SONY ST-S333ESA (16号機) が到着
2024年2月25日、金沢市の K さんより
SONY ST-S333ESA
の修理依頼品が到着しました。
2023年12月31日に修理依頼があったのですが、翌日の2024年1月1日に
能登半島地震
が発生し、修理依頼者も被災されて修理開始が遅れたという曰く付きです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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FM/AM ともに周波数を合わせても受信できない。
シグナルインジケータは最低。
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なんとなくリモコンの受信範囲が狭い気がする。
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正面から 外れた位置でリモコン操作すると機能が切り替わらない。
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PURE CIRCUIT のLEDが消灯するので受信はできているような気がする。
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電波の強い学習リモコン [SONY RM-PLZ430Z] にリモコンコードをコピーして操作を試すが改善しない。
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外観
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製造シリアル番号は [201771] で、電源コードの製造マーキングより [1992年製造品] と判明しました。
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[純正 AM ループアンテナ] [純正リモコン RM-J300] の添付がありました。
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[フロントパネル] を正面から見ると綺麗ですが、天板への折り返し部分の3箇所ヘコミキズがあります。
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[リアパネル] [サイドウッド] [天板] [底板] は綺麗です。
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右サイドウッドの一番奥の一番上の化粧ツキ板が剥がれかけています。
今なら修復可能です。
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電源 ON にてチェック
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電源は問題なく入りました。
各ボタン操作は問題なく、ディスプレイの輝度は新品同様に明るいです。
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FM/AM とも全く受信できず、S メータの振れはゼロのままで、音が出ないです。
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[CAL TONE] ボタンを押すとテスト音は正常に出ます。
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カバーを開けてチェック
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基板に擦ってもなかなか取れないスス状の汚れがあります。
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上記以外は問題がなく、目視でわかる劣化部品は見当たりません。
リペア (その1):FM/AM とも全く受信できない
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調査
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[TUNING] ノブを回して周波数表示が変わるのに受信できない可能性の1つは、バリキャップに加圧する VT 電圧の異常です。
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VT 電圧を測定してみると、どの周波数でも +25V 程度で変化がありません。
これがおかしいです。
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PLL IC の [IC501] CX-7925B の背中に指を当てましたが熱を感じません。
この IC に電源電圧が印加されていないようです。
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更に調べると FUSE 抵抗 [R511] 断線とわかりました。
これが VT 電圧異常の原因です。
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[R511] を仮交換すると VT 電圧が受信周波数によって変化するようになりましたが、受信できない現象は変わりません。
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他にも故障している FUSE 抵抗がありそうです。
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FUSE 抵抗のチェック
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FUSE 抵抗は各回路の電源部に使われています。
この抵抗は劣化しやすいのが難点です。
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チェックしてみると、以下のように断線または断線寸前のものが多く、10Ω 以外は全て故障していました。
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こんなにボロボロと多くの FUSE 抵抗が切れたのは、過去に本機が高熱に晒されたことがあったと推測します。
アンプの上に乗せられていたとか。
| 回路 |
部品番号 |
標準値 (Ω) |
実測値 (Ω) |
判定 |
対策 |
| FM FRONT END |
R119 |
100 |
881 |
× |
100Ω 1/2W に交換 |
| WOIS |
R203 |
10 |
10.4 |
〇 |
|
| R207 |
10 |
10.1 |
〇 |
|
| R211 |
10 |
10.7 |
〇 |
|
| R227 |
10 |
10.8 |
〇 |
|
| IF |
R259 |
100 |
533 |
× |
100Ω 1/2W に交換 |
| DET |
R274 |
10 |
10.9 |
〇 |
|
| R279 |
220 |
438 |
× |
220Ω 1/2W に交換 |
| R292 |
100 |
814 |
× |
100Ω 1/2W に交換 |
| MPX |
R301 |
10 |
10.4 |
〇 |
|
| R327 |
47 |
260 |
× |
47Ω 1/2W に交換 |
| AM |
R403 |
220 |
断線 |
× |
220Ω 1/2W に交換 |
| R410 |
150 |
断線 |
× |
150Ω 1/2W に交換 |
| PLL |
R511 |
220 |
断線 |
× |
220Ω 1/2W に交換 |
| R516 |
180 |
断線 |
× |
180Ω 1/2W に交換 |
| CONTROL |
R626 |
47 |
225 |
× |
47Ω 1/2W に交換 |
| POWER SUPPLY |
R910 |
22 |
106 |
× |
22Ω 1/2W に交換 |
| R921 |
220 |
断線 |
× |
220Ω 1/2W に交換 |
| R931 |
220 |
断線 |
× |
220Ω 1W に交換 |
| JW87 |
10 |
10.4 |
〇 |
|
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修理
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部品代は安いのですが、交換するためには上の写真のように基板を取り外す必要があって、これが大きな手間です。
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ついでに、ST-S333ESA で劣化しやすい部品とハンダクラック補修も一緒に実施することにしました。
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[リペア (その2)]~[リペア (その4)] がその内容です。
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ここでは、上の表の [対策] に記入したように FUSE 抵抗を交換しました。
リペア (その2):[電気二重層コンデンサ] [タンタルコンデンサ] の交換
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概要
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[電気二重層コンデンサ] は電源 OFF 時のプリセット情報をバックアップします。
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[タンタルコンデンサ] は短絡事故が多く、別の種類のコンデンサに交換すると幸せになります。
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使われていたタンタルコンデンサの耐圧が 6.3V しかありません。
ここには 6V 近くの電圧がかかります。
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タンタルコンデンサは耐圧を超えた電圧がかかると簡単に内部短絡します。
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半世紀前に [人気者] だったタンタルコンデンサは、現在では短絡事故が多いことから [嫌われ者] になっています。
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換装する積層セラミックコンデンサはタンタルより ESR が低く高性能でやや高価な無極性コンデンサです。
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交換リスト
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以下のように部品交換します。
| 部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| C604 |
10uF/6.3V (タンタル) |
10uF/25V (積層セラミック) |
|
| C605 |
0.1F/5.5V |
1F/5.5V |
電気二重層コンデンサ |
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交換
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左の写真の小さな赤〇で囲んだのが [C604] で、大きな赤〇は [C605] です。
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右の写真は [C604] [C605] 交換後です。

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電気二重層コンデンサは 0.1F → 1F と10倍の容量になったので、10倍の10ヶ月メモリ保持できるかも?
リペア (その3):FM フロントエンドの [トリマコンデンサ] の交換
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概要
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[トリマコンデンサ] はハトメ構造になっており、経年変化でハトメ部分が接触不良になって容量抜けします。
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こうなると FM の感度が低下します。
少しずつ徐々に不良になっていくので気付くのが遅れます。
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ST-S333ES シリーズでは [トリマコンデンサ] の故障が散見されます。
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修理
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[トリマコンデンサ] ×3個を一斉交換しました。
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下の写真で、黄〇で囲んだのが交換前の [トリマコンデンサ] です。
左から [CT101] [CT102] [CT103] です。

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[RF トリマコンデンサ] 交換後です。
10pF セラミックトリマコンデンサを使いました。

リペア (その4):ハンダクラック補修
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概要
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ST-S333ES シリーズにはハンダクラックしやすい箇所があるという持病があります。
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基板上に細長い銅板が何枚も走っていますが、これはアースバーです。
電源ラインにも使っていますがアースバーと呼ぶ。
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アースバーの裏側のハンダ付け部分はハンンダクラックしやすいです。
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写真はリアパネルにある端子の基板へのハンダ付け部分で、ここがハンダクラックしやすいです。
赤〇で囲んだハンダ付け部です。

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修理
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8枚ある全ての [アースバー] のハンダ付け部を補修ハンダ付けしました。
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[FM アンテナ端子] [AM アンテナ端子] [RCA 出力端子] のハンダ付け部を補修ハンダ付けしました。
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補修ハンダ付けは、古いハンダを吸引して除去し、新しいハンダを付けるのが正しいやり方です。
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ここまでのリペアで部品交換が終わったので、組み立てて動作確認しました
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FM 受信
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トリマコンデンサを放送波で仮調整すると、
見事!受信して音が出ました!!!
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まだ問題があります。
S メータの振れがやや少なく、[STEREO] ランプが点灯しません。
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AM 受信
リペア (その5):S メータの振れがやや少なく、[STEREO] ランプが点灯しない
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原因
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同調点検出用 [IFT251] の故障です。
S カーブが出ていませんでした。
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[IFT251] の故障は内蔵チタコンの容量抜けです。
コンデンサを交換すれば直ります。
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修理
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左の写真で赤〇で囲んだ部品が [IFT251] です。
基板から取り外して内蔵チタコンを除去してから基板に戻しました。
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右の写真のように、チタコンの代わりに温度補償 30ppm/℃ 積層セラミックコンデンサ 100pF を基板裏側に取り付けました。

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修理後の動作確認
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S メータがビュ~ンと振れ、[STEREO] 表示が出ました。
音も良いです。
リペア (その6):その他
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フロントパネルの内側を清掃
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全体的な清掃と、特にリモコン受光部を無水アルコールで清掃しました。
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修理依頼者は [リモコンの効きが悪い] と言われていますが、特に故障はなかったです。
こんなものだと思っていただくしか ・・・
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サイドウッドの化粧ツキ板の剥がれ
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化粧ツキ板が剥がれている部分に木工ボンドを流し込んで再接着しました。
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交換した部品の記念写真
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右の写真は修理前に基板に実装されていた部品です。
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左から [FUSE 抵抗] [IFT251 内蔵チタコン] [トリマコンデンサ] [電気二重層コンデンサ] [タンタルコンデンサ] です。

再調整
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電源電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
| VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
| JW88 |
+30V |
+30.0V |
〇 |
PLL |
| JW89 |
+15V |
+14.9V |
〇 |
AUDIO |
| JW145 |
-17V |
-17.7V |
〇 |
FL |
| JW213 |
+13V |
+13.5V |
〇 |
DIGITAL |
| JW220 |
+5.6V |
+5.73V |
〇 |
DIGITAL |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信部
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大きな調整ズレはありませんでした。
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再調整でステレオセパレーションと高調波歪率が大きく改善して音が良くなりました。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
63 |
68 |
dB |
| NARROW |
52 |
59 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.0047 |
% |
| stereo |
0.0047 |
% |
| NARROW |
mono |
0.21 |
% |
| stereo |
0.21 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-69 |
-70 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
0 |
dB |
| CAL TONE 信号 |
WIDE |
mono |
409.1 |
Hz |
| -4.9 |
dB |
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AM 受信部
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[純正 AM ループアンテナ] で最高感度になるように調整しました。
使ってみました
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今回の修理の感想
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到着時の周波数表示は出るが音が出ない状態から、修理で音が出て本来の性能に蘇ってよかったです。
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全体的にゴールド基調のデザイン
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フロントパネルはアルミ材で、ヘアライン仕上げです。
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FM 受信
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感度も S/N も一級品です。
微弱電波もしっかり捉えます。
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解像度がある素晴らしい音。
現代の安物チューナーとは全く異次元の音です。
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AM 受信
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感度は良いです。
ループアンテナでしっかり入感します。