KENWOOD D-3300T (19号機) が到着
2026年5月3日、静岡県御殿場市の A さんより
KENWOOD D-3300T
の修理依頼品が到着しました。
定価14万円
の高級 FM 専用チューナです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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外観のチェック
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製造シリアル番号は [69k10060] で、電源コードの製造マーキングより [1986年製造品] とわかりました。
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薄っすらとしたゴミの付着がありますが、大きな問題はない綺麗な状態です。
サイドウッドも綺麗です。
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リアパネルの RCA 端子に少し輝きが残っています。
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電源 ON してチェック
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電源は入りボタンやノブ、LED は正常に反応します。
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表示器は少し薄くなって表示ムラがありますが、まだまだ使えます。
[DISTANCE] が点灯しません。
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-0.1MHz の周波数ズレがあり、放送局の周波数より -0.1MHz の周波数で受信します。
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(-0.1MHz ズレた周波数で) S メータがフルに振れ [STEREO] 表示が点灯して音が出ます。
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[ANTENNA A/B] スイッチ が劣化 (接触不良) しています。
このスイッチはメーカ特注品で入手不可です。
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[REC CAL] ボタンで正常にテスト音が出ます。
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カバーを開けてチェック
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内部は綺麗で、目視で明らかに劣化しているとわかる部品は見当たりません。
リペア (その1):FL 表示器に [DISTANCE] が出ない
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調査と原因
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下は FL 表示器の配線図です。
赤□で囲んだ 26pin が [DISTANCE] 表示ピンです。
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この 26pin 電圧を観測すると ON/OFF = +16V/0V と変わりますが、[DISTANCE] 表示が出ません。
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FL 表示器そのものの故障確定です。
これが原因です。

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修理不可
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本機の FL 表示器は KENWOOD 専用品で一般には販売されていません。
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製造から40年経っているので、もう KENWOOD にも在庫はないと思います。
よって、修理不可です。
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コメント
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[DISTANCE] 表示が出ないだけで実際の動作はしているので、このままご使用ください。
リペア (その2):[ANTENNA] スイッチのバイパス改造
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概要
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[アンテナ端子 A/B] のどちらも壊れて固定できずブラブラしています。
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[本格的な F 端子] に交換するしかないのですが、この際 [ANTENNA] スイッチのバイパス改造も一緒にやりましょう。
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[ANTENNA] スイッチは D-3300T のウィークポイント
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ここにメカニカルスイッチを使ったのは KENWOOD の設計ミスと思います。
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ここには従来の TRIO バリコン式チューナと同じくリードリレーを使うべきだったのです。
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コストダウン目的でメカニカルスイッチにしたことが、後に禍根を残す結果になったのです。
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メカニカル接点は常に空気に触れており必ずサビます。
そしていつか接触不良という重大問題化するのです。
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メカニカル接点を使うのであれば数 10mA の電流を流す使い方が正しいです。
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電流を ON/OFF する際のスパークで接点が洗浄されるのです。
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アンテナ切り換えでは全く言ってよいほど電流は流れません。
接点がサビるいっぽうです。
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[ANTENNA] スイッチでの A/B 切り換えは諦め、FM フロントエンドと F 端子を直結することにします。
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改造
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[ANTENNA] スイッチの切り離しと、新たな F 端子とフロントエンドを直結
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以下のように、2箇所パターンカット (×のところ) しました。
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同軸線で新しい F 端子とフロントエンドを直結しました。

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写真のように、壊れて使えない [簡易 F 端子] を [本格的な F 端子] に交換しました。

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改造後の動作チェック
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不安定な [ANTENNA] スイッチをバイパスしたので FM アンテナ入力を安定して取り込めるようになりました。
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RF SELECTOR = DIRECT での S メータの振れが大きくなりました。
やはり、今までスイッチの接触不良が悪さしていたようです。
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[ANTENNA] スイッチは癒しオブジェになりました。
操作しても本機の動作に無関係です。
リペア (その3):電気二重層コンデンサ交換
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概要
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D-3300T においては AC プラグを抜いても電気二重層コンデンサで一定時間プリセットメモリの記憶をバックアップします。
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製造後40年ですからそろそろ寿命になってもおかしくないです。
サクッと交換しましょう。
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修理
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以下のように新しい電気二重層コンデンサに交換しました。
| 部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| C63 |
18mF/5.5V |
0.22F/5.5V |
電気二重層コンデンサ |
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左の写真は交換前で、橙色の円筒形の部品です。
かなり大きいです。
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右の写真は交換後で、黒色の円筒形の部品です。
容量が増えたのに、かなり小さくなりました。

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修理後の動作チェック
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プリセットができ、電源を切っても消えないことを確認しました。
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コメント
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オリジナルの 18mF から 0.22F と12倍以上になったので、オリジナルより長時間バックアップできます。
おそらく1~数ヶ月か?
リペア (その4):ハンダクラック補修
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ハンダクラックしやすい箇所
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左の写真はリアパネルにある RCA 端子の裏側です。
端子のリードが基板に直接ハンダ付けされています。
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ここはリアパネルと基板の2方向から常にストレスがかかるのでハンダクラックしやすいです。
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ただし、今回は RCA 端子台ごと全て交換したので大丈夫です。
写真は交換後です。
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右の写真は銅製放熱器に取り付けられた [パワートランジスタ] [電源 IC] です。
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ここは銅製放熱器と基板の2方向から常にストレスがかかるのでハンダクラックしやすいです。

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修理 (補修)
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今回は銅製放熱器に取り付けられた [パワートランジスタ] [電源 IC] について作業しました。
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チェックして正解です。
ルーペで観察すると既に数ヵ所ハンダクラック気味になっていました。
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劣化している古いハンダを吸い取り、新しく補修ハンダ付けしました。
リペア (その5):その他
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-0.1MHz の周波数ズレがある
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FM 同調点検出用 [L9] IFT が経年変化でズレたのが原因です。
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同調点電圧は 0V が正しいですが、0.93V になっていました。
[L9] を再調整して直りました。
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サイドウッドの補修
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サイドウッド左の最前下エッジにごく僅かなツキ板剥がれがあったので、木工ボンドで補修して再接着しました。
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サイドウッド右の最奥下エッジにごく僅かなツキ板欠損があったので、黒ペイントで補修して目立たなくしました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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リペア後の各電圧の実測値は以下のように良好でした。
| VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
| J35 (Q26-E) |
+15V |
+14.8V |
〇 |
アナログ系 |
| J40 (Q27-E) |
-15V |
-14.8V |
〇 |
| J38 (IC11-OUT) |
+5.6V |
+5.59V |
〇 |
デジタル系 |
| J31 (Q28-E) |
+18V |
+17.6V |
〇 |
FL |
| J27 (Q32-E) |
+32V |
+31.2V |
〇 |
VT 電源 |
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FM 受信部の調整
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再調整結果
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フロントエンドのトラッキング調整で感度が倍くらいになりました。
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ステレオセパレーションや高調波歪率は以下のように優秀値になり音の解像度が上がりました。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
70 |
70 |
dB |
| NARROW |
68 |
69 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.011 |
% |
| stereo |
0.011 |
% |
| NARROW |
mono |
0.025 |
% |
| stereo |
0.025 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-73 |
-73 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
+0.34 |
dB |
| REC CAL |
WIDE |
mono |
398 |
Hz |
| -5.6 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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今回も [ANTENNA A/B] 切換スイッチが劣化していました。
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D-3300T でことごとく劣化しているので、これは、やはり設計不良でしょう。
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修理&再調整で新品時の性能に蘇りホッとしました。
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デザイン
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フロントパネルが分厚いヘアラインアルミ材、チューニングツマミやボタンもアルミ材、天板は分厚い鉄板と、質感良好です。
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[MODULATION] 表示はピークホールド付きで見易く、見ていて面白いです。
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プリセットメモリは16局分あります。
これだけあれば、まず十分です。
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[QUIETING CONTROL] ボリュームは、通常、[NORMAL] 端で使うのが正解です。
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[DISTANCE] 端にするとモノラルになってしまうので注意です。
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ステレオ受信して雑音が多い場合に操作すると、ハイブレンドされて S/N が改善されます。
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[RF SELECTOR] は [DISTANCE] で使うのが正解です。
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[DISTANCE] のほうが S/N が上がります。
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[DIRECT] は放送局の真下とか電波が強過ぎる場合に選択します。
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[DIRECT] はフロントエンドの高周波増幅段をバイパスして感度を落として強過ぎる電波に対応するモードなのです。
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[DIRECT] にしたら音が良くなるということはありません。
この辺りを誤解している人が多いです。
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このケースの方はほぼいないと思うので、[DISTANCE] で使うのが正解なのです。
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感度と音質
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聴き惚れるほど素晴らしい音です。
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KENWOOD らしい、解像度の高いカチッとした硬派の音です。
音にキラキラ感があります。
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S/N が非常に良く暗黒の静寂の中から細かい音が良く出ています。
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高級機らしい非常に安定した
感度と妨害電波排除能力です。
定価14万円にふさわしい高性能・高音質マシンです。