SONY ST-S333ES

SONY ST-S333ES をゲット！

2008年6月12日、提携している BLUESS Laboratory さんから SONY ST-S333ES を寄贈いただきました。

---

程度＆動作チェック

1. 外観
   
   
   • フロントパネルは24年以上前の製品とは思えない綺麗さです。 光り輝いている逸品です。
     
     
   • 天板には擦り傷と1箇所ちょっとしたヘコミがありますが、あまり気にならないレベルです。
     
     
   • 端子類は綺麗です。
     
     
2. 電源 ON してチェック
   
   
   • FL 表示器に劣化はありません。 新品同様な輝きです。
     
     
   • 既に再調整されているとのことで、FM/AM とも問題なく受信できました。 受信性能は良く、ハッとする良い音です。
     
     
   • 数10分電源 OFF するとプリセットメモリが消えてしまいます。 バックアップ能力が弱くなっているようです。
     
     
3. 1982年発売の [ST-S555ES] の2年後に発売されたのが、この [ST-S333ES] です。
   
   
   • 型番からは [ST-S555ES] の下位機種のような位置付けですが、実は全然違いました。
     
     
     • [ST-S333ES] のほうが [ST-S555ES] より性能が上です。
       
       
     • 輸出版の [ST-S444ES] は [レシオ検波] で、これが [ST-S555ES] の下位機種の位置付けみたいです。
       
       
     • 輸出版の [ST-S444ESII] は [レシオ検波]→[PLL 検波] に改良されました。
       
       
     • [ST-S444ESII] が [ST-S333ES] と同じようです。 従って、[ST-S333ES] のほうが [ST-S555ES] より性能が上になってしまった。
       
       
   • FM フロントエンドと MPX の性能がやや劣る以外は、後の ST-S333ES〇 シリーズそのものです。
     
     

---

カバーを開けてみました

1. 基板は部品が整然と並んでいて綺麗です。 写真をクリックすると拡大写真を表示できます。
   
   
   • 基板材質はベーク板です。
     
     
   • シルク印刷に機能が書かれているので、機能ブロックが大体見当つきます。
     
     
   • 電源トランスは小さいですが、シッカリ磁気シールドされた良質のものです。
     
     
   • 底板部分に点検用蓋板があり、メンテナンス性が良いです。
     
     
   • IC を使用して合理化が図られています。
     
     

     メーカ	IC	機能
     SANYO	LA1235	FM IF System
     	LA1245	AM Electronic Tuner
     	LA3400	無調整 VCO PLL FM MPX
     	LA5665	Multifunction Multiple Voltage Regulator
     SONY	CX7925B	Serial Input PLL Frequency Synthesizer 　and Programmable divider
     TOSHIBA	TC9174P	Interface IC for I/O Port Extension
     	TC9303N-006	MCU

     
     
   • 使用 IC のロット番号より、この ST-S333ES は1984年製と判明しました。 電源ケーブルの製造マーキングも1984年でした。
     
     
2. FM フロントエンド
   
   
   • 4連バリキャップ方式です。 同調回路はトラッキング調整できない構成です。
     
     (ANT)→[同調]→[Dual Gate FET]→[同調]→[同調]→[ミキサ]←[OSC 同調]
     
     
3. FM IF 部
   
   
   • [DISTANT = OFF] で [WIDE]、[DISTANT = ON] で [NARROW] です。
     
     
   • ユニフェーズ CF フィルターを2個使用しています。 WOIS という IF 歪補正回路が組み込まれています。
     
     
   • FM 同調点検出および S メータ駆動に [LA1235] を使用しています。
     
     
4. FM 検波部
   
   
   • WODD と呼ばれる PLL 検波です。
     
     
5. FM MPX 部
   
   
   • [LA3400] を使った無調整 VCO / PLL MPX です。
     
     
6. AM 部
   
   
   • [LA1245] を使って全てを構成します。 同調回路はトラッキング調整できる構成です。
     
     
   • ちょっと注意！！！
     
     
     • 基板の [RT301] [RT302] の機能シルクが以下のように間違っています。 調整の際は注意ください。
       
       
     • 基板の [RT301] [RT302] 部品番号シルクは合っています。
       
       

       部品番号	回路図 (正)	基板シルク (誤)
       RT301	AM AUTO STOP	AM SIGNAL
       RT302	AM SIGNAL METER	AM AUTO STOP

       
       
     • 基板のバージョンは秘密裏に変更されるので、合っている ST-S333ES もあるかもしれません。
       
       
7. プリセットメモリのバックアップ
   
   
   • 基板左下にあるボタン電池 CR2025 でバックアップします。 基板付けタブタイプです。
     
     

---

リペア

1. 数10分でプリセットメモリが消える
   
   
   • 基板上の [CR2025] を取り外して開放電圧を測ると 0.5V でした。 完全に寿命です。
     
     
     • [CR2025] のタブ間隔は 11mm でした。 これと全く同じ電池を探すのは至難の業です。
       
       
     • リチウムイオン電池に直接ハンダ付けするのは爆発の危険性があります。
       
       
   • 代替案を実行
     
     
     • 秋月 で [CR2032 用ホルダ (縦・小型)] を調達しました。
       
       
     • 基板からリード線を延ばしてこのホルダと接続することにしました。
       
       
     • 早速、買ってきて工作しました。 [ホルダ 50円] ＋ [CR2032 50円] ＝ 合計100円 でした。
       
       
   • 当たり前ですが、プリセットメモリは消えなくなりました。 おそらく、今後10年間は大丈夫でしょう。
     
     
2. クリーニング
   
   
   • OA クリーナを使って全体の汚れを落としました。
     
     

---

調整

写真の FM/AM 標準信号発生器 Panasonic VP-8175A (以下 SSG)、 FM Stereo 信号発生器 MEGURO MSG-2170、 周波数カウンタ ADVANTEST TR5822 を使って調整します。 10年も経つとコイルやトリマはズレます。

　　

1. 電源電圧チェックポイント (VP)
   
   

   VP	表示電圧	標準電圧	実測電圧	判定	備考
   JW76 (IC701-7pin)	+15V	+15V	(未測定)	-	アナログ系
   JW78 (IC701-5pin)	+5V	+5.5V	(未測定)	-	デジタル系
   JW73 (Q701-E)	+30V	+32V	(未測定)	-	VT 電源
   JW82 (D705-A)	-30V	-31V	(未測定)	-	FL

   
   
2. FM 受信部の調整
   
   

   手順	SSG出力	ST-S333ES の設定	調整箇所	TP 及び調整値	備考
   1	-	BAND : FM DISTANT : OFF MUTING : OFF	-	-
   2	83MHz 90dB 無変調	83MHz 受信	IFT105	LA1235 近くの R130 両端電圧 = 0±10mV	同調点調整
   3	-	90MHz 受信	[フロントエンド] OSC コイル	JW15 電圧 = 15.0V	OSC トラッキング調整
   4	-	76MHz 受信	-	JW15 電圧 = 2.2V
   5	83MHz 40dB 無変調	83MHz 受信	[フロントエンド] RF コイル×3	RT103 電圧 = 最大	RF トラッキング調整
   6			[フロントエンド] IFT		IF 調整
   7	-	TP101 両端を短絡	-	-	PLL 検波調整
   8	83MHz 90dB 無変調	83MHz 受信	IFT106	R145(右) 波形 = 最大 オシロスコープで観測
   9	OFF		RT105	TP102 間電圧 = 0±5mV
   10	83MHz 90dB mono 1kHz		CT101	オーディオ出力 = 高調波歪最小
   11			IFT107	TP102 間電圧 = 0±5mV
   12	手順10～11を数回繰り返す
   13	-	TP101 両端を開放	-	-
   14	83MHz 40dB mono 1kHz	83MHz 受信 MUTING : ON	IFT101	RT103 電圧 = 最大	mono WOIS 歪補正 RT101 を時計回りに 回し切ってから調整開始
   15	83MHz 90dB mono 1kHz		IFT102 RT101	オーディオ出力 = 高調波歪最小
   16	83MHz 90dB stereo 1kHz L+R		[フロントエンド] IFT	オーディオ出力 = 高調波歪最小	stereo IF 歪補正
   17	83MHz 40dB stereo 1kHz L+R		IFT103	RT103 電圧 = 最大	stereo WOIS 歪補正 RT102 を時計回りに 回し切ってから調整開始
   18	83MHz 90dB stereo 1kHz L+R		IFT104 RT102	オーディオ出力 = 高調波歪最小
   19	83MHz 90dB stereo 1kHz L+R		LPF201	オーディオ出力 (L) = 19kHz 成分最小	キャリアリーク調整
   20			LPF202	オーディオ出力 (R) = 19kHz 成分最小
   21	83MHz 90dB stereo 1kHz R/L		RT201	オーディオ出力 (L/R) = 最小	セパレーション調整
   22	83MHz 55dB 無変調		RT103	S メータ = フル 閾	S メータ調整
   23	83MHz 23dB mono 1kHz		RT104	MUTING = ON/OFF 閾	MUTING 調整

   
   
3. AM 受信部の調整
   
   

   手順	SSG出力	ST-S333ES の設定	調整箇所	TP 及び調整値	備考
   1	-	BAND : AM DISTANT : OFF MUTING/MODE : AUTO	-	-
   2	-	531kHz 受信	T301	JW15 電圧 = 1.9V	OSC トラッキング調整
   3	-	1602kHz 受信	CT301	JW15 電圧 = 23.0V
   4	手順2～3を数回繰り返す
   5	603kHz 30dB 無変調	603kHz 受信	T302	RT302 電圧 = 最大	RF トラッキング調整
   6	1404kHz 30dB 無変調	1404kHz 受信	CT302
   7	手順5～6を数回繰り返す
   8	999kHz 30dB 無変調	999kHz 受信	IFT301	RT302 電圧 = 最大	IF 調整

   
   
4. 再調整結果
   
   
   • 既に再調整されているためか、ほとんどズレていませんでした。
     
     
     • RT103 の設定が 80dB でシグナルレベルがフルになるように設定されていたので、この ST-S333ES の動作から考えて妥当と思われる 50dB に変更しました。
       
       
     • RT104 の設定が 35dB で MUTING OFF になるように設定されていたので、この ST-S333ES の動作から考えて妥当と思われる 20dB に変更しました。
       
       
   • FM ステレオセパレーションとキャリアリークは以下となりました。
     
     

     項目	DISTANT	stereo/mono	L	R	単位
     ステレオセパレーション (1kHz)	OFF	stereo	64	62	dB
     	ON		48	48	dB
     パイロット信号キャリアリーク	OFF	stereo	-67	-64	dB

     
     

---

使ってみました

1. 輝かしい ST-S333ES の礎になった記念すべきモデル
   
   
   • ST-S333ES シリーズの初号モデルで、SONY の PLL 検波採用の1号機です。
     
     
   • 現在の感覚で評価しても、性能や音質はかなり良いです。
     
     
2. デザイン
   
   
   • ES シリーズらしい高級感ある素晴らしいデザインです。
     
     
   • フロントパネルは分厚い黒ヘアラインアルミで質感があります。
     
     
   • プリセットボタンはアルミ材で重厚感があります。 豪華です。
     
     
   • FM アンテナ入力は F 端子で、妨害電波の混入をシッカリ防止できます。
     
     
   • プリセットメモリは10局分
     
     
     • 10個の選局ボタンを押すことで FM でも AM でもダイレクト選局します。
       
       
     • FM/AM 、周波数の情報だけでなく、動作モード（DISTANT, MUTING/MODE）まで記憶してくれます。
       
       
     • プリセットメモリが FM/AM 合わせて10個というのはちょっと不足です。
       
       
   • Hi-Blend 機能はなく、電波が弱くて雑音の多い放送はモノラルにするしかないです。
     
     
3. ボタン
   
   
   • [MUTING/MODE] ボタン
     
     
     • MUTING ON/OFF と STEREO AUTO/MONO を兼ねます。
       
       
   • [TUNIG MODE] ボタン
     
     
     • MANUAL/AUTO/SWEEP に切替できます。 SWEEP は以下の動作になります。
       
       
     • [オートスキャンして放送局が見つかると3秒間受信]→[再びオートスキャンで別の放送局を見つける] を繰り返します。
       
       
   • [DISTANT] ボタン
     
     
     • 通常は [DISTANT] = OFF で使います。 近接局からの妨害 (雑音) が入る場合に ON すると改善することがあります。
       
       
     • FM 受信時は、PLL 検波のループ時定数を切り換えて検波帯域を狭くします。
       
       
     • AM 受信時は、高域周波数特性を減衰します。
       
       
     • FM/AM 受信いずれも雑音軽減と音質低下のトレードオフになるので、できれば使わないほうが良いです。
       
       
4. エアチェックプログラムメモリ
   
   
   • プログラムメモリは4個で、電源 ON される度に記憶させた放送局をプログラムに従って切り換えます。
     
     
   • プログラムのしかた
     
     
     1. [PROGRAM] スイッチを ON にする。
        
        
     2. [SET] ボタンを押してから、選局させたい放送局を順に4つまで、プリセットボタンを押して記憶させます。
        
        
     3. これで留守エアチェック準備完了です。
        
        
   • 電源が入る度に記憶させた放送局をプログラムメモリ1から順に切り換えます。
     
     
     • プログラムメモリ4まで行ったら、次はプログラムメモリ1に戻り、これを繰り返します。
       
       
   • プログラムを使わない時は、[PROGRAM] スイッチを OFF にします。
     
     
5. 感度と音質
   
   
   • FM 受信
     
     
     • 感度は良く、 一聴して良いと判る音質 です。 S/N が良く細かい音がよく聴けます。
       
       
     • 解像度感とスッキリ感のある音質です。 少し、低域が軽くて高域が強いです。
       
       
   • AM 受信
     
     
     • 感度は良いです。
       
       
     • 付属の外付けアンテナはループアンテナではなく、バーアンテナ構造の Wave Catcher となっています。
       
       
     • 磁界型のアンテナのため、周辺雑音を拾いにくく、S/N 良く受信できます。
       
       

---

レベルメータ

• FM アンテナ入力レベルとレベルメータの振れの相関関係を測定してみました。 1～5 とあるのはレベル表示、×が消灯、○は点灯です。
  
  
• これを見ると、S/N 良く受信するためにはフルレベルの必要があります。
  
  

  アンテナ入力 (dB)	1	2	3	4	5
  ～12	×	×	×	×	×
  13～27	○	×	×	×	×
  28～35	○	○	×	×	×
  36～39	○	○	○	×	×
  40～49	○	○	○	○	×
  50～	○	○	○	○	○

  
  

---

仕様など

1. ドキュメント
   
   
   • ST-S444ESII Service Manual ・・・ ST-S333ES の輸出版
     
     
2. 仕様
   
   

   FM チューナ部
   受信周波数範囲	76～90MHz
   実用感度	0.9uV 10.3dBf
   ステレオ歪率	0.015% (1kHz)
   実効選択度	60dB (400kHz) 70dB (DISTANT)
   スプリアス妨害比	100dB
   S/N 比	mono : 93dB stereo : 88dB
   セパレーション	58dB (1kHz)
   AM チューナ部
   受信周波数範囲	531～1602kHz
   総合
   電源電圧	AC100V, 50/60Hz
   消費電力	11W
   外形寸法	430(W)×80(H)×340(D)mm
   重量	4.1kg
   その他
   別売	サイドウッド TAC-75 (3,600円)
   発売時期	1984年
   定価	49,800円

   
   

---