TRIO KT-900 (6号機) が到着!
2023年10月10日、愛知県一宮市の A さんより、
TRIO KT-900
の修理依頼品が到着しました。
到着時はフロントパネルがボロボロ状態でしたが、フロントパネル一式交換と照明 LED 化で写真の状態に復活しました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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初任給で購入した KT-900 です。
感度が悪くなり現在は使えていません。
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点検修理と LED 化をお願いしたいと思います。
KT-900 を復活したい気持ちで一杯です、
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それから、フロントパネル脱着時に無理してガラスにヒビが入ってしまいました。
スペアがあれば交換してほしいです。
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外観
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製造シリアル番号は [21201000] で、電源コードの製造マーキングより [1981年製造品] とわかりました。
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底板に KENWOOD サービスのメンテンスシールが貼ってありました。
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日付は [1996年4月5日] で、交換部品は [トリマ] [3×3] [FET] のように読み取れます。
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全体的には汚れがみられる並みの中古状態です。
[純正 AM ループアンテナ] が添付されていました。
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フロントパネル最前面の強化ガラスを左右で止めるネジが交換されています。
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この交換作業で発生したであろう左側の部分が欠けています。
おそらく、ネジの締め過ぎが原因です。
(左の写真)
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修理依頼者のいう [ヒビ] ではなく [欠け] です。
左端なのでそう目立たず、使用には問題ないですが。
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強化ガラスの右上にも欠けがありました。
(右の写真)

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電源 ON してチェック
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問題なく電源 ON できましたが、フィラメントランプが全部切れており、指針と周波数が見えません。
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まず、これを直さないと修理&調整ができません。
LED ランプは点灯します。
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FM 受信
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音がかなり小さいです。
[STEREO] ランプも点灯しません。
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しばらく使っていたら、音が大きくなったり/小さくなったり、バリバリという雑音が出ました。
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-0.5MHz 程度周波数ズレしています。
80MHz の放送がダイヤル指針で 79.5MHz 辺りで受信します。
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受信音はそれなりに良いです。
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76〜78MHz 辺りの低い周波数で同調ノブを回すと、ガサゴソという雑音が出ます。
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AM 受信
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最初は受信できていたのですが、途中からサーバリバリという大きな雑音だけになりました。
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以上のチェック結果より、
かなり重症かもしれない!
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カバーを開けてチェック
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フロントパネルの上側を内部で固定するプラスチックタブの左右とも割れて固定できていません。

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更にフロントパネルを底面からネジ留めする部分にもヒビ割れがありました。
このフロントパネルはボロボロです!!!
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既に FM フロントエンドの OSC トリマを外付け改造がされていました。
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KENWOOD サービスで実施した改造です。
(右の写真)
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フロントエンド基板内のトリマはむしり取られていました。
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この方法は筆者がいつもやっている改造と同じです。
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筆者の改造方法は正しかったと言えます。
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内部に少しホコリが溜まっています。
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目視で劣化とわかる部品は見当たりません。
修理方針の決定
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フロントパネルの状態があまりにも酷い
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この状態だと修理に手間がかかり費用が多大になる気がします。
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フロントパネル一式交換のほうが、かえって安くなりそうです。
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たまたま手元に LED 化は終わっているが修理未完の KT-900 を持っていました。
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修理未完の理由は FM フロントエンド内のハイブリッド IC が劣化しているためです。
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まずハイブリッド IC をどうするか、入手できてもフロントエンドを基板から外すのが厄介です。
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修理依頼者に状況を説明して協議しました。
結果は以下です。
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LED 化は終わっている KT-900 の修理を諦めドナー機とします。
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ドナー機から使える部品を本機に移植することにします。
リペア (その1):FM 受信で音が大きくなったり/小さくなったり、バリバリという雑音が出る
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原因
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パルスカウント検波の LPF [L8] の故障です。
内蔵チタコンの絶縁劣化です。
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修理
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ドナー機から [L8] を移植して直りました。
同時に [音がかなり小さい] [STEREO ランプが点灯しない] 現象も直りました。
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念のため、2nd IF BPF の [L6] も一緒にドナー機から移植しました。
これも内蔵チタコンが絶縁劣化しかけていました。
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左の写真の黒ボディの部品が [L8] で、右の写真の白ボディの部品が [L6] です。

リペア (その2):AM 受信でサーバリバリという大きな雑音しか出ない
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原因
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AM IFT の [L14] の故障です。
内蔵チタコンの絶縁劣化です。
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修理
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ドナー機から [L14] を移植して直りました。
右の写真の金属ケースの部品です。
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AM 放送が雑音なく受信できるようになりました。
リペア (その3):ダイヤル照明とダイヤル指針の LED 化
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LED 化作業
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ドナー機は既に LED 化が終わっていたので、フロントパネル一式と指針を移植しました。
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KT-900 (2号機)
と同じ方法の LED 化となっています。
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結果
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明るくクッキリ・スッキリの素敵な表示に変わりました。
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一式での移植ですから [強化ガラスの欠け] [プラスチックタブ割れ] も同時に直りました。

リペア (その4):76〜78MHz 辺りの低い周波数で同調ノブを回すと、ガサゴソという雑音が出る
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原因
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バリコン軸の接触不良です。
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右の写真でバリコン軸と接触板の部分に緑色に見えるのが緑青サビで、接触不良が発生します。
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本機は製造後40年以上経っており、バリコン軸の接触回復は必須です。
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バリコン軸の接触回復作業
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1]〜[2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
CRC 5-56
を塗布して防錆処置します。
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結果
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大量の緑青サビがボロボロ湧き出ました。
実施して正解です!!!
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ガサゴソ雑音は消滅しました。
リペア (その5):FM 受信で電源 ON から30分くらいでサーボロックが外れる
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調査
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[FM OSC のズレ] か [同調点検出のズレ] を切り分ける必要があります。
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SSG から 10.7MHz を IF 部に送り込んで監視しました。
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結果、[同調点検出のズレ] と判明しました。
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原因
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同調点検出用の [L4] の劣化です。
(右の写真)
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修理
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ドナー機から [L4] を移植して直りました。
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[L4] を取り外す時に気が付いたのですが、ここも KENWOOD サービスで修理していました。
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[L4] 内蔵のチタコンを除去し、基板裏で代わりの 82pF セラミックコンデンサを追加していました。
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おそらく、このセラミックコンデンサの温度特性と [L4] コイルの温度特性が合っていないのです。
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今回の修理では内蔵チタコンが正常な [L14] ごと交換したので安心です。
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電源 ON から30分以上経っても同調点検出はズレません。
見事! 直りました!!!
リペア (その6):その他
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-0.5MHz 程度周波数ズレしている
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再調整して ±0.15MHz 程度の誤差に収まりました。
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バリコンや糸掛けと言ったアナログ的な仕組なので、完全に誤差ゼロにすることは不可能です。
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内部に少しホコリが溜まっている
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基板には部品が乗っているので完全にはできないのですが、エアブロアとハケでできる範囲で清掃しました。
再調整
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電圧チェック
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以下のように正常です。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
J83 |
+14V |
+13.4V |
〇 |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信部
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やはり、製造後40年を過ぎているので、あちこちズレがありましたが、再調整で規定値に収まりました。
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ステレオセパレーションや高調波歪率は以下のような優秀な値に調整できました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
56 |
58 |
dB |
NARROW |
51 |
48 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.051 |
% |
stereo |
0.084 |
% |
NARROW |
mono |
0.18 |
% |
stereo |
0.18 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-74 |
-73 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
0 |
dB |
REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
421.9 |
Hz |
-6.0 |
dB |
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AM 受信部
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[純正 AM ループアンテナ] が添付されていたのでトラッキング調整しました。
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ややズレがありましたが、調整で少し感度が上がりました。
使ってみました
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今回修理の感想
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コイル内蔵のチタコン故障や劣化が多過ぎです。
部品にも黄色の汚れ(おそらくタバコのヤニ)がありました。
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タバコの煙が多い場所で長い期間使われていたか、長期保管の湿度でチタコンがサビたと思います。
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チューナは数時間でもよいので毎日使ったほうが長持ちします。
温まることで湿度が飛んで良い状態を保てます。
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これだけコイルの故障が多かったので、ドナー機から部品移植する決断をしなければ直らなかったと思います。
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良いデザイン
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ダイヤルスケールと指針を LED 化したので非常に美しいです。
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最前面は強化ガラス、同調ノブは直径 41mm の無垢アルミと質感あります。
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軽快でよく考えられた優れたオペレーション
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S メータは 7 レベルのバー表示、T メータは [→ ←] の表示で、操作フィーリングが良いです。
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感度や音質
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FM は TRIO らしい高解像度でカチッとした高音質です。
感度も良いです。
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やはり、パルスカウント検波の音は良いです。
別格です。
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AM はそこそこ感度が高いです。
音質は AM なりに良いです。