YAMAHA T-2 (9号機) が到着!
2024年7月26日、愛媛県伊予市の S さんから
YAMAHA T-2
の修理依頼品が到着しました。
この写真は前回修理者が照明 LED 化した後です。
FM 専用機
で定価13万円の高級チューナです。
1つ修理するとそれまで隠れていた不具合が見つかり、それを修理するとまたそれまで隠れていた不具合が見つかるという無限地獄のような個体でした。
このような個体を購入した修理依頼者は不幸でした。
ババ掴み?
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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昨年の初めにヤフオクで長野の方から入手しました。
照明 LED 化済、調整済で3万円でした。
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今年になってから、音声が出なくなりました。
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テストトーンも出ません。
マルチパス端子からは音声が聞こえます。
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チューニングが取れても音声出ず。バリバリ雑音が出ます。
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バリバリ雑音が出ると、シグナルメーターが0に向かって振れます。
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入手当時は、レベルメーターの針が、音声信号に少しだけ揺すられる動きがありました。
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チューニングメーターの針が、垂直になってないようなのが気になると言えば気になります。
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音が正常に出るようになった時点での、セパレーションはどれくらいか知りたいです。
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出品者の「整備済み」というのは、どの程度だったのか知りたいのです。
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外観
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製造シリアル番号は [02961] で、電源コードの製造マーキングよりは製造年は不明でした。
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汚れや細かいキズはありますが、全体的にそう問題はなく、そこそこ綺麗です。
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リアパネルの端子類に錆が出ていますが使える程度です。
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電源 ON してチェック
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電源は入り、周波数表示器と操作ボタンはともかく反応します。
正常かどうかは修理を進めないとわかりません。
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前回修理者で実施した LED 化は [ダイヤル照明] [メータ照明] は薄い空色、[ダイヤル指針] は橙色となっています。
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[メータ照明] [ダイヤル指針] はにはチラツキがなく明るさも適切です。
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ところが [ダイヤル照明] にはチラツキがありやや暗いです。
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[SQ メータ] は放送周波数でピークになり正常です。
この時、周波数表示は正しい周波数を表示します。
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[T メータ] は -100 辺りを指し TUNING ノブを回してもセンタになりません。
指針は動くのですが常にマイナス側にあります。
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周波数表示を見て放送局に合わせると、ごくごく小さい音が出ています。
そして不定期にバリッバリッという大きな雑音が入ります。
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この状態で [MULTIPATH-H] 端子からはマトモそうな音が出て雑音はありません。
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[REC CAL] スイッチ ON してもテスト音が出ません。
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現象からは複数の箇所に問題がありそうな感じがしますが、これ以上はカバーを開けて調べないとわかりません。
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カバーを開けてチェック
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使用 IC のロット番号より、本機は [1977年製造品] とわかりました。
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内部は綺麗で目視で劣化とわかる部品は無さそうです。
リペア (その1):ごくごく小さい音が出るが不定期にバリッバリッという大きな雑音が入る
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調査
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まずは電源回路が出力する電圧が正常かチェックしてみました。
結果は以下のように問題なく良好でした。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
#4-4pin |
+5V |
+5.22V |
〇 |
#5-5pin |
+13V |
+13.0V |
〇 |
#5-6pin |
-13V |
-14.3V |
〇 |
R205 (470Ω) 右側 |
+13.2V |
+13.5V |
〇 |
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下の回路はレシオ検波とそれに続く AF アンプの部分です。
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[TR207] のベースには雑音のない綺麗なオーディオ信号が入力されていました。
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ところが、[TR209] のコレクタにはオーディオ信号が出力されていません。
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これはあり得ないです。
[TR207] [TR208] [TR209] のどれかが故障しています。
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[TR207] [TR208] [TR209] をバサッと3個とも仮交換してみたら、綺麗な音が出るようになりました。
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修理 (正式交換)
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以下のように [TR207] [TR208] [TR209] を正式交換しました。
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[TR212] [TR213] [TR214] にも劣化が見られたので一緒に交換しました。
ここからもごく僅かな雑音が出ていました。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
TR207 |
2SA844 |
2SA1015-GR |
2個で差動回路を構成 |
TR208 |
2SA844 |
2SA1015-GR |
TR209 |
2SC1918 |
2SC1815-GR |
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TR212 |
2SC1918 |
2SC1815-GR |
2個で差動回路を構成 |
TR213 |
2SC1918 |
2SC1815-GR |
TR214 |
2SA844 |
2SA1015-GR |
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右の写真は、これまで基板に実装されていた故障したトランジスタです。
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足が黒くなっています。
これはマイグレーションです。
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マイグレーションは金属カビのようなもので足間をレアショートします。
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修理後の動作確認
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雑音がない綺麗な音が出るようになりました。
[STEREO] ランプが点灯しステレオ感もあります。
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[T メータ] の動きがが正常になり、プラスにもマイナスに振れ、センタに設定できるようになりました。
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[T メータ] はレシオ検波出力で振れます。
レシオ検波出力と [TR207] は DC 的に直結されています。
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[TR207] 故障でレシオ検波出力をマイナス側に引っ張っていたのです。
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[REC CAL] スイッチ ON でテスト音が正常に出るようになりました。
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修理依頼者から「音が出るようになった時点でのステレオセパレーションが知りたい」要望があったので測定
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実用的に問題ない特性と思います。
項目 |
IF MODE |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
LOCAL |
stereo |
39 |
41 |
dB |
リペア (その2):T メータの振れが左右で異なる
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概要
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[リペア (その1)] で綺麗な音が出るようになったのですが、新たに [T メータ] の振れが左右で異なるという問題が発覚しました。
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左右の振れが多少違うのはやむを得ないのですが、この T-2 では大きく違います。
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[T メータ] の問題はありますが受信自体は問題ないので、おそらく前回修理時に対策されていなかったと思われます。
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調査と原因
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左の回路は [T メータ] 部分です。
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レシオ検波出力は [R282] を介して [IC206] の 3pin に入り、電圧を10倍に増幅して 6pin に出力します。
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[T メータ] は [R321] を介して 6pin から駆動します。
[T メータ] のもう片一方は GND です。
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放送に同調する操作を行って確認しました。
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[検波回路より] と書いた電圧は同調具合により、-0.4V〜+0.4V に変化します。
ところが 6pin では +2V〜-4V の変化です。
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これがおかしいです。
正常であれば +4V〜-4V の変化のはずです。
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[IC205] TA7136P の故障です。
右の写真は、基板から取り外したその [TA7136P] です。
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[TA7136P] で [T メータ駆動] [MPX スイッチング信号増幅] [REC CAL 音発生] と巧妙な回路になっています。
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ちゃんと対策しないとステレオセパレーションが不安定になる懸念があります。
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[TA7136P] は既に廃品種になっており入手困難です。
さて、どうするか・・・
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修理
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[TA7136P] は手に入らないので、[TA7136P 互換ボード] を製作することにしました。
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左の写真が [TA7136P 互換ボード] 完成品です。
右はその回路です。
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IC には [TA7136P] より高性能な OP アンプの [NJM4580DD] を使いました。
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この IC には OP アンプが2個内蔵されていますが、不要な1個分を適切に不活性化しました。
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左の写真のように [TA7136P 互換ボード] を基板に実装しました。
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右は微調整して最終的になった [TA7136P 互換ボード] 付近の回路です。
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修理後の動作確認
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[T メータ] の振れが左右で同じ程度になり、気持ちよく同調操作できるようになりました。
直りました!!!
リペア (その3):[ダイヤル照明] にはチラツキがありやや暗い
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下の左の回路図はランプ関連部分です
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ダイヤル照明ランプは PL2 端子に接続されています。
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前回修理者の照明 LED 化では、単純に [フィラメントランプ]→[LED] しただけのようです。
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このため、ダイヤル照明 LED は半波整流のまま駆動しているのでチラつくのです。
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ダイヤル指針とメータの照明は PL1 端子に接続されています。
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こちらは [100uF/16V] の電解コンデンサで平滑されているので、チラつかないのです。
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下の右の写真のように、PL2 端子に電解コンデンサ [100uF/25V] を基板の裏側で追加しました。
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これだけでチラツキがなくなりました。
そして少し明るくなってメータや指針と同じくらいになりました。
手直し完了!
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電解コンデンサたった1個の費用を惜しんではイケマセン!
リペア (その4):[AUTO DX] [MUTING] 動作がオカシイ
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概要
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[AUTO DX] スイッチが ON の時、TUNING ノブを素早く回さないと電波レベルが十分あっても IF MODE=NORMAL になりません。
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[MUTING] スイッチが ON でも TUNING ノブでの [同調]→[離調] 時にシャシャという小さな雑音が出ます。
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受信自体は問題なくできるので、修理依頼者では「このなものかな」と思っていたかもしれません。
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原因
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下の回路の [TR224] [TR225] トランジスタが故障していました。
念のため [TR224] [TR225] [TR226] を交換して直りました。
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と思ってしばらく使っていら、
また [TR224] [TR225] が故障しました!
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プリントパターンをルーペで眺めたら、[+13V] と [A点] のプリントパターンがハンダブリッジして短絡していました。
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ここが短絡していると [TR224] [TR225] が ON した時に大電流が流れ、間もなく故障に至ります。
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[TR226] は前回修理者で既に [2SA844]→[2SA1015] に交換されており、この作業の時に誤って不良を作り込んだと思います。
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[TR226] はハンダブリッジして短絡していた箇所のごく近くです。
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修理
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まずはハンダブリッジして短絡していた箇所を直しました。
次に下の部品交換リストのようにトランジスタを交換しました。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
TR224 |
2SC1918 |
2SC1815-GR |
2回も交換した |
TR225 |
2SC1918 |
2SC1815-GR |
TR226 |
2SA1015 |
2SA1015-GR |
2SA844→2SA1015 に交換されていた |
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修理後の動作確認
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[AUTO DX] スイッチが ON の時に TUNING ノブをゆっくり回しても IF MODE=NORMAL になります。
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[MUTING] スイッチが ON の時に TUNING ノブでの [同調]→[離調] 時にも雑音は出ず快適です。
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直りました!!!
再調整
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FM 受信部の再調整
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調整結果
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フロントエンドでトラッキングで調整ズレしていましたが、再調整で規定内に入り、感度が上がりました。
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IF 部も少し調整ズレしていましたが、再調整で規定内に入りました。
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ステレオセパレーションは再調整で20倍程度改善し、音の解像度が大きく上がりました。
項目 |
IF MODE |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
LOCAL |
stereo |
58 |
57 |
dB |
DX |
28 |
29 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
LOCAL |
mono |
0.19 |
% |
stereo |
0.21 |
% |
DX |
mono |
0.46 |
% |
stereo |
0.49 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
LOCAL |
stereo |
-53 |
-54 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
LOCAL |
mono |
0 |
-0.11 |
dB |
REC CAL |
LOCAL |
mono |
351.6 |
Hz |
-2.8 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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1つ修理が終わると、それまで隠れたいた不具合が顕在化するという無限ループに陥るかと思われました。
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やはり、既に誰かが触っている個体を再修理するのは骨が折れます。
なにがおこるかわからない。
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修理依頼者が購入後に故障したのは [リペア (その1)] だけで、これ以外は購入時からの故障と思います。
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なんとか良好に使えるようになってよかったです。
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[SQ メータ] は電波レベルを表示しているのではありません。
検波出力の S/N を見ているのです。
[S メータ] ではありません。
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電波レベルが大きければ S/N が良くなるので振れが大きくなります。
結果的に [S メータ] に近い振れになります。
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この仕組みのため、無音であれば正しい振れになりますが、放送で無音というのはあり得ないですね。
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従って、放送音でも揺れてしまいます。
仕方ないです。
目安と思って使うしかないです。
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また、マルチパス妨害がある時にも揺れます。
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デザイン
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YAMAHA らしい優れたデザインで、ズッシリ重いことに驚きます。
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全体が厚いアルミ材で出来ており、とっても高級感があります。
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チューニングノブの動きは高級機らしい重みがあってスムーズです。
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アンテナ端子は F 端子のため、妨害電波の混入を防げます。
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感度と音質
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感度は良く妨害波排除能力は強力です。
出てくる音は解像度感のあるシッカリした音です。