Technics ST-9030T (6号機) が到着
2023年8月22日、群馬県太田市の I さんより
Technics ST-9030T
の修理依頼品が到着しました。
高級 FM 専用機
です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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ST-9030T ジャンク品の修理をお願いします。
雑音がひどく音声はあまりはっきりしません。
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メータ類の振れが不安定です。
ステレオ表示ランプも点滅し不安定です。
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問題なく聞けるようになるのであれば、特に外観や使用部品は問いませんので宜しくお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [AG7222B134] で、電源コードの製造マーキングより [1976年製造品] とわかりました。
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キズやスレがある並の下くらいの外観ですが、フロントパネルが比較的綺麗なのが救いです。
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リアパネルの端子類にはかなりサビが出ています。
特に RCA 端子にプラグを挿し込むのにサビが邪魔して重いです。
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電源 ON してチェック
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電源は正常に ON しました。
照明のランプ切れはないです。
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放送を受信でき [stereo] ランプも点灯しますが、ステレオ感はかなり弱いです。
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[S メータ] のピークと [T メータ] のセンタが合いません。
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[T メータ] のセンタより僅かに左側にしないと [stereo] ランプが点灯しません。
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[tuning] ノブを回すと周波数の低い辺りで回転に同期してガサゴソという雑音が出ます。
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修理依頼者が言う [雑音がひどく音声はあまりはっきりしません] は確認できませんでした。
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カバーを開けてチェック
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内部は綺麗ですが、各ボリューム、各 IFT などをいじくった形跡があります。
マジックで位置マーキングされています。
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マイグレーション
の発生状況は以下です。
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トランジスタの足は綺麗でマイグレーションは発生していないようです。
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IC については [IC501] [IC701] の NJM4558D の足が少し黒くなっている程度で、清掃すれば問題ないと思います。
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上記以外の IC の足は綺麗でマイグレーションは発生していないようです。
リペア
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[tuning] ノブを回すと周波数の低い辺りで回転に同期してガサゴソという雑音が出る
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原因はバリコン軸で接触不良が発生しているためです。
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同調時に [T メータ] が少しユラユラして不安定なのを感じますが、これが原因と思います。
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まずはこれを直さないと調整作業に入れません。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1]〜[2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
CRC 5-56
を塗布して防錆処置します。
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8連バリコンなので、結構手間がかかりましたが、以上で
直りました!!!
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もうガサゴソ雑音は出ず、[T メータ] の動きもスムーズです。
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使っていたら [servo tuning] スイッチを OFF にしてもサーボロックが効いていることに気が付きました
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よ〜く観察したら、[T メータ] が僅かにユラユラ動くことが確認できました。
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これはサーボロックが効いたり効かなかったりを繰り返し不安定になっているからです。
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原因は、右の写真の [TR403] 2SC945 トランジスタの劣化故障と判明しました。
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足は黒くなっていないのでマイグレーションではなく、単に劣化でしょう。
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[TR403] を [2SC945]→[2SC1815-GR] に交換して
直りました!!!
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[servo tuning] スイッチ OFF でサーボロック無効 / ON で有効と正常になりました。
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IC にマイグレーション予防のワニスコーティング
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マイグレーション
とは金属カビのようなものです。
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マイグレーションは数十年かけて成長し、IC のピン間をレアショートします。
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マイグレーションによるレアショートが発生すると、雑音や動作不安定などの様々な不具合に至ります。
最悪、IC が壊れます。
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マイグレーションは空気中の水分 (湿度) と加圧電圧により、金属 (足) がイオン化することにより発生します
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逆に言えば、金属部が空気に触れなければマイグレーションは発生しないのです。
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[IC] の足に
ワニス
を塗布して、空気に触れない対策をしました。
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部品が基板に実装されたまま塗布するので、完全ではないかもしれませんが、少なくともマシになったと思います。
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RCA 端子にかなりサビが出ている
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ピカール
でマイクロ研磨してサビを落として RCA プラグがスムーズに挿入できるようになりました。
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放置するとまたサビが出るので、使わない RCA 端子にはダストカバーを被せることをお奨めします。
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以下の不具合は再調整で
直りました!!!
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ステレオ感がかなり弱い。
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[S メータ] のピークと [T メータ] のセンタが合わない。
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[T メータ] のセンタより僅かに左側にしないと [stereo] ランプが点灯しない。
再調整
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電源電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好です。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
TR801-E |
+12.7V |
+12.2V |
〇 |
TR802-E |
+12.7V |
+12.2V |
〇 |
TR803-E |
-12.7V |
-12.7V |
〇 |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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あちこち調整ズレしてのですが、一番ズレていたのはレシオ検波でした。
調整で全て規定値に入りました。
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フロントエンドのトラッキングは再調整で ±0.1MHz に収めました。
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再調整前のステレオセパレーションは 25dB しかありませんでしたが、調整で以下のような良好な数値になりました。
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再調整で音質が大きく向上して良い音になりました。
項目 |
IF select |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
wide |
stereo |
50 |
50 |
dB |
narrow |
41 |
41 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
wide |
mono |
0.11 |
% |
stereo |
0.11 |
% |
narrow |
mono |
0.18 |
% |
stereo |
0.20 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
wide |
stereo |
-76 |
-76 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
wide |
mono |
0 |
-0.54 |
dB |
使ってみました
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今回のメンテナンスの感想
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到着時はマトモに使えない状態だったのですが、修理&再調整で素晴らしい性能と音質に復活しました。
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やや劣る外観ですが、内部は非常に綺麗で部品の状態も良かったです。
ですから、部品交換も僅かで済みました。
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ジャンク品として入手されたらしいですが、もうジャンクではありません。
本来の高性能に蘇りました!!!
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デザイン
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鉄の塊のようなチューナで、ズッシリ重いです。
そして頑丈な作りです。
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ダイヤルとのズレも少なく、高精度のバリコンを使っています。
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同調ノブは重量感と質感があり、操作性も良好です。
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FM アンテナ入力は F 端子なので、雑音電波が混入しにくいです。
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高感度で高音質
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豪華な作りで妨害排除能力が高く、S/N が非常に良く、結果的に高感度になっています。
スペック以上の受信能力があります。
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音のエネルギーが低域から高域までスッキリ伸びており、かなりの高音質です。