Victor FX-711 (3号機) をゲット!
2011年6月3日、
Victor FX-711
の動作品を神奈川県の S 様より研究用に寄贈いただきました。
既に、一部の部品が交換されていました。
最初の調整から13年経ったので、2024年10月に本格的な修理と再調整をしました。
程度&動作チェック
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寄贈者のコメント
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外観は一見キズなしですが、よく見ると細かいキズが少しだけあります。
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[電源部の電解コンデンサ] [FM RF トリマコンデンサ] を全数交換しました。
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オーディオ最終出力段のオペアンプを交換しました。
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[IC402] [IC403] を IC ソケット化し、[M5219] (三菱) → [OPA2604AP] (BURR-BROWN) に交換しました。
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[OPA2604AP] は高域の透明感が増し POPS や JAZZ 系に向きます。
[M5219] はビクターらしい柔らかい音が出ます。
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AM 用のループアンテナはありません。
AM で時折ノイズが出ます。
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プリセットメモリ用コンデンサが弱っています。
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外観
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製造シリアル番号は [08606926] で、電源コードの製造マーキングより [1989年製造品] とわかりました。
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[純正 AM ループアンテナ] の添付はありませんでした。
全体にかなり綺麗です。
とは言っても中古なりにです。
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リアパネルと天板を留めるネジ穴がバカになっています。
底板を留めるネジの一部がオリジナルと違います。
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電源 ON してチェック
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FM/AM とも正常に受信できます。
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FL 表示管の輝度は新品同様で、タクトスイッチは全て正常に動作します。
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カバーを開けてチェック
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右の写真のように、[IC402] [IC403] を [OPA2604AP] に置き換えられています。
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単価2,500円の超高級 OP アンプを2個使っているので、これだけで5,000円かかっています!!!
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オリジナルの [M5219] はトランジスタ入力ですが、[OPA2604AP] は J-FET 入力で高域が綺麗に響きます。

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FM フロントエンド内トリマコンデンサ×5個が 20pF タイプに交換されています。
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フロントパネル上部を留めるナイロンラッチがネジに置き換わっています。
リペア (その1):AM で時折ノイズが出る
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原因
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AM フロントエンド内トリマコンデンサの劣化が原因です。
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修理
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下のリストのようにトリマコンデンサ×2個を交換しました。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
TC301 |
20pF |
20pF |
トリマコンデンサ |
TC302 |
20pF |
20pF |
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右の写真は交換後で、赤色トリマコンデンサです。
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交換後の動作確認
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交換後に正常に AM 受信できてノイズが出ないことを確認しました。
直りました!!!
リペア (その2):FM フロントエンド内トリマコンデンサが 20pF タイプに交換されている
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概要
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おそらく前回の修理者は 10pF でも 20pF でも大した違いはないと思われていたのでしょう。
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でもトリマコンデンサには最低容量があって、大体、最大容量の 20% くらいです。
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10pF トリマは 2~10pF、20pF トリマは 4~20pF が可変範囲になります。
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20pF では最低容量が大きいので 10pF トリマの代替にはなりません。
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修理
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下のリストのようにトリマコンデンサ×5個を交換しました。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
TC101 |
20pF |
10pF |
トリマコンデンサ |
TC102 |
20pF |
10pF |
TC103 |
20pF |
10pF |
TC104 |
20pF |
10pF |
TC105 |
20pF |
10pF |
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右の写真は交換後で、青色トリマコンデンサです。
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交換後の動作確認
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交換後に再調整して正常に FM 受信できることを確認しました。
オリジナル状態に戻りました!!!
リペア (その3):オーディオ信号が通過する電解コンデンサを交換
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概要
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本機は既に [電源基板] の電解コンデンサを全数交換されています。
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更に音質改善目的で、オーディオ信号が通過する電解コンデンサを交換します。
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FX-711 においては AF アンプの部分がほとんど DC アンプ化されているので、対象の電解コンデンサは僅かです。
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[C226] は [PLL 検波]~[MPX] の間にあって、PLL 検波出力は±に振れるので無極性電解コンデンサのほうが良いです。
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交換実施
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下のリストのように交換しました。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C226 |
22uF/50V (85℃) |
22uF/25V (MUSE/BP) |
オーディオグレード品に交換 |
C431 |
4.7uF/50V (85℃) |
10uF/50V (FG) |
C432 |
4.7uF/50V (85℃) |
10uF/50V (FG) |
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左の写真は交換後で、赤〇で囲んだ金色と緑色の電解コンデンサです。
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右の写真はこれまで基板に実装されていた古い電解コンデンサです。
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黒いのは [Rubycon YK] で標準品です。
オーディオ用ではありません。
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茶色いのは [ELNA SILMICⅡ] でオーディオ用です。

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交換後の動作確認
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本機は既に高音質 OP アンプ [OPA2604AP] に換装されており、これと相まって更に音に艶が出たように感じます。
リペア (その4):プリセットメモリ用コンデンサが弱っている
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調査と原因
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FX-711 のプリセットメモリのバックアップ仕様は以下です。
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AC プラグに給電されていると、[POWER] スイッチが OFF でも常にメモリに電圧を加圧し記憶を保持します。
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AC プラグへの給電が停止すると電気二重層コンデンサによるメモリバックアップが開始され、1週間は記憶を保持します
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実際に試験してみました。
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電源コードを抜いた状態で1日ほどでプリセット記憶が消えてしまいます。
これは短過ぎます。
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プリセット記憶をバックアップする電気二重層コンデンサが劣化して容量低下しているのが原因です。
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修理
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下のリストのように電気二重層コンデンサを交換しました。
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もっと容量の大きい (1F) と交換したかったのですが、実装スペースの関係で無理でした。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C703 |
0.047F/5.5V |
0.047F/5.5V |
電気二重層コンデンサ |
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左の写真は [電気二重層コンデンサ] 交換前で、右の写真は交換後です。

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交換後の動作確認
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プリセットができ、AC プラグを抜いてもプリセットが保持されていることを確認しました。
ただし、AC プラグを抜いていたのは2日くらいです。
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長期のバックアップ試験は時間がかかるので無理です。
1週間のバックアップ試験には1週間以上かかるのです。
リペア (その5):ネジの一部が不正
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リアパネルと天板を留めるネジ穴がバカになっている
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ネジ×2本を一回り大きいタップネジと交換しました。
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底板を留めているネジの一部に不正規品が使われている
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不正規ネジ×4本をオリジナル同等品と交換しました。
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フロントパネル上部を留めるナイロンラッチがネジに置き換わっている
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ネジを除去し、正しいオジジナル同等のナイロンラッチ×3個と交換しました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
チューナ基板 |
W305 (Q801-E) |
+30V |
+28.8V |
〇 |
VT 電源 |
W116 (Q803-E) |
+12V |
+11.8V |
〇 |
アナログ系 |
W113 (Q808-E) |
-12V |
-12.9V |
〇 |
W307 (Q805-E) |
+5V |
+5.00V |
〇 |
デジタル系 |
電源基板 |
J705-3pin |
+5.6V |
+5.74V |
〇 |
J705-5pin |
-35V |
-34.8V |
〇 |
FL |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信部
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FM ステレオセパレーションや高調波歪率などは以下です。
良好な性能です。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
60 |
58 |
dB |
NARROW |
24 |
23 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.035 |
% |
stereo |
0.041 |
% |
NARROW |
mono |
0.27 |
% |
stereo |
0.32 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-50 |
-50 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
+0.01 |
dB |
REC CAL |
WIDE |
mono |
445.3 |
Hz |
-6.0 |
dB |
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AM 受信部
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[純正 AM ループアンテナ] の添付がなかったので、IF 調整だけ実施ました。
使ってみました
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FX-711 は Victor 最頂点のチューナ
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5連バリキャップで高周波系の性能が良く、しかも音が良いです。
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鳶のビクターが鷹の本機を生んだかのような奇跡の高性能チューナです。
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SONY ST-S333ESX シリーズを越えているかもしれない。
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FM 受信
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感度が良く、
聴いた瞬間に高音質と判る良い音
、素敵です。
聴き惚れます。
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PLL 検波らしい、スッキリした解像度感のある音です。
細かい音が綺麗に出る繊細な音です。
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BURR-BROWN の高音質 [OPA2604AP] とオーディオクラス電解コンデンサに交換済みで、オリジナルより解像感と艶のある音です。
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本機の FM 受信時 S メータの dB 表示はかなり正確です。
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この表示は取扱説明書通りの dBuV で校正しており、30~90dB の表示範囲は信じてよいです。
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dBf 表示とは異なり、75Ωアンテナ入力では「dBf = dBuV + 11」で dBf より 11dB 低く表示されます。
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AM 受信
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手持ちの [AM ループアンテナ] で試しましたが、感度はか良く S/N も良いです。
音質は AM としては普通レベルです。
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しかし、本機の FM が超高音質のチューナでナロー音質の AM をわざわざ楽しむ人はいないと思います。