Technics ST-9700

Technics ST-9700 が到着

2024年4月4日、横浜市の S さんより Technics ST-9700 の修理依頼品が到着しました。

1974年発売の 定価25万円の超高級 FM 専用チューナ です。

1974年の大卒初任給は78,700円です。 よって、この頃の25万円は現在の貨幣価値に換算すると50万円以上です。



ST-9700 が製造された頃の時代背景など

  1. 1970年代は各地域で NHK FM と民放 FM 1局しかありませんでした

  2. FM 放送局がひしめき合うようになると、何より求められるのは選択度です

  3. この頃に高選択度を優先して製造されたのが ST-9700 でした

  4. 1980年代になると、メーカも悔い改め IF BAND が WIDE/NARROW に切換できるチューナを作り始めました

  5. これ以降、どこのメーカさんも高選択度・多連バリコンを言わなくなりました

  6. 現在の FM 状況ではバリコンまたはバリキャップは4連あれば十分です



程度&動作チェック

  1. 修理依頼者のコメント

  2. 外観

  3. 電源 ON してチェック

  4. カバーを開けてチェック



カバーを開けてみました

  1. 非常に良い作り

  2. フロントエンド

  3. IF 部

  4. MPX 部



リペア (その1):[IF(1) 基板] のメタルケースを叩くと [4CH MPX OUT] 端子からの音に雑音が入る

  1. 原因

  2. 修理



リペア (その2):[電源基板] のハンダクラック修理

  1. 概要

  2. 修理



リペア (その3):音が出ない

  1. [MPX 基板] を取り外してチェックします。 以下の手順で外すとゴソッと丸ごと外れ、メンテナンス性が良いです。

    1. [outoput level] [selector] ノブ、[hi-blend] [muting] レバートップ を外します。

    2. コネクタとファストンプラグを全部外します。

    3. [MPX 基板] はフロントパネル側で [フレームに留められているネジ]×2本 と [基板を留めているネジ]×4本 を外します。

    4. これで [MPX 基板] が取り出せます。

  2. 原因

  3. 修理



リペア (その4):FM アンテナ端子裏側のサージキラーがグラグラしている

  1. 原因

  2. 修理



リペア (その5):その他

  1. [フロントエンドカバー] [IF(1) カバー] [IF(2) カバー] の防錆処置

  2. トランスカバーのワックス掛け



調整

写真の FM/AM 標準信号発生器 Panasonic VP-8175A (以下 SSG)、 FM Stereo 信号発生器 MEGURO MSG-2170、 周波数カウンタ ADVANTEST TR5822 を使って調整します。 10年も経つとコイルやトリマはズレます。

  

  1. 調整ポイント

    基板 種別 調整ポイント 調整内容
    フロントエンド L L1
    L2
    L3
    L4
    L5
    L6
    RF トラッキング
    TC CT1
    CT2
    CT3
    CT4
    CT5
    CT6
    L L7 AGC トラッキング
    TC CT7
    L L11 OSC トラッキング
    TC CT8
    L L12 OSC BUFFER
    トラッキング
    TC CT9
    IFT T1 IF
    基板 種別 調整ポイント 調整内容
    IF(1) 基板 IFT T102 FOSTER-SEELEY DET
    T103 10.7MHz BEF
    IF(2) 基板 VR VR201 S METER MAX
    VR202 S METER MIN
    VR203 DEEP MUT
    IFT T201
    T202
    S meter IF
    MPX 基板 VR VR301 VCO
    VR302 PILOT CANCEL
    VR303 PILOT CANCEL
    VR304 VCO
    L L301  
    VR VR401 HI BLEND LEVEL
    VR402 MUTE LEVEL
    L L401  
    VR VR501 R OUT LEVEL
    VR503 L OUT LEVEL
    VR504 SEP
    電源基板 VR VR601 -12V ADJ

  2. 電圧チェックポイント (VP)

    VP 標準電圧 実測電圧 判定 備考
    (9)コネクタ 1pin -11V -10.9V  
    2pin +12V +11.8V  
    3pin +21V +20.7V  
    6pin -12V -12.0V VR601 で調整

  3. FM 受信部の調整

    手順 SSG出力 ST-9700 の設定 調整箇所 TP 及び調整値 備考
    1 - hi-blend : off
    muting : off
    selector : auto
    - -  
    2 OFF - [IF 基板]
    T102 (後)
    T メータ = センタ 同調点仮調整
    3 78MHz 40dB
    無変調
    指針を 78MHz
    に合わせる
    [フロントエンド]
    L8
    L12
    T メータ = センタ
    かつ
    S メータ = 最大
    OSC トラッキング
    指針をダイヤルに
    合わせるのが目的
    4 88MHz 40dB
    無変調
    指針を 88MHz
    に合わせる
    [フロントエンド]
    CT8
    CT9
    5 手順3〜4を数回繰り返す
    6 78MHz 40dB
    無変調
    78MHz 受信 [フロントエンド]
    L1
    L2
    L3
    L4
    L5
    L6
    L7
    S メータ = 最大 RF トラッキング
    7 88MHz 40dB
    無変調
    88MHz 受信 [フロントエンド]
    CT1
    CT2
    CT3
    CT4
    CT5
    CT6
    CT7
    8 手順6〜7を数回繰り返す
    9 83MHz 40dB
    無変調
    83MHz 受信 [フロントエンド]
    T1
    S メータ = 最大 IF 調整
    10 83MHz 90dB
    mono 1kHz
    [IF(1) 基板]
    T102 (前)
    オーディオ出力 = 高調波歪最小 FS 検波調整
    11 [IF(1) 基板]
    T102 (後)
    T メータ = センタ
    12 手順10〜11を数回繰り返す
    13 83MHz 40dB
    無変調
    83MHz 受信 [IF(2) 基板]
    T201
    T202
    S メータ = 最大 制御系 IF 調整
    14 83MHz 100dB
    無変調
    [IF(2) 基板]
    VR201
    S メータ = 4.8 S メータ調整
    15 83MHz 20dB
    無変調
    [IF(2) 基板]
    VR202
    S メータ = 1.5
    16 手順14〜15を数回繰り返す
    17 83MHz 20dB
    mono 1kHz
    83MHz 受信
    muting : on
    [MPX 基板]
    VR402
    MUTING = ON/OFF 閾 MUTING 調整
    18 83MHz 40dB
    mono 1kHz
    83MHz 受信
    muting : deep
    [IF 基板]
    VR203
    19 83MHz 90dB
    無変調
    [MPX 基板]
    VR304
    TP304 = 19kHz
    周波数カウンタで測定
    VCO 調整
    20 83MHz 90dB
    stereo 1kHz L+R
    [MPX 基板]
    VR302
    VR303
    可変側
    オーディオ出力 = 19kHz 成分最小
    パイロットキャンセル調整
    21 83MHz 90dB
    mono 1kHz
    [MPX 基板]
    VR502
    オーディオ出力 (L) = 0.775V AF レベル調整
    22 [MPX 基板]
    VR501
    オーディオ出力 (R) = 0.775V
    23 83MHz 90dB
    stereo 1kHz R/L
    [MPX 基板]
    VR504
    オーディオ出力 (L/R) = 最小 セパレーション調整
    24 83MHz 40dB
    stero 1kHz L
    [MPX 基板]
    VR401
    オーディオ出力 (R) = ON/OFF 閾 HI-BLEND 調整

  4. 調整結果



使ってみました

  1. デザイン

  2. 感度や音質



仕様

    FM 受信部
    受信周波数範囲 76〜90MHz
    アンテナ端子 75Ω不平衡 F 端子
    感度 (75Ω) 1.2uV
    選択度 75dB
    キャプチャーレシオ 1.9dB
    イメージ妨害比 (82MHz) 140dB
    IF 妨害比 (82MHz) 140dB
    スプリアス妨害比 (82MHz) 140dB
    AM 抑圧比 60dB
    S/N 比 (400Hz, 100% 変調) 80dB
    高調波歪率 (60Hz:7kHz = 4:1) mono : 0.08%
    stereo : 0.1%
    周波数特性 Variable : 5Hz〜18kHz +0.2/-0.8dB
    Fixed : 5Hz〜15kHz +0.2/-0.8dB
    ステレオセパレーション 45dB (1kHz)
    35dB (10kHz)
    リーク・キャリア Variable : -70dB (19kHz)
    Fixed : -70dB (19kHz, 38kHz)
    出力電圧 Variable : 77〜1550mV
    Fixed : 770mV
    電源電圧 AC100V, 50/60Hz
    消費電力 30W
    外形寸法 450(W)×173(H)×373(D)mm
    重量 12.1kg
    その他
    発売時期 1974年
    定価 250,000円