Victor JT-V20

Victor JT-V20 をゲット!

2024年1月24日、さいたま市緑区の Y さんより Victor JT-V20 の故障品を研究用に寄贈していただきました。

日本最初の PLL シンセサイザ式高級 FM 専用チューナ!
1974年発売で、 同じく日本最初の PLL シンセサイザ式チューナの Aurex ST-910 も同時期に発売されました。

定価は 16万円 と当時としては非常に高価でした。 1974年の大卒初任給は9万円でしたから、現在の貨幣価値に換算すると30万円を超えると思います。

しばらく放置状態でしたが、2024年9月にメンテナンスしてみました。

半世紀物ビンテージです。 蘇るかな? さてさて・・・



程度&動作チェック

  1. 寄贈者のコメント

  2. 外観

  3. 電源 ON してチェック

  4. カバーを開けてチェック



カバーを開けてみました

  1. 素晴らしい作り、 通信機みたい!

  2. FM フロントエンド

  3. FM IF &検波部 ([TIF-54] 基板)

  4. FM MPX 部 ([TMX-42] 基板)

  5. プリセットメモリがない



リペア (その1):[MONO] スイッチが効きにくい

  1. 調査と原因

  2. 修理

  3. 修理後の動作確認



リペア (その2):照明の LED 化

  1. 概要

  2. LED 化の回路

  3. LED 化後の動作確認

  4. その他



リペア (その3):電解コンデンサの一部交換 (オーバーホール)

  1. 概要

  2. 交換リスト

    基板 部品番号 交換前 交換後
    TPS-12 C802 1000uF/16V (85℃) 1000uF/16V (105℃)
    C803 1000uF/16V (85℃) 1000uF/16V (105℃)
    C804 1000uF/16V (85℃) 1000uF/16V (105℃)
    C805 10uF/16V (85℃) 10uF/50V (105℃)
    C809 10uF/16V (85℃) 10uF/50V (105℃)
    C810 10uF/16V (85℃) 10uF/50V (105℃)
    C811 4.7uF/50V (85℃) 10uF/50V (105℃)
    C813 1000uF/35V (85℃) 2200uF/35V (105℃)
    C814 1000uF/35V (85℃) 2200uF/35V (105℃)
    C815 1000uF/35V (85℃) 2200uF/35V (105℃)
    C816 4.7uF/50V (85℃) 10uF/50V (105℃)
    C817 4.7uF/50V (85℃) 10uF/50V (105℃)
    C818 4.7uF/50V (85℃) 10uF/50V (105℃)
    C820 47uF/50V (85℃) 47uF/63V (105℃)
    TIF-54 C94 10uF/16V (85℃) (未交換)
    C154 47uF/16V (85℃)
    C168 1uF/50V (85℃)
    C175 4.7uF/50V (85℃) 4.7uF/25V (MUSE/BP)
    C179 10uF/16V (85℃) 10uF/25V (MUSE/BP)
    C180 10uF/16V (85℃) (未交換)
    C181 47uF/16V (85℃) 47uF/25V (FG)
    C182 10uF/16V (85℃) (未交換)
    C186 47uF/10V (85℃)
    C193 1uF/50V (BP) (85℃)
    C195 4.7uF/50V (BP) (85℃)
    C196 1uF/50V (85℃)
    C197 1uF/50V (85℃)
    C198 1uF/50V (85℃)
    C199 1uF/50V (85℃)
    C200 1uF/50V (85℃)
    C201 1uF/50V (85℃)
    C202 4.7uF/25V (85℃)
    C203 4.7uF/25V (85℃)
    C204 4.7uF/50V (85℃)
    C205 10uF/16V (85℃)
    基板 部品番号 交換前 交換後
    TMX-42 C301 10uF/16V (85℃) 10uF/25V (MUSE/BP)
    C302 10uF/16V (85℃) 10uF/25V (MUSE/BP)
    C303 10uF/50V (85℃) (未交換)
    C306 1uF/50V (BP) (85℃)
    C307 1uF/50V (85℃)
    C309 1uF/50V (85℃)
    C312 4.7uF/25V (85℃) 4.7uF/50V (MUSE/BP)
    C313 4.7uF/25V (85℃) 4.7uF/50V (MUSE/BP)
    C314 4.7uF/25V (85℃) 4.7uF/50V (MUSE/BP)
    C315 4.7uF/25V (85℃) 4.7uF/50V (MUSE/BP)
    C318 0.22uF/50V (85℃) 0.47uF/50V (MUSE/BP)
    C319 0.22uF/50V (85℃) 0.47uF/50V (MUSE/BP)
    C322 100uF/10V (85℃) (未交換)
    C323 100uF/10V (85℃)
    C326 47uF/16V (85℃)
    C327 47uF/16V (85℃)
    C328 4.7uF/25V (85℃) 10uF/25V (MUSE/BP)
    C329 4.7uF/25V (85℃) 10uF/25V (MUSE/BP)
    C334 220uF/35V (85℃) (未交換)
    C335 1uF/50V (85℃)
    C336 470uF/16V (85℃)
    C3?? 1000uF/25V (85℃)
    C3?? 47uF/16V (85℃)
    TDC-2 C401 0.47uF/50V (85℃) (未交換)
    C402 0.47uF/50V (85℃)
    C403 0.47uF/50V (85℃)
    C404 0.47uF/50V (85℃)
    C405 470uF/6.3V (85℃)
    TDC-3 C514 0.22uF/50V (85℃) (未交換)
    C5?? 470uF/6.3V (85℃)
    C5?? 220uF/35V (85℃)
    TDC-4 C601 10uF/16V (85℃) (未交換)
    C602 10uF/16V (85℃)
    C603 100uF/10V (85℃)
    C604 100uF/10V (85℃)
    C607 47uF/16V (85℃)

  3. 交換実施

  4. 交換後の動作確認

  5. なぜか? AC プラグを抜いた後の最初の電源 ON 時の動作が変わりました!



リペア (その4):その他

  1. フロントパネルの上に28個ある LED のうちの 84.0〜84.4MHz で点灯する LED が暗い

  2. 半世紀分の綿ボコリが大量に堆積している

  3. スイッチトップが手垢とサビの混じったような感じで汚れている

  4. リアパネルの RCA 端子に薄っすらとした錆がある

  5. 天板をサイドから留めるネジ×4本に赤サビが出ている

  6. 天板の手入れ



調整

写真の FM/AM 標準信号発生器 Panasonic VP-8175A (以下 SSG)、 FM Stereo 信号発生器 MEGURO MSG-2170、 周波数カウンタ ADVANTEST TR5822 を使って調整します。 10年も経つとコイルやトリマはズレます。

  

  1. 電圧チェックポイント (VP)

    基板 VP 標準値 実測値 判定 備考
    TPS-12 806 +12V +12.0V アナログ系
    807 +25V +24.7V VT 電源
    816 +5V +5.00V デジタル系
    stand by 時も出力
    [TPS-12] 基板の [R802] で調整
    ベース基板 957 +5V +5.11V デジタル系
    stand by 時は出力しない

  2. 調整ポイント

    基板 種別 調整ポイント 調整内容 備考
    フロントエンド L L101
    L102
    L103
    RF トラッキング  
    TC CT101
    CT102
    CT103
     
    L L104 OSC トラッキング  
    IFT IFT101 IF  
    TIF-54 VR R156 IF GAIN  
    R165 T メータレベル R166 と直列
    R189 DET 出力レベル FIX 端子で 600mV が基準
    R193 S メータ (S5) S メータのドットごとに調整
    R206 S メータ (S3)
    R209 S メータ (S2)
    R212 S メータ (S4)
    R216 MUTING 1 レベル MUTING 1 の時に有効
    IFT T152 QR 検波 (同調点検出) R166 両端 = NULL
    T153 レシオ検波 [TP1] = NULL
    TMX-42 VR R309 VCO (19kHz) [19kHz TP] で測定
    R324 ステレオセパレーション L/R 共用
    TPS-12 VR R802 +5V 電源電圧調整  

  3. FM 受信部の調整

    手順 SSG出力 JT-V20 の設定 調整箇所 TP 及び調整値 備考
    1 - MODE : MONO
    MUTING : 1
    - - 調整準備
    2 83MHz 90dB
    無変調
    83MHz 受信 [TIF-54]
    T152
    [TIF-54]
    R166 両端電圧 = 0±20mV
    同調点調整
    3 [TIF-54]
    T153
    [TIF-54]
    TP1〜TP2 間電圧 = 0±20mV
    レシオ検波調整
    4 OFF 76MHz 受信 [FE]
    OSC コイル
    [FE]
    117 端子電子 = 2.74V
    OSC トラッキング調整
    5 89.9MHz 受信 [FE]
    OSC トリマ
    [FE]
    117 端子電圧 = 16.7V
    6 手順4〜5を数回繰り返す
    7 76MHz 40dB
    無変調
    76MHz 受信 [FE]
    RF コイル×3
    [TIF-54]
    R205(下)電圧 = 最大
    RF トラッキング調整
    8 89.9MHz 40dB
    無変調
    89.9MHz 受信 [FE]
    RF トリマ×3
    9 手順7〜8を数回繰り返す
    10 83MHz 40dB
    無変調
    83MHz 受信 [FE]
    IFT×2
    [TIF-54]
    R205(下)電圧 = 最大
    IF 調整
    11 83MHz 20dBf
    無変調
    [TIF-54]
    R209
    S メータ 2 = ON/OFF 閾 S メータ調整
    12 83MHz 40dBf
    無変調
    [TIF-54]
    R206
    S メータ 3 = ON/OFF 閾
    13 83MHz 60dBf
    無変調
    [TIF-54]
    R212
    S メータ 4 = ON/OFF 閾
    14 83MHz 80dBf
    無変調
    [TIF-54]
    R193
    S メータ 5 = ON/OFF 閾
    15 83MHz 90dB
    mono 1kHz
    [TIF-54]
    R189
    固定オーディオ出力 = 600mV 検波出力調整
    16 83MHz 26dB
    mono 1kHz
    [TIF-54]
    R216
    MUTING = ON/OFF 閾 MUTING 調整
    17 83MHz 90dB
    無変調
    83MHz 受信
    MODE : AUTO
    [TMX-42]
    R309
    [TMX-42]
    19kHz TP = 19kHz
    VCO 調整
    18 83MHz 90dB
    stereo 1kHz L+R
    [FE]
    IFT×2
    オーディオ出力 = 高調波歪最小 stereo IF 歪補正
    ±90度の範囲で調整
    19 83MHz 90dB
    stereo 1kHz R/L
    [TMX-42]
    R324
    オーディオ出力 (L/R) = 最小 セパレーション調整

  4. 調整結果



使用方法

  1. 概要

  2. 各部の名称



  3. 各部の説明

    部位 説明 備考
    受信チャンネル
    インジケーター
    28個の LED で受信中の周波数ポジションを表示します。
    MHz 単位に2個の LED があって、小数点以下が
    0.0〜0.4 の時は1個目の LED が
    0.5〜0.9 の時は2個目の LED が点灯します。
    どの辺りで受信している
    かの目安表示
    シグナル・ストレングス
    インジケーター
    受信している放送の電波強度を LED 5個で表示します。  
    受信周波数
    インジケーター
    受信周波数を表示します。
    右側に [STEREO] インジケータがあってステレオ受信中は点灯します。
     
    周波数 DOWN コントロール
    スイッチ
    タッチすると受信周波数を 0.1MHz 単位で自動減算し、放送局が見つか
    ると停止します。減算中にタッチすると停止します。
    AUTO チューニング
    MANUAL チューニング
    いずれも可能
    周波数 UP コントロール
    スイッチ
    タッチすると受信周波数を 0.1MHz 単位で自動加算し、放送局が見つか
    ると停止します。加算中にタッチすると停止します。
    HIGH-SPEED コントロール
    スイッチ
    周波数 UP/DOWN 中にタッチすると加減算が高速になります。
    先にこのスイッチをタッチする使い方もできます。
     
    電源
    スイッチ
    電源を ON/OFF します。
    電源 OFF 中は [stand by] ランプが点灯します。
    メカニカルスイッチ
    MONO
    スイッチ
    放送をモノラル受信したい時にタッチします。 同時に選択できません。
    排他的選択となります。
    HI-BLEND
    スイッチ
    ステレオ受信時に高域雑音がある場合、タッチすると雑音を軽減します。
    ただし、ステレオセパレーションは悪化します。
    AUTO
    スイッチ
    タッチすると受信時のステレオ/モノを自動切換します。
    通常はこの位置で使います。
    MUTING off
    スイッチ
    タッチするとミューティグ機能を使わないモードになります。 同時に選択できません。
    排他的選択となります。
    MUTING 1
    スイッチ
    タッチするとミューティグレベル1 (低) になります。
    MUTING 2
    スイッチ
    タッチするとミューティグレベル2 (高) になります。

  4. 使用のヒント



使ってみました

  1. 修理 (オーバーホール) &再調整が終わって

  2. デザイン

  3. シンセサイザ式チューナの日本最初の製品

  4. 感度と音質



仕様

    FM 受信部
    受信周波数範囲 76.0〜89.9MHz
    感度 (IHF) 0.9uV (75Ω)
    1.8uV (300Ω)
    全高調波歪率 mono : 0.15%
    stereo : 0.3%
    S/N 比 75dB
    実効選択度 75dB
    キャプチャーレシオ 1.0dB
    イメージ妨害比 85dB
    IF 妨害比 90dB
    スプリアス妨害比 95dB
    ステレオセパレーション (1kHz) 45dB
    AM 抑圧比 60dB
    サブキャリア抑圧比 65dB
    ミューティングレベル 8uV / 16uV (2段)
    アンテナ 300Ω (平衡) / 75Ω (不平衡)
    出力レベル (400Hz, 100% 変調) 可変出力 : 1.5V 以上
    固定出力 : 0.6V
    検波出力 : 0.1V
    SCA キャリア抑圧比 70dB
    電源電圧 AC100V, 50/60Hz
    消費電力 26W
    外形寸法 240(W)×168(H)×400(D)mm
    重量 6.8kg
    その他
    発売時期 1974年
    定価 160,000円