KENWOOD L-01T (10機) が到着
2026年6月16日、兵庫県三田市の O さんから
KENWOOD L-01T
の修理依頼品が到着しました。
定価16万円
の高級 FM 専用チューナで
パルスカウント検波
です。
程度&動作チェック
-
修理依頼者のコメント
-
電源を入れて20分ほどして不定期に音が途切れます。
-
2026年3月にヤフオクで「動作品」と表示された本機を購入、それ以前の修理歴は不明です。
-
音が途切れる不具合が出たので、出品者に修理してもらいました。
原因および修理箇所は教えてもらえませんでした。
-
ところが1ヶ月で不具合が再発しました。
CATV の FM 電波で受信しています。
-
外観のチェック
-
製造シリアル番号は [050168] で、電源コードの製造マーキングより [1979年製造品] とわかりました。
-
汚れ・スレ・キズはあるのですが、大きな問題はなくビンテージ品としては受け入れできる外観です。
-
この機種でよくある木製カバーのツキ板の浮きがなく、ここはかなり良い状態です。
汚れやスレはあります。
-
リアパネルの端子類
-
[VARIABLE OUTPUT] 端子には輝きが残っており良好です。
-
[FIXED OUTPUT] [MULTIPATH] 端子にかなりのサビが出ています。
-
電源 ON してチェック
-
電源は問題なく入り、ランプ切れはなく、ノブやスイッチ類は正常に反応します。
-
[S メータ] [T メータ] は正常に振れて [STEREO] ランプが点灯して放送を受信できました。
-
[STEREO] ランプは点灯しているのですが、ステレオ感がかなり弱いです。
-
[TUNING] ノブを回すと回転に同期してジャリジャリという雑音が出ます。
バリコンの故障です。
-
[MUTING] スイッチを OFF にして確認するとあちこちの周波数で雑音発生しているのがわかりました。
-
特に 82MHz 以下では [T メータ] が大きく揺れてセンタに合わせ辛いです。
-
[IF BAND] スイッチが NARROW の時の音が歪っぽく、かつ、[T メータ] の振れが左右で大きく崩れています。
-
おそらく、FM 同調点の調整がズレていると思います。
前回修理者は再調整をしなかったのだろうか???
-
まあ動作はするのでヤフオク表示の「動作品」はウソではないですが、私にはジャンク品と感じます。
-
通電して15分ほどで修理依頼者のいう「音が途切れる」と思われる現象が出ました。
-
この現象はずっと続かないようで、しばらくすると自然に直り、その後は発生しませんでした。
-
この発生頻度では故障部位の特定ができないかもしれません。
-
「音が途切れる」現象発生時に以下が確認できました。
-
MULTIPATH-H 端子からは正常な音が出ていました。
MULTIPATH-H 端子には検波出力が出ています。
-
[S メータ] [T メータ] は正常に振れ、[STEREO] ランプは点灯していました。
-
音は左右チャンネルとも途切れています。
-
カバーを開けてチェック
-
フロントエンドカバーや電源トランスカバーにはカビと思われる斑点状の汚れがあります。
-
基板には薄っすらとしたホコリがあります。
IFT のメタルカバーに薄いサビが出ています。
-
基板上の電解コンデンサを全て新品に交換済みのようです。
リペア (その1):不定期に音が途切れる
-
「音が途切れる」現象発生時に以下が確認できたので、これらから要因を推論しました
-
MULTIPATH-H 端子からは正常な音が出ていました。
MULTIPATH-H 端子には検波出力が出ています。
-
アンテナ入力~検波までは正常に動作しており、検波以降に問題があることになります。
-
[S メータ] [T メータ] は正常に振れ、[STEREO] ランプは点灯していました。
-
検波以降にある MPX (ステレオ分離回路) も正常動作しており、MPX 以降に問題があることになります。
-
音は左右チャンネルとも途切れています。
-
MPX 以降にあるのは [AF アンプ] [MUTING リレー] です。
-
[AF アンプ] は左右チャンネルあり、これが原因なら片チャンネルだけ音が出なくなるのが普通です。
-
[MUTING リレー] が動作しないと両チャンネルから音が出ないです。
今回はこれが要因とわかります。
-
MUTING ロジック調査と原因
-
[MUTING リレー] が動作していないと考えたので、不具合発生時に [MUTING リレー] のコイル電圧を測定すると 0V でした。
-
不具合時は [MUTING リレー] が動作していないのが要因と確定しました。
-
下の回路図は MUTING ロジック回路です。
-
[A] 入力は通常の MUTING ON/OFF 信号入力で [High レベルで OFF] [Low レベルで ON] です。
-
[B] 入力は、通常時は 0V ですが、[MODE] [IF BAND] スイッチを切り換えた瞬間だけ +13V になります。
-
[B] 入力が +13V になると MUTING ON となります。
スイッチ切換の際のポップノイズを防止する役目です。
-
[B] 入力は [Q11] で反転して [IC8] の NAND ゲートで [A] 入力と AND します。
-
すなわち、[A が High レベル] で、かつ [B] 入力が 0V であれば MUTING OFF となって音が出るということです。
-
「音が途切れる」現象が出た時に、[B] 入力が 0V なのに、その反転出力の [Q11] コレクタが 0V でした。
-
これがオカシイです。
[Q11] トランジスタ故障確定です。
これが原因です。

-
修理
-
以下の交換リストのように [Q11] を交換しました。
| 基板 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| チューナ基板 |
Q11 |
2SC945 |
2SC1815-GR |
トランジスタ |
-
左の写真は交換後で黄〇で囲んだ部品です。
右の写真は交換前に基板に実装されていた故障したトランジスタです。

-
修理後の動作チェック
-
修理後に MUTING ロジックの各電圧が正常になったことを確認しました。
-
半日ロングランしても音が途切れる現象は出ませんでした。
直りました。
リペア (その2):バリコン軸の接触不良回復とフロントエンドカバーの修理
-
概要
-
TUNING] ノブを回すと回転に同期してジャリジャリという雑音が出ます。
バリコンの故障です。
-
指針が 82MHz 以下では、この故障で [T メータ] が大きく揺れてセンタに合わせ辛いです。
-
故障の原因はバリコン軸と接触板との間で接触不良になっていると推測できます。
-
調査と原因
-
まずはフロントエンドカバーを外したところ、ネジ穴に問題ありました。
-
左の写真のようにカバーのネジ穴が大きく変形していました。
ネジとネジ穴が合わせずにネジを締め付けたのです。
-
他にもう1箇所のネジ穴がバカになっていました。
-
前回の修理者がフロントエンド内にある電解コンデンサを交換後、カバーを取り付ける時に壊したのです。
-
フロントエンドカバーが外れたのでバリコンをチェックしました。
-
右の写真のようにバリコン軸と接触板の間に緑青サビが出ていました。
-
サビは絶縁物なので、バリコン軸で接触不良が発生しています。
-
接触不良が原因で「バリコンの回転に同期してジャリジャリ雑音が出る」「受信が不安定になる」となっているのです。

-
修理
-
バリコン軸接触不良回復作業を実施しました。
8連バリコンなので結構手間がかかりました。
-
エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
-
湧き出た緑青サビを爪楊枝/歯間楊枝/歯間ブラシで丹念に落とします。
-
[1]~[2] を何度も何度も繰り返します。
-
接点復活スプレー
を少量吹きかけ馴染ませます。
-
仕上げに、軸受けにリチウムグリスを塗布して防錆処置します。
-
フロントエンドカバーの修理
-
大きく変形したネジ穴はペンチで板金修理しました。
-
バカになったネジ穴は直しようがないので、実質的に問題ないようネジロック剤で固定しました。
リペア (その3):ハンダクラックの予防補修
-
L-01T でハンダクラックの発生しやすい箇所は RCA 端子
-
リアパネルにある [RCA 端子] リードのハンダ付け部にはリアパネルと基板の2方向から常にストレスを受けているので、ハンダクラックしやすいです。
-
右の写真で黄〇で囲んだハンダ付けです。
-
予防補修
-
黄〇で囲んだハンダを一旦除去し、新しいハンダで付け直しました。
リペア (その4):ステレオ感がかなり弱い
-
概要
-
ここまでの修理で放送はマトモになったのですが、到着時に感じた「ステレオ感がかなり弱い」は変わりません。
-
調整機材を使ってザクッとステレオセパレーションを測定してみました。
-
唖然としました!!!
ステレオセパレーションは 6dB 程度しかありません!
-
この数値、ポケットラジオより悪いです。
やはり前回修理者は調整していないですね。
-
気が付いていたら、マトモな神経だととても販売できないですものね。
-
調査と原因
-
MPX の SUB (L-R 成分) レベルが MAIN (L+R 成分) レベルに比べて非常に低いとわかり、これが要因です。
-
L-01T の MPX は SAMPLE & HOLD MPX となっており、SUB レベルは [VR8] [VR9] で調整します。
-
[VR8] [VR9] でサンプリングパルス幅を調整しますが、このサンプリングパルスの幅が広すぎるのと揺れがあります。
オカシイです。
-
下の回路図はサンプリングパルス生成回路です。
-
[IC11]→[IC12]→[IC12] の流れでサンプリングパルスを生成します。
-
[IC11] は PLL MPX IC でサンプリングパルスの元を抽出します。
-
[IC12] はサンプリングパルス幅を [VR8] [VR9] で調整します。
-
[IC13] で上記のパルスを整形してサンプリングパルス完成となります。
-
各 IC の機能より、[IC12] が故障している可能性大です。
おそらく、これが原因です。

-
修理
-
以下の交換リストのように [IC12] を交換しました。
| 基板 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
| チューナ基板 |
IC12 |
TC4069UBP |
TC4069UBP IC ソケット化して交換 |
CMOS HEX INVERTER |
-
左の写真は交換後で黄〇で囲んだ部品です。
右の写真は交換前に基板に実装されていた故障した IC です。

-
修理後の動作チェック
-
修理後に再調整するとステレオセパレーションが 60dB 出ました。
6dB → 60dB ですから 500倍 です。
-
修理依頼者が本機を入手して初めて L-01T 本来の性能に蘇りました。
ウットリする素晴らしい音になりました!
リペア (その5):その他
-
基板には薄っすらとしたホコリがある
-
エアブロアと刷毛を使って清掃しました。
基板には部品が載っているので完全な清掃は無理で、少しマシになった程度です。
-
RCA 端子のサビ落とし
-
ピカール液
を使って [VARIABLE OUTPUT] [FIXED OUTPUT] [MULTIPATH] 端子をマイクロ研磨して輝きが戻りました。
-
サビ防止のため、使わない端子にはダストキャップを付けることをお奨めします。
-
フロントエンドカバーと電源トランスカバーにカビと斑点状の汚れがある
-
まずは、業務用
NEW プロインパクト中性
を使ってカバーを洗浄しました。
-
次に
ジャパンワックス
でワックス掛けしました。
-
フロントエンドカバーはマットブラックなので少しマシになった程度になりました。
-
電源トランスカバーは鏡面ブラックに近いので、ピカッとした輝きが出ました。
再調整
-
電源電圧チェッック (VP)
-
実測値は以下のように正常でした。
| VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
| 電源基板 端子13 |
+14V |
+14.0V |
〇 |
Front End, IF |
| 電源基板 端子15 |
+16V |
+16.1V |
〇 |
MPX |
| 電源基板 端子17 |
-16V |
-16.4V |
〇 |
MPX |
| 電源基板 端子19 |
+12V |
+12.6V |
〇 |
1'st OSC |
-
FM 受信部の調整
-
調整結果
-
フォロントエンドのトラッキング調整で感度が 10% 上がりました。
-
パイロット信号キャンセル調整が大きくズレていました。
再調整で規定内に入りました。
-
SUB 調整が大きくズレていました。
再調整で規定内に入りました。
-
ステレオセパレーションや高調波歪率が向上し、音の解像度が上がりました。
| 項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
60 |
60 |
dB |
| NARROW |
43 |
47 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.047 |
% |
| stereo |
0.066 |
% |
| NARROW |
mono |
0.23 |
% |
| stereo |
0.26 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-78 |
-80 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0 |
+0.04 |
dB |
使ってみました
-
修理&再調整が終わって
-
到着時は、音が途切れる、ステレオセパレーションが極小、と全くのジャンク状態でした。
-
全ての修理が完了し、L-01T 本来の性能に蘇りました。
特に音質の向上で素晴らしい音になりました。
-
再調整で L-01T 本来のゾクッとするリアルな音質に蘇ってよかったです。
弦楽器の弾ける音が素晴らしいです。
-
改めて評価して、L-01T は後続機の L-02T より作りが良いです。
メンテナンスもやりやすいです。
-
L-01T はパルスカウント検波、L-02T は PLL 検波でどちらも良い音ですが、筆者の感性では L-01T のほうが音が良い気がします。
-
デザイン
-
デザインはとても良いですが、ともかく大きいです。
-
電源を入れるとダイヤル面などが照明でパッと浮き上がります。
-
チューニングノブから手を離すと、同調サーボロックがかかります。
-
アンテナ端子に F 端子があるのが、ありがたいです。
-
[RF SEL] は [NORMAL] 側 (押し込んだ位置) で使うのが良いです。
-
[DIRECT] 側では RF 増幅アンプが全てバイパスされ、同調回路も2段少なくなります。
-
[DIRECT] は放送電波塔が目の前にあって電波が強過ぎる場合に使うモードです。
-
こういう人はほとんどいないと思うので [NORMAL] にするのが正解なのです、
-
リアパネルにある [CONTINUOUS DIAL LIGHT] スイッチ
-
[ON] で、ダイヤルスケールとメータ照明が常時点灯します。
-
[OFF] で、ダイヤルスケールとメータ照明がチューニングノブに手を触れた時だけ点灯します。
面白い仕掛けです。
-
感度や音質
-
感度は良好で、高級機らしい安定な受信ができます。
-
音はパルスカウント検波らしいスッキリ感があります。
解像度感のある澄みきった音に聞き惚れます。
低音はよく出ています。
-
NHK FM でクラシック音楽を聴いていると、静寂の中からキラキラ輝く素晴らしい音が飛び出すのを感じます。
S/N が良いです。
-
人の声にもリアルさを感じます。
目の前で話していると錯覚しそうです。
-
素晴らしいチューナです。
ただし、半世紀物ですから新たに入手した場合は多くのリペアが必要になると思います。