TRiO KT-990 (4号機) が到着
2024年8月5日、東京都杉並区の T さんより
TRiO KT-990
の修理依頼品が到着しました。
パルスカウント検波
が特長のチューナです。
この写真は照明 LED 化後です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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昔使用していた TRiO KT-990 です。
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FM を受信しないなど不具合多いのですが、なんとか再動作するよう修理をお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [30400026] で、電源コードの製造マーキングより [1982年製造品] とわかりました。
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[純正 AM ループアンテナ] が添付されていました。
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全体に汚れが多く、特にフロントパネルの透明ガラスの内側にはゴミが多く溜まって汚く感じます。
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フロントパネルの上側がグラグラしています。
おそらく、フロントパネル内側にある固定タブ (プラスチック) が割れているのでは?
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リアパネルにサビが出ています。
端子類にもサビがありますが使えると思います。
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天板は汚れていますが使用には問題ないです。
底板はまあまあ綺麗です。
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電源 ON してチェック
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受信周波数を示す指針ランプが切れていて周波数がわかりません。
これ以外のランプ切れはありません。
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FM 受信
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-3.5MHz の周波数ズレがあります。
79.5MHz の放送が 76MHz で受信します。
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[STEREO] ランプが点灯して受信できますが、S メータが3個分 (全部で7個) しか振れず、感度落ちしています。
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出てくる音は歪っぽいです。
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AM 受信
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添付された AM ループアンテナで感度よく受信できます。
特に問題なさそうです。
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カバーを開けてチェック
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内部はかなり綺麗でホコリがありません。
基板も綺麗で、各種 IFT コイルもピカピカ輝いています。
かなり状態が良いです。
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この機種で散見される [バリコンギア機構のプーリー軸外れ] はないです。
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左の写真のように、バリコンには軸とアースプレートに緑青サビが出ています。
緑色に見える部分が緑青サビです。
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右の写真のように、フロントパネルを内部で固定するプラスチックタブの根元が割れています。
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タブは左右に2個ありますが、どちらも同じ状態でした。
グラグラの原因です。
リペア (その1):FM で -3.5MHz の周波数ズレがある
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原因
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OSC トリマコンデンサが劣化して容量抜けしたのが原因です。
回してみても容量が全く変わりませんでした。
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修理
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トリマコンデンサを交換して直りました。
左の写真は交換後で、黄〇で囲んだ部品です。
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交換に使ったトリマコンデンサはセラミック型で容量 10pF です。
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基板の裏に開いている小さい穴からアクセスしたので、けっこう大変でした。
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右の写真は、元の故障したトリマコンデンサです。
バリコンでいう羽の部分が腐食していました。
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修理後の動作確認
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トリマコンデンサ交換後に放送波で仮調整して確認しました。
周波数ズレが直り、以下の不具合も
同時に直りました!
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感度落ちが直り、S メータがフルに振れるようになりました。
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歪っぽかった音が綺麗なパルスカウント検波の良音になりました。
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FM の受信不具合は全て直り、再調整すれば新品時の性能に蘇ると思われます。
リペア (その2):電源部の電解コンデンサを全数交換
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概要
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本機は製造から42年経っており、電源部の電解コンデンサは熱に晒されて劣化している心配があります。
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また、照明を LED 化する電流もここから取るので、この際、電解コンデンサを全数交換します。
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交換
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交換リスト
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高耐熱品を使いました。
耐電圧アップしているものもあります。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
C101 |
2200uF/25V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
C103 |
100uF/25V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
C105 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
C106 |
10uF/16V (85℃) |
10uF/50V (105℃) |
C109 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (105℃) |
C110 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
C114 |
1000uF/10V (85℃) |
1000uF/10V (105℃) |
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左の写真は電解コンデンサ交換後です。
黄色枠で囲んだ部品です。
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同じ容量でもサイズは一回り以上小さくなりました。
風通しが良くなったので信頼性向上が期待できます。
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右の写真はこれまで基板に実装されていた古い電解コンデンサです。
リペア (その3):フロントパネルを内部で固定するプラスチックタブが割れている
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原因
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プラスチックが経年変化でもろくなったのと、おそらく、アンプのような重い機器を重ね置きしたと想像します。
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KT-990 のフロントパネルの上側を留めるプラスチックタブは薄いので、荷重がかかると割れてしまいます。
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修理
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割れたプラスチックの修理は無理なので、新たに銅板で留め金具を製作して修理しました。
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金具を作るにしてもスペースの余裕のない箇所に無理矢理入れる必要があります。
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薄くて強度のある、そして加工しやすい素材ということで銅板を使いました。
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下の写真は挿入した銅板金具の表と裏の取付状態です。
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厚み 0.25mm の銅板を 25×37mm に切り出し、元の取付ネジ穴と合う位置に直径 3.2mm の穴を開けます。
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G17 ボンドで銅板をネジ穴に合う位置に接着します。
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天板に穴を開けて結合したほうが強度が出るのですが、天板に不細工なネジが見えるのはイヤでしょ。
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すなわち、取付強度は G17 ボンド接着によります。
そう過大な重量には耐えられないです。
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割れたプラスチックは銅板上に接着していますが、これは取付強度に関しては何の役にも立っていません。
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元の取付位置を示す指標として貼り付けただけです。
飾りみたいなものです。
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写真は右側の銅板金具ですが、左側にももう1枚の銅板金具があります。
全部で2枚 (2箇所) です。
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G17 ボンドがしっかり接着してくれるまで半日以上かかるので時間がかかる作業でした。
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修理後の確認
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完成後はフロントパネルの上部固定がしっかりとできることを確認しました。
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繰り返しますが、
天板の上に重量物を重ね設置禁止!!!
リペア (その4):照明 LED 化
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概要
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KT-990 にはフィラメントランプが使われているのは3箇所です。
これ以外は既に LED になっています。
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3箇所とは [ダイヤル照明]×2個、[ダイヤル指針] [SERVO LOCK] です。
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特に本機はダイヤル指針用のランプが切れており、受信周波数の把握ができません。
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受信周波数の把握ができないと再調整作業にも入れません。
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使用する LED
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左の写真のウォームホワイト高輝度テープ LED を [ダイヤル照明] に使います。
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LED はフィラメントランプと違って正面にしか光が出ません。
しかも取付場所は非常に狭いのです。
テープ LED が正解です。
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テープ LED は単位ごとに切って使えます。
単位ごとに LED×3個 です。
テープ幅は 10mm です。
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右の写真は砲弾型 LED で以下のものを使います。
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[ダイヤル指針] ランプに [3mm/ウォームホワイト色/14400mcd/照射角30度] の砲弾型 LED を1個使います。
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[SERVO LOCK] ランプに [5mm/ウォームホワイト色/35000mcd/照射角15度] の砲弾型 LED を2個使います。
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LED 照明回路
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右の回路で [ダイヤル照明] [ダイヤル指針] を LED 化します。
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LED は DC 駆動する必要があります。
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既にある電源回路の [C101] の両端から電源を取ります。
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取り出す電流は 2.5mA と僅かなので KT-990 の動作に影響はありません。
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テープ LED は1単位でも明るさは十分ですが、[C101] の両端の電圧が 20V 以上あるので、電力を無駄にしないため、1単位のものを2個直列にします。
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こういう使い方ができるのでテープ LED は使い勝手が良いです。
テープ LED の1単位は 9V 以上あれば発光します。
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フィラメントランプの時は 2.2W 電力消費していましたが、LED にすると明るくなるのに 0.05W と激減します。
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下の回路で [SERVO LOCK] ランプを LED 化します。
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ここは既に DC 駆動だったので、LED に合うよう抵抗の定数を変更します。
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プレヒート用の [R116] は LED では不要なので除去します。
電流制限用の [R118] は 2kΩ に変更します。
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フィラメントランプの時は 0.1W 電力消費していましたが、LED にすると明るくなるのに 0.02W と激減します。
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LED 化後の様子
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左の写真はオリジナルのダイヤル照明ランプの実装状態です。
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ランプ交換するまでにフロントパネルをここまでバラバラにする必要があって超大変です。
設計不良じゃないかと思えるくらい。
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フィラメントランプ×2個とその配線を全部除去しました。
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右の写真はこれから取り付けるテープ LED で、事前に写真のように加工しました。
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左の写真は取付が終わったテープ LED です。
厚紙で台紙を製作し、ここにテープ LED を貼り付け、全体を G17 ボンドで接着しました。
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右の写真は取付が終わった指針 LED です。
LED は正面にしか光が出ないので、リード足を加工して指針に向くようにしました。
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左の写真に見える大きなボックスの中に [SERVO LOCK] 表示用 LED が入っています。
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この表示は横幅が 45mm もあって均一に照射するのが難しいです。
逆に言うと、なぜこんなにも無駄に長い表示にしたのか?
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そこで LED を2個にして照射角を補い、更に光拡散キャップを被せて、できるだけ照射を均一にしました。
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右の写真のように、基板の裏側で電流制限抵抗の [2kΩ] [22kΩ] を取り付けています。
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この抵抗値を増減すれば輝度を変更可能で、好みの明るさにできます。
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LED 化完成
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超美しい表示になりました!
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ウォームホワイト色 LED を使ったので元の雰囲気はそのままでコントラストが上がりました。
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LED はフィラメントランプと違って長寿命です。
今後切れることはほぼないです。
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照明の消費電力が激減し筐体内の温度上昇を防げるので、機器の信頼性が上がります。
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しかも、安くなった電気代で今回の改造費はいつか回収できますよ!
リペア (その5):バリコン軸とアースプレートに緑青サビが出ている
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サビは絶縁物なので接触不良となり、以下の現象が出ます
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周波数の低い辺りで指針を動かすとゴソゴソという雑音が出る。
感度が落ちたり、受信が不安定になったりする。
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以下のようにバリコン軸の接触回復作業をしました
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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軸受けに
接点復活スプレー
を塗布して何度もバリコン羽を動かして馴染ませます。。
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仕上げに、軸受けにリチウムグリスを塗布して防錆処置します。
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大量の緑青サビが除去できました
リペア (その6):ハンダクラック予防補修
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ハンダクラックしやすい箇所
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左の写真は [RCA 端子] の裏側です。
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端子のリードが基板に直接ハンダ付けされており、リアパネルと基板の2方向からストレスが掛かるのでハンダクラックしやすいです。
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右の写真は [Q22] パワートランジタです。
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ハンダ付け部分は放熱器と基板の2方向からストレスが掛かるのでハンダクラックしやすいです。
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修理 (予防補修)
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[RCA 端子] [Q22] のハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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以下のように正常でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
J151 |
+14V |
+13.6V |
〇 |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信
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トリマコンデンサを交換したので、FM フロントエンドのトラッキング調整をやり直しました。
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調整後は指針と周波数ダイヤルのズレは ±0.1MHz 以内に入りました。
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パルスカウント検波部で調整ズレがありましたが、再調整で規定内に入りました。
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再調整でステレオセパレーションが大きく改善し、音の解像度が上がり、良い音になりました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
70 |
70 |
dB |
NARROW |
55 |
58 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.097 |
% |
stereo |
0.097 |
% |
NARROW |
mono |
0.60 |
% |
stereo |
0.60 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-53 |
-54 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
+0.06 |
dB |
REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
445.3 |
Hz |
-6.0 |
dB |
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AM 受信
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添付された AM ループアンテナで最高感度になるよう調整しました。
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なお、
AM 放送は2028年でほぼ終了
します。
聴けるのは今のうちです。
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KT-990 で FM に移行した元 AM 放送 (ワイド FM) を聴くには
周波数コンバータ
を製作するとよいです。
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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到着時は FM 受信不良、フロントパネルがグラグラ、ゴミが多いと悲惨な状態でした。
これ、本当に直すの?と思ったくらい。
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修理&再調整で新品時の性能に蘇って良かったです。
照明 LED 化により新製品と見間違うほど綺麗なルックスになりました。
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やはり KT-990 のパルスカウント検波の音は素晴らしいです。
この方式のチューナはもう売られていないので、本機は貴重品です。
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デザイン
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デザインが優れた薄型チューナです。
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ダイヤルスケール部全体がイルミネーション照明されており綺麗です。
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今回は照明を LED 化したので、更に美しくなりました。
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ダイヤルスケール部には本物の強化ガラスが使われています。
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チューニングノブは直径 41mm の無垢アルミに輝きのあるスモークアルマイト処理がされており、質感があります。
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感度や音質
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FM は TRiO らしい高解像度でカチッとした高音質です。
感度も良いです。
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やはり、パルスカウント検波の音は良いです。
別格です。
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AM は高感度で S/N が高いです。
[IF BAND] を WIDE にすると高音がよく出ます。