SONY ST-S333ESG (23号機)

SONY ST-S333ESG (23号機) が到着

2025年10月13日、岡山県井原市の A さんから SONY ST-S333ESG の修理依頼品が到着しました。

---

程度＆動作チェック

1. 修理依頼者のコメント
   
   
   • ハードオフで3年前くらいに購入しました。
     
     
   • 電源ボタンと連動して中のリレーの「カチ、カチ」という音は聞こえますが、音声は出ないです。
     
     
   • AM 純正アンテナは持っていないので、純正アンテナを持っていたら、それで調整お願い致します。
     
     
2. 外観
   
   
   • 製造シリアル番号は [201260] で、電源コードの製造マーキングより [1989年製造品] とわかりました。
     
     
   • [AM ループアンテナ] [リモコン] の添付はありませんでした。
     
     
   • 汚れはありますが致命的なダメージはなく、サイドウッドを含めて外観はまずまず良い状態です。
     
     
   • [TUNING] ノブが固着しており動きが非常に重いです。 リアパネルの端子類に少しサビが出ています。
     
     
3. 電源 ON してチェック
   
   
   • [POWER] ボタンを押しても FL 表示器が真っ暗で全く動作していないようです。
     
     
   • ここでの動作チェックはこれ以上できません。
     
     
4. カバーを開けてチェック
   
   
   • 基板全体に綿ボコリが薄っすらと堆積しています。
     
     
   • [C605] 電気二重層コンデンサのトップ部分に液漏れ跡があります。 この部品は交換が必要です。
     
     
   • [C605] 以外に目視でチェックして基板上に明らかに劣化とわかる部品は見当たりません。
     
     
   • [POWER] スイッチ ON にしたまま基板を軽くハンマリングしたところ、突然、表示器に表示が出て動作し始めました。
     
     
     • 再度ハンマリングすると表示器が真っ黒になったり、また点いたりと不安定です。 どこかでハンダクラックしています。
       
       
     • 表示器が ON になった時は、FM/AM とも受信できて音も出ました。 FM では [STEREO] 表示も出ました。
       
       

---

リペア (その1)：ハンダクラック対策

1. 本機が到着した時点では [POWER] スイッチを ON にしても電源が入らなかった
   
   
   • 電源部近くのアースバーを手で少し押さえると電源が入ったり・切れたりしました。
     
     
   • このことより、原因はアースバーのハンダクラックです。
     
     
2. 概要
   
   
   • ST-S333ES シリーズにはハンダクラックしやすい箇所があるという持病があります。
     
     
   • 1つはリアパネルの端子類のハンダ付け部分です。 (左の写真)
     
     
     • 赤□で囲んだのは RCA 端子、黄□で囲んだのは FM/AM アンテナ端子です。
       
       
     • ここは [リアパネル] [基板] の2方向から常にストレスを受けるのでハンダクラックしやすいのです。
       
       
   • もう1つはアースバーのハンダ付け部分です。 (右の写真)
     
     
     • 基板に細長い銅板が7枚走っていますが、これがアースバーです。
       
       
     • ここもハンンダクラックしやすいです。 なぜなら、基板とアースバーの熱膨張率が違うからです。
       
       
     • 本機ではここがハンダクラックして電源供給が不安定になっていました。
       
       
     　
     
     
3. 修理
   
   
   • リアパネルにある [FM アンテナ端子] [AM アンテナ端子] [RCA 出力端子] のハンダ付け部を補修ハンダ付けしました。
     
     
   • 7本あるアースバーのハンダ付け部 (全部で数10箇所ある) を補修ハンダ付けしました。
     
     
4. 修理後の動作確認
   
   
   • [アースバー] を揺すっても電源が切れたり動作が不安定にならないことを確認しました。
     
     
   • [FM/AM アンテナ端子] [RCA 出力端子] を揺すっても音が途切れるなどの不具合が出ないことを確認しました。
     
     

---

電源が入るようになったので、再度動作チェック

1. 全体の動作
   
   
   • [POWER] スイッチを ON/OFF することでディスプレイの表示も ON/OFF します。 正常になりました。
     
     
   • ディスプレイの輝度は明るく問題ありません。 ノブやボタン操作の反応も正常です。
     
     
2. FM 受信
   
   
   • (筆者の環境で) [S メータ] の振れが 80% くらいで、やや感度落ちしています。
     
     
   • [S メータ] が振れ [STEREO] ランプが点灯し綺麗な音が出ました。
     
     
   • プリセット保存してからプリセット選択状態で電源 OFF して、次に電源 ON した時に周波数表示がデタラメになります。
     
     
     • プリセットコールした放送自体は正常に受信できており、周波数表示だけの問題です。 何かおかしいです。
       
       
3. AM 受信
   
   
   • [AM ループアンテナ] の添付がなかったので、筆者手持ちの [ST-SA5ES 純正 AM ループアンテナ] をつないでチェックしました。
     
     
   • [S メータ] が大きく振れ感度良く放送が受信できました。 このアンテナとの相性は良さそうです。
     
     
   • プリセット保存してからプリセット選択状態で電源 OFF して、次に電源 ON した時に周波数表示がデタラメになります。
     
     
     • プリセットコールした放送自体は正常に受信できており、周波数表示だけの問題です。 何かおかしいです。
       
       

---

リペア (その2)：FM で感度落ちしている

1. 調査と原因
   
   
   • FM フロントエンドには3個の RF トリマコンデンサが使われています。
     
     
   • FM 放送受信中にこれらの RF トリマコンデンサを回してみると3個とも反応が悪く不安定でした。
     
     
   • RF トリマコンデンサの劣化が感度落ちの原因です。
     
     
2. 修理
   
   
   • トリマコンデンサを3個とも交換しました。
     
     
     • 左の写真が交換後で、赤〇で囲んだのがトリマコンデンサです。
       
       
     • 右の写真はこれまで基板に実装されていた故障したトリマコンデンサです。 底部のハトメ部分が接触不良になるのです。
       
       
     　
     
     
3. 修理後の動作チェック
   
   
   • 新しいトリマコンデンサを調整したら S メータの振れがビューンと上がり、(筆者の環境で) フルになりました。
     
     

---

リペア (その3)：プリセットメモリバックアップ用の電気二重層コンデンサなど交換

1. 概要
   
   
   • [電気二重層コンデンサ] は電源 OFF 時のプリセット情報をバックアップします。
     
     
     • 本機の [電気二重層コンデンサ] は液漏れしているので、交換が必須です。
       
       
   • ついでに短絡事故が多い [タンタルコンデンサ] も別の種類のコンデンサに交換します。
     
     
     • 使われていたタンタルコンデンサの耐圧が 6.3V しかありません。 ここには 6V 近くの電圧がかかります。
       
       
     • タンタルコンデンサは耐圧を超えた電圧がかかると簡単に内部短絡します。
       
       
     • 半世紀前に [人気者] だったタンタルコンデンサは、現在では短絡事故が多いことから [嫌われ者] になっています。
       
       
     • 換装する積層セラミックコンデンサはタンタルより ESR が低く高性能でやや高価な無極性コンデンサです。
       
       
2. 修理
   
   
   • 部品交換リストは以下です。
     
     

     部品番号	交換前	交換後	備考
     C604	10uF/6.3V (タンタル)	10uF/25V (積層セラミック)
     C605	0.1F/5.5V	1F/5.5V	電気二重層コンデンサ

     
     
   • 左の写真は交換後で、小さな赤〇で囲んだのが [C604]、大きな赤〇で囲んだのが [C605] です。
     
     
   • 右の写真は交換前に基板に実装されていた古い [C605] [C604] です。
     
     
     • この写真の左側は [C605] ですが、トップの部分が液漏れで砂状にサビています。
       
       
     　
     
     
3. 修理後の動作チェック
   
   
   • 正常にプリセット保存でき、読み出しもできることを確認しました。
     
     
   • プリセット保存してからプリセット選択状態で電源 OFF→ON した時に周波数表示がデタラメになる不具合も直りました。
     
     
     • どうやら、[C605] 電気二重層コンデンサが中途半端に故障して規定電圧が出なかったためと思われます。
       
       
     • 直ったので、これ以上の追究はしません。
       
       
4. コメント
   
   
   • 電気二重層コンデンサはオリジナルの 0.1F → 1F と10倍の容量になったので、10倍の10ヶ月メモリ保持できるかも？
     
     
     • 実際には自己放電もあるので数ヶ月でしょう。
       
       
   • また、メモリ保持時間の試験は難しいのです。
     
     
     • 例えば1ヶ月だったら電源 OFF して1ヶ月後に ON にしてのチェックは現実的に無理です。 あくまで期待値です。
       
       

---

リペア (その4)：電源回路の電圧異常

1. 概要
   
   
   • 問題なく動作するようになったので再調整フェーズに入りました。
     
     
   • 最初に電源回路からの出力電圧を測定しますが、下のように [-17V] が規定を外れていました。
     
     
     • この電圧はディスプレイの FLD に影響します。
       
       

     VP	表示電圧	実測電圧	判定	備考
     JW88	+30V	+30.9V	〇	PLL
     JW89	+15V	+14.9V	〇	AUDIO
     JW145	-17V	-11.5V	×	FL
     JW213	+13V	+13.4V	〇	DIGITAL
     JW220	+5V	+5.58V	〇	DIGITAL

     
     
2. 調査と原因
   
   
   • 下の回路は -17V 電圧出力回路です。
     
     
   • 赤〇で囲んだ [R931] 200Ω は FUSE 抵抗です。 これが断線しかかって抵抗値が高くなったのが原因です。
     
     
   • FUSE 抵抗は正常に使っていても経年変化しやすい不安定な抵抗です。
     
     
     
     
3. 修理
   
   
   • 部品交換リストは以下です。
     
     

     部品番号	交換前	交換後	備考
     R931	200Ω/1W (FUSE 抵抗)	220Ω/1W (金属皮膜)	交換品を 220Ω にしたのは トランジスタ [Q931] の発熱を軽減するため

     
     
   • 左の写真は交換後で、赤〇で囲んだのが [R931] です。
     
     
     • FUSE 抵抗ではなく金属皮膜抵抗にしました。 高級タイプを使ったのでサイズは 1/4W 型と同じです。
       
       
     • サイズが小さくなったので風通しが良くなり信頼性が上がりました。
       
       
   • 右の写真は交換前に基板に実装されていた古い [R931] です。
     
     
     • 200Ω のはずが 1.5kΩ に劣化し断線寸前でした。 不具合が見つかってよかったです。
       
       
     　
     
     
4. 修理後の動作チェック
   
   
   • [-17V] の電圧が規定内になり正常になりました。
     
     
   • ディスプレイの輝度は [明るく問題ない]→[新品同様の明るさ] に蘇りました！！！
     
     
5. コメント
   
   
   • 修理依頼者にとってはラッキーかもしれません。
     
     
   • なぜなら [R931] が劣化故障して FLD の輝度が抑えられていたので、逆に言うと FLD の劣化が抑えられていたからです。
     
     

---

リペア (その5)：その他

1. 基板全体に綿ボコリが薄っすらと堆積している
   
   
   • エアブロアと刷毛を使って清掃して、そこそこ綺麗になりました。
     
     
   • 基板には既に部品が乗っているので完全にホコリを除去するのは無理です。
     
     
2. [TUNING] ノブが固着している
   
   
   • グリスが経年変化で硬くなったのが原因です。
     
     
   • ノブ軸の隙間から無水アルコールを流し込み硬くなったグリスを溶解しました。
     
     
   • 最後にマシンオイルをノブ軸に注油して直りました。
     
     
3. RCA 端子にサビがある
   
   
   • ピカール液 でマイクロ研磨してピカピカになりました。
     
     
4. [フロントパネル] [リアパネル] [サイドウッド] のクリーニング
   
   
   • 文字のない部分は無水アルコールでクリーニングしました。
     
     
   • 文字のある部分は リンレイ NEW プロインパクト中性 でクリーニングしました。
     
     
   • クリーニングで、かなりマシになりました。
     
     

---

再調整

1. 電源電圧チェック (VP)
   
   
   • 電源回路の修理を終えた実測値は以下のように良好です。
     
     

     VP	表示電圧	実測電圧	判定	備考
     JW88	+30V	+30.9V	〇	PLL
     JW89	+15V	+14.9V	〇	AUDIO
     JW145	-17V	-16.9V	〇	FL
     JW213	+13V	+13.4V	〇	DIGITAL
     JW220	+5V	+5.58V	〇	DIGITAL

     
     
2. FM/AM 受信部の調整
   
   
   • ST-S333ESG (1号機) に記載の調整手順にて再調整しました。
     
     
3. 調整結果
   
   
   • FM 受信部
     
     
     • 同調点検出電圧がズレていました。 再調整で規定内に入りました。
       
       
     • フロントエンドのトリマコンデンサを全数交換したので、トラッキング調整をやり直しました。
       
       
     • PLL 検波で大きな調整ズレがありました。 再調整で規定内に入りました。
       
       
     • 再調整でステレオセパレーションと高調波歪率が改善して音の解像度が良くなりました。
       
       

     項目	IF BAND	stereo/mono	L	R	単位
     ステレオセパレーション (1kHz)	WIDE	stereo	67	70	dB
     	NARROW		50	47	dB
     高調波歪率 (1kHz)	WIDE	mono	0.020		%
     		stereo	0.041		%
     	NARROW	mono	0.24		%
     		stereo	0.24		%
     パイロット信号キャリアリーク	WIDE	stereo	-73	-73	dB
     オーディオ出力レベル偏差 (1kHz)	WIDE	mono	0	0	dB
     CAL TONE 信号	WIDE	mono	469		Hz
     			-5.8		dB

     
     
   • AM 受信部
     
     
     • 相性の良い [ST-SA5ES 純正 AM ループアンテナ] に合わせ込み、感度が大きく上がりました。
       
       
     • 残念ながら AM 放送は2028年に終了 します。
       
       
       • ワイド FM 対応クリコン を製作すれば AM 放送をワイド FM で受信できます。
         
         
       • ST-S333ESG はアンテナ端子が2つあるので、ワイド FM 受信に便利です。
         
         

---

使ってみました

1. 修理＆再調整が終わって
   
   
   • 本機はあちこち複数故障していて手間と時間がかかりました。
     
     
     • 通常、複数同時に故障しているのは稀で、そういう意味からは酷い状態でした。
       
       
     • 特に再調整に入ってから新たな不具合が見つかり手戻りがあって疲れました。
       
       
   • FLD 表示器電源電圧が故障していたことが逆に幸いしディスプレイの輝度は新品同様になりました。
     
     
   • 終わってみると素晴らしい音 ・・・ 癒されました。
     
     
2. 全体的にブラック基調のデザイン
   
   
   • SONY デザインはやはり格好イイです。
     
     
   • デザインが良くて性能も良い、持つべき価値があります。
     
     
   • フロントパネルはアルミ材で、ヘアライン仕上げです。
     
     
3. FM 受信
   
   
   • 感度も S/N も一級品です。 微弱電波もしっかり捉えます。
     
     
   • 解像度がある素晴らしい音。 現在売られているチューナ (値段は高級機並み) とは全く異次元の音です。
     
     
4. AM 受信
   
   
   • 感度は良いです。 ループアンテナでしっかり入感します。
     
     

---