SONY ST-SA5ES (13号機) が到着!
2025年9月18日、東京都練馬区の N さんより
SONY ST-SA5ES
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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-0.1MHz の同調ズレがあります。
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ステレオセパレーションが著しく悪くモノ的に聴こえます。
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「サ行」に雑音が入ることがあります。
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外観
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製造シリアル番号は [253123] で、電源コードの製造マーキングより [1996年製造品] とわかりました。
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純正ではない [AM ループアンテナ] とリモコン [RM-J301] が添付されていました。
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天板周辺に少しスレがありますが、全体としては綺麗な状態で、特に指摘するような問題はありません。
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電源 ON してチェック
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電源が入りましたが、FLD 表示器の輝度がかなり低いです。
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[DISPLAY MODE] ボタン操作で一時的に明るくなることより、FLD の問題ではなく表示回路の問題と思います。
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ボタン操作に問題はなく良好です。
[CAL TONE] ボタンで正常なテスト音が出ます。
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添付されたリモコン [RM-J301] で正常に操作ができました。
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FM 受信
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S メータの振れは 80% 程度でやや感度落ちしています。
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音は出ますが、[STEREO] 表示が出ずステレオになっていません。
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AM 受信
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添付された純正でない [AM ループアンテナ] で受信できましたが、感度が悪いです。
このアンテナとの相性は悪いです。
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手持ちの [ST-SA5ES 純正 AM ループアンテナ] で非常に感度良く受信できました。
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あまりにも感度が違うので添付された純正でない [AM ループアンテナ] で調整を合わせ込むのは危険です。
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カバーを開けてチェック
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内部の基板には綿ボコリが、部品が見えないほどではありませんが全体的に堆積しています。
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基板には目視で明らかに劣化とわかる部品は見当たりません。
リペア (その1):FLD 表示器の輝度がかなり低い
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調査と原因
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現象より電源回路の不具合を疑いました。
以下は電源回路の出力電圧の測定結果です。
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[-17V] 電圧が異常です。
この電圧は FLD への電源なので、これが要因です。
| VP |
表示電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
| JW88 |
+30V |
+30.9V |
〇 |
PLL |
| JW89 |
+15V |
+14.9V |
〇 |
AUDIO |
| JW145 |
-17V |
-7.84V AC9V のリップルが乗っている |
× |
FL |
| JW213 |
+13V |
+13.1V |
〇 |
DIGITAL |
| JW220 |
+5V |
+5.64V |
〇 |
DIGITAL |
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下の回路図は [+30V] [-17V] 電源回路です。
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赤〇で囲んだ [C932] 330uF/50V が容量抜けしていました。
これが原因です。

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修理
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故障したのは [C932] ですが、近くの [C922] も念のため一緒に交換しました。
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回路図では青〇で囲んだ部品です。
ELNA STARGET だったので、交換品もオーディオクラス品 (FG) にしました。
| 部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| C922 |
330uF/50V (85℃) |
330uF/50V (FG) |
オーディオクラス電解コンデンサ |
| C932 |
330uF/50V (85℃) |
330uF/63V (105℃) |
高耐圧・高耐熱電解コンデンサにした |
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左の写真は部品交換後で黄□で囲んだ部品です。
右の写真はこれまで基板に実装されていた故障した部品です。

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修理後の動作チェック
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FLD 表示が明るくなりました。
[DISPLAY MODE] ボタンを操作しても明るいままです。
直りました!
リペア (その2):ハンダクラックの補修
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調査
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基板を取り外してハンダクラックしているかルーペで拡大して目視でチェックしました。
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6本あるアースバーの全てで複数個所にハッキリとわかるハンダクラックがありました。
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15箇所以上のハンダクラックが確認できました。
ボロボロです。
かなり深刻な状態です。
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アースバーは電源&GND ラインに使っているので振動で電源が切れたり、GND が浮いたりします。
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最悪、ダイオードや IC などが故障します。
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リアパネルに並ぶ端子類 [FM アンテナ] [AM アンテナ] [RCA] の全てのリードがハンダクラックしていました。

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修理
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[アースバー] のハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
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[FM ANTENNA (A/B)] [AM ANTENNA] [OUTPUT] 端子のリードのハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
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修理後の動作チェック
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アースバーや端子類をハンマリング試験して、動作異常や音が途切れるなどの事象が発生しないことを確認しました。
リペア (その3):FM で感度落ちしている
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調査と原因
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FM フロントエンドの RF トリマコンデンサ [CT101] [CT102] [CT103] のどれを回しても容量変化がありません。
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RF トリマコンデンサが3個とも故障しています。
これが感度落ちの原因です。
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修理
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[トリマコンデンサ] ×3個を一斉交換しました。
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左の写真は交換後で、赤〇で囲んだ部品がトリマコンデンサです。
10pF セラミックトリマコンデンサにしました。
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右の写真はこれまで基板に実装されていた故障したトリマコンデンサです。
底部にあるハトメ部分がサビて接触不良になるのです。

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修理後の動作確認
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交換したトリマコンデンサを再調整して (筆者の環境では) S メータがフルに振れるようになりました。
直りました!!!
リペア (その4):[電気二重層コンデンサ] [タンタルコンデンサ] 予防交換
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概要
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[電気二重層コンデンサ] は電源消失時にプリセットメモリの記憶を一定期間保持します。
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[電気二重層コンデンサ] には寿命があるので予防交換しますが、ついでに [タンタルコンデンサ] も交換します。
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[タンタルコンデンサ] は短絡事故が多く、別の種類のコンデンサに交換すると幸せになります。
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使われていたタンタルコンデンサの耐圧が 6.3V しかありません。
ここには 6V 近くの電圧がかかります。
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タンタルコンデンサは耐圧を超えた電圧がかかると簡単に内部短絡します。
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半世紀前に [人気者] だったタンタルコンデンサは、現在では短絡事故が多いことから [嫌われ者] になっています。
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換装する積層セラミックコンデンサはタンタルより ESR が低く高性能でやや高価な無極性コンデンサです。
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修理 (予防交換)
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交換リスト
| 部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| C437 |
10uF/6.3V (タンタル) |
10uF/25V (積層セラミック) |
|
| C604 |
10uF/6.3V (タンタル) |
10uF/25V (積層セラミック) |
|
| C605 |
0.1F/5.5V |
1F/5.5V |
電気二重層コンデンサ |
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左の写真は交換後です。
大きな黄〇が [C605]、その下が [C604] です。
残る1つは [C437] です。
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右の写真は交換前に基板に実装されていた [C605] [C604] [C437] です。

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電気二重層コンデンサは 0.1F → 1F と10倍の容量になったので、10倍の10ヶ月プリセットメモリを保持できるかも?
リペア (その5):その他
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基板に綿ボコリが堆積している
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実はこの作業を一番最初にやりました。
エアブロアと刷毛で軽く清掃してマシになりました。
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FM 受信で [STEREO] 表示が出ない
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同調点ズレが原因でした。
後述の「再調整」で直りました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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電源回路を修理したので、実測値は以下のように良好でした。
| VP |
表示電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
| JW88 |
+30V |
+30.9V |
〇 |
PLL |
| JW89 |
+15V |
+14.9V |
〇 |
AUDIO |
| JW145 |
-17V |
-17.6V |
〇 |
FL |
| JW213 |
+13V |
+13.1V |
〇 |
DIGITAL |
| JW220 |
+5V |
+5.64V |
〇 |
DIGITAL |
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FM/AM 受信部の調整
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再調整結果
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FM 受信部
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フロントエンドのトリマコンデンサを全数交換したので、トラッキング調整をやり直しました。
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[PLL 検波] で大きめの調整ズレがありました。
再調整で全て規定内に入りました。
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ステレオセパレーションは大きく改善し、素晴らしい音になりました。
| 項目 |
IF BAND |
stero/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
54 |
58 |
dB |
| NARROW |
42 |
44 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.018 |
% |
| stereo |
0.018 |
% |
| NARROW |
mono |
0.11 |
% |
| stereo |
0.14 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-71 |
-72 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.01 |
dB |
| CAL TONE |
WIDE |
mono |
469 |
Hz |
| -6.0 |
dB |
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AM 受信部
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筆者手持ちの [ST-SA5ES 純正 AM ループアンテナ] で最高性能になるよう調整しました。
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添付された [AM ループアンテナ] は ST-SA5ES とは相性悪いので、これには合わせ込みできません。
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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到着時は FLD の表示が暗くて不安定でした。
でもセオリ通りのトラブルシューティングで原因が判明しました。
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修理と再調整により、本来の素晴らしい性能が蘇りました。
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ワイド FM 対応クリコン
を製作すればワイド FM 受信ができます。
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ST-SA5ES はアンテナ端子が2つあるので、ワイド FM 受信に便利です。
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現在の AM 放送は2028年にほぼ消滅するので今から準備するのが吉です。
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[RM-J301] 専用リモコンでの操作も良好でした。
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デザイン
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素晴らしい精悍なデザインで高級感あります。
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サイドウッドの代わりにアルミ製のサイドパネルがあって、これがイイです。
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(C リングパネルがないので) 直接的で軽快なボタン操作ができます。
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感度と音質
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FM の感度は抜群に良く、S/N が良いです。
細かい音がよく聴けます。
艶っぽい音がします。
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AM の感度も抜群に良く、S/N も良いです。
AM としては音質も良く、放送を楽しめます。