Victor FX-711 (5号機) が到着
2022年8月20日、広島市の Y さんから
Victor FX-711
の再調整依頼品が到着しました。
Victor にはロクなチューナがなく、マトモなのは FX-711 しかないと言われます。
突然変異の FX-711 はビックリ!超優秀!
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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ハードオフで購入しました。
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FM は、電界強度も表示していましたので、一通りの機能は動作しているようでした。
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年数がたっており、少なからず調整がずれていると思われます。
ANT B と AM は確認しておりません。
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AM はループアンテナを同梱しますので、このアンテナで調整してください。
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外観
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製造シリアル番号は [13303371] です。
電源コードの製造マーキングより1988年製と判りました。
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純正ではありませんが、[AM ループアンテナ] が添付されていました。
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全体的に並みの中古状態より少し悪いです。
ラックに入れてしまえば悪い部分が見えなくなります。
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フロントパネルを正面から見ると汚れはありますが、まあまあの状態です。
天板への折り返し部分に少し変色があります。
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リアパネルは綺麗です。
端子類のメタル部分には輝きが残っています。
ANT B の F 端子の白い部分が黄色に変色しています。
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天板はスレや変色があって状態は良くないです。
致命的なヘコミ等はないです。
綺麗にするならカーラッピングシートを貼るのがお奨め。
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底板およびインシュレータは綺麗です。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく ON できました。
各種ボタンは正常に動作します。
FL 表示管の輝度は新品同様です。
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32個あるタクトスイッチの10個以上が劣化しています。
強く押せば何とか ON にはなるようです。
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FM 受信
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感度が大きく低下しています。
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SSG から 60dB の電波を入れても FX-711 の表示は 0dB となります。
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SSG から 70dB の電波を入れたら 22dB と表示しました。
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SSG から 65dB 以上の電波を入れないと [STEREO] になりません。
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周波数ズレは感じません。
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AM 受信
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添付された [AM ループアンテナ] での再調整は必要ですが、正常に受信できます。
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カバーを開けてチェック
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天板の内側にビクターの修理シールが貼ってありました。
[1996年1月30日 T206 交換] と書いてありました。
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内部はは非常に綺麗です。
目視で問題がありそうな部品は見当たりません。
リペア
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FM の感度が大きく低下している
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再調整で初期性能に戻り、感度が大きく上がり、dB 電波レベル表示も正確になりました。
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タクトスイッチが劣化している
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本機では 6x6x9.5mm のタクトスイッチを32個使っており、[フロントパネル基板] に搭載しています。
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基板を痛めないよう古いタクトスイッチの足を精密ニッパで切断し、18W の半田ゴテで作業しました。
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全数一斉交換は、[タクトスイッチ1個あたり4本の足]×32個=128箇所 の作業となるので大変でした。
交換後は良好です。
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予防交換
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プリセットメモリをバックアップする電気二重層コンデンサを交換しました。
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電気二重層コンデンサは [フロントパネル基板] に搭載されており、[C703 0.047F/5.5V] を同じ容量に交換しました。
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タクトスイッチと同じ基板に搭載されているので、一緒に交換しました。
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本機のメモリバックアップの仕様は以下です。
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電源プラグを抜いた状態で1週間です。
取扱説明書6ページの [POWER] の項に記載あります。
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これとは別に、電源プラグに AC100V が供給されておればメモリに給電されるので、メモリが消えることはありません。
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その他
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あまりにもフロントパネルが汚れているので、無水アルコールなどで軽く清掃しました。
かなり綺麗になりました。
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汚れを拭き取ると黄色だったので、タバコのヤニと思います。
やり過ぎると文字が消えたりするので程々です。
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交換した部品の記録
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交換前に基板に乗っていた部品です。
黒いのがタクトスイッチで、緑色のが電気二重層コンデンサです。
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以上で直ったと思って使っていたら、突然、感度が大きく低下した!!!
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原因は [TC1] [TC2] のトリマコンデンサでした。
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振動等で設定容量が大きく変わってしまったのです。
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これはトリマコンデンサのハトメ部分の接触不良です。
経年変化でこういうことは結構あります。
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他のトリマコンデンサも心配なので、全数の5個とも高信頼のセラミックトリマコンデンサ 10pF と交換しました。
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交換後、時々振動を加えてロングラン試験していますが不具合は発生せず、完全に直りました。
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修理返却前に気付けてよかったです。
ヤレヤレ。
ビンテージ物修理のリスクです。
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右の写真は交換前に基板に乗っていたトリマコンデンサです。
底に見えるハトメ部分で接触不良が発生したのです。
再調整
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電圧チェック (VP)
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以下のように全て良好です。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
チューナ基板 |
W305 (Q801-E) |
+30V |
+29.3V |
〇 |
VT 電源 |
W116 (Q803-E) |
+12V |
+12.2V |
〇 |
チューナ電源 オーディオ電源 |
W113 (Q808-E) |
-12V |
-12.9V |
〇 |
W307 (Q805-E) |
+5V |
+5.16V |
〇 |
ロジック電源 |
電源基板 |
J705-3pin |
+5.6V |
+5.64V |
〇 |
MCU 電源 |
J705-5pin |
-35V |
-34.3V |
〇 |
FL 電源 |
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調整結果
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FX-711 (2号機)
に記載の手順で調整しました。
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FM 受信
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再調整で感度は見違えるほど大きく向上しました。
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dB 表示はキチンと校正したので、30〜90dB の範囲では簡易電波強度計に使えるほどです。
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ステレオセパレーションなどは以下です。
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IF BAND = WIDE 時はものすごく良い性能です。
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NARROW ではかなり悪くなるのでオマケです。
項目 |
IF BAND |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
70 |
67 |
dB |
NARROW |
24 |
18 |
dB |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
-53 |
-54 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (MONO) |
0 |
+0.12 |
dB |
REC CAL |
445.3 |
Hz |
-6.0 |
-6.0 |
dB |
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ステレオ時の高調波歪率 (WIDE 1kHz) は 0.011% でした。
問題ありません。
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電波強度 dB 表示の精度をチェックしてみました。
以下の表です。
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83MHz で受信の場合です。
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電波強度 30〜70dB では正確、30〜90dB でも実用範囲とわかりました。
簡易電波強度計として使えます。
SSG 出力 (dB) |
〜18 |
19 |
20 |
30 |
40 |
50 |
60 |
70 |
80 |
90 |
FX-711 のレベル表示 (dB) |
0 |
10 |
12 |
30 |
43 |
50 |
60 |
72 |
84 |
96 |
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AM 受信
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AM は添付されたループアンテナで調整しました。
大きく感度が上がりました。
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AM はループアンテナも同調回路の一部となっており、ペアで調整する必要があります。
使ってみました
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FX-711 は Victor 最頂点のチューナです
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5連バリキャップで高周波系の性能が良く、しかも音が良いです。
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SONY ST-S333ESX シリーズを越えているかもしれない。
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FM 受信
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感度が良く、受信レベルが dB で表示でき、しかも正確です。
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聴いた瞬間に高音質と判る良い音
、素敵です。
聴き惚れます。
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PLL 検波らしい、スッキリした解像度感のある音です。
細かい音が綺麗に出る繊細な音です。
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AM 受信
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感度はかなり高く、S/N も良いです。
音質は AM としては普通レベルです。