Victor FX-711 (6号機) が到着
2023年9月29日、鹿児島県南九州市の M さんから
Victor FX-711
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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この度 Victor FX-711 を手に入れたのですが、FM の受信が弱い様です。
修理調整をお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [06404589] です。
電源コードの製造マーキングより1988年製と判りました。
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[純正 AM ループアンテナ] が添付されていました。
全体的に綺麗な逸品です。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく ON できました。
各種ボタンは正常に動作します。
FL 表示管の輝度は新品同様です。
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FM 受信
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問題なく受信でき [STEREO] 表示も出ます。
周波数ズレは感じません。
音も良い感じです。
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S メータの dB 表示値が低く、感度低下しています。
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[RF MODE] ボタンで [DX] にすると 30dB 以上実際より低く表示されます。
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[RF MODE] ボタンで [LOCAL] にすると 0dB になって全く受信できません。
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AM 受信
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添付された [純正 AM ループアンテナ] で問題なく受信できます。
感度も良い感じです。
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カバーを開けてチェック
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内部はは非常に綺麗です。
目視で問題がありそうな部品は見当たりません。
リペア
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FM の感度が低下している
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原因
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FM フロントエンドのトリマコンデンサの劣化です。
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トリマコンデンサのハトメ部分で接触不良となったのです。
経年変化でこういうことは結構あります。
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修理
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劣化しているトリマコンデンサは下の写真で赤〇で囲んだ部品です。

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下写真のように、全数の5個とも高信頼のセラミックトリマコンデンサ 10pF と交換しました。

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交換後、再調整して完全に直り、大きく感度アップしました。
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ハンダクラックの予防補修
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FX-711 のリアパネルに並んでいる端子のリードは基板に直接ハンダ付けされています。
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端子のリードには [基板] [リアパネル] の2方向から機械的ストレスがかかるので、ハンダクラックが発生しやすいです。
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[F 端子×2] [AM アンテナ端子] [RCA 端子] [リモート端子] を補修ハンダ付けしました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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以下のように全て良好です。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
Q801-E |
+30V |
+29.2V |
〇 |
VT 電源 |
Q803-E |
+12V |
+12.1V |
〇 |
オーディオ電源 |
Q808-E |
-12V |
-12.9V |
〇 |
オーディオ電源 |
Q805-E |
+5V |
+5.23V |
〇 |
ロジック電源 |
J705-3pin |
+5.6V |
+5.83V |
〇 |
MCU 電源 |
J705-5pin |
-35V |
-34.7V |
〇 |
FL 電源 |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信
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[トラッキングズレ] [同調点ズレ] [PLL 検波ズレ] がありましたが、再調整で規格内に入りました。
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再調整で感度は見違えるほど大きく向上しました。
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ステレオセパレーションは10倍向上し、すごく良い音になりました。
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IF BAND = WIDE では下の実測値のように、ものすごく良い性能が出ています。
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IF BAND = NARROW ではかなり悪くなるので、このモードではあまり使わないほうが良いです。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
58 |
58 |
dB |
NARROW |
26 |
26 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.012 |
% |
stereo |
0.025 |
% |
NARROW |
mono |
0.29 |
% |
stereo |
0.29 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-48 |
-49 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.06 |
dB |
REC CAL |
WIDE |
mono |
421.9 |
Hz |
-6.0 |
dB |
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AM 受信
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AM は添付された [純正 AM ループアンテナ] で調整しました。
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AM はループアンテナも同調回路の一部となっており、ペアで調整する必要があります。
使ってみました
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FX-711 は Victor 最頂点のチューナです
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5連バリキャップで高周波系の性能が良く、しかも音が良いです。
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鳶のビクターが鷹の本機を生んだかのような奇跡の高性能チューナです。
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SONY ST-S333ESX シリーズを越えているかもしれない。
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FM 受信
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感度が良く、受信レベルが dB で表示でき、しかも正確です。
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聴いた瞬間に高音質と判る良い音
、素敵です。
聴き惚れます。
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PLL 検波らしい、スッキリした解像度感のある音です。
細かい音が綺麗に出る繊細な音です。
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調整中にわかったのですが、本機の FM 受信時の S メータレベルの dB 表示はかなり正確です。
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30〜90dB 表示範囲は信じてよいです。
30dB 以下と 90dB 以上は誤差が大きくなります。
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AM 受信
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感度はかなり高く、S/N も良いです。
音質は AM としては普通レベルです。