SONY ST-SA5ES (11号機) が到着!
2024年6月28日、名古屋市の H さんより
SONY ST-SA5ES
の修理依頼品が到着しました。
到着時はステレオになりませんでしたが、修理して直りました。
ステレオで聴けるチューナはイイのぉ〜
程度&動作チェック
-
修理依頼者のコメント
-
音は出るのですが、STEREO ランプが点滅して非常に聞き辛い状態です。
-
外観
-
製造シリアル番号は [253964] で、電源コードの製造マーキングより [1996年製造品] とわかりました。
-
別途買ったという [AM ループアンテナ] の添付があり、これは純正と思ってよいものです。
-
綺麗な状態で、特に指摘するような問題はありません。
-
電源 ON してチェック
-
電源は正常に入り、FL 表示器の輝度は新品同様です。
ボタン操作に問題はなく良好です。
-
FM 受信
-
S メータは十分振れて音が出ますが、[STEREO] 表示が出ずモノラルでしか受信できません。
-
時々 [STEREO] 表示がチラ点いて同時にザッザッというような雑音が出ます。
-
AM 受信
-
添付された [AM ループアンテナ] を接続してチェックしました。
-
ちゃんと受信して感度も良いです。
特に問題なさそうです。
-
カバーを開けてチェック
-
内部の基板は非常に綺麗です。
目視で劣化とわかる部品は見当たりません。
-
FM 放送波で同調点を仮調整したら、ちゃんと S カーブが出ました。
-
同調点は問題ないのに [STEREO] にならないです。
さて、何が問題だろう?
リペア (その1):FM で [STEREO] 表示が出ない
-
調査と原因
-
考えられる要因は [同調点ズレ] か [PLL 検波回路] [MPX 回路] 故障で、切り分けしたところ、[MPX 回路] 故障とわかりました。
-
更に調べると [MPX 回路] の VCO が発振していないとわかりました。
-
最終的に [CF301] 456kHz セラロックの故障が原因と判明しました。
-
修理
-
左の写真は赤〇で囲んだセラロックを交換後です。
上のほうにある黒い CXA1064 が MPX IC です。
-
右の写真は故障していたセラロックで、DMM で測ると 2.4kΩ の抵抗に変身していました。
正常なら抵抗値は∞のはず。
-
交換後の動作チェックで [STEREO] 表示が出て、実際の音もステレオになっていることを確認しました。
直りました!
リペア (その2):[電気二重層コンデンサ] [タンタルコンデンサ] 予防交換
-
概要
-
[電気二重層コンデンサ] は電源消失時にプリセットメモリの記憶を一定期間保持します。
-
[電気二重層コンデンサ] には寿命があるので予防交換しますが、ついでに [タンタルコンデンサ] も交換します。
-
[タンタルコンデンサ] は短絡事故が多く、別の種類のコンデンサに交換すると幸せになります。
-
使われていたタンタルコンデンサの耐圧が 6.3V しかありません。
ここには 6V 近くの電圧がかかります。
-
タンタルコンデンサは耐圧を超えた電圧がかかると簡単に内部短絡します。
-
半世紀前に [人気者] だったタンタルコンデンサは、現在では短絡事故が多いことから [嫌われ者] になっています。
-
換装する積層セラミックコンデンサはタンタルより ESR が低く高性能でやや高価な無極性コンデンサです。
-
修理 (予防交換)
-
交換リスト
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C437 |
10uF/6.3V (タンタル) |
10uF/25V (積層セラミック) |
|
C604 |
10uF/6.3V (タンタル) |
10uF/25V (積層セラミック) |
|
C605 |
0.1F/5.5V |
1F/5.5V |
電気二重層コンデンサ |
-
左の写真は交換後です。
大きな赤〇が [C605]、その下が [C604] です。
残る1つは [C437] です。
-
右の写真は交換前に基板に実装されていた [C605] [C604] [C437] です。
-
電気二重層コンデンサは 0.1F → 1F と10倍の容量になったので、10倍の10ヶ月プリセットメモリを保持できるかも?
リペア (その3):ハンダクラックの観察と補修
-
ハンダクラックの観察
-
左の写真の RCA 端子がハンダクラック気味になっていました。
-
リアパネルにある端子のリードは基板に直接ハンダ付けされています。
-
このハンダ付け部分には [リアパネル] [基板] の2方向から常にストレスを受けるのでハンダクラックしやすいです。
-
写真はこれらの端子のリードを裏側から眺めたものですが、長〜いリードで、いかにもハンダクラックに弱そうです。
-
右の写真のように、基板に細長い銅板が走っていますが、これがアースバーです。
-
ハンダクラックは見られませんでしたが、ここも [基板] から常にストレスを受けるのでハンダクラックしやすいです。
-
修理 (ハンダクラック補修)
-
[FM ANTENNA (A/B)] [AM ANTENNA] [OUTPUT] 端子のリードのハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
-
[アースバー] のハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
再調整
-
電圧チェック (VP)
-
実測値は以下のように正常でした。
VP |
表示電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
JW88 |
+30V |
+31.2V |
〇 |
PLL |
JW89 |
+15V |
+14.8V |
〇 |
AUDIO |
JW145 |
-17V |
-17.7V |
〇 |
FL |
JW213 |
+13V |
+13.1V |
〇 |
DIGITAL |
JW220 |
+5V |
+5.61V |
〇 |
DIGITAL |
-
FM/AM 受信部の調整
-
再調整結果
-
FM 受信部
-
[PLL 検波] で大きめの調整ズレがありました。
再調整で全て規定内に入りました。
-
[WOIS] の IF 歪補正で調整ズレがありましたが、再調整で高調波歪率が改善しました。
-
ステレオセパレーションは大きく改善し、素晴らしい音になりました。
項目 |
IF BAND |
stero/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
60 |
65 |
dB |
NARROW |
55 |
58 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.034 |
% |
stereo |
0.034 |
% |
NARROW |
mono |
0.15 |
% |
stereo |
0.15 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-69 |
-70 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
0 |
dB |
CAL TONE |
WIDE |
mono |
445.3 |
Hz |
-5.8 |
dB |
-
AM 受信部
-
添付された [AM ループアンテナ] で最高性能になるよう調整しました。
-
AM の場合はループアンテナも同調回路の一部なので、別のループアンテナに変えると感度が落ちます。
使ってみました
-
修理&再調整が終わって
-
ステレオにならないチューナって困り者ですよね。
原因がわかって修理できてよかったです。
-
修理と再調整により、本来の素晴らしい性能が蘇りました。
-
ワイド FM 対応クリコン
を製作すればワイド FM 受信ができます。
-
ST-SA5ES はアンテナ端子が2つあるので、ワイド FM 受信に便利です。
-
現在の AM 放送は2028年にほぼ消滅するので今から準備するのが吉です。
-
手持ちの [RM-J301] 専用リモコンでの操作も良好でした。
-
デザイン
-
素晴らしい精悍なデザインで高級感あります。
-
サイドウッドの代わりにアルミ製のサイドパネルがあって、これがイイです。
-
(C リングパネルがないので) 直接的で軽快なボタン操作ができます。
-
感度と音質
-
FM の感度は抜群に良く、S/N が良いです。
細かい音がよく聴けます。
艶っぽい音がします。
-
AM の感度も抜群に良く、S/N も良いです。
AM としては音質も良く、放送を楽しめます。