SONY ST-S333ESA (12号機) が到着
2023年8月4日、千葉県木更津市の K さんより
SONY ST-S333ESA
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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どうやら、フューズ抵抗の容量の大きいものが焼損しているようでチューニングがロックしません。
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外観
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製造シリアル番号は [202885] で、電源コードの製造マーキングより [1993年製造品] と判明しました。
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右の写真の純正ではない [AM ループアンテナ] が添付されていました。
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細かいキズ等はありますが、全体的には綺麗です。
サイドウッドはありません。
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フロントパネルに汚れがあり、輝きが鈍いです。
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リアパネルの端子類には輝きが残っており、良好です。
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電源 ON にてチェック
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電源は問題なく入りました。
各ボタン操作も問題なく良好です。
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ディスプレイ自体の輝度はありそうですが、透明パネル内が汚れて減光している感じがします。
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オーディオ出力端子 (RCA) を揺すると音が途切れます。
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FM 受信
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S メータの振れは最小で、かなり感度低下しています。
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MUTING OFF にしないと音が出ません。
[STEREO] 表示が出ません。
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AUTO TUNING すると永遠に周波数が変わり放送局を見つけられません。
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以上より、不具合の原因は [同調点ズレ] と思います。
まずはこれを直さないと他にも不具合あるかどうかわかりません。
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AM 受信
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添付されていた純正ではないループアンテナを接続してチェックしました。
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純正ではないループアンテナのため、感度が低下しています。
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調整で感度が上がると思いますが、このアンテナはインダクタンスが低そうで、合わせ込みできるか不安です。
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カバーを開けてチェック
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内部は綺麗で、基板も綺麗です。
目視でわかる劣化部品は無いようにみえます。
リペア
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FUSE 抵抗のチェック
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FUSE 抵抗は各回路の電源部に使われています。
この抵抗は劣化しやすいのが難点です。
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修理依頼者より6本断線していると申告ありましたが、私のほうで計測すると断線はありませんでした。
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以下のように [R410] で劣化が大きいとわかったので、これだけ交換しました。
回路 |
部品番号 |
標準値 (Ω) |
実測値 (Ω) |
判定 |
対策 |
FM FRONT END |
R119 |
100 |
85.6 |
〇 |
|
WOIS |
R203 |
10 |
10.3 |
〇 |
|
R207 |
10 |
10.1 |
〇 |
|
R211 |
10 |
10.2 |
〇 |
|
R227 |
10 |
10.3 |
〇 |
|
IF |
R259 |
100 |
108.1 |
〇 |
|
DET |
R274 |
10 |
10.0 |
〇 |
|
R279 |
220 |
171 |
〇 |
|
R292 |
100 |
118 |
〇 |
|
MPX |
R301 |
10 |
10.3 |
〇 |
|
R327 |
47 |
57.7 |
〇 |
|
AM |
R403 |
220 |
264 |
〇 |
|
R410 |
150 |
325 |
× |
150Ω 1/2W に交換 |
PLL |
R511 |
220 |
231 |
〇 |
|
R516 |
180 |
219 |
〇 |
|
CONTROL |
R626 |
47 |
55 |
〇 |
|
POWER SUPPLY |
R910 |
22 |
23.3 |
〇 |
|
R921 |
220 |
265 |
〇 |
|
R931 |
220 |
261 |
〇 |
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オーディオ出力の RCA 端子を揺すると音が途切れる
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端子のリードが3ピンとも完全にハンダクラックして、グラグラになっていました。
補修ハンダ付けして直りました。
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ハンダクラックがよく発生する箇所の補修
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[F 端子×2] の両方ともハンダクラックしていました。
補修ハンダ付けして直りました。
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[アースバー×8] のあちこちでハンダクラックしていました。
補修ハンダ付けして直りました。
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[AM アンテナ端子] も危ないので、同様に補修ハンダ付けしました。
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FM で同調点ズレしている
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FM 同調点用の [IFT251] の再調整で直りました。
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この調整で以下の現象が直りました。
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MUTING OFF にしないと音が出ない。
[STEREO] 表示が出ない。
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AUTO TUNING すると永遠に周波数が変わり放送局を見つけられない。
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[S メータの振れは最小で、かなり感度低下している] については、S メータが以前より振れるようになりましたが、まだ振れが少ないです。
他にも要因がありそうです。
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S メータの振れが少なく感度低下している
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原因は FM フロントエンド内の [CT101] トリマコンデンサの容量抜けでした。
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回しても容量が変わらないです。
完全故障です。
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[CT102] [CT103] も動作不安定です。
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[CT101] [CT102] [CT103] を新しいセラミックトリマ 10pF に交換して直りました。
右の写真で黄〇で囲んだ部品です。
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交換後再調整して、みるみる感度が上がりました。
新品時の感度に復活しました!!!
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電気二重層コンデンサの交換 ・・・ 予防保守
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[C605] 0.1F/5.5V 電気二重層コンデンサでプリセットメモリをバックアップしています。
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製造から30年以上経過しているので交換時期です。
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右の写真で大きい黄〇で囲んだ、縦型の電気二重層コンデンサ 1F/5.5V に交換しました。
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0.1F → 1F と10倍の容量になったので、10倍の10ヶ月メモリ保持できるかも?
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[タンタルコンデンサ] の交換 ・・・ 予防保守
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[C603] はタンタルコンデンサで、これもいつまで持つか心配な部品です。
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しかも耐圧が 6.3V しかありません。
ここには 6V 近くの電圧がかかります。
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タンタルコンデンサは耐圧を超えた電圧がかかると簡単に内部短絡します。
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半世紀前に [人気者] だったタンタルコンデンサは、現在では短絡事故が多いことから [嫌われ者] になっています。
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心配なので、[10uF/6.3V タンタル]→[10uF/25V 積層セラミック] に予防交換しました。
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右の写真で小さい黄〇で囲んだ部品です。
タンタルより高性能でやや高価な無極性コンデンサです。
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透明パネル内が汚れて減光している感じがする
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フロントパネルを外して確認したところ、透明パネル内側と FL 管にススのような汚れがビッシリ付いていました。
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中性クリーナでクリーニングしたところ、ウェスが真っ黒になりました。
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クリーニング後はディスプレイの輝度が新品に近い状態に明るくなりました。
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交換した部品の記録
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写真は基板に元付いていた部品です。
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茶色の部品は [トリマコンデンサ] で、その右にあるのが [電気二重層コンデンサ] です。
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青色の部品は [タンタルコンデンサ] で、その右にあるのが [FUSE 抵抗] です。

再調整
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電源電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
JW88 |
+30V |
+31.0V |
〇 |
PLL |
JW89 |
+15V |
+15.1V |
〇 |
AUDIO |
JW145 |
-17V |
-17.8V |
〇 |
FL |
JW213 |
+13V |
+13.2V |
〇 |
DIGITAL |
JW220 |
+5.6V |
+5.69V |
〇 |
DIGITAL |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信部
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
64 |
70 |
dB |
NARROW |
35 |
35 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.010 |
% |
stereo |
0.024 |
% |
NARROW |
mono |
0.14 |
% |
stereo |
0.30 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-71 |
-73 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.26 |
dB |
CAL TONE 信号 |
WIDE |
mono |
445.3 |
Hz |
-5.0 |
dB |
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AM 受信部
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添付されていた純正でない [AM ループアンテナ] で最高感度になるよう調整しました。
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合わせ込みできるか心配していましたが、問題ありませんでした。
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このアンテナで合わせ込んだので、逆に [純正 AM ループアンテナ] にすると感度が落ちるので、ご注意ください。
使ってみました
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今回の修理の感想
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到着時はマトモに受信できないボロボロ状態でしたが、部品交換と再調整により新品時の性能と音質に蘇りました。
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全体的にゴールド基調のデザイン
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フロントパネルはアルミ材で、ヘアライン仕上げです。
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FM 受信
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感度も S/N も一級品です。
微弱電波もしっかり捉えます。
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解像度がある素晴らしい音。
現代の安物チューナーとは全く異次元の音です。
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AM 受信
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感度は良いです。
ループアンテナでしっかり入感します。