TRIO KT-900 (7号機) が到着!
2023年12月24日、奈良県生駒郡の S さんより、
TRIO KT-900
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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最近、FM を選局しても雑音しか聴こえなくなりました。
聴けていた頃は STEREO ランプが点く時と点かない時がありました。
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AM は調子良く使えております。
デザインが気に入っておりますので治して使い続けたいと思っております。
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外観
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製造シリアル番号は [10622447] で、電源コードの製造マーキングより [1980年製造品] とわかりました。
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全体的には並みの中古状態です。
[純正 AM ループアンテナ] が添付されていました。
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フロントパネルの透明ガラス内は綺麗で、リアパネルの RCA 端子には輝きがあります。
特に問題ないです。
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電源 ON してチェック
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問題なく電源 ON でき、ランプ切れはないですが、やや暗い感じはします。
使用はできます。
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FM 受信
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電源 ON 直後は、チリチリ・ジリジリという雑音しか出ませんでした。
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15分くらい通電したままにしておいたら、雑音がだんだん大きくなってから、最後に正常な音が出るようになりました。
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正常な音が出た時は [STEREO] ランプも点灯しました。
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これ以降、電源 OFF→ON しても正常になってしまいました。
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どうすれば再現するのか条件がわからないと修理が難しいです。
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-0.5MHz 程度周波数ズレしています。
80MHz の放送がダイヤル指針で 79.5MHz 辺りで受信します。
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[REC CAL] スイッチを ON にしてもテスト音が出ません。
ここも故障しています。
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AM 受信
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カバーを開けてチェック
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内部に埃の堆積はほぼ無く綺麗です。
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バリコン軸に緑青錆が出ています。
接触不良するので錆取りが必要です。
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FM OSC トリマコンデンサが黒ずんでいます。
おそらく劣化しています。
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[IC7] HA1197 の足が真っ黒になっています。
この IC は AM 受信です。
まだ障害には至っていません。
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上記以外に目視で劣化とわかる部品は見当たりません。
リペア (その1):FM OSC トリマコンデンサが黒ずんでいる
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調査
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劣化しているか調べるために、左の写真で赤〇で囲んだトリマコンデンサをセラミックドライバで軽く叩いてみました。
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軽く叩くだけで同調周波数が大きくズレます。
完全に故障しています。

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修理
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フロントエンド基板でトリマコンデンサを交換するにはフロントエンドユニットを基板から取り外す必要があります。
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自動車でいうとエンジンを降ろすようなもので、大変な手間と時間がかかります。
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そこで、電気的に同一になる別手段で修理します。
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まずは、故障しているトリマコンデンサを精密ニッパを使って切断して除去しました。
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次に白いセラミックトリマコンデンサを上の右の写真のように、外部に実装しました。
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電気的に [故障したトリマコンデンサ] をこの [白いセラミックトリマコンデンサ] に交換したのと同じです。
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動作チェック
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当たり前かもしれませんが、新しいトリマコンデンサを軽く叩いても同調周波数はズレず良好です。
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到着時に確認できた -0.5MHz の周波数ズレも直りました。
リペア (その2):バリコン軸に緑青錆が出ている
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解説
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右の写真でバリコン軸と接触板の部分に緑色に見えるのが緑青サビです。
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錆は絶縁物なので、ここで接触不良が発生します。
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接触不良の結果、ガサゴソ雑音や感度の低下を招きます。
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バリコン軸の接触回復作業
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1]~[2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
CRC 5-56
を塗布して防錆処置します。
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結果
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大量の緑青サビがボロボロ湧き出ました。
実施して正解です!!!
リペア (その3):到着時に電源 ON 直後はチリチリ・ジリジリという雑音しか出なかった
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現象発生時の状況
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到着してから初めて電源 ON した時はチリチリ・ジリジリという雑音しか出ず、放送音らしきものは全く聴こえませんでした。
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通電したままにしておいたら、10分後くらいからザザーという雑音に変わり、この雑音が徐々に大きくなってきました。
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しばらくして、歪が非常に多い放送音らしき音に変化していきました。
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音の大きさがピークに達したと思ったら急に綺麗な放送音が聴こえてきました。
なぜか直ったのです。
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この後、電源 OFF→ON しても再現しなくなり、綺麗な放送音が聴こえます。
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原因を推定する
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過去の KT-900 の修理経験から、故障して雑音が出る可能性があるのは、左の写真の [L5] [L6] [L8] のどれかです。
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[L5] は 2nd OSC 同調コイルで、8.74MHz で発振します。
[1st IF 10.7MHz] - 8.74MHz = [2nd IF 1.96MHz]
となるのです。
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[L6] は 2nd IF (1.96MHz) の BPF です。
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[L8] はパルスカウント検波後の LPF です。
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[L6] [L8] の故障であればバリバリ雑音となり、音が小さくなることはあっても放送音は聴こえます。
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こうなると [L5] が一番怪しいです。
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[L5] が発振していないと放送音は聴こえません。
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[徐々に雑音が大きくなった]→[歪の多い放送音になった]→[綺麗な放送音になった] の現象から考えると ・・・
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最初の電源 ON 直後では [L5] が発振していなかったか、非常に低い周波数で発振していた。
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その後、なぜか徐々に [L5] が回復に向かい、発振周波数が 低→高 に変化していった。
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最終的に [L5] の発振周波数が 8.74MHz に達した。
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このストーリだと現象と辻褄が合います。
今回は [L5] 故障と推定します。
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疑似的に [L5] 故障状態にしてみて推定が正しいか確認しました。
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[L5] の内蔵チタコンがつながっている端子をショートして、疑似的に [L5] 故障状態にしました。
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チリチリ・ジリジリという雑音が再現しました。
[L5] の内蔵チタコン故障の可能性が高いと思います。
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右の写真は基板から取り外した [L5] です。

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取り外した [L5] をチェック
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左の写真は [L5] の裏側でチクワの形をしたチタコンが黒ずんでいます。
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黒ずみは
マイグレーション
です。
金属カビのようなもので、チタコンの両端をレアショートさせます。
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マイグレーションによるレアショートは不安定で、ちょっと振動を与えただけでも直ってしまうことがあります。
そしてまた、しばらくして現象発生します。
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右の回路図は [L5] の回路で、左の写真とピンの並びは合っています。
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回路図にある 4.9uH / 107pF は
LCR メータ
による実測値で、設計値は 4.7uH / 100pF と思います。

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修理
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[L5] から故障 (劣化) していると思われるチタコンを除去しました。
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チタコンを除去した [L5] を基板に戻しました。
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チタコンの代わりに 30ppm 温度補償積層セラミックコンデンサ 100pF を、基板の裏側で [L5] に取り付けました。
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右の写真で青色をしたコンデンサです。
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かなりの確率で当たっていると思うのですが、あくまで推定対策です。
リペア (その4):その他
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[REC CAL] スイッチを ON にしてもテスト音が出ない
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[VR2] 再調整で直りました。
経年変化でズレたのだと思います。
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[IC7] HA1197 の足が真っ黒になっている
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マイグレーション
が発生していますが、まだ障害には至っていません。
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足を
エレクトロニッククリーナ
とブラシを使ってクリーニングしました。
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更に、足が空気に触れてマイグレーションが発生しないようワニスコーティングしました。
再調整
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電圧チェック
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以下のように正常です。
| VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
| J83 |
+14V |
+13.2V |
〇 |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信部
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MPX VCO がズレていました。
[STEREO] ランプが点いたり消えたりする原因はこれだったのでしょう。
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OSC トラッキング調整で放送周波数と指針が指す周波数のズレは ±0.1MHz 以内になりました。
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90MHz 付近でズレが大きくなり -0.1MHz くらいでギリギリです。
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バリコンの精度に依るので、ズレを完全にはゼロにできません。
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ステレオセパレーションや高調波歪率は以下のような良好な値に調整できました。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
53 |
51 |
dB |
| NARROW |
50 |
50 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.049 |
% |
| stereo |
0.049 |
% |
| NARROW |
mono |
0.059 |
% |
| stereo |
0.059 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-63 |
-60 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
+0.03 |
dB |
| REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
441.4 |
Hz |
| -6.0 |
dB |
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AM 受信部
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[純正 AM ループアンテナ] で最高感度になるよう再調整しました。
特に大きなズレはありませんでした。
使ってみました
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修理が終わって
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再現性のある不具合は全て直せました。
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修理依頼者のいう [FM を選局しても雑音しか聴こえなくなりました] について ・・・
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到着時には確かに再現したのですが、その15分後からは再現しなくなりました。
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ただ、自然復旧までの過程を詳しく観察できたので、辻褄が合う推定対策となっています。
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推定対策なので、当たっていないこともあり得ます。
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現象が出放しか再現頻度が高くないと調査・修理が困難なこと、ご理解お願いします。
現状は良好に動作しています。
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デザイン
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デザインと操作性が良いチューナです。
前面のプラスチック部分がアルミ材であったなら、もっとよくなるのですが ・・・
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最前面は強化ガラス、同調ノブは直径 41mm の無垢アルミと質感あります。
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軽快でよく考えられた優れたオペレーション
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S メータは 7 レベルのバー表示、T メータは [→ ←] の表示で、操作フィーリングが良いです。
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感度や音質
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FM は TRIO らしい高解像度でカチッとした高音質です。
感度も良いです。
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やはり、パルスカウント検波の音は良いです。
別格です。
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AM はそこそこ感度が高いです。
音質は AM なりに良いです。