KENWOOD D-3300T (17号機) が到着
2025年10月9日、大阪府吹田市の I さんより
KENWOOD D-3300T
の修理依頼品が到着しました。
定価14万円
の高級 FM 専用チューナです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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チューニングダイヤルの UP 側が機能しません。
(DOWN 側は OK)
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長年使用しているため各箇所の点検もお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [69K10877] で、電源コードの製造マーキングより [1986年製造品] とわかりました。
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フロントパネルに汚れはありますが問題はないです。
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サイドウッドに汚れ・塗装ハゲはありますが原形を保っており、そう問題はないです。
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リアパネル自体は綺麗ですが・・・
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[アンテナ端子 A/B] の留めネジがどちらも無くてプラグを差し込めません。
修理依頼者はどうやって使っていたのだろう?
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OUTPUT 可変/固定端子の両方が壊れておりマトモにプラグを差し込めません。
修理依頼者はどうやって使っていたのだろう?
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天板に汚れ・スレはありますが原形を保っており、そう問題はないです。
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底板に白いサビが出ていますが使用には問題ないです。
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電源 ON してチェック
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[POWER] ボタンの中央を押すのは問題ないのですが、少し端を押すと硬くて操作できません。
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電源は入り FL 表示器は表示して問題なさそうです。
ボタンや LED はそれなりに反応します。
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[TUNING] ノブを時計回りに回しても無反応です。
反時計回りには反応します。
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デフォールトの周波数が 76.0MHz なので、放送局に合わせることができません。
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局間ノイズ音だけが出ていますが、この状態ではこれ以上チェックしようがないです。
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[REC CAL] を押すと正常にテスト音が出ます。
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カバーを開けてチェック
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[アンテナ端子 A/B] の留めネジが無い理由がわかりました。
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端子のプラスチック部分が割れて無くなっておりネジ留めできないのです。
さて、どうするか?
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OUTPUT 可変/固定端子のプラスチック部分が割れておりネジ留めが効いていないです。
さて、どうするか?
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基板は綺麗で、目視で明らかに劣化とわかる部品は見当たりません。
リペア (その1):[TUNING] ノブを時計回りに回しても無反応
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調査
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下の回路図は [フロントパネル基板] の [UP] [DOWN] ランプ回路です。
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[TUNING] ノブを時計回しすると [UP] ランプが点灯し、反時計回しすると [DOWN] ランプが点灯します。
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調査したところ、下の回路の [C7] 100uF/6.3V 電解コンデンサが内部短絡して 0Ω になっていました。
これが原因です。

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修理
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UP/DOWN 用 [C6] [C7] を交換しました。
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右の写真は、交換前に基板に実装されていた電解コンデンサです。
| 部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| C6 |
100uF/6.3V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
電解コンデンサ |
| C7 |
100uF/6.3V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
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修理後の動作チェック
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[TUNING] ノブで正常に周波数が変わり、[UP] [DOWN] ランプも点灯します。
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やっと放送局に同調することができるようになりました。
リペア (その2):[ANTENNA] スイッチのバイパス改造
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概要
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[アンテナ端子 A/B] のどちらも壊れて固定できずブラブラしています。
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[本格的な F 端子] に交換するしかないのですが、この際 [ANTENNA] スイッチのバイパス改造も一緒にやりましょう。
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[ANTENNA] スイッチは D-3300T のウィークポイント
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ここにメカニカルスイッチを使ったのは KENWOOD の設計ミスと思います。
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ここには従来の TRIO バリコン式チューナと同じくリードリレーを使うべきだったのです。
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コストダウン目的でメカニカルスイッチにしたことが、後に禍根を残す結果になったのです。
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メカニカル接点は常に空気に触れており必ずサビます。
そしていつか接触不良という重大問題化するのです。
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メカニカル接点を使うのであれば数 10mA の電流を流す使い方が正しいです。
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電流を ON/OFF する際のスパークで接点が洗浄されるのです。
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アンテナ切り換えでは全く言ってよいほど電流は流れません。
接点がサビるいっぽうです。
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[ANTENNA] スイッチでの A/B 切り換えは諦め、FM フロントエンドと F 端子を直結することにします。
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改造
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[ANTENNA] スイッチの切り離しと、新たな F 端子とフロントエンドを直結
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以下のように、2箇所パターンカット (×のところ) しました。
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同軸線で新しい F 端子とフロントエンドを直結しました。

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写真のように、壊れて使えない [簡易 F 端子] を [本格的な F 端子] に交換しました。

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改造後の動作チェック
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不安定な [ANTENNA] スイッチをバイパスしたので FM アンテナ入力を安定して取り込めるようになりました。
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[ANTENNA] スイッチは癒しオブジェになりました。
操作しても本機の動作に無関係です。
リペア (その3):RCA 端子台の交換
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概要
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RCA 端子台のプラスチック部分が壊れて割れています。
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このため、グラグラしているので RCA プラグをマトモに挿入できません。
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修理
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オリジナルの RCA 端子台は [2P]+[4P] 構成です。
筆者のところにある RCA 端子台は [6P] です。
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寸法測定してみたら [2P]+[4P] → [6P] にそのまま置き換え可能と分かったので交換しました。
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左の写真は新しい [6P] RCA 端子台に交換後です。
最初からこうであったかのようにピッタリでした。
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右の写真はこれまで実装されていた壊れた RCA 端子台です。
プラスチック部分が割れて使い物にならないです。

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実は交換に使った [6P] RCA 端子のほうがグレードが上で強度があります。
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ただし、オリジナルは金メッキでしたが交換品はクロムメッキです。
特に問題はありません。
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修理後の動作チェック
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全ての RCA 端子の出力が正常であることを確認しました。
リペア (その4):電気二重層コンデンサ交換
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概要
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D-3300T においては AC プラグを抜いても電気二重層コンデンサで一定時間プリセットメモリの記憶をバックアップします。
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製造後39年ですからそろそろ寿命になってもおかしくないです。
サクッと交換しましょう。
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修理
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以下のように新しい電気二重層コンデンサに交換しました。
| 部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| C63 |
18mF/5.5V |
0.22F/5.5V |
電気二重層コンデンサ |
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左の写真は交換後で黄〇で囲んだ部品です。
かなり小さい部品です。
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右の写真はこれまで実装されていた古い電気二重層コンデンサです。
交換品と比べるとバカデカイです。

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修理後の動作チェック
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プリセットができ、電源を切っても消えないことを確認しました。
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コメント
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オリジナルの 18mF から 0.22F と12倍以上になったので、オリジナルより長時間バックアップできます。
おそらく1~数ヶ月か?
リペア (その5):ハンダクラック補修
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ハンダクラックしやすい箇所
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左の写真はリアパネルにある RCA 端子の裏側です。
端子のリードが基板に直接ハンダ付けされています。
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ここはリアパネルと基板の2方向から常にストレスがかかるのでハンダクラックしやすいです。
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ただし、今回は RCA 端子台ごと全て交換したので大丈夫です。
写真は交換後です。
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右の写真は銅製放熱器に取り付けられた [パワートランジスタ] [電源 IC] です。
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ここは銅製放熱器と基板の2方向から常にストレスがかかるのでハンダクラックしやすいです。

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修理 (補修)
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今回は銅製放熱器に取り付けられた [パワートランジスタ] [電源 IC] について作業しました。
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チェックして正解です。
ルーペで観察すると既に数ヵ所ハンダクラック気味になっていました。
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劣化している古いハンダを吸い取り、新しく補修ハンダ付けしました。
リペア (その6):その他
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[POWER] スイッチの動きが重い
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原因はスイッチトップの摩擦が大きくなったためです。
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スイッチトップの四隅にリチウムグリスを塗布して摩擦を軽減して直りました。
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右側サイドウッドのクリーニング
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茶色のポツポツとした塗料跡、セロテープ剥がし跡がありました。
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無水アルコールで拭き取ったら綺麗になりました。
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[RCA 端子] の防サビ処置
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RCA 端子には防塵キャップを被せました。
防サビ効果もあります。
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
| VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
| J35 (Q26-E) |
+15V |
+14.5V |
〇 |
アナログ系 |
| J40 (Q27-E) |
-15V |
-14.5V |
〇 |
| J38 (IC11-OUT) |
+5.6V |
+5.62V |
〇 |
デジタル系 |
| J31 (Q28-E) |
+18V |
+17.2V |
〇 |
FL |
| J27 (Q32-E) |
+32V |
+30.8V |
〇 |
VT 電源 |
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FM 受信部の調整
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再調整結果
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同調点調整が周波数ズレが発生する限度までズレていました。
再調整で規定内に入りました。
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FM フロントエンドのトッラキング調整が少しズレていました。
再調整で感度が少し上がりました。
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PLL 検波が少し調整ズレしていました。
再調整で規定内に入りました。
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MPX VCO 調整でややズレがありましたが、再調整で規定内に入りました。
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IF 歪補正の再調整で高調波歪率が以下のような素晴らしい数値になりました。
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ステレオセパレーションは再調整で以下のような超優秀値になって、音の解像度が上がりました。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
70 |
70 |
dB |
| NARROW |
68 |
67 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.017 |
% |
| stereo |
0.017 |
% |
| NARROW |
mono |
0.040 |
% |
| stereo |
0.040 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-80 |
-79 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
-0.04 |
dB |
| REC CAL |
WIDE |
mono |
398 |
Hz |
| -6.3 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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本機は [TUNING] ノブ動作故障に加えて、リアパネルにある端子類が物理的に壊れて全滅でした。
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RCA 端子の破損はたまにありますが、アンテナ端子の破損は初めてです。
過去に何があったのだろう?
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完全に直すことができ、ホッとしました。
修理により新品時の性能と音質に蘇り癒されました!
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デザイン
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フロントパネルが分厚いヘアラインアルミ材、チューニングツマミやボタンもアルミ材、天板は分厚い鉄板と、質感良好です。
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[MODULATION] 表示はピークホールド付きで見易く、見ていて面白いです。
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プリセットメモリは16局分あります。
これだけあれば、まず十分です。
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[QUIETING CONTROL] ボリュームは、通常、[NORMAL] 端で使うのが正解です。
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[DISTANCE] 端にするとモノラルになってしまうので注意です。
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ステレオ受信して雑音が多い場合に操作すると、ハイブレンドされて S/N が改善されます。
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[RF SELECTOR] は [DISTANCE] で使うのが正解です。
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[DISTANCE] のほうが S/N が上がります。
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[DIRECT] は放送局の真下とか電波が強過ぎる場合に選択します。
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[DIRECT] はフロントエンドの高周波増幅段をバイパスして感度を落として強過ぎる電波に対応するモードなのです。
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[DIRECT] にしたら音が良くなるということはありません。
この辺りを誤解している人が多いです。
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このケースの方はほぼいないと思うので、[DISTANCE] で使うのが正解なのです。
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感度と音質
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聴き惚れるほど素晴らしい音です。
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KENWOOD らしい、解像度の高いカチッとした硬派の音です。
音にキラキラ感があります。
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S/N が非常に良く暗黒の静寂の中から細かい音が良く出ています。
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高級機らしい非常に安定した
感度と妨害電波排除能力です。
定価14万円にふさわしい高性能・高音質マシンです。