TRIO KT-1000 (4号機) が到着
2023年10月26日、北海道伊達市の S さんより
TRIO KT-1000
の修理依頼品が届きました。
この写真は照明を全て LED 化後です。
爽やかなホワイト基調のダイヤルとブルーの指針とのマッチングがたまらくイイです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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そちらのサイトで TRIO KT-1000 の選局指針ランプ等の LED への交換の記事を拝見しました。
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周波数ズレなどの症状が見られます。
修理・周波数調整等および照明 LED 化をお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [20700297] で、電源コードの製造マーキングより [1981年製造品] とわかりました。
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天板に汚れやスレはありますが、全体的にはかなり綺麗なほうです。
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FM アンテナの F 端子に右の写真のようなロッドアンテナが取り付けられていました。
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これでは放送を良好に聴くのは無理です。
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ちゃんとした FM アンテナの接続をお奨めします。
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新品同様の [純正 AM ループアンテナ] の添付がありました。
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電源 ON してチェック
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周波数ダイヤルの照明は点灯しますが、指針ランプが切れています。
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FM 受信
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[MUTING] [RF SEL] ランプが点灯しません。
ここは LED なので、そう切れないはずです。
なぜだろう?
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受信できて [STEREO] ランプも点灯しますが、-1.1MHz の大きな周波数ズレがあります。
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80MHz の放送が 78.9MHz で受信されます。
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この周波数ズレが影響していると思われる感度低下があります。
[S メータ] 振れが少ないです。
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[MUTING] スイッチ ON では SERVO LOCK が効き放しになっています。
故障しています。
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[FM REC CAL] スイッチを ON で正常にテスト音が出ます。
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AM 受信
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少し周波数ズレしていますが、正常に受信できます。
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[S メータ] はマトモそうに振れ、[T メータ] の動きもズレはありそうですがまあまあ正常です。
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カバーを開けてチェック
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ゴミはなく、基板などは綺麗な状態です。
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バリコンギア機構のプーリー軸の固定が外れています。
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右の写真の赤〇で囲んだ軸に隙間が見えますが、隙間がないのが正しいです。
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この隙間が大きくなると、同調時のバックラッシュが大きくなります。
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最悪、プーリー軸が脱落するとギアがバラバラに外れて修理不能になります。
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バリコン軸のアース接触部分に青緑錆が出ています。
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悪化すると [TUNING] ノブを回すと雑音が出たり、感度が低下します。
リペア (その1):[MUTING] [RF SEL] ランプが点灯しない
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原因
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下の回路図はフロントパネルにあるスイッチ部分です。
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[SELECTOR] スイッチ (FM/AM 切り換え) で青〇で囲んだ接点が接触不良でした。

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修理
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本来はスイッチを交換できればよいのですが、KT-1000 専用品なので新品の入手は不可です。
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応急対策として
エレクトロニッククリーナ
を使って接点洗浄して直りました。
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完璧にするため、赤×でパターンカットし、赤線の配線×2本を追加してダブル接点としました。
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この改造により、[SELECTOR] スイッチ切換時のミューティングがなくなるので、切換時の瞬間少しノイズが出ます。
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交換用スイッチが手に入らないので、やむを得ない処置です。
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新たな懸念
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LED は点灯するようになったのですが、[IF BAND] [MUTING] [RF SEL] ランプの3つとも輝度が落ちて暗いです。
リペア (その2):[IF BAND] [MUTING] [RF SEL] ランプが暗い
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原因
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原因は縄文時代の古い LED が経年変化で輝度が落ちたのです。
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修理
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オリジナル状態の [LED 基板] です。
縄文時代の古い [砲弾型 LED 5mm 緑色] の LED が使われていました。

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LED 交換後です。
[砲弾型つば無し LED 3mm 緑色 7.3lm] の 高輝度 LED を使いました。

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単純に交換すると明る過ぎて直視できないため、直列に 33kΩ を入れて電流を抑えました。
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LED に流している電流は僅か 0.3mA です。
オリジナルの時は 25mA も流れていました。
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消費電力は 1/80 以下にになって、しかも明るいです。
これが縄文時代の LED と現代の LED の差です。

リペア (その3):[S メータ] [T メータ] の封印が雑
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[リペア (その2)] を実施中に発見しました
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左の写真のように [S メータ] [T メータ] の封印が雑でした。
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普通のセロテープを使っていたため、経年変化でボロボロになっていました。
メーカでもこんな雑な作業をするのですね。
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修理
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右の写真のように経年変化しない耐熱260℃の [ポリイミドテープ 15mm 幅] を使って封印をやり直しました。

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ちなみに
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封印した長方形の穴の奥にはメータを NULL 調整するレバーがあります。
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例えば [T メータ] のセンタ位置が何らかの衝撃でズレてしまったら、ここを調整すれば直ります。
リペア (その4):-1.1MHz の大きな周波数ズレがある
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原因
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FM OSC トリマコンデンサが容量抜けです。
回しても容量が変わりません。
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これよりもっと重大な問題がありました!!!
OSC コイルを軽く叩くと発振が止まります。
ハンダクラックしています。
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修理
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ハンダクラックを直すにはフロンントエンドを外す必要があります。
100W 以上のハンダゴテと物凄い労力・時間がかかります。
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左の写真は、これから外すフロントです。
車で言えばエンジンに相当します。
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車のエンジンを降ろすのは大変ですが、フロントエンドも同じです。
でも、やるしかない!
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準備作業として、プーリーを束線バンドを使って固定します。
これで糸掛け機構がバラバラになるのを防ぐのです。
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プーリーとプーリー軸のネジ留めを外してからプーリーを抜くと右の写真のようになります。

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裏側のハンダ付けを外して、見事!!! 左の写真のようにフロントエンドを降ろせました。
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フロントエンドは金属シールドされているので、このシールドのハンダ付けを外すのが大変なのです。
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この部分には 100W 程度のハンダゴテを使わないと太刀打ちできません。
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フロントエンド裏側を見ると、やはり OSC コイルでハンダクラックしていました。
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右の写真のように、OSC トリマコンデンサも交換しました。
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白い部品が交換済みの 10pF のセラミックトリマコンデンサです。

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フロントエンドの再実装
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実験用外部電源装置とオシロスコープを使ってフロントエンドが正常に動作していることを確認してから、再実装しました。
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軽く簡易調整をして FM 放送が元気良く受信できました。
見事! 直りました!!!
リペア (その5):バリコン軸のアース接触部分に青緑錆が出ている
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本機は半世紀ビンテージです。
バリコン軸の接触回復は必須です。
以下の作業をしました。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
CRC5-56
を塗布して防錆処置します。
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大量の緑青サビが除去できました。
リペア (その6):バリコンギア機構のプーリー軸の脱落防止対策
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バリコンギア機構のプーリー軸の固定が外れている
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放置するとプーリー軸が脱落し、ギア機構がバラバラになります。
こうなると修復不可になります。
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どうやって固定しているのか不明なので、バリコンメーカでないと直せないです。
でもメーカ対応していません。
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そこで、プーリー軸が脱落しない対策をします。
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対策
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[側板]~[プーリー] の間に [特注アクリル板] (50×50×5mm) を挿入して、側板から押さえ込んで脱落防止します。
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筆者のところでは厚みの違う複数の [特注アクリル板] を常備しており、機種により選んでいます。
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左の写真のように [特注アクリル板] を右側板にボンドで接着してから、右の写真のように組み立てます。

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見事に対策できました!!!
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側板から [特注アクリル板] を介してプーリー軸を押しているので、もう脱落する心配は不要です。
リペア (その7):[MUTING] スイッチ ON で SERVO LOCK が効き放しになる
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原因
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[TUNING] ノブに手を触れると SERVO LOCK が解除されるのが正しく、本機はこの解除ができない状態でした。
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タッチセンサ回路の調整ズレが原因でした。
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修理
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タッツセンサ回路にある [L7] の再調整で直りました。
リペア (その8):照明 LED 化 ・・・ 修理依頼者の要求
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目的は寿命の短いフィラメントランプを寿命の長い LED に交換すること
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フィラメントランプは [ダイヤル] に2個、[ダイヤル指針] に1個、[STEREO] [SERVO LOCK] ランプ用に2個使われています。
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どのランプ交換もものすごい労力がかかる
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フロントパネルを完全にバラバラにしないとランプにアクセスできないのです。
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ダイヤルの糸掛け機構も一旦外す必要があり、手間と時間がかかります。
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寿命のある部品が簡単に交換できない → ここの作りは悪い です。
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[ダイヤル] [ダイヤル指針] [STEREO] ランプの LED 化
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LED 化の回路図は以下です。
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[ダイヤル] [ダイヤル指針] の LED は直流駆動する必要があるので、チューナ基板の -20V から電源を取りました。
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[ダイヤル] 照明を白色超高輝度 LED にしたので、[ダイヤル指針] が白色では見辛くなります。
そこで青色にしました。
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[STEREO] ランプは元々 DC 駆動だったので、LED 化では以下の回路図のようにフィラメントランプを置き換えました。
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これらの配線を高級な耐熱電線に張り替えています。

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[SERVO LOCK] ランプの LED 化
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フィラメントランプを単純に LED 化すると、SERVO ON/OFF に関わらず LED が点灯し放しになります。
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原因は Q32 駆動電圧が +8V に対し、Q44 の駆動電圧が +9V なので Q44 が少し ON してしまうからです。
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フィラメントランプの時は少しの電流が流れるだけであれば光らないので問題なかったのです。(プレヒート状態)
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LED は 1mA 以下の小電流でも光ってしまうのです。
ある意味、感度が良い。
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根本的には設計がよくないと思います。
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対策として [基板の1箇所パターンカット] [トランジスタ交換] [抵抗1本追加] を行いました。
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+8V 電圧はそう電流が取れない回路になっていましたが、LED に流す電流は 6mA と小さいので問題ないでしょう。
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配線を高級な耐熱電線に張り替えています。

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全部の LED 化を終わって
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まずは疲れました。
部品交換時のメンテナンス性が悪過ぎです。
設計がよくないです。
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各 LED に流している電流が異なりますが、これは見た目の明るさを揃えたからです。
人間の目は光の波長に対する感度が均一ではない。
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LED 化後は明るいスッキリとした綺麗な表示になりました。
まるで新製品みたい!

再調整
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電圧チェック (VP)
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測定結果は以下です。
良好です。
| VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
| R260 (100Ω) 左側 |
+14V |
+13.2V |
〇 |
| R261 (100Ω) 左側 |
-14V |
-13.2V |
〇 |
| D25 左側 |
+9V |
+8.79V |
〇 |
| D24 左側 |
-9V |
-9.01V |
〇 |
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FM/AM 受信部の再調整
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調整結果
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以下のように非常に良好な性能に調整でき、音質もアップしました。
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フロントエンドのトラッキング調整にて周波数ズレは ±0.1MHz に収まりました。
| 項目 |
IF BAND |
MONO/STEREO |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
STEREO |
56 |
60 |
dB |
| NARROW |
54 |
54 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
MONO |
0.014 |
% |
| STEREO |
0.021 |
% |
| NARROW |
MONO |
0.32 |
% |
| STEREO |
0.34 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
STEREO |
-74 |
-74 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
MONO |
0 |
-0.02 |
dB |
| FM REC CAL 信号 |
WIDE |
MONO |
398.4 |
Hz |
| -5.9 |
dB |
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AM は、[純正 AM ループアンテナ] で最高感度になるように調整しました。
使ってみました
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今回の修理は疲れました
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フロントエンド関連の故障がなぜか?多かったです。
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フロントエンドを基板から降ろす必要があったので大変な手間がかかりました。
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加えて、照明 LED 化作業でフロントパネルをバラバラに分解する必要があったので非常に大変でした。
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何とか全て直せてよかったです。
新品以上の性能に復活したと思います。
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終わって眺めると非常に綺麗でウットリ、優れた音質、癒されます。
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感度や音質
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FM は TRIO らしい高解像度でカチッとした高音質です。
感度も良いです。
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やはり、パルスカウント検波の音はイイと思います。
独特です。
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AM は高感度で S/N が高いです。
WIDE 時は高音の伸びた良い音が出ます。
でも、本機のような高音質 FM チューナで低音質な AM 放送を聴く人はいるのだろうか???