廃棄します。

リペア (その5):バリコン軸に緑青サビが出ている
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右の写真はバリコン軸受けです
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軸と軸受板に緑色に見える部分があります。
これが緑青サビです。
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サビは絶縁物なので接触不良となり、以下の現象が出ます
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周波数の低い辺りで指針を動かすとゴソゴソという雑音が出る。
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感度が落ちたり、受信が不安定になったりする。
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以下のようにバリコン軸の接触回復作業をしました
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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軸受けに
接点復活スプレー
を塗布して何度もバリコン羽を動かして馴染ませます。。
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仕上げに、軸受けにリチウムグリスを塗布して防錆処置します。
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大量の緑青サビが除去できました。
結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
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ボロッとした大きなサビが取れました。
かなり酷い状態だったようです。
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
Q52-E |
+13V |
+12.8V |
〇 |
Q56-E |
-13V |
-12.5V |
〇 |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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FM フロントエンドのトッラキングが大きく調整ズレしていました。
再調整で感度が大きく上がりました。
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パルスカウント検波用の 2nd IF 周波数が少しズレていました。
再調整で規定値に入りました。
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MPX VCO 調整が少しズレていました。
再調整で規定値に入りました。
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FM ステレオセパレーションや高調波歪率は素晴らしく良い性能に調整できました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
65 |
70 |
dB |
NARROW |
63 |
63 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.018 |
% |
stereo |
0.028 |
% |
NARROW |
mono |
0.097 |
% |
stereo |
0.097 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-72 |
-73 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
+0.04 |
dB |
REC LEVEL CHECK 信号 |
WIDE |
mono |
257.8Hz |
Hz |
-6.0 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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今回は [2コ1] というズルい方法で直しましたが、2台ともこの世から消えるより1台の再生品ができることのほうがマシです。
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古いバリコン式チューナは交換用部品が入らないことが多く、こういう方法もやむを得ないです。
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修理&再調整で新品時の性能に戻りました。
今はすごく良い音です。
やはり F-700 は優秀です。
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デザイン
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デザインはかなり良いです。
暖かい感じがします。
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今回、修理依頼者の要望で照明を全てウォームホワイトにしました。
薄いオレンジ色の中から周波数数字が白っぽく浮き上がって見えます。
フィラメントランプの黄昏のような暗めの橙色とは全然違います。
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指針が T メータを兼ねており、指針を見つめるだけで最良の同調点に合わせることができます。
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[D/M メータ] で変調度とマルチパス妨害が確認できます。
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FM アンテナ入力は F 端子なので、雑音電波が混入しないです。
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FM はビックリするほど良い音!
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音質は特筆ものです。
やはりパルスカウント検波の音は良いです。
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歪の少ないカッチリした音なのに柔らかさもあります。
音の分離が良いです。
惚れ惚れする高音質です。