SONY ST-S333ES (2号機) をゲット!
2022年6月16日、神奈川県川崎市の S さんより
SONY ST-S333ES
を研究用に寄贈いただきました。
S さんの自家配送です。
忙しくて2年以上放置状態でしたが、2024年9月にメンテナンスしました。
程度&動作チェック
-
寄贈者のコメント
-
最近まで使っていたもので、受信できます。
寄贈します。
-
外観
-
製造シリアル番号は [202704] で、電源コードの製造マーキングより [1984年製造品] とわかりました。
-
[純正 AM バーアンテナ] は付属していませんでした。
この純正バーアンテナ (Wave Catcher) の手持ちはあります。
-
非常に綺麗な状態で光り輝いている逸品です。
とは言っても中古品なので、天板などにごく僅かなスレ等はあります。
-
リアパネルにある端子には輝きが残っており、良い状態です。
-
プリセットの [1] ボタンが他のボタンに比べて少し沈んでいます。
-
電源 ON してチェック
-
電源は問題なく入り、各ボタンも正常に反応します。
FL 表示器に劣化はなく新品同様な輝きです。
-
FM/AM とも問題なく受信できました。
FM では [STEREO] 表示も出ます。
-
オートチューニングで正しい放送周波数を検出できます。
-
本機はプリセットボタンを押すと該当の窓が点灯し放送局名ラベルを照射する構造になっています。
-
文章での説明が難しいので、下の左の写真をご覧ください。
-
その局名ラベルが [RADIO KANSAI] とか関西系の放送局名になっています。
-
動作に影響はないのですが、気になるならプリンタを使ってラベルを自作するとよいです。
-
カバーを開けてチェック
-
なんと!洗濯バサミが!!!
-
チューナの筐体内にいろんなものが転がっていた経験はありますが、洗濯バサミは初めてです。
(上の右の写真)
-
ST-S333ES はコインバッテリの CR2025 でプリセットメモリをバックアップします。
-
本来はタブ付き CR2025 を使うのが正しいですが、タブなし CR2025 を使って洗濯バサミでの電極を押さえつけていました。
-
この状況をみると、誰かがタブ付きの CR2025 が入手できず苦肉の策でやったと思います。
-
高級チューナに洗濯バサミは似合わないので、ここは修理しようと思います。
-
基板に薄っすらとゴミが付着していますが綺麗で、目視で劣化とわかる部品は見当たりません。
良い状態です。
リペア (その1):コインバッテリが洗濯バサミで接続されている
-
概要
-
コインバッテリでメモリバックアップする方法は数年というバックアップ期間が魅力的ですが、コインバッテリが寿命になった時にユーザで対処できない問題があります。
-
電気二重層コンデンサでメモリバックアップする方法は数ヶ月しかバックアップが持ちませんが、ユーザの対処は不要です。
-
チューナをマトモに使っているのであれば、少なくとも数日に一度は電源 ON しているはずで、電気二重層コンデンサで十分です。
-
ST-S333ES のメモリバックアップ方法を電気二重層コンデンサで行ったほうが良いと結論しました。
-
電気二重層コンデンサ化の回路変更
-
[R512] を 4.7kΩ→180Ω に変更、[D523] を除去、[BT501] を コインバッテリ→電気二重層コンデンサ に変更しました。
-
電気二重層コンデンサ化の改造実施
-
左の写真は改造後です。
-
小さい赤〇で囲んだのが [R512]、大きい赤〇で囲んだのが [BT501] の代わりに実装した電気二重層コンデンサです。
-
[D523] は除去し、[R512] は 180Ω に [BT501] は 1F/5.5V に交換しました。
-
右の写真は改造前に実装されていた古い部品です。
-
取り外した洗濯バサミは工作用途にありがたく流用させていただきます。
-
改造後の動作確認
-
一晩電源 OFF にしてから次の日の朝に電源 ON してプリセットメモリが消えていないことを確認しました。
-
限られた修理時間では長期的確認はできないので、1ヶ月程度バックアップできることを祈ります。
リペア (その2):電源部の電解コンデンサ交換
-
概要
-
電源部の -30V をオシロスコープで眺めたところ、10Vp-p 程度のリップルが乗っていました。
-
リップルが大き過ぎです。
間違いなく電解コンデンサが劣化しています。
-
修理
-
下のリストのように電解コンデンサを交換しました。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C708 |
100uF/50V (85℃) |
330uF/63V (105℃) |
高耐熱化・高容量化 |
C709 |
47uF/35V (85℃) |
220uF/35V (105℃) |
-
左の写真は交換後で、赤枠で囲んだ電解コンデンサを交換しました。
-
右の写真は、これまで実装されていた劣化した電解コンデンサです。
-
交換後の動作確認
リペア (その3):ハンダクラック予防対策
-
概要
-
ST-S333ES の作りを眺めたところ、ハンダクラックしやすそうな箇所は [電源 IC] [アースバー] と思われました。
-
左の写真は電源 IC [IC701] LA5665 で、ハンダ付け部に基板と放熱器からストレスがかかります。
-
右の写真の端にある銅板が [アースバー] で、基板と銅版の熱膨張率が異なるのでハンダ付け部にストレスがかかります。
-
修理 (予防対策)
-
[IC701] [アースバー] のハンダ付け部を補修ハンダ付けしました。
リペア (その4):局名ラベルが関西圏のものになっている
-
概要
-
関西以外で使う場合、放送局名と合わない局名ラベルは邪魔なだけです。
-
別に局名なんか表示しなくても、選択されているプリセットボタンがわかるだけで十分です。
-
局名ラベルを単なるバー表示にする
-
左の写真の上はメーカ製の局名ラベルで、これを下のラベルに交換します。
-
新しいラベルは百均のセリアで購入した [半透明フロストタイプ・クラフトプラバン] を加工したものです。
-
このプラバンは透明ではなく障子紙のような模様が入った半透明板です。
ハサミで加工できます。
-
このプラバンの元サイズは B5 なので好きなだけラベルを作れます。
文字や絵も書き込めます。
-
右の写真は自作の局名ラベルを取り付けてプリセット選択した様子です。
-
写真のように単に細長いバー表示としました。
これで十分と思います。
リペア (その5):その他
-
基板上に少しゴミが溜まっている
-
エアブロアと刷毛を使って清掃して綺麗になりました。
-
プリセットの [1] ボタンが他のボタンに比べて少し沈んでいる
-
原因は過去のオーナがいつも力強く [1] ボタンを押していたので、プリセットボタン内部のプラスチック棒がすり減ったためです。
-
ボール紙ですり減った厚みを補うシムを作成し、これをプラスチック棒の先端に貼り付けました。
-
以上でボタントップの高さが揃いました。
なお、ボタン間での僅かな高さ違いは構造上やむを得ないです。
再調整
-
電源電圧チェック (VP)
-
電源部の電解コンデンサの一部を交換したので、実測値は以下のように良好になりました。
VP |
表示電圧 |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
JW76 (IC701-7pin) |
+15V |
+15.5V |
+15.7V |
〇 |
アナログ系 |
JW78 (IC701-5pin) |
+5V |
+5.5V |
+5.56V |
〇 |
デジタル系 |
JW73 (Q701-E) |
+30V |
+32V |
+30.4V |
〇 |
VT 電源 |
JW83 (D705-A) |
-30V |
-31V |
-27.9V |
〇 |
FL |
-
FM/AM 受信部の調整
-
再調整結果
-
FM 受信
-
再調整で高級機らしい以下の素晴らしい性能が出ました。
歪の少ない解像度のある良音が出ます。
項目 |
DISTANT |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
OFF |
stereo |
58 |
58 |
dB |
ON |
47 |
50 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
OFF |
mono |
0.009 |
% |
stereo |
0.043 |
% |
ON |
mono |
0.011 |
% |
stereo |
0.044 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
OFF |
stereo |
-72 |
-73 |
dB |
オーディオ出力偏差 (1kHz) |
OFF |
mono |
0 |
-0.07 |
dB |
-
AM 受信
-
純正バーアンテナ (Wave Catcher) で最高感度になるように再調整しました。
使ってみました
-
デザイン
-
輝かしい ST-S333ES の礎になった記念すべきモデル
です。
-
ES シリーズらしい高級感ある素晴らしいデザインです。
-
フロントパネルは分厚い黒ヘアラインアルミで質感があります。
-
プリセットボタンはアルミ材で重厚感があります。
豪華です。
-
FM アンテナ入力は F 端子で、妨害電波の混入をシッカリ防止できます。
-
プリセットメモリは FM/AM ランダムに10局分です。
-
[DISTANT] ボタン
-
通常は [DISTANT] = OFF で使います。
近接局からの妨害 (雑音) が入る場合に ON すると改善することがあります。
-
FM 受信時は、PLL 検波のループ時定数を切り換えて検波帯域を狭くします。
-
AM 受信時は、高域周波数特性を減衰します。
-
FM/AM 受信いずれも雑音軽減と音質低下のトレードオフになるので、できれば使わないほうが良いです。
-
感度と音質
-
FM 受信
-
感度は良く、
一聴して判る高音質
です。
S/N が良く細かい音がよく聴けます。
-
解像度感とスッキリ感のある音質です。
少し、低域が軽くて高域が強いです。
-
AM 受信
-
純正の外付けアンテナはループアンテナではなく、バーアンテナ構造の
Wave Catcher
です。
-
磁界型のアンテナのため、周辺雑音を拾いにくく、S/N 良く受信できます。
-
[Wave Catcher] の手持品があったので、これで確認しました。
感度は良いです。