Technics ST-9030T (9号機) が到着
2024年8月8日、愛知県愛知郡の N さんより
Technics ST-9030T
の修理依頼品が到着しました。
高級 FM 専用機
です。
写真は照明 LED 化後です。
今回はウォームホワイト色 LED を使ってみました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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2014年4月に名古屋大須の中古オーディオ店で購入しました。
76〜82MHz 間でガサゴソ音出て受信不安定になります。
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[修理&再調整] [照明 LED 化] [電源部の電解コンデンサ交換] [ハンダクラック補修] をお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [AG7222B066] で、電源コードの製造マーキングより [1976年製造品] とわかりました。
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フロントパネル上部エッジに少しスレがありますが、全体的にはかなり綺麗な逸品です。
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リアパネルの端子類には少し輝きが残っており、問題はないです。
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電源 ON してチェック
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電源は正常に ON しました。
ランプ切れはないです。
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[tuning] ノブを回すと 83MHz 以下で回転に同期してガサゴソという雑音が出て、受信も [T メータ] があり得ない振れをして不安定です。
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83MHz 以上では正常に受信でき、[S メータ] [T メータ] も正常に振れます。
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放送を受信でき [stereo] ランプも点灯しますが、ステレオ感が弱いです。
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現状のまま軽くオーディオ性能を測定してみました。
やはり、ステレオセパレーションが落ち込んでいるようです。
項目 |
IF select |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
wide |
stereo |
27 |
28 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
wide |
mono |
0.086 |
% |
stereo |
0.088 |
% |
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カバーを開けてチェック
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内部は綺麗で基板の部品で目視でわかる劣化はありませんでした。
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FM フロントエンドのカバーを外してみると・・・
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右の写真のように爪楊枝が差し込まれていました。
ありゃ?
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バリコン軸のアースプレートに差し込んでいます。
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誰が何のためにやったのだろう???
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それとも、清掃後に除去し忘れたのだろうか?
リペア (その1):[tuning] ノブを回すと 83MHz 以下でガサゴソ雑音が出て [T メータ] が不安定
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原因
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バリコン軸と軸受け (アース板) の接触不良が原因です。
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修理
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以下のようにバリコン軸の接触回復作業をしました
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かして洗浄しました。
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軸受けに
接点復活スプレー
を塗布して何度もバリコン羽を動かして接触復活しました。
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仕上げに、軸受けにリチウムグリスを塗布して防錆処置しました。
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結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
リペア (その2):電源部の電解コンデンサ全数交換 ・・・ 修理依頼者の要求
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交換リスト
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LED 化の電源はマイナスラインから取るので、関連する [C806] を容量アップして強化しました。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C801 |
1000uF/16V (85℃) |
1000uF/25V (105℃) |
高耐熱化、高耐電圧化 |
C802 |
1000uF/25V (85℃) |
1000uF/25V (105℃) |
高耐熱化 |
C803 |
1000uF/16V (85℃) |
1000uF/25V (105℃) |
高耐熱化、高耐電圧化 |
C806 |
470uF/16V (85℃) |
1000uF/25V (105℃) |
高耐熱化、高耐電圧化、高容量化 |
C807 |
1000uF/25V (85℃) |
1000uF/25V (105℃) |
高耐熱化 |
C808 |
470uF/16V (85℃) |
470uF/16V (105℃) |
高耐熱化 |
C810 |
0.47uF/50V (85℃) |
0.47uF/50V (積セラ) |
積層セラミックコンデンサ化 |
C811 |
33uF/16V (85℃) |
47uF/35V (105℃) |
高耐熱化、高耐電圧化、高容量化 |
C812 |
4.7uF/35V (85℃) |
4.7uF/50V (105℃) |
高耐熱化、高耐電圧化 |
C813 |
1000uF/25V (85℃) |
1000uF/25V (105℃) |
高耐熱化 |
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電解コンデンサ交換
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左の写真は交換前で、黄色の矢印で示した電解コンデンサが交換対象です。
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右の写真は交換後です。
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電解コンデンサは熱で劣化しやすくなります。
85℃品→105℃品にアップグレードしたので安心です。
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更に、技術の進化でサイズが一回り以上小さくなってスカスカになり風通しが良くなったので信頼性向上が期待できます。
リペア (その3):照明 LED 化 ・・・ 修理依頼者の要求
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使用 LED
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左の写真のウォームホワイト高輝度テープ LED を [ダイヤル/メータ] 照明に使います。
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LED はフィラメントランプと違って正面にしか光が出ません。
この弱点を LED を数多く使うことで補います。
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テープ LED は単位ごとに切って使えます。
単位ごとに LED×3個 です。 テープ幅は 10mm です。
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右の写真の砲弾型高輝度 LED は [wide] [stereo] 表示に使います。
5mm 白色、10000mcd、照射角 60°です。
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[フィラメントランプ]→[LED] への回路
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[ダイヤル/メータ] ランプは AC 駆動でしたが、LED は DC 駆動する必要があります。
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ST-9030T に既にある -23V 電源を使ってテープ LED を駆動します。
負電源を使うのは電流に余裕があるからです。
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テープ LED は [10単位] に切り取ったものを2個直列にして使います。
直列にするのは消費電力を抑えるためです。
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LED 数は 3個/単位×10単位×2個=60個 と凄まじい数になります。
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[wide] のランプは DC 駆動なので、R327 の電流制限抵抗を変更して LED と置き換えました。
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[stereo] のランプは DC 駆動なので、R618 の電流制限抵抗を変更して LED と置き換えました。
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これだけだと、[stereo] ランプ駆動回路の漏れ電流でステレオでない時も薄っすらと点灯してしまいます。
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LED は VF 電圧を超えると微弱な電流でも光ってしまうのです。
ある意味、フィラメントランプより感度が高い。
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対策として 1kΩ の電圧制限抵抗を入れました。
漏れ電流があっても VF 電圧以下にする。
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[ダイヤル/メータ] の [フィラメントランプ]→[テープ LED] へのリプレース
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下の写真はオジナルの [ダイヤル/メータ] ホルダです。
[FUSE 型フィラメントランプ]×5個使われていました。
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[FUSE 型フィラメントランプ]×5個と [取付基板] [配線] を除去しました。
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厚紙で 273×23mm の台紙を作成し、これに [10単位テープ LED]×2個 を貼り付け、下の写真のように台紙をホルダに接着しました。
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高輝度 LED を60個並べたと同じです。
凄まじい数でしょ。
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LED 化完成
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ウォームホワイト色 LED を使ったので元の雰囲気はそのままで明るくなりました。
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LED はフィラメントランプと違って長寿命です。
今後切れることはほぼないです。
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照明の消費電力が激減し筐体内の温度上昇を防げるので、機器の信頼性が上がります。
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LED 化により消費電力が大きく減ってエコになりました。
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フィラメントランプの時は 6.3V×250mA×5個+6.3V×40mA×2個=8.4W 消費していました。
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LED 化後の照明での消費電力は 0.4W 以下になりました。
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すなわち、8.4W→0.4W となり、明るくなったのに 8W もエコになったのです。
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安くなった電気代で今回の改造費はいつか回収できますよ!
再調整
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電源電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好です。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
TR801-E |
+12.7V |
+12.6V |
〇 |
TR802-E |
+12.7V |
+12.7V |
〇 |
TR803-E |
-12.7V |
-12.6V |
〇 |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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FM フロントエンドのトラッキング調整で周波数ダイヤルと指針の誤差はほぼなくなりました。
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wide レシオ検波で大きな調整ズレがありました。
narrow レシオ検波は正常範囲でした。
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S メータが規定値より振れ過ぎだったので、適正値に調整しました。
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SUB 調整がズレていましたが、再調整で規定内に入りました。
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再調整前のステレオセパレーションは 20dB 台しかありませんでしたが、調整で以下のような良好な性能になりました。
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再調整で音質が大きく向上して良い音になりました。
項目 |
IF select |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
wide |
stereo |
52 |
50 |
dB |
narrow |
45 |
41 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
wide |
mono |
0.035 |
% |
stereo |
0.057 |
% |
narrow |
mono |
0.34 |
% |
stereo |
0.34 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
wide |
stereo |
-66 |
-70 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
wide |
mono |
0 |
-0.38 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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故障はバリコン軸の接触不良でした。
現在できる対策をして直りました。
バリコンはメカですからどうしてもサビが出てしまいます。
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この機種では初めて
ウォームホワイト色 (電球色) LED
で LED 化してみました。
クラシカルな感じがして良いと思いました。
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デザイン
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鉄の塊のようなチューナで、ズッシリ重いです。
そして頑丈な作りです。
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ダイヤルとのズレも少なく、高精度のバリコンを使っています。
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同調ノブは重量感と質感があり、操作性も良好です。
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FM アンテナ入力は F 端子なので、雑音電波が混入しにくいです。
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高感度で高音質
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豪華な作りで妨害排除能力が高く、S/N が非常に良く、結果的に高感度になっています。
スペック以上の受信能力があります。
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音のエネルギーが低域から高域までスッキリ伸びており、かなりの高音質です。