TRiO KT-2200 (2号機)

TRiO KT-2200 (2号機) が到着

2022年11月2日、高知市の N さんから TRiO KT-2200 の修理依頼品が到着しました。

FM 専用バリコン式高級チューナ です。

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程度＆動作チェック

1. 修理依頼者のコメント
   
   
   • KT-2200の修理をお願い致します。 不具合の症状は以下です。
     
     
     1. サーボロック中にランプが消えて、チューニングメーターの針がセンターからズレます。
        
        
        • ロックボタンを押し直すと再点灯してその時は針がセンターに戻りますが1～2分したらまた消えたりします。
          
          
        • この症状は電源を一晩中入れっぱなしでも大丈夫の時もあれば、短時間で連続して不具合を再現する事も有ります。
          
          
        • 現象発生時も音は出ていました。
          
          
     2. 以前は [DISTANCE] ボタン ON でシグナルメーターはほぼいっぱいで入感していましたが ・・・
        
        
        • 今は電源 ON 直後で [4.25]、20分程して [4.5] 位まで上昇、これ以上は上がりません。
          
          
   • 以前に個人の方に部品交換の整備を受けています。 メーターランプの交換は私がやりました。
     
     
2. 外観
   
   
   • まず驚いたのはリアパネルが青緑塗装されていたこと！
     
     
     • [F 端子] [3P AC ソケット] に交換されています。
       
       
     • 塗装は綺麗に仕上げられており、メータランプもご自分で交換されたとのことで、修理依頼者は器用なかたなんだろうと思います。
       
       
   • 製造シリアル番号は文字が消えかけているので [?0800??] とだけ読み取れました。 [?] の部分は不鮮明で判別できなかった部分です。
     
     
   • フロントパネルは非常に綺麗で、ほぼキズやスレがありません。 天板や底板も綺麗です。
     
     
   • リアパネルの端子類には輝きが残っており、良い状態です。
     
     
   • 底板に取り付けられている脚のうち、右側奥の1個のネジがかなり緩んでいました。 たぶん、締め付けたらＯＫと思うのですが。
     
     
3. 電源 ON してチェック
   
   
   • 全てのスイッチ、ボリューム操作は正常です。 同調ノブの動きはスムーズです。
     
     
   • メータのランプは濃い緑色 LED に交換されているようです。 ややチラツキを感じます。 この色はあまり合ってない気がします。
     
     
   • 問題なく受信できます。 [STEREO] ランプが点灯しステレオ感もあります。 音も良いです。
     
     
   • [REC CAL] スイッチ ON で録音用テストトーンが正常に出ます。
     
     
   • 周波数ズレは 0～+0.1MHz 程度でなんとかスペック内です。 80.0MHz → 80.10MHz、85.1MHz → 85.08MHz 程度で受信します。
     
     
   • 到着時のまま性能値を測定してみました。 良好な状態です。
     
     

     項目	IF BAND	L	R	単位
     ステレオセパレーション (1kHz)	WIDE	45	44	dB
     	NARROW	37	36	dB
     高調波歪率 mono	WIDE	0.034		%
     	NARROW	0.12		%
     高調波歪率 stereo	WIDE	0.034		%
     	NARROW	0.12		%
     パイロット信号キャリアリーク	WIDE	-68	-65	dB

     
     
4. カバーを開けてチェック
   
   
   • メータの製造マーキングが [82-12] となっていたので、本機は [1982年12月] または [1983年初め] 製造と思います。
     
     
   • 左の写真は以前に交換した部品とのことです。 修理依頼者から写真を送ってもらいました。
     
     
     • 電解コンデンサが全数交換されています。
       
       
     • IC [IC1 uPC1163H] [IC2 LM1496N]、FET [Q1 2SK125]、半固定抵抗 [VR3 10kΩ] が交換されています。
       
       
   • 右の写真は修理依頼者が交換したメータ照明です。
     
     
     • 修理依頼者に確認したところ、 超高輝度LED(緑色・3mm) [LK-3PG] を使用したとのことです。
       
       
     • 緑が濃過ぎて目盛が見辛く合っていない気もしますが、修理依頼者の好みなのでこのままとします。
       
       
     • ちなみに、オリジナルのフィラメントランプは緑のフィルタが被せられていますが、これは照明を緑色にしたいのではなく、電球色を白色に近づけるためです。 ですから、ここは白色 LED を使ったほうが設計者の意図に合います。
       
       
     　
     
     
   • 電源トランスやメータ照明ランプの配線がやや雑です。
     
     
     • それなりにキチンと配線や半田付けされているのですが、私の基準からすると雑に見えます。 手直しが必要です。
       
       

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リペア

1. サーボロック中に [SERVO LOCK] ランプが消える
   
   
   • まずは到着した状態で電源 ON して再現試験をしました。
     
     
     • 丸2日間ロングランしましたが [SERVO LOCK] ランプが消える現象は再現しませんでした。
       
       
     • こうなると、サーボ ON/OFF のロジックから追って推定対策するしかないです。
       
       
   • サーボ ON/OFF のロジック
     
     
     • ロジックは右の回路で構成されています。 [H] レベル = +7V 程度、[L] レベル = -6V 程度です。
       
       
     • 回路の [A]～[G] 入力が全て [H] レベルで [SERVO OUT] 出力が [L] レベルになって、[SERVO LOCK] ランプが点灯します。 逆に言うと、回路の [A]～[G] 入力の1つでも [L] レベルだと [SERVO LOCK] ランプが消灯します。
       
       

       入力	内容
       A	S メータレベルが無ければ [L] あれば [H]
       B	ノイズアンプで同調検出していなければ [L] 同調検出すれば [H]
       C	[IF BAND] [FM RF SEL] ボタンを操作した瞬間だけ [L] 操作していなければ [H]
       D	電源ミューティングがかかっていると [L] 通常動作時は [H]
       E	同調ノブに手を触れていれば [L] 手を離している時は [H]
       F	[REC CAL] ボタン ON で [L] OFF で [H]
       G	[LOCK] ボタン OFF で [L] ON で [H]

       
       
     • [現象発生時も音は出ていた] とのことで [C] [D] の要因ではありません。 この要因なら音が出ません。
       
       
     • [G] の先は [LOCK] スイッチに直接つながっています。
       
       
       • [LOCK] スイッチ ON の時はスイッチ接点が OFF、OFF の時はスイッチ接点が ON です。
         
         
       • スイッチ接点が勝手に ON になることはないので、[G] の要因ではありません。 勝手に ON になるのはオカルトだ！
         
         
     • 以上より、[A] [B] [E] [F] のどれかの要因と考えます。
       
       
   • ヒートガン にて [A] [B] [E] [F] を出力する関連回路を1箇所ずつ順に温めてみた
     
     
     • [A] [B] [F] の関連回路を温めても [H] レベルのままでした。 これらの要因ではないだろう。
       
       
     • [E] の関連トランジスタ [Q40 2SC945] を少し温めたところ、[H]→[L] レベルに変化しました。
       
       
     • トランジスタ [Q40] の劣化の可能性が高いとわかりました。
       
       
   • トランジスタ [Q40] を交換してみた
     
     
     • [Q40] は写真の [黄〇] で囲んだトランジスタです。
       
       
     • [Q40] でタッチセンサ用の発振器を構成します。 通常は [同調ノブ] に手を触れると発振が停止して、タッチしていることを検出します。
       
       
     • [Q40] が温まって発振が停止するのは異常です。 [同調ノブ] に手を触れているかのごとく動作してしまうのです。
       
       
     • [2SC945]→[2SC1815] に新品交換しました。
       
       
     • 交換後、ヒートガンで [Q40] を温めても [H] レベルで変わりません。
       
       
   • [SERVO LOCK] ランプが消灯する原因は、ほぼ [Q40] に間違いないです。
     
     
     • おそらく、これで直ったと思います。
       
       
     • 推定対策なので 100% 大丈夫と言えるかわかりませんが、これで (修理依頼者に) 様子をみていただきます。
       
       
2. メータのランプにチラツキがある
   
   
   • 修理依頼者のほうでフィラメントランプを左の回路で既に LED 化されていました。
     
     
   • チラツクのは半波整流の脈流のまま LED に電流を流しているためです。
     
     
   • 少し手を入れて右の回路に変更してチラツキは無くなりました。 22uF/25V 電解コンデンサを付け足しただけです。
     
     
   • LED に流れている電流は 11mA でした。 緑色は暗めに感じるのでやや多いです。 やはり白色のほうがよかったと思います。
     
     
     
     
3. 電源トランスやメータ照明ランプの配線がやや雑
   
   
   • 左の写真は配線全景で、難燃性耐熱電線を使いました。 右の写真のように、メータ照明端子は熱収縮チューブで絶縁しました。
     
     　
     
     
   • 左の写真はメータ LED 照明回路用ラグ板です。 黒い電解コンデンサを追加しました。
     
     
   • 右の写真は [3P AC 端子] [電源トランス] の部分です。
     
     
     • [電源トランス] の AC100V 端子は、感電防止のため、バスボンドで絶縁しました。
       
       
     • [3P AC 端子] のアース端子を筐体グランドに接続する配線を追加しました。
       
       
     　
     
     
4. 半田クラック対策
   
   
   • 本機は RCA 端子が基板に直接半田付けされており、いずれ半田クラックすることが懸念されます。
     
     
   • RCA 端子の半田付け部分を補修半田しました。 この他にも基板裏側で部品の半田付けが薄い部分を補修半田しました。
     
     
5. バリコン軸の接触回復
   
   
   • 本機ではまだ発生していませんでしたが、[同調ノブ動作で受信音にガサゴソ雑音が入る] の現象が出ます。
     
     
   • 本機は40年物ビンテージ (2022年現在) です。 バリコン軸の接触回復は必須です。
     
     
     1. エレクトロニッククリーナ を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
        
        
     2. 湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
        
        
     3. [1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
        
        
     4. 仕上げに、軸受けに コンタクトグリース を塗布して防錆処置します。
        
        
   • 結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
     
     
6. 底板にある脚のうち、右側奥の1個のネジがかなり緩んでいる
   
   
   • 再締め付けで直りました。
     
     
7. S メータの振れが以前より少なくなった
   
   
   • 後述の [再調整] 項で確認しましたが、感度はほぼ正常でした。 再調整で少し S メータの振れは少し大きくなっています。
     
     
8. 0～+0.1MHz 程度周波数ズレがある
   
   
   • 後述の [再調整] 項でトラッキング調整しましたが、あまり変わりませんでした。
     
     
   • バンド全域で±0.1MHz の誤差はスペック内と思います。 使っているバリコンの精度によるので、この程度はやむをえません。
     
     

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再調整

1. 電圧チェック (VP)
   
   
   • 以下のように正常でした。
     
     

     VP	標準値	実測値	判定
     Q42(2SD330)-E	+12V	+11.9V	〇
     IC23(7908)-OUT	-8V	-8.13V	〇
     IC24(7808)-OUT	+8V	+8.02V	〇

     
     
2. 調整結果
   
   
   • (L-03T と全く同じなので) L-03T の調整手順で再調整しました。
     
     
   • 高周波系のズレはあまりありませんでした。
     
     
     • 本機は2019年4月30日に電解コンデンサ等が交換されているので、この時に再調整されているのだと思います。
       
       
   • [ステレオセパレーション] [高調波歪率] [パイロット信号キャリアリーク] は大きく向上しました。 高級機に相応しい優秀な数値です。
     
     

     項目	IF BAND	L	R	単位
     ステレオセパレーション (1kHz)	WIDE	56	55	dB
     	NARROW	49	47	dB
     高調波歪率 mono	WIDE	0.022		%
     	NARROW	0.078		%
     高調波歪率 stereo	WIDE	0.022		%
     	NARROW	0.078		%
     パイロット信号キャリアリーク	WIDE	-84	-89	dB
     オーディオ出力レベル偏差 (mono)		0	0	dB
     REC CAL 信号		445.3		Hz
     		-6.5	-6.5	dB

     
     

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使ってみました

1. デザイン
   
   
   • 性能的には L-03T と全く同じで、外観もほぼ同じです。
     
     
     • L-03T のパネルはブラックですが、KT-2200 のシルバーも良いです。
       
       
     • L-03T にはある [Σドライブ出力端子] がありません。
       
       
   • ダイヤル指針が赤い LED 表示で見易く、精密計器の雰囲気さえあります。
     
     
   • アンテナ入力は F 端子だけなので、雑音電波が混入しないです。
     
     
2. 感度や音質
   
   
   • このクラスになると流石に良い です。 感度が良く、高解像度でカチッとした超高音質です。
     
     
   • 高域も低域もよく出ています。 S/N も良いです。 性能は超一流です。
     
     
   • やはり、 ノンスプクトラム IF システム の威力は凄いです。
     
     

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