Technics ST-9030T (5号機) が到着
2023年7月31日、岩手県北上市の O さんより
Technics ST-9030T
の修理依頼品が到着しました。
高級 FM 専用機
です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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ネットで評判のよい Technics ST-9030T を、このほどヤフオクで入手しました。
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オークション記事に「STEREO インジケータがつかない」とあり、実際鳴らしてみるとステレオ再生になっていないようです。
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さらにチェックしていると 音声の一瞬の途切れが連発するという症状もちょくちょく発生することがわかりました。
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外観
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製造シリアル番号は [AD8828F027] で、電源コードの製造マーキングより [1978年製造品] とわかりました。
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ポツポツとしたキズはあるのですが、全体的には綺麗です。
リアパネルの端子類には輝きが残っており、良い状態です。
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電源 ON してチェック
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電源は正常に ON しました。
照明のランプ切れはないです。
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[servo tuning] スイッチで muting on すると音が途切れます。
muting off では音の途切れはありません。
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muting on では、[T メータ] のセンタでは音が出ず、やや左側にしないと音が出ません。
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[stereo] ランプが点灯しません。
実際の音もステレオになっていません。
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カバーを開けてチェック
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内部は綺麗ですが、各ボリューム、各 IFT などをいじくった形跡があります。
リペア
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muting on では、[T メータ] のセンタでは音が出ず、やや左側にしないと音が出ない
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オシロスコープで muting ロジックを調べたところ、muting IFT の調整ズレとわかりました。
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右の写真の黄〇で囲んだ部品が muting IFT です。
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調整ズレというより、前オーナが muting IFT をいじったのだろうと思います。
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muting IFT を正しく調整して
直りました!!!
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同時に [muting on で音が途切れ途切れになる] 現象も直りました。
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[STEREO] ランプが点灯しない
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下の回路図は MPX部分です。

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[VR602] は 19kHz VCO 調整で、これがズレると [STEREO] ランプが点かなくなります。
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[VR602] を調整して反時計回りいっぱいで [STEREO] ランプが点くようになりましたが、これでは調整マージンがないです。
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[VR602] 両端の抵抗値は回転により 0~10kΩに変化するのが正しいのですが、実測すると 1.6~11.6kΩ でした。
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[VR602] を交換できればよいのですが、古過ぎてサイズが大き過ぎで、現在の半固定抵抗器と置き換えできないです。
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代案として、基板の裏側で [R624] 15kΩ の両端に 33kΩ の抵抗を抱かせて (並列接続)、合成 10kΩ として対策しました。
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[VR602] の中間辺りで [STEREO] ランプが点灯し、調整マージンもとれるようになりました。
直りました!!!
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基板がクラックしている!!!
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上記の基板の裏側で [R624] の両端に抵抗を付ける作業の時に発見しました。
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左の写真のように基板端の僅かな範囲で基板が割れていました。
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割れた部分は、なんとか残った僅かな銅箔で脱落せずに済んでいました。
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なんとか残った僅かな銅箔で電流が流れている状態です。
手でクネクネすると簡単に脱落すると思います。
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ここは電源部で、この銅箔が切れるとチューナ基板への電源供給が止まり、動作しなくなります。
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クラックしている部分は、基板製作時にハンダ層を通した後にパキッと割って、不要分を分離する部分です。
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写真の左側で茶色のデコボコに見えるのが分離部分です。
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よって製造時からの問題で、製造不良と思います。
よく今まで外れなかったものだ!!!
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右の写真のように赤色電線で配線を補強しました。
もう大丈夫です。
直りました!!!

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バリコン軸接触不良回復 ・・・ 予防保守
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本機ではまだ顕在化していませんが、バリコン軸が接触不良になると [ガサガサ雑音] [感度低下] の現象が出ます。
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本機は半世紀物ですから、バリコン軸の接触回復は必須です。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1]~[2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
CRC 5-56
を塗布して防錆処置します。
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8連バリコンなので、結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
再調整
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電源電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好です。
| VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
| TR801-E |
+12.7V |
+12.6V |
〇 |
| TR802-E |
+12.7V |
+12.7V |
〇 |
| TR803-E |
-12.7V |
-12.5V |
〇 |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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フロントエンドでトラッキング調整ズレがあり、低い周波数で放送周波数と指針が示す周波数がズレていました。
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再調整でほぼ正しい周波数を示すようになりました。
同時に感度も上がりました。
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この他にもズレはあちこちにありました。
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再調整前のステレオセパレーションは 30dB ありませんでしたが、調整で以下のような良好な数値になりました。
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再調整で音質が大きく向上して良い音になりました。
| 項目 |
IF select |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
| ステレオセパレーション (1kHz) |
wide |
stereo |
50 |
50 |
dB |
| narrow |
43 |
42 |
dB |
| 高調波歪率 (1kHz) |
wide |
mono |
0.041 |
% |
| stereo |
0.041 |
% |
| narrow |
mono |
0.24 |
% |
| stereo |
0.24 |
% |
| パイロット信号キャリアリーク |
wide |
stereo |
-76 |
-66 |
dB |
| オーディオ出力レベル偏差 |
wide |
mono |
0 |
-0.49 |
dB |
使ってみました
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今回のメンテナンスの感想
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到着時はマトモに使えない状態だったのですが、修理&再調整で素晴らしい性能と音質に復活しました。
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不具合の主な原因は、前オーナがあちこち調整ポイントをいじくって収拾がつかなくなったことだと思います。
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調整がガタガタにズレてはいましたが、基板や部品の状態自体は良かったのが幸いです。
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落札価格はわかりませんが、外観がかなり良く、調整で完全回復できたので、お買い得の個体ではないかと思います。
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デザイン
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鉄の塊のようなチューナで、ズッシリ重いです。
そして頑丈な作りです。
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ダイヤルとのズレも少なく、高精度のバリコンを使っています。
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同調ノブは重量感と質感があり、操作性も良好です。
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FM アンテナ入力は F 端子なので、雑音電波が混入しにくいです。
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高感度で高音質
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豪華な作りで妨害排除能力が高く、S/N が非常に良く、結果的に高感度になっています。
スペック以上の受信能力があります。
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音のエネルギーが低域から高域までスッキリ伸びており、かなりの高音質です。