TRiO KT-1100 (5号機) が到着
2023年10月15日、熊本市の K さんより
TRiO KT-1100
の修理依頼品が到着しました。
パルスカウント検波
が特長のチューナです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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先日、リサイクルショップにて「チェック時 AM/FM 受信しました」と表示されていた本機を入手しました。
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AM/FM ともに受信はするのですが、周波数ズレや雑音があります。
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シグナルメータのピークでチューニングメータがセンターになりません。
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AM/FM ともに感度が落ちているような感じがします。
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底板の内側が汚れていたので拭き取りました。
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縁あって我が家に来た KT-1100 なので、不具合のない状態で付き合っていきたいです。
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外観
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製造シリアル番号は [30701922] で、電源コードの製造マーキングより [1982年製造品] とわかりました。
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純正 AM ループアンテナが添付されていました。
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とてもリサイクルショップで買ったとは思えないほど綺麗な逸品です。
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おそらく、前オーナはワンオーナだったと思います。
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中古品を購入する時は動作する/しないではなく、外観の綺麗なものを選ぶのがコツです。
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外観が綺麗であれば丁寧に使っていたはずで、不具合があっても少し手を加えるだけで蘇る可能性が高いです。
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修理依頼者はこのあたりのコツをよく知っておられるのだと思います。
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この機種でよくあるプラスチック部分の黄ばみもありません。
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よくよく見れば僅かなプチキズ等はあります。
天板にこの上に乗っていたであろう機器の足形が少し見えます。
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電源 ON してチェック
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ちゃんと電源が入り、メータ照明ランプは問題なく点灯します。
フィラメントランプを使っているのはここだけです。
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各スイッチやボリュームは問題なく動作します。
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FM 受信のチェック
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特に問題なく受信でき [STEREO] ランプも点灯します。
音も良いです。
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修理依頼者より「周波数ズレがある」とのことで実際の放送で試してみました。
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結果は ±0.1MHz に入っているので問題ないです。
むしろ、かなり良い状態です。
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バリコンや糸掛け機構というアナログ手法なので、ダイヤルを完全にピッタリ合わせるのは不可能です。
| 放送周波数 (MHz) |
指針周波数 (MHz) |
| 79.5 |
79.4 |
| 80.0 |
79.9 |
| 81.3 |
81.3 |
| 85.1 |
85.05 |
| 89.7 |
89.6 |
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修理依頼者のいう「雑音がある」は確認できませんでした。
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修理依頼者のいう「シグナルメータのピークでチューニングメータがセンターにならない」は確認できませんでした。
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[S メータ] のピークと [T メータ] のセンタが僅かに違うのは問題ありません。
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本機はこの僅かの範囲なので問題はなく、むしろ良い状態です。
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修理依頼者のいう「感度が落ちているような感じがする」は確認できませんでした。
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サーボロック動作はし、[SERVO LOCK] ランプも点灯します。
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[FM REC CAL] ボタン ON で、テスト音は出ます。
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以上より、FM 受信は良好で特に問題なさそうです。
再調整するだけでよさそうです。
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AM 受信のチェック
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[S メータ] のピークと [T メータ] のセンタが合いません。
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1000kHz 以上の感度が落ちているようで、うまく受信できません。
1000kHz 以下の放送は問題なく受信できます。
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カバーを開けてチェック
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内部は綺麗で、基板には目視でわかる劣化部品はなさそうです。
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この機種でよくある不具合のバリコンギア機構のプーリー軸が外れかかっています。
これは対策が必要です。
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バリコン軸に緑青サビが出ています。
これは直さないといけないです。
リペア (その1):バリコンギア機構のプーリー軸が外れかかっている
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右の写真の赤〇で囲んだ軸部分に隙間が見えますが、隙間がないのが正しいです
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古いチューナはこの故障が実に多いです。
隙間がもっと広がるとプーリー軸が脱落してギアがバラバラに外れ、修理不能に陥ります。
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修理はメーカの Alps しかできないと思いますが、対応していません。
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別の対策をします。
要はプーリー軸を右側から押さえ込めばよいのです。
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対策
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プーリーの右側にくるのは天板カバーの側面です。
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側板に特注アクリル板を貼り付けて、側板側からプーリー軸を押さえ込みます。
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まずはプーリーを少し左側に移動してプーリー軸の頭がプーリーより飛び出すようにします。
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[50×50×5mm] [50×50×2mm] の特注アクリル板を2枚張り合わせて 7.0mm 厚とします。
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これを側板に貼り付けます。
接着剤には [コニシ G17 ボンド] を使いました。
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左の写真はボンド接着中で、右の写真は完成後です。
2枚貼り合わせとわからないです。

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完成後、カバー取り付け、期待通りにプーリー外れを防げ、同調ノブの動きもスムーズなことを確認しました。
リペア (その2):バリコン軸に緑青サビが出ている
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右の写真は何か所かあるバリコン軸受けの1つです
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軸と軸受板に緑色に見える部分があります。
これが緑青サビです。
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サビは絶縁物なので接触不良となり、以下の現象が出ます
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周波数の低い辺りで指針を動かすとゴソゴソという雑音が出る。
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感度が落ちたり、受信が不安定になったりする。
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以下のようにバリコン軸の接触回復作業をしました。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
CRC 5-56
を塗布して防錆処置します。
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大量の緑青サビが除去できました。
結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
リペア (その3):AM 受信不具合の修理
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[S メータ] のピークと [T メータ] のセンタが合わない
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原因は AM 受信時の [T メータ] センタ調整ズレです。
[VR11] を再調整して直りました。
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1000kHz 以上の放送が受信できない
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初期チェック時にはこのように思ったのですが、実際には AM フロントエンドのトラッキングズレでした。
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指針の 1000kHz で受信できる周波数が 1300kHz に大きくズレて感度も低下したので、1000kHz 以上が受信できないと感じたのです。
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AM フロントエンドのトラッキング再調整で直りました。
感度も大きく向上しました。
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なお、自然にこんなに大きくトラッキングズレすることはないです。
おそらく誰かがバリコン上にあるトリマをいじったと思います。
リペア (その4):リアパネルの RCA 端子のハンダクラック対策
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リアパネルの端子類で RCA 端子はハンダクラックしやすい
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ハンダクラックする箇所は RCA 端子のリードと基板のハンダ付け部分です。
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リアパネルと基板の2方向から常にストレスを受けるのでクラックするのです。
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対策 ・・・ 予防保守
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RCA 端子のリードと基板のハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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以下のように良好でした。
| VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
| Q19-E |
+13V |
+13.2V |
〇 |
| Q20-E |
-13V |
-13.1V |
〇 |
| Q23-E |
+7V |
+7.16V |
〇 |
| Q24-E |
-7V |
-7.16V |
〇 |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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やはり調整ズレがありましたが、再調整にて全て規格内に入りました。
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FM ステレオセパレーションや高調波歪率などは以下の通りで、かなり良好です。
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IF BAND = WIDE/NARROW で高調波歪率が1桁違うので、できるだけ WIDE で使ったほうが良いです。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
56 |
60 |
dB |
| NARROW |
51 |
50 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.015 |
% |
| stereo |
0.015 |
% |
| NARROW |
mono |
0.39 |
% |
| stereo |
0.47 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-81 |
-83 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
-0.05 |
dB |
| FM REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
421.9 |
Hz |
| -6.0 |
dB |
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AM は添付の純正ループアンテナで調整しました。
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トラッキング調整が大きくズレていました。
再調整で感度も大きく上がりました。
使ってみました
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非常にスッキリしたデザイン
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本機の外観状態は非常に良かったです。
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写真より実際に見た時のほうが高級感あります。
デザインが巧妙です。
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奥行は 337mm しかなく設置が楽です。
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フロントパネルはアルミヘアライン仕上げです。
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チューニングノブは直径 46mm の無垢アルミです。
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ダイヤルスケールは正面を向いており照明はありません。
ダイヤル指針が赤い LED 表示で見易く精密感があります。
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感度や音質
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FM は TRiO らしい高解像度でカチッとした高音質です。
感度はかなり良いです。
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やはり、パルスカウント検波の音は良いです。別格です。
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AM は高感度で S/N が高いです。
WIDE/NARROW 切り換えが有効で、WIDE 時はかなり高音が出て高音質です。