TRIO KT-9700 (4号機) が到着
2023年10月10日、
TRIO KT-9700
の故障品が到着しました。
KT-9700 (3号機)
を修理するためのドナー機として [3号機の修理依頼者] に
ヤフオクから手配
してもらったジャンク品です。
3号機は本機から電源トランスを移植して直りました。
残った電源トランスのない本機を趣味としてぜひ修理したいと思い、安価で引き取りました。
何とか復活させたい!!!
自分の物なので、いくらつぎ込んでも構わない。
定価15万円
で
パルスカウント検波
の
FM 専用チューナ
です。
程度&動作チェック
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ヤフオク出品者のコメント
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通電は致しましたが、動作環境が無い為、現状品となります。
外観にキズ汚れ・サビが見受けられます
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ジャンク品になります。
完璧を求める方はご購入をお控え下さい。
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外観
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製造シリアル番号は [650496] です。
電源コードよりは製造年がわかりませんでした。
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[フロントパネル] の右下にやや気になる当て線キズがあり、周波数ダイヤルの内側が煤状ゴミで曇っています。
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[リアパネル] [天板] [底板] はまあまあ綺麗です。
端子類に白っぽいサビが出ていますが使用には問題ないです。
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電源 ON してチェック
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[power] スイッチを ON にすると周波数ダイヤルの照明が点灯しました。
本機の電源トランスは大丈夫そうです。
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[IF band] などのインディケータ類が全く点灯せず、FM 受信も全くできません。
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ドナー機として [電源トランス] を取り外す時にチェックしました。
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[電源トランス] からの AC 出力電圧は正常で
KT-9700 (3号機)
へ移植部品として使えます。
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[PS 基板] の出力電圧が ±1.5V になっていました。
正常なら ±13V のはずで、これが動作しない原因です。
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この後 [電源トランス] を取り外したので、しばらく放置状態でした。
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カバーを開けてチェック
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[電源トランス] を取り外したので無いですが、内部の状態は非常に良いです。
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[PS 基板] が故障するまでは毎日使用されていたと思います。
チューナに湿気は禁物で、毎日使うほうが良い状態が保たれます。
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目視で確認できる劣化部品はないです。
IC やトランジスタのマイグレーションも無さそうです。
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使用している IC のロット番号より、本機は [1977年製造品] と判明しました。
もうすぐ半世紀ビンテージ品です。
リペア (その1):電源トランスが無い
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さてどうするか ・・・
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互換の [電源トランス] があればよいのですが、特注しないと無理っぽいです。
特注品は高価になります。
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海外に使えそうな電源トランスがありましたが、重いので送料が製品価格の倍かかります。
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手持ちのチューナの中から流用を検討すると TRIO KT-8300 の電源トランスが使えそうです。
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KT-9700 品は AC18V×2 ですが、KT-8300 品は AC16V×2 です。
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最終的に DC の ±13V が作れればよいので、この差は大丈夫です。
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KT-9700 品は AC7.5V があってランプ照明で使いますが、KT-8300 品はこの AC 電圧がありません。
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発想を変えて照明を LED 化すれば、この問題をクリアできます。
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結論として
[KT-8300 の電源トランスを本機に移植する] [照明を LED 化する]
と決定しました。
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KT-8300 の電源トランスを移植
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左の写真はお嫁に行ってしまったオリジナルの電源トランスです。
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右の写真は KT-8300 から移植した電源トランスの取り付けと配線が終わった状態です。
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トランスの取り付け方向を工夫することにより、元の取り付け穴がそのまま使えました。
板金加工不要でした。

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動作チェックして AC 電圧が正常に出ることを確認しました。
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AC 電圧は出るようになりましたが、[PS 基板] は故障したままです。
次のリペアで修理します。
リペア (その2):[PS 基板] が故障している
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原因
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下の回路図は [PS 基板] 周りです。
赤〇で囲んだツェナーダイオード [DZ1] が短絡故障していました。
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この電源回路は正負同期電源となっており、+電圧と絶対値が同じ−電圧が出ます。
±1.5V になったのと辻褄が合います。

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修理
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故障した [DZ1] を新品の [GDZJ3.0A]×2本 に交換して ±13V が出ました。
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[GDZJ3.0A] は 3.0V/0.5W ですが、直列接続して 6.0V/1W 相当として使いました。
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以下は交換リストです。
[Q1] [Q3] も念のため交換しました。
基板 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
PS 基板 |
DZ1 |
EQA01-06S |
GDZJ3.0A ×2本 |
GDZJ3.0A は2本直列にして使用 |
Q1 |
2SC945 |
2SC1815-GR |
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Q3 |
2SA733 |
2SA1015-GR |
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FM 放送がちゃんと受信できるようになり、インディケータも正しく点灯します。
直りました!!!
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ダイヤルとメータの照明はまだ点いていません。
次からのリペアで修理します。
リペア (その3):IF band 表示の LED の輝度が低い
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照明 LED 化より先にこの対策をやります
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[PS 基板] が直ってインディケータ LED が点くようになったのですが、IF band 表示の LED の輝度が低過ぎるのです。
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[stereo] [FM muting] [mpx filter] の輝度に比べると、点いているのか点いていないのかわからないほどです。
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原因は経年変化による LED の劣化です。
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ここの LED は右の写真の
古典的な石器時代の超古い LED
なのです。
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修理
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左の回路図は [SW 基板] にある IF band 表示回路で、右は変更した回路図です。
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最新のツバなしの緑色 3mm LED (7.3lm) に6本とも交換しました。
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LED だけを交換したら、今度は眩しくて直視できないほど明るくなり過ぎたので抵抗を変更して輝度を抑えました。
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石器時代の LED と最新の LED は同じ電流でも輝度がまるで違います。

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従来の LED では 15mA 流していましたが、交換した LED ではたった 0.08mA で同じ明るさです。
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消費電力は 0.4W→0.002W へ激減し、エコになりました。
(1/200)
リペア (その4):ダイヤル照明の LED 化
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左の写真はダイヤル面と D/M メータの照明構造です。
左側面もほぼ同じ構造です。
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ダイヤル面は側面にある斜めのダイヤル板を FUSE 型ランプで直接照射します。
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メータは導光アクリル板を介して間接照射します。
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右の写真のウォームホワイト・テープ LED を使って LED 化します。
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LED 化の方法は
KT-9900
と同じなので、そちらの記事も参照ください。

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電源強化目的で [PS 基板] の電解コンデンサを交換
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LED 照明の DC 電源は整流回路のマイナス系から取得します。
マイナス系のほうが余裕があるのです。
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本来は [C6] だけ交換すれば良いのですが、全数交換してオーバーホールしました。
基板 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
PS 基板 |
C5 |
2200uF/25V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
105℃ クラスに交換、高耐圧化 |
C6 |
470uF/25V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
105℃ クラスに交換、高耐圧化、容量アップ |
C7 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE/BP) |
オーディオクラスに交換 |
C8 |
220uF/25V (85℃) |
220uF/25V (125℃) |
125℃ クラスに交換 |
C9 |
100uF/25V (85℃) |
220uF/25V (125℃) |
125℃ クラスに交換、容量アップ |
C10 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE/BP) |
オーディオクラスに交換 |
C11 |
10uF/25V (85℃) |
10uF/25V (MUSE/BP) |
C12 |
3300uF/16V (85℃) |
3300uF/35V (105℃) |
105℃ クラスに交換、高耐圧化 |
C13 |
3300uF/16V (85℃) |
3300uF/35V (105℃) |
C14 |
3.3uF/25V (85℃) |
3.3uF/25V (MUSE/BP) |
オーディオクラスに交換 |
C15 |
10uF/25V (85℃) |
10uF/25V (MUSE/BP) |
C16 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE/BP) |
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全ての電解コンデンサをグレードの高いものに交換したので、[緑] [黒] [茶] とカラフルになりました。
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黄〇で囲んだ場所の FUSE は不要になったので外しました。

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LED 化前のランプ回路
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オリジナルのフィラメントランプの時の回路です。
ランプへは電源トランスの専用巻線から AC 駆動しています。
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今回、電源トランスを KT-8300 のものと交換したので、この専用巻線がありません。

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LED 化後のランプ回路
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LED なので全て DC 駆動します。
LED の電流は僅かなので、駆動電源は [PS 基板] の [C2] 両端から取りました。
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[電源トランスからの AC7.5V の配線] [フィラメントランプ] は不要なので取り外しました。

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完成しました!
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期待以上の素敵で綺麗な表示です。
IF band 表示の LED も交換済なので明るいです。

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電球色とは少し違い、やや明るいオレンジ色でスッキリ感があります。
KT-9700 としてはニューカラーです。
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劇的に消費電力が減り、エコです!
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改造前のフィラメントランプでは 12W 電力消費していましたが、LED 化後は 0.6W 以下です。
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更に [DIMMER] スイッチ ON では 0.15W 以下です。
室内で普通に使う分には DIMMER で十分かも。
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フィラメントランプの時より明るくコントラストが上がったのに消費電力が激減、LED 化は大正解です!
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長期的に考えると、安くなった電気代で今回の改造費はチャラになるような。
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[IF band 表示] [ダイヤル照明] 輝度調整抵抗は [SW 基板] の裏側に実装しています
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理由は [SW 基板] の部品交換は手間がかかるためです。
整線された配線を一旦バラバラにする必要があります。
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このため、輝度調整抵抗は [SW 基板] の裏側に実装しました。
これなら [SW 基板] を外さなくても交換できます。
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下の写真で赤〇で囲んだ抵抗が [IF band 表示] 用で、黄〇で囲んだ抵抗が [ダイヤル照明] 用です。

リペア (その5):ダイヤル内側の周波数パネルが埃で曇っている
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照明 LED 化でフロントパネルを分解したついでにクリーニングしました。
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周波数表示ガラスは中性洗剤を使って水洗いし、ホコリが綺麗に除去できました。
ダイヤルパネル内も清掃しました。
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ウットリするほど綺麗な周波数ダイヤル照明になりました。
再調整
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電圧チェッック (VP)
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実測値は以下のように正常でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
[PS 基板] 2pin (+B) |
+13V |
+13.0V |
〇 |
[PS 基板] 4pin (-B) |
-13V |
-13.1V |
〇 |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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内部の状態が良かったのでメチャメチャ調整ズレしているということはなく、普通にズレがありました。
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再調整で全て規定値内に入りました。
特にステレオセパレーションが大幅に向上したので、とっても良い音になりました。
項目 |
IF band |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
wide |
stereo |
70 |
70 |
dB |
normal |
44 |
46 |
dB |
narrow |
44 |
45 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
wide |
mono |
0.042 |
% |
stereo |
0.042 |
% |
normal |
mono |
0.058 |
% |
stereo |
0.058 |
% |
narrow |
mono |
0.11 |
% |
stereo |
0.11 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
wide |
stereo |
-72 |
-69 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
wide |
mono |
0 |
+0.08 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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本機から [電源トランス] が無くなり廃品寸前になりましたが、救済できて良かったです。
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[照明 LED 化] [IF band 表示 LED 交換] で素晴らしく美しくなりました。
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KT-9700 の上位機種は
KT-9900
ですが ・・・
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KT-9900 より KT-9700 のほうが遥かにメンテナンス性がが良く、性能も同等です。
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KT-9700 は KT-9900 の改良品で本命だと思います。
今から中古品を入手するなら KT-9700 をお奨めします。
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デザイン
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ともかく大きくて重いです。
アンプより重いかもしれません。
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フロントパネルは 5.3mm の分厚いアルミ材で高級感あります。
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チューニングノブは直径 50mm のアルミ材で高級感あります。
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チューニングノブでダイヤル指針は、高級感のある動きをします。
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今回、完全 LED 化したので美しさに磨きがかかりました。
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見ていて美しさにウットリ!
KT-9700 は完全 LED 化が正解です。
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[最前面の透明パネル] [内部の周波数パネル] がガラス製で透明度が高く高級感あります。
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感度や音質
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感度は良好で、妨害電波排除能力も優れています。
ともかく安定感があるというか、さすが高級機です。
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ウットリ聴き惚れてしまうほうどの高音質!
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スッキリ爽快な誇張のないクリアな音質です。
ナチュラルサウンドという感じする素敵な音です。
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音に解像度があって、ハーモニーもしっかり再生します。
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放送局のモニタ機として測定器代わりに使えるほどのクセない超高音質です。