SONY ST-SA5ES (9号機) が到着!
2024年4月8日、兵庫県西宮市の N さんより
SONY ST-SA5ES
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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長年 ST-SA5ES を愛用してきましたが FM の受信感度が極端に悪くなりました。
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外観
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製造シリアル番号は [200071] で、電源コードの製造マーキングより [1994年製造品] とわかりました。
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[純正 AM ループアンテナ] の添付がありました。
少し改造されて引き出しコードが変更されています。
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非常に綺麗な逸品で、特に指摘するような問題はありません。
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電源 ON してチェック
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電源は正常に入り、FL 表示器の輝度は新品同様です。
ボタン操作に問題はなく良好です。
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プリセットメモリが全部クリアされて初期値に戻っていました。
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プリセットしてみましたが、電源 OFF すると記憶が消えてしまいます。
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メモリバックアップ用の電気二重層コンデンサが故障していると思います。
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FM 受信
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受信はできて [STEREO] 表示が出て問題なく受信できます。
しかし、感度が下がっています。
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オートチューニングで正しい放送局の周波数で受信します。
周波数ズレはないようです。
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AM 受信
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添付された [純正 AM ループアンテナ] を接続してチェックしました。
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ちゃんと受信して感度も良いです。
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唯一 AM stereo 放送していたニッポン放送 (1242kHz) で stereo で受信できません。
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以上より、特に問題なさそうです。
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カバーを開けてチェック
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内部の基板は非常に綺麗です。
目視で劣化とわかる部品は見当たりません。
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放送波で FM フロントエンドのトリマコンデンサを回してみましたが、感度に変化がありません。
完全に故障しています。
リペア (その1):FM の感度が下がっている
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原因
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FM フロントエンドにあるトリマコンデンサ×3個 (全数) が劣化したためです。
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[トリマコンデンサ] はハトメ構造になっており、経年変化でハトメ部分が接触不良になって容量抜けします。
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こうなると FM の感度が低下します。
少しずつ徐々に不良になっていくので気付くのが遅れます。
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ST-S333ES シリーズでは [トリマコンデンサ] の故障が散見されます。
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修理
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[トリマコンデンサ] ×3個を一斉交換しました。
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左の写真で黄〇で囲んだ部品が交換後です。
10pF セラミックトリマコンデンサを使いました。
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右の写真は交換前に基板に実装されていたトリマコンデンサです。
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交換後、再調整でみるみる感度が上がり、直りました!
リペア (その2):電源 OFF でプリセットメモリが消えて初期値に戻る
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原因
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プリセット情報をバックアップする [電気二重層コンデンサ] の故障です。
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修理
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[電気二重層コンデンサ] を交換しますが、ついでに [タンタルコンデンサ] も予防交換します。
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[タンタルコンデンサ] は短絡事故が多く、別の種類のコンデンサに交換すると幸せになります。
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使われていたタンタルコンデンサの耐圧が 6.3V しかありません。
ここには 6V 近くの電圧がかかります。
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タンタルコンデンサは耐圧を超えた電圧がかかると簡単に内部短絡します。
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半世紀前に [人気者] だったタンタルコンデンサは、現在では短絡事故が多いことから [嫌われ者] になっています。
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換装する積層セラミックコンデンサはタンタルより ESR が低く高性能でやや高価な無極性コンデンサです。
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左の写真で、小さな赤〇で囲んだのが [C604]、大きな赤〇で囲んだのが [C605] の交換後です。
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右の写真で、赤〇で囲んだのが [C437] の交換後です。
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右の写真は交換前に基板に実装されていた [C605] [C604] [C437] です。
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以下は交換リストです。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C437 |
10uF/6.3V (タンタル) |
10uF/25V (積層セラミック) |
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C604 |
10uF/6.3V (タンタル) |
10uF/25V (積層セラミック) |
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C605 |
0.1F/5.5V |
1F/5.5V |
電気二重層コンデンサ |
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交換後にプリセットメモリ情報が保持されることを確認しました。
直りました!
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電気二重層コンデンサは 0.1F → 1F と10倍の容量になったので、10倍の10ヶ月メモリ保持できるかも?
リペア (その3):ハンダクラックの観察と補修
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ハンダクラックの観察
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RCA 端子の L チャンネル側、FM アンテナ端子の両方でハンダクラックがありました。
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基板に細長い銅板が走っていますが、これがアースバーです。
アースバーにも数ヵ所ハンダクラックがありました。
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解説
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リアパネルにある端子のリードは基板に直接ハンダ付けされています。
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このハンダ付け部分には [リアパネル] [基板] の2方向から常にストレスを受けるのでハンダクラックしやすいです。
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アースバーは数ヵ所で基板にハンダ付けされています。
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このハンダ付け部分には [アースバー自身] [基板] の2方向から常にストレスを受けるのでハンダクラックしやすいです。
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ハンダクラック補修 (修理)
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[FM ANTENNA (A/B)] [AM ANTENNA] [OUTPUT] 端子のリードのハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
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[アースバー]×6枚 ハンダ付け部分をの全点補修ハンダ付けしました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように正常でした。
VP |
表示電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
JW88 |
+30V |
+30.3V |
〇 |
PLL |
JW89 |
+15V |
+15.0V |
〇 |
AUDIO |
JW145 |
-17V |
-17.4V |
〇 |
FL |
JW213 |
+13V |
+13.1V |
〇 |
DIGITAL |
JW220 |
+5V |
+5.61V |
〇 |
DIGITAL |
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FM/AM 受信部の調整
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再調整結果
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FM 受信部
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[PLL 検波] [IF 歪補正] で大きめの調整ズレがありました。
再調整で全て規定内に入りました。
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ステレオセパレーションや高調波歪率などは以下のように大きく改善し、素晴らしい音になりました。
項目 |
IF BAND |
stero/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
61 |
68 |
dB |
NARROW |
45 |
43 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.039 |
% |
stereo |
0.039 |
% |
NARROW |
mono |
0.10 |
% |
stereo |
0.10 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-75 |
-74 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
0 |
dB |
CAL TONE |
WIDE |
mono |
409.1 |
Hz |
-5.4 |
dB |
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AM 受信部
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AM は 添付された [純正 AM ループアンテナ] で最高性能になるよう調整しました。
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AM の場合はループアンテナも同調回路の一部なので、純正アンテナ以外で使うと感度が落ちます。
使ってみました
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再調整が終わって
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ST-SA5ES で劣化や故障しやすい箇所全部が不具合になっていたという感じです。
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全て直って新品時の性能に蘇ってよかったです。
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デザイン
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素晴らしい精悍なデザインで高級感あります。
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サイドウッドの代わりにアルミ製のサイドパネルがあって、これがイイです。
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(C リングパネルがないので) 直接的で軽快なボタン操作ができます。
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感度と音質
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FM の感度は抜群に良く、S/N が良いです。
細かい音がよく聴けます。
艶っぽい音がします。
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AM の感度も抜群に良く、S/N も良いです。
AM としては音質も良く、放送を楽しめます。