Technics ST-G7

Technics ST-G7

Technics ST-G7 をゲット！

私のチューナーページのファンから Technics ST-G7 の不動作品を2台寄贈していただきました。それぞれ別の方からの寄贈で、＜1台目＞は2009年9月26日受け取り、＜2台目＞は2009年10月1日受け取りました。

なんと！ パルスカウント検波＋Sample & Hold MPX の高性能チューナーです。 Thechnics にパルスカウント検波機種があったことに初めて気付きました。

程度＆動作チェック

外観
- フロントパネルの上部に大きな擦りキズがあります。
- [Technics] ロゴが擦れています。
- 天板に少々線傷がありますが、醜くはないです。
電源 ON してチェック
- 音量が極端に小さいです。蚊の鳴くような音で、当然ステレオにもなりません。
- MUTING 回路の故障か、それともパルスカウント検波の故障と見立てました。後者だと厄介です。

外観
- フロントパネルのメイン部分（この ST-G7 はフロントパネルに結構お金がかかっており、多くのパーツで構成されています。）は、＜1台目＞より程度が良いです。
- 上記の他のフロントパネルにはキズがあちこちあります。
- シーリングパネルのガラス板の左右に割れがあります。
- 周波数を表示する液晶パネルのバックライトに明るさのムラがあります。
- 天板にキズが多くヘコミみもあります。
電源 ON してチェック
- 最初、電源は入るが周波数表示が出ず操作もできない状態でした。
- しばらく電源 ON のままにしてから、再度電源を AC コンセントから入れなおすと今度は動作しました。
- 一旦動作すると、全ての動作が正常です。
- こういう現象は MCU 周りの故障に決まっています。時間が経過すると動作することより、ゴールドキャパシタの不良と見立てました。

カバーを開けてみました

基板の作りは良いです。写真をクリックすると拡大写真を表示できます。

底板が外せるようになっているので、メンテナンス性は良いです。
使用 IC のロット番号より、この ST-G7 は1984年製と判明しました。

IC を使用して合理化が図られています。

全て自社生産 IC です。技術力があったようです。
逆に、これらの IC は外販されていないので故障時の修理で困ります。

メーカ	IC	機能
Panasonic	AN6552	Dual Operational Amplifiers
	AN6554	Quadruple Operational Amplifiers
	AN6823S	Pre Scaler
	AN7274S	FM & AM IF System
	AN7275S	FM Pulse Count Detector
	AN7471S	MPX
	MN1256	LCD Drive
	MN1291	PLL Controller
	MN1554STD	Low Power CMOS 4-Bit Single-Chip Micro Computer
	MN4066B	Quad Analog Switches

FM フロントエンド
- 4連バリキャップで、以下の構成です。
  
  (ANT)→[同調]→[Dual Gate FET]→[同調]→[同調]→①→[Mixer (TR)]→(IF)
  [OSC 同調 (TR)]→①
- 日本版は4連バリキャップですが、輸出版では5連バリキャップとなっています。 4連バリキャップあれば性能的には十分です。
FM IF 部
- normal 時
  
  (FE)→[UCF]→[TR]→[AN7274S (1/2)]→[UCF]→[AN7274S (2/2)]→[ダウンコンバータ]→(DET)
- super narrow 時
  
  (FE)→[UCF]→[TR]→[AN7274S (1/2)]→ [UCF]→[UCF]→[AN7274S] →[UCF]→[AN7274S (2/2)]→[ダウンコンバータ]→(DET)
- ダウンコンバータの構成
  1. IF 部の出力を3逓倍して 10.7MHz×3＝32.1MHz を作り出します。
  2. 32.1MHz と水晶発振の 31.3MHz と混合して 32.1－31.3＝0.8MHz を作り出します。
  このような手の込んだ構成にするのは S/N を稼ぐためです。 3逓倍で 9dB 分 S/N が改善します。ダウンコンバートすると基本周波数が下がるので、ここでも大幅に S/N が改善します。
FM パルスカウント検波部
- ダウンコンバータ出力の 0.8MHz を [AN7275S] でパルスカウント検波用に波形整形します。
- この出力をトランジスタによる差動増幅回路を通してから 75kHz LPF で積分して AF 信号に復調します。
FM MPX 部
- [AN7471S] [MN4066B] による Sample & Hold MPX です。
- IF band : super narrow では Hi-Blend も ON になるので、S/N は上がりますがセパレーションは下がります。
- 高音質受信は IF band : normal で使うことが前提の考え方です。 super narrow は緊急時です。
AM 受信部
- 全てを [AN7274S] の AM サポート部で構成します。
- AM フロントエンドは2連バリキャプ方式です。
Pioneer F-120, F-120D との比較
- Pioneer F-120 , F-120D とかなり雰囲気の似た回路構成です。
- F-120 が1982年発売、[ST-G7] が1983年発売、[F-120D] が1984年発売なので、おそらく [F-120] を意識して設計されています。
  - この3機種ともパルスカウント検波です。
- [F-120] [F-120D] がダウンコンバート前に IF 周波数を2逓倍しているのに対して [ST-G7] は3逓倍とスペックを上げています。
- [ST-G7] は MPX 部のかなりの部分をデジタル化していますが、この回路構成が [F-120] [F-120D] とよく似ています。
- 実際使ってみると、弱電波受信での S/N や音の揺れが [F-120] [F-120D] より改善され、不満が解消されています。値段の差通りです。

修理

＜1台目＞修理
1. 音量が小さい
  - 原因はパルスカウント検波部でした。電気的動作点を動かして一応動作するようになりましたが、連続テストしていると音量が不安定で歪っぽいです。
  - こうなるとパルスカウント検波のパルスを作る専用 IC102 AN7275S が故障しかありません。この IC は入手はほぼ不能なので、この個体は修理不可と判断しました。
2. この個体の修理は諦めて部品取り用途にします。
＜2台目＞修理
1. 電源は入るが周波数表示が出ず操作もできない
  - ゴールドキャパシタが液漏れして基板を僅かに腐食させていました。基板洗浄とゴールドキャパシタ交換で完全に直りました。見立ては大当たりでした。
  - こうなるのは、ゴールドキャパシタが内部短絡状態に近くなり、MCU 電源の +5.6V を下げる方向に引っ張るからです。電気を入れておくとゴールドキャパシタに充電され電圧が上がっていくので、+5.6V がだんだん正常値に戻るというものです。
  - 10年を経過したゴールドキャパシタは無条件で交換が吉と思われます。正常に動いているように見えても +5.6V 電源回路にストレスがかかっているかもしれません。
2. 外観の補修
  - ＜1台目＞からマシな機構部品を移植しました。移植した部品は以下です。
    - フロントパネル外枠
    - LCD ユニット
    - プリセットボタン
    - シーリングパネルのガラス板
    - 天板
  - フロントパネルをバラバラに分解して判りました。かなりお金のかかった作りになっています。

調整

写真の FM/AM 標準信号発生器 Panasonic VP-8175A (以下 SSG)、 FM Stereo 信号発生器 MEGURO MSG-2170、周波数カウンタ ADVANTEST TR5822 を使って調整します。 10年も経つとコイルやトリマはズレます。

調整ポイント
- この図は輸出版の ST-G7 です。日本版の ST-G7 には [L10] はありません。
- [TP901] と [TP902] は基板にシルク印刷がありません。基板にポツンと開いた穴になっています。
電圧チェックポイント (VP)

VP 標準値 実測値 備考

Q701-E +15.6V +15.6V チューナ

Q706-E +5.6V +5.55V MCU

Q702-E +8.6V +8.78V オーディオ

Q703-E -8.6V -8.66V

FM 受信部の調整

手順	SSG出力	ST-G7 の設定	調整箇所	TP 及び調整値	備考
1	-	band selector : FM rec level : off IF band : normal mode : auto	-	-
2	83MHz 90dB 無変調	83MHz 受信	T101	TP101～TP102 電圧 = 0±20mV	同調点調整
3	-	76.1MHz 受信	L6	TP1 電圧 = 3.0V	OSC トラッキング調整
4	-	89.9MHz 受信	CT1	TP1 電圧 = 10.5V
5	手順3～4を数回繰り返す
6	83MHz 30dB 無変調	83MHz 受信	L1 L3 L4	VR101-1pin 電圧 = 最大	RF トラッキング調整
7	83MHz 30dB 無変調		T1	VR101-1pin 電圧 = 最大	1st IF 調整
8	83MHz 90dB 無変調		T103	TP103 波形 = 最大オシロスコープで観測	2nd IF 調整
9	83MHz 90dB 無変調		VR102	TP302 電圧 = 0±20mV	パルスカウント検波調整
10	83MHz 90dB stereo 1kHz L+R		T1 T103	オーディオ出力 = 高調波歪最小	stereo IF 歪補正
11	83MHz 90dB stereo 1kHz L+R		L301 VR103	オーディオ出力 = 19kHz 成分最小	パイロットキャンセラ調整
12	83MHz 90dB stereo 1kHz R		VR304	L ch. オーディオ出力 = 最小	セパレーション調整
13	83MHz 90dB stereo 1kHz L		VR303	R ch. オーディオ出力 = 最小	セパレーション調整
14	83MHz 60dB 無変調		VR101	S メータ = 60dB	S メータ調整

AM 受信部の調整

手順	SSG出力	ST-G7 の設定	調整箇所	TP 及び調整値	備考
1	-	band selector : AM rec level : off	-	-
2	450kHz 90dB 400Hz	-	T201	オーディオ出力 = 最大	IF 調整
3	522kHz 40dB 400Hz	522Hz 受信	L203		VT & RF トラッキング調整
4	612kHz 40dB 400Hz	612kHz 受信	L202
5	1503kHz 40dB 400Hz	1503kHz 受信	CT201
6	手順3～5を数回繰り返す

調整結果

FM は同調点と MPX がかなりズレていました。 AM は全体にズレがありました。

FM ステレオセパレーションとキャリアリークは以下です。

IF band : normal 時のセパレーションはかなり良好な数値です。
IF band : super narrow 時は自動的に Hi-Blend がかかるので、セパレーションが大きく落ち込みます。
できるだけ IF band : normal で使ったほうがよいです。

項目	IF band	stereo/mono	L	R	単位
ステレオセパレーション (1kHz)	normal	stereo	64	66	dB
ステレオセパレーション (1kHz)	super narrow	stereo	18	18	dB
パイロット信号キャリアリーク	normal	stereo	-75	-73	dB
オーディオ出力レベル偏差	normal	mono	0	+0.73	dB

使ってみました

全体の作りが良いです
- 特にフロントパネルの作りが秀逸で、お金のかかった凝った作りになっています。
  - 周波数表示は LCD です。背面からフィラメント電球で照射しています。 LCD を使うことで表示部からのノイズ発生を抑えることを狙っているようです。
  - ステーション・プリセットボタンはプレス成型した無垢の1枚アルミ材です。
  - サイド飾りも一般のプラスチックではなく、分厚いアルミ材です。
  - シーリングパネルドアには分厚いガラス板を使い、高級感を出しています。
- 奥行きが筐体部で 26cm 程度と短く、設置が楽です。
- 電源コードはメガネ型で取り外しできます。
- S メータは dBf 表示です。ただし、あまり精度は高くないです。
機能
- FM アンテナ入力は F 端子なので、雑音電波が混入しないです。
- AM アンテナ入力は RCA ジャックとなっているので、シールド性が高いです。
- プリセットメモリは FM/AM ランダムに16局分あります。短く押すと No.1～8 が選択でき、長押しすると No.9～16 が選択できます。
- シーリングパネル内に以下のボタンがあります。電波状況に応じて IF band や muting を自動的に設定してくれるので、初期設定以降はこれらのボタンは、ほとんど操作することはないです。
  - [rec level] ボタンで FM 50% 変調相当のテストトーンをオーディオ端子に出力できます。録音機のレベル調節に便利です。
  - [FM signal] ボタンで FM 電波入力レベルを dBf 表示できます。
  - [IF band] ボタンで IF を normal/super narrow に切換できます。通常は normal で使います。
  - [muting] ボタンで FM 受信時の局間ノイズを消すことができます。このボタンを長押しすることで、オートスキャン時のスレッシュレベルを 30/40/50dBf に切換できます。
  - [down] [up] ボタンでチューニングします。短く押すとマニュアル同調、長押しするとオートスキャンします。
  - [memory] ボタンで放送局の周波数をプリセットメモリに記憶させることができます。このボタンを長押しするとオートスキャンして受信できる放送局を自動的にプリセットメモリに記憶させることができます。
感度＆音質
- FM は感度が高く、高音質です。
  - パルスカウント検波らしい 乾いた音 です。
  - 歪感が少ない素晴らしい音 です。しかし、ハッとする音かというとそうでもなく、個性が抑えられた感じの音です。
  - （子供ではなく）大人しいというのが当りです。安心して聴ける音です。
- AM は感度が高いですが音質は普通レベルです。
- Technics のチューナーでパルスカウント検波機があったとは驚きです。 お奨めできる機種 です。

仕様ほか

ドキュメント
- ST-G7 取扱説明書
- ST-G7 カタログ
- ST-G7 Block Diagram ・・・輸出モデル
- ST-G7 Schematic ・・・輸出モデル
- ST-G7 Service Manual ・・・輸出モデル
仕様

その他

発売時期 1983年

定価 73,800円

VP	標準値	実測値	備考
Q701-E	+15.6V	+15.6V	チューナ
Q706-E	+5.6V	+5.55V	MCU
Q702-E	+8.6V	+8.78V	オーディオ
Q703-E	-8.6V	-8.66V	オーディオ

その他
発売時期	1983年
定価	73,800円