QUAD FM4 (2号機) が到着
2024年7月26日、東京都八王子市の A さんより
QUAD FM4
の修理依頼品が到着しました。
定価198,000円
の FM 専用機です。
PLL シンセサイザ方式ではなく、多回転可変抵抗器でバリキャップ電圧を変えて同調します。
かなりバリコン式に近いです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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コンパクトなチューナーが必要になり、QUAD FM4を入手しました。
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マニュアル同調で各局が受信できますが、プリセットが機能しません。
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周波数レンジ下限に近い、76.1MHzでの受信では歪みっぽく聞こえる時があります。
(信号強度が低いのが原因かもしれませんが)
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外観
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製造シリアル番号は [027387] でした。
どこにもキズやスレがなく端子類も綺麗で外観良好です。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入り、FL 表示器も新品同様の輝度があります。
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FM は受信でき [stereo] 表示も出て音が正常に出ます。
問題なさそうです。
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当方の電波レベル 84dBf で2本の S ラダーがフルになりません。
70% くらいです。
感度落ちしているかもしれません。
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同調ノブや各ボタンの動作は正常です。
プリセットもできました。
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電源コードを抜いて10分くらいするとプリセットが消えます。
ここは故障しています。
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カバーを開けてチェック
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使用 IC のロット番号より、この FM4 は [1988年製造品] と判明しました。
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心配した通り、メモリバックアップ用 Ni-MH バッテリから液漏れしていました。
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左の写真で四角いプラスチックケースに入った部品です。
バッテリの出力電圧を測るとゼロでした。
寿命です。
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液漏れで基板がやや黒くなっていますが、液漏れ範囲は限定的なので修理できそうです。
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電解コンデンサは電源部の2本を除いて既に交換済でした。
右の写真で横に寝ている青い部品です。
リペア (その1):Ni-MH バッテリから液漏れしている
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概要
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Ni-MH バッテリの中身は化学物質で、終止電圧をゼロとすることはできません。
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終止電圧がゼロ近くになったら化学物質からガスが発生して膨張し液漏れに至ります。
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FM4 で電源を入れずに何年も放置したら、必ず上記の状態になります。
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FM4 を毎日数時間使うということであれば、液漏れ事故をおこさずに済むのですが、たぶんこれはかなり難しいのでは?
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電気二重層コンデンサのほうが安心です。
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電気二重層コンデンサはコンデンサなので、終止電圧がゼロになっても構わないです。
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FM4 で電源を入れずに何年も放置して完全放電して、電圧がゼロになっても構いません。
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しかも、そもそも液漏れしにくい構造になっています。
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電気二重層コンデンサ化にもデメリットはあります。
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完全放電してしまったら、実用的に使用できるようになるまで充電に半日はかかります。
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この充電中の半日の間は、FM4 の回路上の制約で同調周波数がズレてしまいます。
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プリセット受信でも本来の周波数がズレてしまいます。
FM4 の回路上やむを得ないです。
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FM4 を毎日数時間ずつ使い続けるということであれば、この問題は出ません。
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電気二重層コンデンサ化のメリット・デメリットを天秤にかけて・・・
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液漏れで基板が腐食して修理不能になるよりは、その心配がない電気二重層コンデンサ化のほうが絶対によいです。
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修理 (電気二重層コンデンサ化)
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液漏れ跡を無水アルコールで洗浄し、実用的には問題ない程度になりました。
筐体内なので外観からは見えない場所ですし。
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左の写真のように、[Ni-MH バッテリ] → [電気二重層コンデンサ] に交換しました。
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元の黒色プラスチックケースを流用して、この中に電気二重層コンデンサ 1F/5.5V を入れました。
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電気二重層コンデンサは再交換可能のように強力アクリル両面テープで貼り付けました。
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右の写真は取り外した故障した [Ni-MH バッテリ] の VARITA Mempac 4.8V/100mAh です。
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VARITA
は英国の会社なので、これがオリジナルなんだろうと思います。
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黒色プラスチックケースを基板に留めるネジもヨーロッパ規格だったので、間違いないです。
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ご使用時の注意
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長時間使わないで電気二重層コンデンサが空になったら、少なくとも半日は電源 ON して充電してください。
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この半日の間はプリセットされた周波数がズレますが、充電後は正常に戻ります。
リペア (その2):電源部の電解コンデンサを交換
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概要
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本機においては既に誰かが日本製の電解コンデンサに交換済で、未交換なのは電源部の2個だけとわかりました。
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そこで、今回はこの未交換だった電解コンデンサを2個だけ交換とします。
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交換リスト
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C4 |
1000uF/25V (85℃) |
1000uF/25V (105℃) |
高耐熱品にグレードアップ |
C5 |
1000uF/25V (85℃) |
1000uF/25V (105℃) |
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交換
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左の写真の茶色い部品がが交換後の電解コンデンサです。
グラグラしないよう、束線バンドでお互いを8の字型に結びました。
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右の写真はこれまで基板に実装されていた古い電解コンデンサです。
製造メーカは
SAMHWA
で韓国の会社です。
リペア (その3):ハンダクラック予防補修
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ハンダクラックしやすい箇所
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写真はリアパネルにある [アンテナ端子] [RCA 端子] の裏側です。
端子のリードが基板に直接ハンダ付けされています。
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ここはリアパネルと基板の2方向から常にストレスがかかるのでハンダクラックしやすいです。
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予防補修
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[アンテナ端子] [RCA 端子] のリードと基板とのハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
再調整
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電源電圧チェッック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
C6 +端子 |
+12V |
+12.0V |
〇 |
チューナ |
C4 +端子 |
+30V |
+31.3V |
〇 |
FL (表示) |
C57 +端子 |
+7V |
+6.84V |
〇 |
FL (ヒ−タ) |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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フロントエンドに少しトラッキング調整ズレがありましたが、再調整で規定内に入りました。
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クォードラチュア検波で大きな調整ズレがあり、調整前は高調波歪率が 1.5% もありましたが、再調整で良好になりました。
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調整前のステレオセパレーションは 20dB 程度しかありませんでしたが、再調整で10倍以上改善しました。
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そもそも、このチューナはスペックではなく音質志向ですから、こんなものでしょう。
項目 |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
stereo |
43 |
44 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
mono |
0.16 |
% |
stereo |
0.16 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
stereo |
-61 |
-68 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
mono |
0 |
+0.14 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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今回も Ni-MH バッテリの液漏れが大きな問題でした。
Ni-MH バッテリや Ni-Cd バッテリはチューナに使うべきではありませんね。
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再調整でステレオセパレーションは10倍以上、高調波歪率は1/10になって、ぐっと良い音になりました。
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再調整が終わって音出しすると、繊細な音が出ました。
これがヨーロッパサウンドなのだろうか。
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良いチューナと思います。
気軽に使うにちょうどよいです。
とは言っても20万円ですが・・・
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小気味良い QUAD デザイン
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ほぼ A4 サイズでコンパクトです。
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筐体は梨地塗装されたグレーの金属ケースで全体を覆っています。
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FL ディスプレイはグリーンで落ち着いた表示です。
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チューニングノブやファンクションボタンは梨地仕上げで適度に小さく上品です。
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FM アンテナ入力は PAL 端子なので、雑音電波が混入しないです。
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本機には [PAL→F 変換コネクタ] が装備されていました。
標準装備の気がします。
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感度と音質
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感度はローカル局を聴くには十分です。
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スペック的にはセパレーションも歪率も良いというほどのことはないですが、非常にクリアな音質です。
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音に張りがあります。
使っている部品のグレードが高いからでしょうかね。
不思議です。