SONY ST-S333ESG (19号機) が到着
2024年5月4日、大分県玖珠郡の T さんより
SONY ST-S333ESG
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
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依頼者のコメント
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ヤフオクで購入しましたが、うまく受信できません。
コンデンサが液漏れしているようです。
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外観
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製造シリアル番号は [203309] で、電源コードの製造マーキングより [1989年製造品] とわかりました。
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[純正 AM ループアンテナ] は添付されていませんでした。
左右のサイドウッドはありません。
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[TUNING] ノブの外側にスレが多いです。
ちょっと目立つかも。
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天板の手前左側が沈んでいます。
おそらく何か重いものが乗っていたか当たったかと思います。
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天板の歪はかなり大きく、ネジ留めもできるギリギリの位置までズレています。
手直しは難しいです。
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上記以外は新品に見えるほど綺麗です。
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電源 ON にてチェック
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電源が入り、ディスプレイは新品同様の明るさ、操作ボタンの反応は正常です。
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FM 受信
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S メータがそこそこ振れ、オートチューニングで正しい周波数でストップしますが、肝心の音が出ません。
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[STEREO] 表示も出ません。
[CAL TONE] = ON でテスト音が正常に出ます。
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AM 受信
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AM ループアンテナの添付がなかったので、[SONY ST-SA5ES 純正 AM ループアンテナ] を接続してチェックしました。
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感度は良く特に問題はなく、音もちゃんと出ます。
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カバーを開けてチェック
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内部は非常に綺麗です。
目視で劣化とわかる部品はなさそうです。
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修理依頼者より「コンデンサが液漏れしている」と聞いていましたが、電解コンデンサに液漏れは見当たりません。
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[C907] 1000uF/63V の周りに白いものが見えますが、これは電解コンデンサを固定するための接着剤で、液漏れではありません。
リペア (その1):FM 受信時に音が出ない
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調査と原因
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右の写真に細長い銅板が走っていますが、これはアースバーです。
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縦に3本平行に走っているアースバーを触れると、ディスプレイが消えたりと動作が不安定です。
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アースバーがハンダクラックしています。
まずは、これが故障の要因です。
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アースが浮いてしまうと、PLL 検波回路に過電圧がかかります。
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そうして、PLL 検波回路にあるツェナーダイオードが故障するのです。
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下は PLL 検波部の回路図です。
赤〇で囲んだツェナーダイオードが2本とも故障していました。

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修理
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まずはハンダクラックを直さないとツェナーダイオードを交換してもまた壊れてしまいます。
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基板に8本走っているアースバーのハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
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更に念のため、PLL 検波回路の GND を右の写真のジャンパー線を飛ばして補強しました。
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こうすると、たとえハンダクラックしてもツェナーダイオードは生き残ります。
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最後に故障した2本のツェナーダイオードを交換して直りました。
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ちなみに故障したツェナーダイオードは低い抵抗に変身していました。
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以下は交換リストです。
| 部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| D273 |
UZL-6L2 |
GDZ6.2B (6.2V/0.5W) |
ツェナーダイオード |
| D274 |
UZL-6L2 |
GDZ6.2B (6.2V/0.5W) |
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修理後に動作確認
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バッチリ [STEREO] 表示が出て FM が綺麗な音で受信できました!
リペア (その2):[電気二重層コンデンサ] [タンタルコンデンサ] の交換
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概要
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[電気二重層コンデンサ] は電源 OFF 時のプリセット情報をバックアップします。
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製造後35年を経過しているので、このコンデンサもそろそろ寿命です。
交換したほうが幸せになります。
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[タンタルコンデンサ] は短絡事故が多く、別の種類のコンデンサに交換すると幸せになります。
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使われていたタンタルコンデンサの耐圧が 6.3V しかありません。
ここには 6V 近くの電圧がかかります。
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タンタルコンデンサは耐圧を超えた電圧がかかると簡単に内部短絡します。
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半世紀前に [人気者] だったタンタルコンデンサは、現在では短絡事故が多いことから [嫌われ者] になっています。
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換装する積層セラミックコンデンサはタンタルより ESR が低く高性能でやや高価な無極性コンデンサです。
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交換
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左の写真で、小さな赤〇で囲んだのが [C604]、大きな赤〇で囲んだのが [C605] の交換後です。
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右の写真は交換前に基板に実装されていた [C605] [C604] です。

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以下は交換リストです。
| 部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| C604 |
10uF/6.3V (タンタル) |
10uF/25V (積層セラミック) |
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| C605 |
0.33F/5.5V |
1F/5.5V |
電気二重層コンデンサ |
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電気二重層コンデンサはオリジナルの 0.1F → 1F と10倍の容量になったので、10倍の10ヶ月メモリ保持できるかも?
リペア (その3):ハンダクラック補修
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ハンダクラック状況の観察
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[リペア (その1)] で [アースバー] ハンダクラック補修済なので、残るはリアパネルの端子のハンダ付け部分です。
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写真はリアパネルにある端子の裏側です。
端子のリードが基板に直接ハンダ付けされています。
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[FM ANTENNA (A/B)] [OUTPUT] 端子のハンダ付け部分で見事にハンダクラックしていました。
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このハンダ付け部分には [リアパネル] [基板] の2方向から常にストレスを受けるのでハンダクラックしやすいのです。

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修理 (補修)
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[FM ANTENNA (A/B)] [AM ANTENNA] [OUTPUT] 端子のリードのハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
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補修ハンダ付けは、古いハンダを吸引して除去し、新しいハンダを付けるのが正しいやり方です。
再調整
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電源電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好です。
| VP |
表示電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
| JW88 |
+30V |
+31.2V |
〇 |
PLL |
| JW89 |
+15V |
+15.0V |
〇 |
AUDIO |
| JW145 |
-17V |
-17.3V |
〇 |
FL |
| JW213 |
+13V |
+13.5V |
〇 |
DIGITAL |
| JW220 |
+5V |
+5.70V |
〇 |
DIGITAL |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信部
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同調点調整が少しズレていました。
フロントエンドのトラッキング調整で感度アップしました。
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ステレオセパレーションと高調波歪率はかなり改善して、音の解像度が良くなりました。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
67 |
70 |
dB |
| NARROW |
34 |
39 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.023 |
% |
| stereo |
0.044 |
% |
| NARROW |
mono |
0.24 |
% |
| stereo |
0.24 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-72 |
-73 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
+0.01 |
dB |
| CAL TONE 信号 |
WIDE |
mono |
398.4 |
Hz |
| -6.5 |
dB |
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AM 受信部
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[AM ループアンテナ] が添付されておらず、RF 調整はできないので、IF 調整だけしました。
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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到着時には音が出なかったのですが、完全に直って良い音に蘇って良かったです。
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手持ちの [RM-J300] 専用リモコンでの操作も良好でした。
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ワイド FM 対応クリコン
でのワイド FM 受信も良好でした。
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ST-S333ESG はアンテナ端子が2つあるので、ワイド FM 受信に便利です。
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全体的にブラック基調のデザイン
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SONY デザインはやはり格好イイです。
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デザインが良くて性能も良い、持つべき価値があります。
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フロントパネルはアルミ材で、ヘアライン仕上げです。
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FM 受信
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感度も S/N も一級品です。
微弱電波もしっかり捉えます。
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解像度がある素晴らしい音。
現代の安物チューナーとは全く異次元の音です。
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AM 受信
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感度は良いです。
ループアンテナでしっかり入感します。